ミステリー、サスペンス

  (最終更新日:2021.05.15)

【感想】『紅蓮館の殺人』/阿津川辰海:探偵、山火事、からくり館!

こんにちは、つみれです。

このたび、阿津川辰海(アツカワタツミ)さんのミステリー『紅蓮館(グレンカン)の殺人』(講談社タイガ)を読了しました。

実にロジカルな本格ミステリーで、私の大好きなクローズドサークルもの(外界との往来が断たれ孤立するミステリー)です!おもしろい!

下記の通り、そうそうたるランキングで上位に選出されており、読む前から期待感抜群でした!

「2020本格ミステリ・ベスト10」(原書房)国内:第3位

「このミステリーがすごい!2020年度版」(宝島社)国内:第6位

それでは、さっそく感想を書いていきます。

※ネタバレ感想は折りたたんでありますので、未読の場合は開かないようご注意ください。

作品情報
書名:紅蓮館の殺人 (講談社タイガ)

著者:阿津川辰海
出版:講談社 (2019/9/20)
頁数:448ページ

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山火事が迫りくるクローズドサークル!

私が読んだ動機

  • ミステリー好きの読書家さんにオススメされたこと
  • ミステリーランキング上位に選出されていること

こんな人におすすめ

チェックポイント
  • 本格ミステリーが好き
  • クローズドサークルものを読みたい
  • 探偵の生き方、存在意義について知りたい

下で詳しく書きますが、クローズドサークルの形成のされ方は非常に魅力的です。

その上、登場人物が基本的に怪しさ満載だったり、主人公一行が拠点とする館「落日館」がからくり屋敷だったりと、ミステリー好きにはたまらない内容となっています。

また、探偵やワトソン役の「存在意義」について考えさせられる描写がたびたび差し挟まれるなど、ミステリーのツボを押さえた一冊となっています。

何より、「紅蓮館の殺人」というタイトルが最高すぎます。カッコよさとワクワク感を兼ね備えたすばらしいネーミングですね!

秀逸なクローズドサークル

まず、本作を読むうえで押さえておきたいポイントの一つが、クローズドサークルもののミステリーだということですね。クローズドサークルの説明は下記の通りです。

クローズドサークル

何らかの事情で外界との往来が断たれた状況、あるいはそうした状況下でおこる事件を扱った作品Wikipedia「クローズド・サークル」

外界との連絡手段が絶たれることも多い。サークル内にいる人物のなかに高確率で犯人がいると思われたり、捜査のプロである警察が事件に関与できない理由づけになったりなど、パズルとしてのミステリーを効果的に演出する。

「嵐の孤島」「吹雪の山荘」などがその代表例として挙げられる。

上で代表例として「嵐の孤島」や「吹雪の山荘」を挙げましたが、本作はちょっと特殊なクローズドサークルとなっています。

ふつう、嵐の孤島ものや吹雪の山荘もののクローズドサークルは、基本的に荒れた天候がおさまるのを待っているうちに殺人事件が起こるというのが一つのセオリーとなっています。

しかし、本作は一味違います。

山奥に建てられた館に閉じ込められるというのは吹雪の山荘ものと似ているのですが、決定的に異なる点は、落雷による山火事で館に閉じ込められるところです。

何が一味違うかといいますと、山火事の勢力が増すに伴ってクローズドサークル自体が狭まっていき(行動範囲がどんどん狭くなる)、火の手が館まで到達したら登場人物全員死んでしまうという状況です。

山火事が迫りくるというタイムリミットの設け方はなかなかスリルがあっておもしろいですね!

私は絶対にその場には居合わせたくないですが!

しかも、館内部では館に施されたからくりのひとつ「吊り天井」による、事故なのか殺人なのかわからない死までが発生し、ちょっとした内憂外患状態です。

ただ待っているだけでも危険なのに加え、館内の人物は相互不信という極限状態でのミステリーとなっています。いやー、最高ですねえ!

私としては絶対にその場には居合わせたくないですが!

一つ難点を挙げるとすれば、章が切り替わるたびに、【館焼失まで~時間~分】という説明が差し挟まれ、物語の進行に先んじて館の行く末が予想されてしまうことですね。

登場人物と同じ目線でこのスリルを味わいたいという人にとっては、この説明はいらなかったような気もします。

探偵役が二人

本作をおもしろくしている特徴の一つに「探偵役が二人いる」というのがあります。

一人は現役高校生の主人公田所の友人で、本事件に一緒に巻き込まれることになる葛城輝義(カツラギテルヨシ)

葛城は幼少の頃から頭脳明晰、何度も警察案件の事件を解決してきた探偵です。

もう一人は、落日館近隣の久我島家に仕事で来訪していた保険会社の調査員飛鳥井光流(アスカイヒカル)

飛鳥井も、若いころは鮮やかな推理でいくつもの事件を解決してきた探偵です。

彼女も山火事に追われるように落日館に逃げ込んでくることになり、田所や葛城と出会います。

この飛鳥井は、過去に起きた連続殺人犯「爪」にまつわるとある事件をきっかけに探偵をやめてしまいます。

しかし、飛鳥井も落日館での事件に巻き込まれるに及び、過去に培った推理力を再び発揮していくに至ります。

現役の探偵と引退した探偵とが、ときに意見を衝突させ、ときに協力しあいながら、事件の解決、館からの脱出を図っていくという構図が非常におもしろいのです。

ちなみに主人公の田所はワトソン役として探偵としての葛城に絶大の信頼をおいていますが、実は過去に飛鳥井と面識があります。彼女の名推理に触発されて一度は探偵を目指したこともあるほど。

田所と二人の探偵をめぐる人間関係も本作の見どころの一つと言えるでしょう。

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探偵の生き方

本作では、現役の探偵である葛城と、引退してしまった探偵である飛鳥井とを対照的に描くことによって、テーマとして「探偵の生き方」を浮き上がらせようとしています。

大抵のミステリーにおいて、謎解きというのは無条件で善とされ、どうやって謎を解いていくかという部分にかなりの力点が置かれていますね。

詳細はネタバレになってしまうので、下記の「ネタバレ感想」のほうに書きたいと思いますが、この「謎解き=善」という考え方に対するアンチテーゼを試みているのが本作だと思います。

その試み自体が成功しているのかどうかははっきりいってわかりません。

それを主張したいばかりに、例えばキャラクターの魅力といった他の箇所がおざなりになっている気さえします。(実際に、主要メンバー以外のキャラクターたちは共感しづらい人間ばかりで、あまり魅力的に思えませんでした)

しかし、「謎を解くこと自体を善と信じて疑わない姿勢」に対して疑問を投げかけ、それを物語に落とし込んだという意味では、強烈なチャレンジ精神を感じることができる一冊ということができると思います。

惜しいところも

上でも少し触れましたが、ミステリーとしてはかなりおもしろい部類に入るにもかかわらず、惜しいなと思う箇所がいくつもあります。

  • 登場人物に魅力がない(共感できない)
  • いまいち火が迫っている感覚がない
  • 館の仕掛けが後出し気味

などなど。

また、「探偵の生き方」についてたびたび議論を戦わせるシーンがありますが、正直、「火の迫っている状況の中で何やってんの!」と思ってしまうところがあります。

「吊り天井」を用いたトリックあたりはかなりおもしろいだけに、惜しい要素がクリアできていれば、さらにすばらしい作品になったのでは・・・と思います。

 

 

▼おすすめクローズドサークル作品

【ネタバレあり】すでに読了した方へ

危険!ネタバレあり!

本作に登場する名文をご紹介してみようかと思います。

ネタバレ成分を大いに含むので折りたたんであります!

今後読む予定の方は見ちゃダメッ!

ネタバレあり!読了済の人だけクリックorタップしてね

「探偵と館、そして山火事とは、恐るべき組み合わせじゃないか」『紅蓮館の殺人』kindle版、位置No. 29

まさに!ミステリー好きのツボを押さえたこの道具立て!ワクワク感が止まりませんね!

 

「小さい頃に好きだったんだ。今はあまり読まないな。ミステリーは読んでも前半までだ。悪人が捕まる話は嫌いだからな」『紅蓮館の殺人』kindle版、位置No. 3692

本作の登場人物の一人、小出のセリフです。

私のようなミステリー好きからすると、「えーっ、もったいない!」と思ってしまいますが、なんとも味のあるセリフですね。

このセリフを、ミステリーの登場人物に喋らせているのがおもしろいですね。好きです。

 

「事件を解決するっていうのはね、自分の頭の良さをひけらかすことじゃないの。『ほら、僕には全て分かっていたんだ。あなた方の見過ごしてきたもの全ての意味を、僕だけが分かっていたんだ』なんて。でも、君はそうしていないと安心出来ないのね」『紅蓮館の殺人』kindle版、位置No. 4884

引退した探偵飛鳥井が現役探偵葛城に探偵の基本スタイルを糾弾するセリフです。

このあたり、なんとなく作者が作品のなかで主張したいテーマのようなものがにじみ出ていますね。

「謎を解くことは必ずしもいい結果を生まない」という、従来のミステリーに対するアンチテーゼを強烈に感じることができます。この後の展開も秀逸です!

終わりに

名探偵、からくり館、山火事などなど、すばらしい道具だてのミステリーでした。

欠点もあるにはありますが、それを差し置いても、作品の雰囲気や終盤の怒涛の展開はかなり楽しく読むことができました。

ミステリー好きにはたまらない一作と言えるでしょう。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

つみれ

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