こんにちは、つみれです。
このたび、二階堂黎人さんの『吸血の家』を読みました。
江戸時代に遊郭を営んでいた旧家「雅宮家」を舞台に繰り広げられる連続殺人事件を描いた本格ミステリーです。
また、「二階堂蘭子」シリーズの第二作目でもあります。
▼前作『地獄の奇術師』の記事
それでは、さっそく感想を書いていきます。
作品情報
書名:吸血の家(講談社文庫)
著者:二階堂黎人
出版:講談社(1999/7/15)
頁数:599ページ
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目次
旧家で起こる足跡なき殺人&密室殺人!
私が読んだ動機
前作『地獄の奇術師』がおもしろかったので、引き続き読みました。
こんな人におすすめ
- 本格ミステリーが好き
- 「雪の足跡トリック」「密室トリック」が好き
- オカルト要素の強い物語を読みたい
あらすじ・作品説明
八王子の旧家・雅宮家は、かつて「久月楼」と呼ばれる遊郭を営んでいた。
久月楼に売られた武家出身の娘・翡翠姫は、楼主の子に見初められ結婚するが、やがて裏切られ殺害されてしまう。
この話は「翡翠姫の呪い」として、遊郭業を畳んだあとの雅宮家に伝わっていた。
いわくつきの雅宮家では、24年前にその庭先で軍人が不可解な死を遂げていた。
そして現在(昭和44年)、呪われし雅宮家に不穏な殺人予告がもたらされるのであった。
名探偵・二階堂蘭子とその義兄・黎人は警察とともに雅宮家を訪れることになる。
「二階堂蘭子」シリーズ第二作目!
本作『吸血の家』は、「二階堂蘭子」シリーズの第二作目に当たる作品です。
「二階堂蘭子」シリーズは、下記の二人が活躍するミステリーシリーズ。
- 二階堂蘭子(探偵役)
- 二階堂黎人(ワトソン役兼語り手・作者と同名の登場人物)
前作『地獄の奇術師』では高校生だった蘭子と黎人が大学生となって、再び難事件に挑んでいきます。
▼前作『地獄の奇術師』の記事
旧家「雅宮家」に伝わる呪いの話
本作の冒頭部では、武家出身の娘・翡翠姫が武州八王子の妓楼「久月楼」に売られ、最終的に非業の死を遂げるエピソードが語られます。
その後、八王子の宿場では疫病が流行。
人々は死病の流行について、翡翠姫の名をもじって「血吸い姫の呪い」と噂したのです。
ぶっ、不気味ですね・・・!
のちに久月楼は遊郭家業を畳み、戦前には割烹旅館「久月」と形を変えて営業していましたが、それも先代主人の雅宮清乃の死に伴って廃業。
現在の雅宮家の人々は割烹旅館の時代に培った技能を元手に、冠婚葬祭に関する仕事に携わっている状況です。
現在の雅宮家を呪いが襲う
本作最序盤で、とある喫茶店に「これから雅宮家で殺人事件が起こるので二階堂家に伝えてください」という謎の依頼がもたらされます。
雅宮家と二階堂家は遠縁の関係にあり、以前から周知の間柄なのです。
そこで本作の探偵役・二階堂蘭子とワトソン役・二階堂黎人が雅宮家に向かうという流れになっていきます。
江戸時代の美しい女性を襲った悲劇と、その家に伝わる呪いという構図は若干のホラー的な味わいもあり、かなりそそられますね。
私、ホラーはめっぽう苦手ですが、本作はそこまで怖くないので大丈夫ですよ。
実は、雅宮家では24年前にも軍人の不審死という事件が発生。
江戸時代、24年前、そして現在進行形で起こる惨劇と、過去の因縁を思わせる不気味な仕掛けが最高に良いですね。
トリックのすごさ
本作を語るうえで外せないのが、トリックのすごさです。
大きく分けると下記の2トリックが使われているのですが、両方ともすばらしすぎました。
- 雪の足跡トリック
- 密室トリック
「雪の足跡トリック」は事件現場の積雪部分につけられた足跡から犯行を推理する謎解き。
「密室トリック」は言葉通りですが、密室で起きた殺人事件の謎を解くものです。
少し言い方が悪いですが、前作『地獄の奇術師』はトリックに関してはとても単純でやや肩透かし感がありました。
しかし、本作のトリックは前作とは比べ物にならないくらいすごい!
事件の不可解感、答え合わせ時の納得感ともに極めて強く、読者の盲点を見事に突いた見事なトリックです。
「このトリックはすごい!」と素直に感動してしまいましたね。
足跡なき殺人
上記で、本作では「雪の足跡トリック」が使用されていると書きました。
より具体的に言うと、本作の足跡トリックは「足跡なき殺人」なのです。
本作の舞台となる雅宮家では、24年前に家を訪れたとある軍人が庭先で死亡するという事件が起こります。
被害者の軍人とその発見者の足跡は残されているものの、なんと肝心の犯人の足跡が存在しません。
犯人の足跡がないので推理のとっかかりがなく、「不可能犯罪感」がめちゃくちゃ強いんですよ。
単純に謎解きのヒントが少なく、だいぶ難度が高い印象のトリックでした。
「雪の足跡トリック」のイレギュラー版といった印象の素晴らしい仕掛けになっていますので、謎解きに自信のある人はぜひとも挑戦してほしいです。
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印象的なキャラクター
本作には数多くのキャラクターが登場しています。
ここでは、特に私が良いと思った人物について書いていきます。
二階堂蘭子
まずここで書いておきたいのが、探偵役の二階堂蘭子。
言わずと知れた「二階堂蘭子」シリーズの主人公です。
蘭子は非常に優秀な探偵役なんですが、とにかく自分の推理をなかなか語らず、読者としては非常にやきもきさせられます。
蘭子があまりにも推理の披露をもったいぶって引っ張るので、私は読んでいて笑ってしまいました。
探偵役のもったいぶった態度もミステリー作品の醍醐味なので、「こういうものだ」と思って楽しんでいきましょう(すぐ言っちゃったらおもしろくなくなっちゃうからね)
一応、蘭子が「確証を得られるまで自分の推理を語らない」理由は前作『地獄の奇術師』で詳細が描かれているので、気になる人はぜひそちらも読んでみてくださいね。
雅宮家の女性たち
遊郭同士の婚姻を繰り返し、妖艶な美が濃厚に遺伝した雅宮家。
現在の雅宮家には、下記の通り女性がかなり多いです。
- 絃子(長女)
- 琴子(次女)
- 笛子(三女)
- 冬子(絃子の長女)
4人とも名前が古風・風流でいい感じですよね。
そして、4人に共通するのがみんな「美人」だということ。
やはり本格ミステリーといえば「美人姉妹」ですよね!
本作の4名もどこか妖しげな雰囲気をまとっていて、往年の本格ミステリーを彷彿とさせるところがありました。
蘭子・黎人とは縁戚であることもあって、主人公サイドから見ると4人とも親しみやすい女性といった感じです。
しかし、一方でこの美人姉妹はオカルト趣味を持っているなど、どこか浮世離れしたところも。
特に「血吸い姫」の呪いを解くことを目的に、彼女らが霊能力者を呼んで浄霊会を行う描写は本作の見所の一つ。
親しみやすさと妖しさが同居したようなチグハグさがいかにもミステリーのキャラといった感じで良かったですね。
昭和的雰囲気
本作のメインストーリー部分の時代設定は昭和44年(1969)です。
『吸血の家』の刊行年が1992年ですから、発刊当時から見ても一昔前を描いていることがわかりますね。
このせいか、本作は全編を通して「昭和感」が漂っています。
前作『地獄の奇術師』もそうでしたが、やはりスマホやパソコンなどの文明の利器が登場しない本格ミステリーは古典的な味わいがあっておもしろいです。
昭和の雰囲気を濃厚に感じられる古き良きミステリーを楽しみたい人は、ぜひ本作を読んでみてくださいね。
注釈
本作の特徴として「注釈」が付いていることが挙げられます。
これは前作『地獄の奇術師』と同様ですね。
前作では巻末にまとめて掲載されていたのに対し、本作では章末に分割されていました。
巻末掲載の場合、誤って犯人を言い当てるシーンをチラ見してしまう可能性もあるので、個人的には章末掲載になっているのは嬉しかったです。
この注釈、ミステリー的なウンチクだけでなく、なんと謎解きの追加ヒントも含まれており、単なる用語解説にとどまらないのが良いんですよね。
注釈を読まなくても物語を読み進めるうえで支障はないものの、読むと本作をより深く楽しめるというオマケ的趣向です。
注釈は自己責任で楽しもう
また、この注釈のなかで古今東西の古典ミステリーを紹介してくれているので、名作ミステリーを見つける目的で注釈を読んでみてもおもしろいかもしれません。
ただ、古典ミステリーの「ぼんやりとしたネタバレ」を含んでいる箇所もあるなど、「本作の注釈の取り扱いは自己責任で!」という感じです。
ちょっとだけ見てみて、自分にあう使い方をしてみてくださいね。
個人的には、注釈も含めて一つの作品となっている感じが強かったので、本編とあわせて味わってほしいと思いました。
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読書会風動画
本作『吸血の家』は、私が所属している文学サロン朋来堂ミステリ部の2022年2月の課題図書でした。
ミステリ部員5名が読後に本作について語り合う動画がありますのであわせて紹介します。
私も「つみれ」という名前で参加しているのでぜひ観てね!
▼二階堂黎人『吸血の家』の感想を語り合う。【朋来堂ミステリ部】
終わりに
『吸血の家』は、江戸時代に遊郭「久月楼」を営んできた旧家「雅宮家」を舞台に繰り広げられる連続殺人事件を描いた本格ミステリーです。
読者の盲点を突いたトリックがすばらしく、謎解きが最高におもしろい一冊でした。
本記事を読んで、二階堂黎人さんの『吸血の家』がおもしろそうだと思いましたら、ぜひ手に取って読んでみてくださいね!
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
つみれ
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