扉は閉ざされたまま

ミステリー、サスペンス

  (最終更新日:2021.07.24)

【感想】『扉は閉ざされたまま』/石持浅海:犯人と探偵役の頭脳戦が楽しい倒叙ミステリー!

こんにちは、つみれです。

このたび、石持浅海(イシモチアサミ)さんのミステリー小説『扉は閉ざされたまま』を読みました。

都内のペンションで開かれた同窓会の最中に起きた密室での不審死をめぐる、犯人と探偵役の頭脳戦が楽しいミステリーです。

それでは、さっそく感想を書いていきます。

作品情報
書名:扉は閉ざされたまま(祥伝社文庫)

著者:石持浅海
出版:祥伝社(2008/2/20)
頁数:321ページ

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犯人と探偵役の頭脳戦が楽しい倒叙ミステリー!

犯人と探偵役の頭脳戦が楽しい倒叙ミステリー

私が読んだ動機

私が所属している文学サロン「朋来堂」の「ミステリ部」6月の課題図書だったので読みました。

こんな人におすすめ

チェックポイント
  • 倒叙(トウジョ)ミステリーが好き(「倒叙」の説明は下にあります)
  • 理詰めのミステリーを読みたい
  • 密室トリックが好き
  • ミステリーシリーズの第1作目を読みたい

あらすじ・作品説明

大学時代の七人の仲間が久しぶりに同窓会で集まった。

 

伏見亮輔(フシミリョウスケ)は会場となったペンションの一室で、仲間の一人新山和宏(ニイヤマカズヒロ)を殺害し、密室での事故死を偽装する。

 

しかし、メンバーのうち碓氷優佳(ウスイユカ)だけは、密室の状況や伏見の発言・行動に疑問を抱く。

 

密室の対処をめぐって、伏見亮輔と碓氷優佳の駆け引きが始まる。

倒叙ミステリー

豪奢な邸宅

『扉は閉ざされたまま』は、倒叙形式のミステリーです。

というより、本作は「碓氷優佳」シリーズの第一作目にあたり、そもそもこのシリーズ自体が「倒叙」をテーマにしたミステリーシリーズになっています。

シリーズ一作目なので、新しいミステリーシリーズに挑戦したい人にもおすすめの一冊ですね。

倒叙ミステリーとは

水晶に映った逆さまの風景

「倒叙ミステリー」は、簡単に言うと「最初から読者に犯人が明かされているミステリー」のことです。(「倒叙」自体が難しい言葉ですが、「時間の流れをさかのぼる」といった意味合い)

一般的なミステリー作品は、犯人が誰かわからない状態で物語が進行し、その犯人を発見することを目的にしていることが多いですよね。

一方、倒叙ミステリーの場合は、犯人は冒頭部で明かされます。

だから、小説としてのおもしろさは「犯人探し」ではなく下記に現れてきます。

  • 探偵役が犯人の犯行を見抜く過程
  • 探偵役が犯人を追い詰める過程

また、犯人が最初からわかっているため、犯人側の事情や思惑を遠慮なく物語に盛り込むことができるのもポイント。

「犯行動機」や「犯人と探偵役の駆け引き」の部分を濃厚に楽しめるのも倒叙ミステリーの醍醐味の一つです。

駆け引きのおもしろさ

チェス

『扉は閉ざされたまま』は謎解きを楽しむタイプというよりは、「駆け引きを楽しむ」タイプのミステリーになっています。

本作の犯人は「伏見亮輔」という切れ者で、仲間内ではリーダータイプの男性。(犯人を言ってもネタバレにならないのが倒叙ミステリー!)

周りの人間からも一目置かれるような存在です。

伏見は用意周到な性格をしていて、計画段階で自分がこれから行う犯罪についておおよその計画やタイムスケジュールを立てています。

「だいたいこの時間帯くらいに被害者が発見されるだろう」「その時にはこういう対応をしよう」のような「読み」や「計画」があるわけですね。

ところが伏見が立てた計画を、探偵役「碓氷優佳」が持ち前の鋭さを発揮してかなり早い段階で見抜き、タイムスケジュールを狂わせてくるんです。

伏見としては、当然「こんなに早くその可能性に到達するのは予想外だ」となるわけですよね。

したがって伏見はそのときどきで状況に適した対応を迫られることになります。

たとえば下記のように。

  • 真相に近づきそうになった同窓会メンバーを口八丁手八丁で煙に巻く
  • 同窓会メンバーを酒に酔わせて正常な判断を下せないようにする
  • 新たなトリックを追加することで狂わされた計画をリカバリーする

この「現在進行形で展開する犯人と探偵役との知恵比べ」が最高におもしろいんです。

普通のミステリーであれば信頼感マックスであるはずの探偵役が敵側に回ることの怖さやスリリングさを犯人目線で味わうことができます。

特に本作に登場する碓氷優佳は、伏見のちょっとしたミスや油断を見逃すことなく的確に突いてくるのでめちゃくちゃ怖い!

以上のように、犯人の伏見と探偵役の優佳が才知の限りを尽くして議論を戦わせるロジカルな駆け引きがとてもおもしろいです。

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秀逸な舞台設定

豪邸

本作は、伏見亮輔が大学時代の仲間との同窓会で新山和宏を殺害し、「密室」として現場を閉ざすシーンから始まります。

舞台は、同窓会メンバーの兄が所有している成城の豪奢なペンションです。

ペンションの秀逸さ

客室

本作のおもしろいポイントとして、舞台となるペンションの設定が秀逸ということが挙げられます。

歴史のある重厚な洋館に、最新鋭のセキュリティシステム。実用になるのはもちろんだが、いかにも宿泊客にウケそうな演出だ。『扉は閉ざされたまま』p.31

密室を構成する重要な要素の「客室のドア」や最新の防犯設備など、ペンションの属性自体がトリックと謎解きの両サイドで効果的に機能します。

特に客室のドアは年代物で価値が高く、容易に壊すことができないところがポイント。

まるで密室トリックと謎解きをおもしろくするために逆算して作ったかのような見事な舞台設定ですよね。

このおかげでトリックが極めておもしろいものになっています。

小説らしい作り物じみた設定といえば確かにそうかもしれません。

しかし、やはりこの秀逸な舞台設定が本作のおもしろさを増幅させているのは間違いありません。

密室殺人

ドアノブ

本作のもう一つのポイントが、発生した事件が「密室殺人」であるということ。

同窓会メンバーそれぞれが自由な時間を過ごしたあと、集合時間になっても新山が集合場所に現れないという問題が発生します。

ミステリーにおいて、「集合時間に現れない」はたいてい「死」を意味します。その致死率は100%に近いでしょう。

ですが、本作の状況では、他のメンバーが新山の部屋に行って様子を確認することによって即座に彼の死が発覚し、伏見のタイムスケジュールに狂いが発生してしまいます。

ここで、伏見が施した「密室」という仕掛けが非常に重要な意味を持ってきます。

どういうことかというと、部屋が密室であるために他のメンバーが室内の様子を確認できず、結果的に新山が集合場所に現れない「理由」を特定できないことになるわけです。

室内の新山が置かれている状況は下記の通り複数のパターンが考えられます。

  • 寝坊
  • 事故
  • 自殺
  • 他殺

命にかかわるような緊急事態であればすぐにでもドアを破って新山の様子を確認することになります。

しかし、単なる「寝坊」の可能性を捨てきれないため、年代物の貴重なドアを壊してまで新山の部屋に突入するという判断を容易に下せません。

ここにかなり大きな葛藤があるんですね。

このあたりの舞台設定と登場人物の心理描写のバランスがめちゃくちゃうまいですよね。これはかなりおもしろかったです。

微妙な登場人物たち

友人たちのシルエット

人によって感じ方は異なると思いますが、私は本作に魅力的なキャラクターがいないように感じました。

というよりも、たぶん作者はキャラクターの魅力に重点を置いてこの作品を執筆したのではないという印象を受けたのです。

本来、キャラクターの魅力によって小説のおもしろさや魅力を上乗せすることは悪いことではないし、むしろ大歓迎ですよね。

ですが、本作に限って言えば、あえてそれをしないことで純粋に「倒叙ミステリーのおもしろさ」を抽出して読者に提供している感が出ていると思いました。(作者石持さんの意図が本当にそこにあるかどうかは不明ですが)

これは、トリックや駆け引きの描写に相当な自信がないとできないことですよね。

属性過多で魅力過剰のキャラクターを登場させることで読者に媚びることなく、純粋にトリックや駆け引き部分で勝負をしていて潔いと思いました。

賛否両論

ミーティング

読後に少し調べてみると、本作の犯人伏見の犯行動機がけっこう賛否両論あるようです。

「犯人の動機は何だったのか」というのは、本作を楽しむうえで重大な謎です。

これは本作の核心に関わる箇所なのでここで詳細を書くことは避けますが、私はとてもおもしろい動機だと思いました。

確かに殺人の動機としては特殊な部類に入るのですが、本作は小説なので必要以上にリアリティを求めすぎて、物語としてのおもしろさを損なっても仕方がないですよね。

多少小説的ではあっても「目新しい動機」に挑戦するユニークさがとてもよかったです。

 

 

終わりに

『扉は閉ざされたまま』は、密室の対処をめぐって頭脳戦を繰り広げる犯人と探偵役の駆け引きが楽しい倒叙ミステリーです。

切れ者の二人が議論を戦わせる様子を味わうのが醍醐味の一冊で、終始ロジカルに展開していきます。

本記事を読んで、石持浅海さんのミステリー小説『扉は閉ざされたまま』がおもしろそうだなと思いましたら、ぜひ手に取って読んでみてくださいね!

最後までお読みくださり、ありがとうございます。

つみれ

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