こんにちは、つみれです。
このたび、青柳碧人さんの短編「わらしべ多重殺人」を読みました。
日本の昔話『わらしべ長者』をモチーフにしたミステリー短編です。
本記事は『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』所収の一編「わらしべ多重殺人」について書いたものです。
それでは、さっそく感想を書いていきます。
作品情報
短編名:わらしべ多重殺人(『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』所収)
著者:青柳碧人
出版:双葉社(2021/10/21)
頁数:50ページ
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目次
わらしべの交換相手が殺人犯!
私が読んだ動機
前作『むかしむかしあるところに、死体がありました。』がおもしろかったので続編にあたる本作も読みました。
こんな人におすすめ
- 『わらしべ長者』が好き
- 不可解な現象が起こる物語が読みたい
- 日本の昔話をモチーフにしたミステリーを読んでみたい
あらすじ・作品説明
赤子を抱えるおみねは、行商人のDV夫・八衛門の暴力に耐えきれず、ぬか床にその顔を押し付けて殺害した。
甘やかされて育ったわがまま娘・椿は、とある旅の帰路に山賊・八衛門に襲われそうになったが、隙をついて返り討ちにし、崖下に落として殺害した。
日々の暮らしに困窮していた武士・原口源之助は、かつて世話になった人物の葬儀代を用意できず金貸し・八衛門を頼ったが、侮辱されたため地蔵で殴打して殺害した。
まずしい男・半太は人生を儚んで死のうとしたが、観音様が現出し物々交換が人生を好転させるとのお告げを受けた。
半太は三人の殺人者と次々に物々交換を行い、屋敷を手に入れるほど裕福になった。
昔話『わらしべ長者』をモチーフにしたミステリー
本作「わらしべ多重殺人」は、昔話『わらしべ長者』をモチーフにしたSFミステリー。
本家の『わらしべ長者』は、困窮している主人公が最初に持っていたわらしべを複数回の物々交換を経て、最終的に裕福になる物語です。
一般的に良く知られている『わらしべ長者』では、下記の順番で物々交換をしていきます。
- わらしべ
- 虻
- みかん
- 反物
- 馬
- 屋敷
本作「わらしべ多重殺人」も、基本的には上記の物々交換を経て物語が進んでいきますが、原作とは決定的に異なる点があります。
それは、最初に語られるのがわらしべを手にする主人公「半太」ではなく、交換相手側の物語であることです。
交換相手側の物語
本作「わらしべ多重殺人」は、わらしべを元手に物々交換を経て大金持ちになる「半太」より前に3名の物語が語られます。
それが下記の3名です。
- 「みかん」を渡す女性・おみね
- 「美しい布」を渡す娘・椿
- 「馬」を渡す武士・原口源之助
そして、本作の冒頭で語られる彼ら3名の物語は、なんと彼らが殺人を犯すシーンなのです。
倒叙ミステリー
本作は、物語冒頭部で登場人物が殺人を犯すシーンを描かれます。
一種の倒叙ミステリーということもできるかもしれませんね。
倒叙ミステリー・・・最初から読者に犯人が明かされているミステリーのこと。
半太にみかんを渡す女性・おみねは、行商人のDV夫の暴力に苦しんだ挙句、彼を殺害します。
半太に美しい布を渡す娘・椿は、その美しい布を山賊に奪われそうになり、返り討ちにして彼を殺害。
半太に馬を渡す武士・原口源之助は、金を借りようとした相手の金貸しに侮辱され、我慢ならず彼を殺害。
この3つの不穏な物語が描かれたあとに、いよいよわらしべを手にする主人公「半太」が登場する流れとなっています。
3回殺される八衛門
本作最大の謎は、おみね・椿・原口源之助が殺害した相手がみんな共通して八衛門という男だということ。
熊のように図体が大きく、右目のあたりに切り傷があり、月代にほくろがあるという特徴まで一致しており、単なる同姓同名というわけではなさそうです。
しかし、身体的な特徴は同じでも、3人が殺害した八衛門は下記の通りそれぞれ職業が異なります。
- おみねが殺した八衛門・・・行商人
- 椿が殺した八衛門・・・山賊
- 原口源之助が殺した八衛門・・・金貸し
しかも、3人はそれぞれ異なる方法で殺害を実行しており、その不可解さは増す一方です。
- おみねの殺害方法・・・ぬか床に八衛門の顔を押し付ける
- 椿の殺害方法・・・崖下に突き落とす
- 原口源之助・・・地蔵で殴打する
同じ特徴を持った異なる職業の男が、3名の相手にそれぞれ別の形で殺されるというめちゃくちゃ不可解な状況です。
わらしべの交換相手
3名の犯罪シーンを描いたあとにようやく登場するのが、わらしべを元手に大金持ちになる「半太」です。
彼は観音様のお告げに従い、わらしべの交換相手を探します。
彼のまえに登場するのは冒頭部で殺人を犯した3人。
殺人者たちは自分の犯罪の証拠となりうるアイテムを「半太」と交換していくわけです。
半田は知らないうちに証拠隠滅に利用されることになります。
本家の昔話『わらしべ長者』からは到底感じることのできないミステリー的な「悪意」が登場し、ミステリーファンとしてはうれしいところです。
二章構成
本作は「第一章・春」と「第二章・冬」と二章構成になっています。
構成の内容としては下記のような感じです。
- 「第一章・春」:事件編
- 「第二章・冬」:解決編
本記事で書いてきた同一人物が3度殺害される不可解な事件の謎は、すべて「第一章・春」で語られる内容です。
「第二章・冬」では、この謎に納得のいく解決が与えられていますので、興味のある人はぜひ本作を手に取って読んでみてくださいね。
特殊設定ミステリー
本作の事件編となる「第一章・春」では、同じ人物が3人の人物に3回殺されるという不可解な事象が発生します。
これは「昔話由来の不思議な現象が許されている」という本短編集独自の世界観によって納得のいく説明がなされます。
そういう意味では昔話の世界観を借りた特殊設定ミステリーということができ、普通のミステリーに飽きてしまった人にもおすすめできる一作といえますね!
終わりに
「わらしべ多重殺人」は、日本の昔話『わらしべ長者』をモチーフにしたミステリー短編。
本家本元の『わらしべ長者』と異なり、冒頭部で殺人事件が3回も描写されるというショッキングな内容を含み、ミステリーファン必読の内容となっています。
本記事を読んで、青柳碧人さんの「わらしべ多重殺人」がおもしろそうだと思いましたら、ぜひ『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』を手に取って読んでみてくださいね!
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
つみれ
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