こんにちは、つみれです。
このたび、西村京太郎『殺しの双曲線』(講談社文庫)を読みました。
さっそく、本作の冒頭箇所をご紹介いたしましょう。
この推理小説のメイントリックは、双生児であることを利用したものです『殺しの双曲線』(講談社文庫)p.6
なんと本作、こんな宣言で物語が始まります。
「トリックは半ば種明かししておくから、真相を当てられるものなら当ててみなさい」という作者の声が聞こえてきます。
これは読者に対する西村京太郎さんのあからさまな挑戦ですよ・・・!
よし、じゃあ解き明かしてやろうじゃないか! → 惨敗
というお決まりのパターンを私は辿りましたが、とてもおもしろい小説です。
あとから振り返れば非常に滑稽な読み違いをしていますので、ネタバレ感想でそのあたりにも触れてみたいと思います。
ネタバレ箇所は折りたたんでありますので、未読の場合は開かないようご注意ください。
作品情報
書名:殺しの双曲線 (講談社文庫)
著者:西村京太郎
出版:講談社 (2012/8/10)
頁数:488ページ
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目次
双生児を利用したトリック!
私が読んだ動機
西村京太郎が描くクローズドサークルものの本格ミステリーがおもしろそうだと思って手に取りました。
こんな人におすすめ
- クローズドサークルものが好き
- 冒頭でトリックを種明かししてくる大胆不敵さに挑戦したい
- 「西村京太郎の本格ミステリー」を読んでみたい
二つの事件が交互に描かれる
本作は、「双生児の連続強盗事件」と「雪山の山荘での連続殺人事件(いわゆるクローズドサークル)」が交互に描かれるというのが物語の基本的な構成となっています。
クローズドサークルの説明は下記の通り。
何らかの事情で外界との往来が断たれた状況、あるいはそうした状況下でおこる事件を扱った作品Wikipedia「クローズド・サークル」
外界との連絡手段が絶たれることも多い。サークル内にいる人物のなかに高確率で犯人がいると思われたり、捜査のプロである警察が事件に関与できない理由づけになったりなど、パズルとしてのミステリーを効果的に演出する。
「嵐の孤島」「吹雪の山荘」などがその代表例として挙げられる。
全く関係のなさそうにみえる物語が、どのようにして交わっていくのかというのが一つの見どころです。
この二つの物語はいいところで場面が切り替わるように描かれており、良くも悪くも「続きが気になる」作品となっています。
気づかないうちにグイグイ読み進めていってしまう勢いのある推理小説です。
2時間ドラマ系のトラベルミステリーで有名な西村京太郎ですが、「へ~、こんな本格ミステリーも書いているんだ!」というのが率直な感想です。
メイントリックは双生児
本作は冒頭部で宣言されている通り、「双子トリック」が使用されています。
しかし、基本的にミステリーにおいて「双子トリック」は「夢オチ」や「多重人格トリック」と同様、タブー視されやすいという側面を持っています。
なぜかというと「どう考えてもアリバイが成立している人間が実は双子だったんですよ」というのはフェアではないからです。
アリバイ・・・犯行現場以外の場所にいたことをアピールすることで無実を明らかにすること
「作者さん、あなた双子だなんて事前に説明してくれなかったじゃないか!後出しじゃ読者にはわかりっこないよ!プンプン!」ということになります。
結局、犯人がポッと出の人物ということになってしまい、推理小説としては限りなくアンフェアなトリックだという評価がくだされてしまうわけです。
これは「ノックスの十戒」という推理小説を書くにあたってのルールのなかで、「双子トリックは事前に読者に知らされていないとアンフェアですよ」と規定されていることに由来します。
裏を返せば、あらかじめ「双子トリックが仕掛けられていますよ」と宣言する場合においては、十分フェアであるということになります。
繰り返しになりますが、『殺しの双曲線』では小説の冒頭部で「双子トリック」が仕込まれていることが宣言されています。
明らかに読者に対する挑戦であると同時に「ノックスの十戒」に対する挑戦でもあって、読む側からすれば「やってくれるじゃねえか、こんちくしょう」となるわけです。
ここまで高らかに宣言してしまって、どうやって見事トリックを成立させるのか!?というのがこの小説の醍醐味といえるでしょう。
まさに衆人監視のなか手品を行うような魔術的な技巧が凝らされています。
見破れる人はいったいどのくらいいるのでしょうか・・・?
私ですか?ええ、見破れませんでしたとも!
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クリスティのオマージュ
アガサ・クリスティという作家がいます。
「ミステリーの女王」などと呼ばれるスゴイ作家なのですが、作品としては『そして誰もいなくなった』が特に有名。
その斬新すぎるオチとパロディ化しやすい秀逸なタイトルから、クリスティの最も有名な作品の一つです。
実は『殺しの双曲線』の雪山の山荘の物語は、クリスティの『そして誰もいなくなった』を意識したつくりになっています。
だんだんと人が殺されていく点は同じであるものの、そこはミステリー作家西村京太郎。
まさかクリスティの描いた結末と同じ終わり方ではないだろうと思わせてくれるんですね。
個人的にはクリスティの『そして誰もいなくなった』を読んだあとに本作を味わうと一層楽しめるのではないかと思います。
まさにクリスティへのリスペクトが感じられる見事なオマージュとなっていますよ。
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▼クローズドサークルのおすすめ作品
【ネタバレ感想・つみれの推理】すでに読了した方へ
危険!ネタバレあり!『殺しの双曲線』のトリックを看破しようと私ががんばって推理した結果を書いていきます。
あとから読むと何もがんばっていないのがわかってつらいです。
ネタバレを多く含みます、注意!
今後読む予定の方は絶対に見ちゃダメ!おもしろさが激減します。
終わりに
ミステリーを読んでいてすごいなと思うのは、一つの斬新なトリックが編み出されると、それを利用した新たなトリックが連鎖的に生まれるというところです。
ミステリー界の革命を引き起こした革新的作品とそれに感化された作品というのはセットで味わうとよりいっそう楽しめますね。
それにしても、私にトリックを解くセンスが全くないのが泣けてきますね!
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
つみれ
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