こんにちは、つみれです。
このたび、北山猛邦さんの長編ミステリー『アルファベット荘事件』を読みました。
アルファベットのオブジェが乱立する奇怪な山荘に閉じ込められた招待客たちが事件に巻き込まれていくクローズドサークル・ミステリーです。
それでは、さっそく感想を書いていきます。
作品情報
書名:アルファベット荘事件(創元推理文庫)
著者:北山猛邦
出版:東京創元社(2021/10/12)
頁数:272ページ
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目次
王道の吹雪の山荘に奇人が集う!
私が読んだ動機
吹雪の山荘系クローズドサークルの小説を探していて見つけました。
こんな人におすすめ
- 王道の本格ミステリーが好き
- 吹雪の山荘系クローズドサークルが好き
- 奇抜なキャラクターが登場する物語を読みたい
あらすじ・作品説明
雪の降るなか、個性的な招待客たちが岩手の山奥にある山荘「アルファベット荘」を訪れる。
「アルファベット荘」はアルファベットのオブジェが乱立する変わった建物。
さらに別館には「関わった人が次々に不審死を遂げる」といういわくつきの箱「創生の箱」があった。
招待客が全員集まったにもかかわらず、主催者は一向に姿を見せない。
翌朝、招待客の一人が「創生の箱」のなかで死体となって発見される。
名作の復刊
本作は本格ミステリー作家・北山猛邦さんの初期作品の復刊バージョンとのこと。
最初に発刊されたのが2002年なので約20年前に発表された作品です。
復刊を望む声が多かったのかもしれませんね。
確かにおもしろかったです。
本格ミステリー要素がてんこ盛り
本作は序盤のあらすじだけを見ても、お手本のような本格ミステリーです。
下記の通り本格ミステリー要素満載で、まさに教科書通りといった感じですよね。
- 吹雪の山荘
- いわくつきの美術品
- 姿なき主催者
- 怪しげな客たち
このてんこ盛りっぷりよ!
本格ミステリー好きとしてはうれしい限りのシチュエーションです。
これはいやでも期待が高まるというものですね!
クローズドサークル
本作『アルファベット荘事件』は、いわゆるクローズドサークルもののミステリーです。
クローズドサークルの説明は下記。
何らかの事情で外界との往来が断たれた状況、あるいはそうした状況下でおこる事件を扱った作品 Wikipedia「クローズド・サークル」
外界との連絡手段が絶たれることも多い。
サークル内にいる人物のなかに高確率で犯人がいると思われたり、捜査のプロである警察が事件に関与できない理由づけになったりなど、パズルとしてのミステリーを効果的に演出する。
「嵐の孤島」「吹雪の山荘」などがその代表例として挙げられる。
本作はまさに王道の「吹雪の山荘」系クローズドサークル!
すさまじい吹雪のせいで招待客が山荘に閉じ込められると同時に、警察が事件に介入できなくなるお決まりの展開が魅力です。
創生の箱
アルファベット荘には「創生の箱」というヤバめのアイテムが置かれています。
これは関わった人が次々に死んでいるといういわくつきの箱。
プロローグでは、とあるパーティ会場で起こった「創生の箱」にまつわる事件が描かれます。
パーティ開始時には箱に何も入っていなかったはずなのに、会の終盤、箱の蓋を開けるとなかから死体が発見されるという不可解で衝撃的な事件です。
不吉にもほどがありますねえ。楽しい。
物理の北山
舞台となるアルファベット荘は白い洋館風の建物ですが、ひときわ珍しいのが屋敷のいたるところに巨大なアルファベットのオブジェが置かれていること。
途中で差し挟まれる見取り図にも、このオブジェの位置を示すAからZまでのアルファベットが描かれています。
もうこの時点で読者としては「このアルファベットがトリックのカギだな・・・!」と想像しちゃいますよね。
作者の北山猛邦さんは物理トリックの名手であることから「物理の北山」の異名をとっているそう。
たしかに見取り図を見た瞬間から、「あ!これは何かしらの物理トリックが繰り広げられるんだな!」と推測できます。
トリックとしては「解けそうで解けない」絶妙なラインを攻めていてとても良かったですね。ええ、私は解けませんでしたよ。
雪の足跡トリック
本作は「雪の足跡トリック」に真っ向から挑んでいます。
雪の足跡トリック・・・雪に残された足跡から事件の経過や犯人を推理するタイプのミステリー。
「足跡がどのような筋で残っているか」「降雪の度合いと足跡の残り方」などで推理を進めるパズル的要素が楽しい。
「雪の足跡トリック」は古典的ですが、やっぱりおもしろいんですよ。
本作の雪の足跡トリックはちょっとだけ凝っていて、「死体を運ぶために犯人が通ったはずのコースに足跡がない」というもの。
不可解な足跡が残っているのではなく、「足跡がないのが謎」という趣向ですね。
いずれにしても雪の足跡トリックは、アリバイトリックと強く絡むのでパズル的要素が強い。
たとえば下記を考慮して犯人を少しずつ絞り込んでいくわけです。
- 「誰がどの時間帯にどこにいたか?」
- 「そのとき降雪の状況はどうだったか?」
これがパズル的で楽しすぎるんです。
それからもう一つ、私がこのトリックが好きな理由があります。
それは、自分が犯人だと見破られないように必死に足跡を偽装している様子を映像としてイメージすると、犯人がどこか滑稽に見える感じ。
犯人が一生懸命足跡を付けているのって、マジメなシーンなのに不思議とバカっぽさがありませんか?
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ヤバめの登場人物ばかり
本作の登場人物は基本的に頭のネジが一本抜けたようなヤバめの人物ばかりで好みが分かれそうです。
行動や発言がいい意味でリアリティがなく、「本格ミステリーのためのエッセンスだけを抽出したようなキャラ」ばかりなんですよ。
唯一、本作の語り手・橘未衣子だけが常識的な人物で本作中のオアシス的存在と言えそう。
そしてとりわけヤバいのが、未衣子の友人として登場する美久月美由紀とディの二名。
この二人は強烈な個性が光りまくっていて、私のお気に入りキャラです。
ちなみに本作表紙には未衣子・美久月・ディの三名のイラストが載っているので、ビジュアル的にイメージしやすいかもしれませんね。
美久月美由紀
美久月美由紀は未衣子が所属している劇団『ポルカ』の先輩で超絶美貌の持ち主。
ですが、基本的に舞台の上以外ではズボラで自堕落、他人の目に無頓着という極端なキャラです。
やる気のない態度を取り続けていると思いきや、周囲がハッとするような鋭さを見せることもある特異な人物として描かれています。
ディ
もう一人、未衣子や美久月の同居人として登場するディもすごいキャラクターです。
この不思議なニックネームを持つキャラクターは「何も持たない探偵」。なんと本作の探偵役なんです。
ディは何も持たない。名前も、家族も、親戚も、友人も、恋人も、感情も。 『アルファベット荘事件』kindle版、位置No.358
ディは「事件を解決することだけが存在意義」というかなり特殊な性格の持ち主として描かれています。
およそ人間らしさのないディのキャラは「本格ミステリーに都合の良い、リアリティのないキャラ」の最高峰と言えるかもしれません。
基本的に本作の登場人物は「何か大事なものが欠けていて人間らしさがない」印象を受けますが、ディはまさにその最たる者です。
キャラクターに必要以上の属性を付加しないことで、純粋にトリックや謎に向き合えるように作られているようにも思えましたね。
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終わりに
『アルファベット荘事件』は、招待客が特殊な山荘に閉じ込められ、事件に巻き込まれるクローズドサークル・ミステリー。
「吹雪の山荘」系ミステリーとして王道の道具立てがかなりうれしい一冊でした。
また登場人物は奇人ばかりでキャラが立っており、本作がシリーズ化していないのがもったいなく思えてしまうほどですよ。
シリーズ化してほしいなぁ。
本記事を読んで、北山猛邦さんの『アルファベット荘事件』がおもしろそうだと思いましたら、ぜひ手に取って読んでみてくださいね!
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
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つみれ
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