こんにちは、つみれです。
このたび、青柳碧人さんの短編「猿六とぶんぶく交換犯罪」を読みました。
日本の昔話『ぶんぶく茶釜』をモチーフにしたミステリー短編です。
本記事は『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』所収の一編「猿六とぶんぶく交換犯罪」について書いたものです。
それでは、さっそく感想を書いていきます。
本作の前に収録されている「真相・猿蟹合戦」と本作「猿六とぶんぶく交換犯罪」は、実質連続した一つの物語なので、両編併せて読むのがおすすめです。
作品情報
短編名:猿六とぶんぶく交換犯罪(『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』所収)
著者:青柳碧人
出版:双葉社(2021/10/21)
頁数:52ページ
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目次
二転三転する交換犯罪の顛末は!?
私が読んだ動機
前作『むかしむかしあるところに、死体がありました。』がおもしろかったので続編にあたる本作も読みました。
こんな人におすすめ
- 『ぶんぶく茶釜』が好き
- 二転三転する物語が読みたい
- 日本の昔話をモチーフにしたミステリーを読んでみたい
あらすじ・作品説明
幾度となく非行を重ねてきた悪猿「南天丸」は、自分を殺す計画の存在を察知して以来、有力者・猩々翁の屋敷に匿ってもらっていた。
猩々翁の屋敷には「もどろ沼」に囲まれた小島があり、南天丸は居処としてそこに建つ小屋をあてがわれていた。
本作の語り手「綿さん」とその友人「猿六」という二匹の猿がこの猩々屋敷を訪れた翌日、なんと南天丸が小島近くに浮かぶ舟の上で変死体となって発見された。
観察力・洞察力に優れた猿六は、悪猿の変死について調査を開始する。
前編「真相・猿蟹合戦」を先に読んでおこう
本作「猿六とぶんぶく交換犯罪」は、一つ前に収録されている短編「真相・猿蟹合戦」と連続性のある物語になっており、両編併せて読むことでおもしろさが倍増します。
もちろん「猿六とぶんぶく交換犯罪」は単品でも楽しめる一作ですが、本作は「真相・猿蟹合戦」と併せて読んで初めて真価を発揮するんですよ。
なので、よほどの理由がない限り、両編をセットで読むことをおすすめします。
また、時系列的には収録順に沿って下記の順番で読むのがおすすめ。
- 「真相・猿蟹合戦」
- 「猿六とぶんぶく交換犯罪」
物語の流れ的に「真相・猿蟹合戦」の答えが「猿六とぶんぶく交換犯罪」に当たるという構図なので、逆の順で読んでしまうと盛大なネタバレを食らってしまいます。
『猿蟹合戦』と『ぶんぶく茶釜』の世界観が巧妙につなぎ合わせられている豪華な物語を100パーセント味わうつもりなら、上の順番で読みましょう。
「わし」が南天丸の死の状況を語る
本作「猿六とぶんぶく交換犯罪」の語り手は「わし=綿さん」。
そもそも、短編集『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』で語られるエピソードはすべてこの「わし」が語ったものなのでした。
そして、本作では前編「真相・猿蟹合戦」でも登場した悪猿・南天丸が不審な死を遂げたエピソードが語られます。
ただし、本作のエピソードが本短編集の他の収録作と決定的に異なる点は、これが「わし」の実体験に基づいた物語になっていることです。
「わし」と猿六
語り手の「わし」は猿の怪我や病気を治す猿医学を修めた猿でしたが、施術の旅の途中で顔の上半分が赤くただれたように赤い「猿六」という猿に出会います。
「わし」は猿六と馬が合い、その後の旅を共にすることになるのです。
猿六は妙に観察力・洞察力が鋭く、些細な情報から他人の秘事などをズバリと言い当てることができる特殊な能力を持っていました。
この物語は、「わし」と猿六の二人が赤尻平という猿の隠れ里を訪れるところから始まります。
南天丸の死
猿の隠れ里・赤尻平の高台には猿の有力者・猩々翁の屋敷があります。
ちなみにこの猩々屋敷については見取り図が本編の最序盤で掲載されていますよ。
暴れん坊の悪猿・南天丸はこの猩々翁に気に入られ、屋敷の敷地内にある小屋に匿われていました。
南天丸の小屋は「屍泥藻泥」という奇妙な泥でできた「もどろ沼」で囲まれており、その泥は異臭と粘り気をもっています。
小屋の建つ小島には一艘の小舟が浮かんでおり、なんとそこから上半身を乗り出し泥沼に顔を浸すようにして南天丸が死んでいるのが見つかったのです。
猩々屋敷の敷地内に舟は二艘しかなく、一艘は南天丸の死体が乗っている小島の傍に浮かんでいるもので、もう一艘は西の蔵の天井にかけてある予備用のものでした。
しかし、この予備用の小舟は船底に泥が付いておらず、直近で使用された形跡がなかったのです。
謎の茶道具
「わし」と猿六が猩々屋敷を訪れた翌日に突如起こった悪猿・南天丸の死亡事件。
一点、怪しいことがあったとすれば、事件の前日に「金ぴかの茶道具」を携えた旅の猿が猩々屋敷を訪れ物々交換を持ち掛けたという。
南天丸はその茶道具をたいそう気に入ったので、彼をかわいがっている猩々翁は南天丸を喜ばせてやろうと翡翠との物々交換で茶道具を手に入れてやりました。
猩々屋敷の猿たちはこの茶道具には特に不審を抱きませんでしたが、鋭い洞察力を持つ猿六はただ一人これを怪しみます。
ミステリーとして
本作は短編集『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』に収録されている作品のなかでも、特に本格ミステリーの色合いが濃い一作です。
昔話という特殊な世界を舞台にした本格ミステリーとしては、その設定を一番うまく利用した作品と言えるかもしれません。
本作には下記のようなおもしろさが詰め込まれています。
- 明確な「探偵役」として猿六が登場し、事件を解決しようと動く。
- 悲劇の舞台となった猩々屋敷の見取り図が掲載されている。
- 昔話独自の特殊設定がミステリーに転用される。
また、前編に当たる「真相・猿蟹合戦」もそうでしたが、物語が進むほどに読者を驚かせてくれる二転三転する物語も魅力的でしたね。
「昔話の世界を舞台にした特殊設定ミステリー」という意味では本短編集でも随一のおもしろさを誇る一編となっています。
終わりに
「猿六とぶんぶく交換犯罪」は、日本の昔話『ぶんぶく茶釜』をモチーフにしたミステリー短編。
前編となる「真相・猿蟹合戦」との合わせ技で、短編ながら伏線が豊富で贅沢な謎解きを味わうことができる一編となっています。
本記事を読んで、青柳碧人さんの「猿六とぶんぶく交換犯罪」がおもしろそうだと思いましたら、ぜひ『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』を手に取って読んでみてくださいね!
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
つみれ
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