こんにちは、つみれです。
このたび、柚月裕子さんの『ミカエルの鼓動』を読みました。
最先端の医療用ロボットを使用した心臓手術の是非を問う、権謀渦巻く医療ミステリーです。
それでは、さっそく感想を書いていきます。
本作は第166回直木賞(2021年下半期)の候補作です。
▼第166回直木賞候補作をまとめています。
作品情報
書名:ミカエルの鼓動
著者:柚月裕子
出版:文藝春秋
頁数:472ページ
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目次
救うべきは医療の未来か目の前の患者か?
私が読んだ動機
第166回直木賞(2021年下半期)候補作に選ばれたので読みました。
こんな人におすすめ
- 医療ミステリーが好き
- ライバル同士の確執の物語を読みたい
- 主人公の葛藤が描かれる小説が読みたい
- 病院内の権謀術数渦巻く話が好き
- 直木賞候補作を読みたい
あらすじ・作品説明
医療用ロボット「ミカエル」による最先端医療の名手・西條泰己。
とある大学病院に勤務する西條は名実ともに「ミカエル」によるロボット支援下手術の第一人者であったが、そんな彼の前にドイツ帰りの天才外科医・真木一義が現れる。
真木は「ミカエル」を用いない従来の術式による手術の名手だった。
心臓に難病を抱える少年・白石航が来院すると、その手術方針をめぐって西條と真木は激しく対立する。
そんな状況のなか、西條は「ミカエル」にまつわる不穏な噂を耳にする。
二人の天才外科医
本作の主人公は「ミカエル」というロボットによる最先端医療の名手・西條泰己です。
物語が進むと、「ミカエル」を使用しない従来の開胸手術を脅威的なスピードで行うことができる天才医師・真木一義が西條の前に現れます。
この二人がライバル的な関係となって物語を盛り上げます。
「ミカエル」を操る天才医師・西條泰己
北海道中央大学病院で病院長補佐を務める西條泰己は、医療用ロボット「ミカエル」によるロボット支援下手術の第一人者。
習得の難しい「ミカエル」を自在に操れる西條は、その技術ゆえに一目置かれています。
そして、「ミカエル」による手術には、従来の手術では得られない複数のメリットがあるのです。
「ミカエル」によるロボット支援下手術
「ミカエル」には複数のアームがあり、その先端にはメス等の医療器具や3D内視鏡カメラが取り付けられています。
「ミカエル」による手術のメリットの一つは、医師が複数のアームを遠隔操作することで手術室と別の部屋から手術を行えること。
これにより医師自身の滅菌・消毒の工程を短縮できます。
一分一秒を争う医療現場では、作業工程を短縮できるのは大きなメリットですね。
また、3D内視鏡カメラの映像を見ながらアームを操作する手術方法なので、担当医師はコンソールの椅子に座ったまま手術が可能。体力の消耗も低減できます。
「ミカエル」による手術のメリットの二つ目は、内視鏡手術の一種なので患者の身体の負担が小さいこと。
開胸をせず、患者の身体に開けた小さな穴からピンポイントで手術を行うので、傷が小さくて済み、術後の痛みも低減できるわけです。
つまり「ミカエル」による手術は、患者の出血や感染症のリスクと、医師の疲労のリスクの両方を最低限に抑えることができる優れた術式と言えます。
一方、デメリットは上にも書いた通り、技術の習得が難しいこと。
本作の主人公・西條は習得の難しい「ミカエル」による手術の第一人者で、将来を嘱望されています。
もう一人の天才医師・真木一義
本作には主人公・西條のほかに、もう一人の天才医師が登場します。
それがドイツ帰りの外科医・真木一義です。
真木は物語の途中で新しく北海道中央大学に着任する凄腕の医師。
真木は西條の目の前で「ミカエル」に頼らない従来の開胸手術を驚異的な速さで成功させます。
開胸し、胸骨を削って患部に到達する従来の手術ですが、真木は恐ろしいほど正確で高速な手術技術を持っているため、結果的に患者の身体的負担が小さくて済むわけです。
真木は愛想がなくとげとげしい発言をするため対人スキルはあまりないように見えますが、手術スキルの高さで周囲を認めさせる実力があります。
そんな絶技を見せつけられただけでなく、着任と同時に西條と同格の病院長補佐になる等、西條はいやでも真木の存在を意識させられるようになっていきます。
この真木がとにかくカッコいいんですよ。
天才同士がライバル関係に
上で挙げた二人の天才医師・西條と真木は、とある手術の方針をめぐって対立するようになっていきます。
本作は基本的に西條目線の物語なので、内面については西條のもののみが描かれます。
北海道中央大学を代表する名医でありながら、突如出現した真木を強烈に意識し、嫉妬してしまう西條には良くも悪くも人間くささがあふれていますね。
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難病を抱える少年
西條と真木がともに北海道中央大学の病院長補佐を務めるようになり、不穏な空気が流れはじめます。
そんな不穏さが決定的な確執に変わる事件が起こります。
心臓に難病を抱える少年・白石航の手術方針をめぐって、西條と真木が激しく対立するのです。
- 西條の方針:「ミカエル」による手術
- 真木の方針:従来の開胸手術
西條としては、難度の高い子供の心臓手術を「ミカエル」によって成功させれば「医療の未来に貢献できる」との考えがあります。
一方、真木は目の前の患者を救うことのみを考えています。
救うべきは医療の未来か目の前の患者か?
どちらの考え方も正しいように見えますが肝心の患者は一人なので、西條と真木は担当医師の座を争っていくことになるわけです。
これは本作に通底するテーマの一つです。
なかなか考えさせられますよね。
「ミカエル」の不穏な噂
西條と真木が航の手術方法をめぐって争っているとき、あやしげなフリーライター・黒沢が西條に接触してきます。
黒沢は口を濁してはっきりしたことはいいませんが、「ミカエル」に怪しげな噂があることを示唆するような発言をします。
「あの医療用ロボットは信用できない。あれは人を救う天使じゃない。偽物だ。堕天使ならぬ、偽天使だ」『ミカエルの鼓動』p.241
世間がもてはやす最先端の新技術に垂れ込める暗雲。
この噂に加えて、物語は病院内の権力争いも絡み、いかにも医療ミステリーらしい不穏さが漂ってきます。
何事もカンタンにいかないのが小説の醍醐味。おもしろいですねえ。
意味深なプロローグ
本作冒頭部のプロローグでは、雪山で何者かが遭難しているシーンが描かれます。
これがいったい誰のエピソードなのかわからないんですよ。
本編は北海道中央大学病院をメインの舞台としていて、それとはあまりにかけ離れた雪山の描写がどのような意味を持つのかわからず、先が気になるんですよね。
この意味深で印象的なプロローグにも注目です。
医療小説が苦手でも大丈夫
本作は医療小説が苦手な人でも安心して読める作品です。
実は私は医療小説や医療ドラマの「手術シーン」が大の苦手。
もともと血を見るのが苦手なのですが、特に手術シーンにさしかかるとなぜか力が抜けてくるんですよ。
本作は手術シーン自体がサクッと軽めに描かれているので、私は大丈夫でした。
あくまで私基準の話ですが、同じ体質を持っている人は参考にしてみてくださいね。
終わりに
『ミカエルの鼓動』は、最先端の医療用ロボット「ミカエル」を使用した心臓手術を軸に、二人の天才医師の確執を描く医療ミステリーです。
現代医療の在り方を問う、考えさせられる展開が魅力の一冊でした。
本記事を読んで、柚月裕子さんの『ミカエルの鼓動』がおもしろそうだと思いましたら、ぜひ手に取って読んでみてくださいね!
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
つみれ
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