宇喜多の捨て嫁

歴史

  (最終更新日:2022.04.29)

【感想】『宇喜多の捨て嫁』/木下昌輝:梟雄・宇喜多直家を複数の人物の視点で描く!

こんにちは、つみれです。

このたび、木下昌輝(キノシタマサキ)さんの『宇喜多(ウキタ)の捨て嫁』を読みました。

 

自分の娘を嫁がせ油断した相手をだまし討ちにしていった戦国の梟雄(キョウユウ)宇喜多直家(ウキタナオイエ)について描いた歴史小説です。

 

また、第152回直木賞候補作にノミネートされた作品でもあります!

それでは、さっそく感想を書いていきます。

本作『宇喜多の捨て嫁』は、第92回オール讀物(ヨミモノ)新人賞・高校生直木賞・歴史時代作家クラブ賞新人賞・舟橋聖一(フナハシセイイチ)文学賞など立て続けに受賞しています。

作品情報
書名:宇喜多の捨て嫁(文庫)

著者:木下昌輝
出版:文春秋(2017/4/7)
頁数:400ページ

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梟雄・宇喜多直家を複数の人物の視点で描く!

梟雄・宇喜多直家を複数の人物の視点で描く

私が読んだ動機

宇喜多直家に興味があって読みました。

こんな人におすすめ

チェックポイント
  • 戦国時代を舞台にした歴史小説が読みたい
  • 「梟雄」宇喜多直家が好き
  • いろいろな人物の視点から一人の人物を浮き彫りにするスタイルが好き
  • 直木賞候補作を読みたい

あらすじ・作品説明

自分の娘を輿入れさせて油断を誘い、だまし討ちにするという手法で勢力を拡大していった稀代の謀将・宇喜多直家。

 

彼が権謀術数に手を染めるようになった裏にはどのような事情があったのか。

 

梟雄・宇喜多直家の人物像を、複数の人物の視点から浮かび上がらせる歴史小説。

「梟雄」宇喜多直家

梟

本作タイトル『宇喜多の捨て嫁』の宇喜多とは、宇喜多直家のことを指しています。

直家は、斎藤道三(サイトウドウサン)松永久秀(マツナガヒサヒデ)と並んで「戦国三大梟雄」に数えられている戦国武将。

「梟雄」とは、あくどい手口を平気で使う悪党としての側面を持つ英雄のことです。

本作冒頭部でも、直家は下記の異名をとって周囲から恐れられたとあります。

“表裏第一の邪将、悪逆無道の悪将”の異名をとり、(後略)『宇喜多の捨て嫁』p.12

邪将とか悪将とか、なんだかすごいですね!

異母弟に当たる宇喜多忠家(ウキタタダイエ)でさえ謀略家である兄直家を信用しきれず、兄の前に出るときは衣服の下に鎖帷子(クサリカタビラ)を着込んでいたといいますから、その恐ろしさは相当のものだったのでしょう。

本作では、自分の娘を嫁がせ姻戚として信頼を築いたあとで、その相手をだまし討ちにする直家のダーティなやり口を「捨て嫁」と表現しています。

 

正直、私は宇喜多直家についてはほとんど何も知らない状態で読み始めたのですが、戦国の非情な面を現代に濃厚に伝えてくれる人物だと思いました。

 

複数の視点から宇喜多直家を多角的に描く

本作の物語の軸となる人物はあくまで宇喜多直家です。

しかし、この作品のおもしろいところは、宇喜多直家以外の複数の人物の視点も描かれている点。

本作は6編の連作短編的な構成になっていますが、たとえば、1編目の主人公は直家の四女於葉(オヨウ)です。

「捨て嫁」として他家に嫁に出される於葉の憎悪の視線は晩年の父・直家に向けられています。

これは一般的によく知られる「梟雄」宇喜多直家のイメージそのものですね。

おもしろいのは2編目で、これは一気に時をさかのぼって直家がまだ「八郎(ハチロウ)」と幼名で呼ばれていた少年時代の話です。

この頃の「八郎」はまだあどけなく、家族との関係も良好で、将来の直家像とは結び付きません。

本作はその後も、直家の主君の浦上宗景(ウラガミムネカゲ)や、その子松之丞(マツノジョウ)などに語り手を切り替えながら、それぞれの視点で宇喜多直家の人物像を浮き彫りにしていきます。

各編の並び順のうまさ

本作では、2編目から6編目までは時系列順に並べてあるにもかかわらず、直家の晩年を描く1編目がイレギュラー的に前倒しで最初に配置されています。

この配置によって本作は、直家の「梟雄」たる側面を最初に読者に印象づけたあとに、そういう彼の性質がどのように形成されていったのかを追っていける構成になっているのです。

彼はなぜ「梟雄」と呼ばれるようになったのか?

いろいろな視点から多角的に宇喜多直家という戦国武将の生き様を見ることができ、読み進めるほどに彼に対するイメージが変わっていきます。

おもしろいですね!

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病気の描写の迫力

宇喜多直家は「尻はす」という病気を抱えています。

詳細は本作を実際に読んで欲しいのですが、この「尻はす」の症状がなかなか衝撃的なんですよ。

皮膚から血膿があふれ出し、それは強烈な腐臭を伴うといいます。

 

正直なところ、この描写はけっこう苦手な人がいるんじゃないかなあと思っちゃいました。

 

ただ、かなり迫力のある描写になっていることは間違いありません。

また、直家が「尻はす」を発症するに至った原因も彼にとって大事なエピソードなので、これもあわせて本作を味わってほしいと思いました。

脇役もいい!

モノクロの山

本作冒頭部では、宇喜多直家によって仕物(シモノ)(暗殺)された武将たちの名前が挙げられています。

そのなかに、中山信正(ナカヤマノブマサ)島村盛実(シマムラモリザネ)の二名がいますが、彼らがまたいい味出しているんですよ。

中山と島村はともに浦上氏の家臣。

のちのち直家も浦上氏の家臣となりますから、彼ら二名は直家の同僚ということになります。

さらに中山信正はなんと直家の妻「(トミ)」の父で、直家から見れば舅に当たります。

宇喜多直家は舅を暗殺してしまうということですね。

一方、島村盛実は過去に直家の祖父・宇喜多能家(ウキタヨシイエ)を暗殺した武将で、宇喜多家から見れば仇です。

直家からすると、同僚でありながら過去に祖父を手にかけた仇敵という奇妙で複雑な間柄の盛実ですが、直家は彼も暗殺し、組織のなかでのし上がっていきます。

ここまでの直家の行状を見ると、「梟雄」の名にふさわしい残虐さですよね。

ところが本作を読み進めていくと、中山・島村の死の裏にはどのような事情があったのかということがわかってきます。

この部分がめちゃくちゃいいんです!

実は本作冒頭部で読者に伝えられる直家の悪逆さからは想像できない特殊な事情があったりするんです。

中山信正や島村盛実の味わい深いキャラクターと、宇喜多直家のイメージが徐々に変わっていくおもしろさを味わえるエピソードになっていますよ。

なぜ「梟雄」に惹かれるのか

濡れた石

私は本作を読むまで宇喜多直家について詳しく知りませんでしたが、「戦国三大梟雄」の形で彼と同列に並べられる斎藤道三や松永久秀のような人物には惹かれるところがあります。

周囲の悪評などどこ吹く風で自分の野望を成し遂げていく彼らの姿に、自分にはない強靭な精神力を感じるのかもしれません。

なんとなく、すごいなー!って思っちゃうんですよね。

もちろん、本作を読んで、私の好きな武将リストに新たに宇喜多直家が加わったことは言うまでもありません。

高校生直木賞

校庭の遠景

私は本作を文庫版で楽しんだのですが、この文庫版の巻末に特別収録として「高校生直木賞全国大会」という伊藤氏貴(イトウウジタカ)さんのルポがついています。

これがめちゃくちゃいいです!

高校生直木賞は、全国の高校生が議論を交わし、直近一年間の直木賞候補作(直木賞は年2回なので2回分)のなかから「今年の1作」を選出する高校生主体の文学賞です。

巻末収録のルポで取り上げられている選考会では、12名の高校生たちが本作を含む5作品について激論を交わしています。

私よりも年若い彼らがみずみずしい感性で各作品を論評しており、そのコメント一つひとつの鋭さに素直に尊敬してしまいました。

私は大学に入って初めて読書を始めたクチなのですが、仮に高校時代から読書に触れていたとしても、おそらく彼らほどの高レベルな論評はできなかっただろうと思います。

このルポは本作としては付録的な位置づけですが、本当に楽しく読ませていただきました。

 

※電子書籍ストアebookjapanへ移動します

 

終わりに

『宇喜多の捨て嫁』は、複数の人物の視点から戦国武将「宇喜多直家」を浮き彫りにする形で描かれた歴史小説です。

自分の野望を成し遂げるためには実の娘を利用することすら厭わない直家のスタイルはまさに梟雄というべきもの。

 

しかしその裏にはさまざまな事情が隠れていて、とても味わい深い一冊だったと思います。

 

本記事を読んで、木下昌輝さんの戦国歴史小説『宇喜多の捨て嫁』がおもしろそうだと思いましたら、ぜひ手に取って読んでみてくださいね!

最後までお読みくださり、ありがとうございます。

つみれ

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