歴史

  (最終更新日:2021.08.22)

【感想】『曹操 卑劣なる聖人(一)』/王暁磊:曹操を主役に据えた長編三国志がおもしろすぎる!

こんにちは、つみれです。

このたび、王暁磊(オウギョウライ)さんの『曹操(ソウソウ) 卑劣なる聖人(一)』を読みました。

全部で十巻を数える大長編三国志小説の第一巻目です。

三国志の主役の一人である曹操の視点で本格的な三国志世界を描いていて、めちゃくちゃおもしろかったですよ!

それではさっそく感想を書いていきます。

作品情報
書名:曹操 (1) 卑劣なる聖人 (発行:曹操社、発売:はる書房)

著者:王暁(オウギョウライ)
出版: (2019/11/12)
頁数:528ページ

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曹操の幼年期から青年期を描く一巻!

私が読んだ動機

読書コミュニティサイト「読書メーター」で他のユーザーさんが感想を書いているのを読んで、私も読んでみたいなと思いました。

私、三国志が大好きなんです!

こんな人におすすめ

チェックポイント
  • 三国志が好き
  • 曹操(下のほうに説明があるよ)をメインに描いた三国志を読んでみたい
  • 大長編歴史小説に挑戦したい

幼年期から青年期の曹操を描く

全部で十巻の大長編三国志となる本作ですが、そのうちの第一巻目はとにかくひたすらに曹操という人物とその周辺のみを描いています。

三国志の「三国」とは、三世紀初頭の中国に興った「()()(ショク)」のことを指し、曹操とはこのうち「魏」の基礎を作った人物。

つまり簡単に言うと、三国志の主役の一人です。

ちなみに呉の基礎を作ったのは孫堅(ソンケン)、蜀の基礎を作ったのは劉備(リュウビ)ですよ。

曹操は非常に優れた人物で、政治・戦略・兵法・詩作などなんでもできてしまう天才です。

ですが、『三国志演義』という三国志の最も有名な小説で悪役として描かれてしまったことから、一昔前は曹操を敵役とみなす小説が非常に多かったのでした。(最近は曹操を好意的に描く作品も増えてきています)

本作『曹操 卑劣なる聖人』は、そんな曹操という人物を主人公に据え、特に一巻では彼の少年期から青年期までを描いています。

「三国志」と銘打つ作品では、他の主人公格である劉備や孫堅の活躍なども交互に描かれることが多いのですが、本作一巻で描かれるのはひたすら曹操周辺のみ。

孫堅は1、2箇所くらいしか登場せず、劉備に至っては登場すらしません。(劉備は『三国志演義』の主役です)

潔いほどに曹操周辺だけです!

今後は、劉備や孫堅も登場してくるはずですが、少なくとも一巻は徹底的に曹操メインで描いていくスタイルを貫いていますね。

成長する曹操

他の小説では、曹操は基本的に自信満々な人物として描かれることが多いです。

上の方でも書きましたが、曹操は政治も戦争も得意で「初めからなんでもできちゃうキャラクター」なイメージがとても強い。

ところが本作の曹操は、最初はいたって普通の少年なんです。

普通の少年である曹操が『孫子』や『論語』などの書物に向き合い、次第に成長していく様子が丁寧に描かれています。

『孫子』『論語』は三国志の時代よりも昔に書かれた書物。今でいう教科書みたいなものです。

初めから完成された人物として登場するのではなく、努力して少しずついろいろな能力を身につけていく曹操についつい感情移入してしまいます。

葛藤する曹操

他の作品では自信満々に描かれることの多い曹操ですが、本作一巻の青年時代の曹操はもう悩みまくりです。

まず曹操は、宦官の孫という特殊な生い立ちを持っています。

宦官・・・去勢された官吏のこと。後宮(皇帝用のハーレム)の使用人や皇帝の相談役といった役割をもつ。

曹操の祖父曹騰(ソウトウ)は人格的にすばらしく、歴代皇帝に重用されて異例の出世を遂げるのですが、それも宦官という皇帝に近い立場を最大限利用したから。

また、曹騰の養子曹嵩(ソウスウ)(曹操の父)とその兄弟は、官僚として地位の高い官職を歴任しますが、賄賂などを使いまくってその地位を獲得しています。

本作は曹操の父世代=曹嵩やその兄弟曹熾(ソウシ)曹鼎(ソウテイ)のことをかなり丁寧に書いていてめちゃくちゃおもしろいです。

特に曹嵩は凄みがあってカッコよすぎます!

「腐れ宦者の孫」などと揶揄される曹操は、自分の出自に悩み、父や叔父たちのやり方に悩み、もう悩みまくり。

そして何より、宦官の孫という自分の出自と、父・叔父たちの影響力の大きさを最大限利用しなければ出世もおぼつかない曹操自身の弱さに悩み続けます

常に自分の立場に悩みつづける曹操の姿がとってもいいのです!やっぱり、主人公は悩まないと!悩んでからが主人公だよね!

また、悩む曹操を教え諭し、成長へと導いていく人物がたくさん登場するのもいいですね!

類まれな人格・学識を持ちながら権威権力に近寄らなかった曹操の叔父の一人曹胤(ソウイン)や、曹操の能力をいち早く見抜いた橋玄(キョウゲン)郭景図(カクケイト)などは、言わば曹操の先生。

曹操と彼らのやり取りがめちゃくちゃおもしろい!このあたりも本作第一巻の見どころのひとつですよ!

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下調べがすごい

本作、とにかく下調べがすごいんです!

三国志の小説やマンガを読んでいると、結構オリジナルキャラクター(歴史に登場しない創作の人物)が登場します。

オリジナルキャラが少ないと言われている吉川英治『三国志』でさえ、序盤に劉備の恋人として「芙蓉(フヨウ)」というキャラを登場させています。

当然、本作に登場するサブキャラクターたちも何人かはオリジナルなんでしょ?なんて思って調べてみると、ほとんど全員が実在の人物なんです!

たとえば、私は曹熾・曹鼎(曹操の叔父たち)などの名前はまったく知りませんでした。

正直言うと、作者の王暁磊さんが勝手に作った名前だと思っていたのです。

でも違いました・・・!

ちゃんと実在していたんです!

曹操の周辺をかなり綿密に調べた上で書いているんだなと思いました。

作者の王暁磊さんは「曹操の21世紀の代弁者を自任」しているそうで、曹操に関する様々な史料を10年以上にわたって読み込んだという猛者だそうです。すげーな・・・!

このクオリティの物語が残り九巻分続くと思うと楽しみすぎます!!

難易度は高め

正直に言いますと、三国志に関する本やマンガなどを読んだことがない方には、ちょっと難しいかなと思います。

というのも、とにかく描写が曹操周辺に限られているので、登場人物がみんな似た名前になってしまい覚えづらいのです。

曹一族だけでも、曹操、曹仁(ソウジン)曹洪(ソウコウ)、曹嵩、曹熾、曹鼎、曹胤などなど。

ただでさえ中国歴史小説に慣れていない人にとっては覚えづらい名前なのに、みんな「曹」が付いていてもう見分けがつかない!!となっちゃいますよね。

また、三国志は「魏・呉・蜀」の3国があるのですが、本作は曹操を主人公に据えているため、かなり魏に寄った作品になると思います(まだ一巻しか読んでないので確実なことは言えませんけどね)

他のおもしろい三国志小説を知りたい場合は、下記をご覧ください。
>>おすすめ三国志小説5選!おススメ度、難易度も併せて紹介!

また、三国志にあまり詳しくない方や、魏・呉・蜀についてまんべんなく知りたいという方には、横山光輝さんのマンガ『三国志』を先に読むことをおすすめします。

横山三国志は一応劉備を主人公としていますが三国まんべんなく描いていますし、やっぱりマンガは絵があるから人物を覚えるのにもってこいなんですよ。私も大好きなマンガです。

マンガでキャラクターと簡単なストーリーを軽く頭に入れてから読むとスイスイと読めると思います。

 

 

▼三国志ビギナーにおすすめの記事

今後の活躍が気になる人物

『曹操 卑劣なる聖人』一巻に登場したキャラクターで、今後の活躍が楽しみな人物について書きます。

小説『三国志演義』ではどういう活躍をするのかも書きましたが、折りたたんでありますので見たくない人は開かないでくださいね。

けっこうマニアックです(*´з`)v

蔡瑁

幼少期の曹操の友人として一巻の序盤から登場する蔡瑁(サイボウ)は、今後の活躍が楽しみな人物の一人です!

曹操の友人であったということがどのように影響してくるのかワクワクしますね。

三国志演義の蔡瑁はどんな人?知りたい人だけクリックorタップしてね

蔡瑁は荊州刺史(州のトップ)劉表(リュウヒョウ)の側近として登場する豪族です。

甥である劉琮(リュウソウ)を劉表の後継者にするために暗躍する典型的な悪役として描かれます。

のち、蔡瑁は曹操に降伏し、なんと水軍都督という大役を命じられることになります。

呉の周瑜(シュウユ)は水軍指揮が得意な蔡瑁が邪魔だったので、曹操・蔡瑁の仲を裂く離間の策を講じます。

まんまと策略にはまった曹操は、蔡瑁が呉と内通していると思い込んで処刑してしまいます。

優秀な水軍都督を失った曹操は、直後に長江で起きた赤壁の戦いで大敗するのです。

曹操と蔡瑁が幼少期に友人同士だったという本作の設定が、今後どのように影響してくるのか楽しみですね!

許攸

許攸(キョユウ)は橋玄の門下生として登場する人物ですね。

曹操とも友人関係になりますが、俗物で「権力に取り入ろうとする」(『曹操 卑劣なる聖人(一)』、p.284)と評価されていました。

今後はどういう運命をたどるのでしょうか!

三国志演義の許攸はどんな人?知りたい人だけクリックorタップしてね

一巻にも登場し、後に曹操の宿敵となっていく袁紹(エンショウ)という人物がいます。

許攸はこの袁紹の参謀となります。

ですが、官渡(カント)の戦い(曹操vs袁紹)の最中に許攸は袁紹を裏切り、なんと曹操に袁紹軍の食糧保管庫のありかを教えます。

結果として許攸は曹操軍を勝利に導くという大手柄を立てたことになります。(でもずるいよね)

その後、「俺がいなかったら曹操は袁紹に勝てなかっただろ、ヘヘン」的な態度をとりまくったため処刑されます。

小物にもほどがある。

本作の許攸は今後どのような見せ場が用意されているのか、いまから楽しみです。

婁圭

婁圭(ロウケイ)も許攸と同じく、橋玄の門下生として登場するキャラクターでした。

婁圭は聡明そのものであるが、傲岸不遜で才能をひけらかし、いつも自分を他人と比べたがるゆえ、いつか禍を招くこととなろう『曹操 卑劣なる聖人(一)』、p.284

婁圭はなんとなく絶望的な将来が予想されますね・・・。楽しみです!

三国志演義の婁圭はどんな人?知りたい人だけクリックorタップしてね

渭水(イスイ)馬超(バチョウ)軍と戦っている曹操は、寒さを凌ぐための城を築きたかったのですが、土壌の質が悪く失敗を繰り返していました。(渭水の戦い)

そんなとき、困った曹操にアドバイスをする老人「夢梅道士(ムバイドウシ)」が現れます。

老人曰く、「土の城だからうまくいかないのです。今は寒い時期ですから、水をかければ土の城は氷の城となり崩れることはないでしょう」と。

このエピソードを初めて読んだときは「ウソだあ―(笑)」と思いましたが、この夢梅道士が婁圭なのです。(このエピソード大好きです)

本作『曹操 卑劣なる聖人』の婁圭は、今後どのような活躍をするのでしょうか!

氷の城は作るのかな!?楽しみですね!!

終わりに

本作、めちゃくちゃおもしろいです!

三国志が好きな人は読んで損はしないはずです。本当におもしろい。

一巻で一番よかったのは曹操の父、曹嵩ですね。

正直、こんなにカッコいい曹嵩は本作くらいでしか見たことがありません!(笑)

2020年2月の時点ではまだ2巻までしか出ていないのですが、今後も続きを追っていきたいなと思います。

▼次巻の記事

最後までお読みくださり、ありがとうございます。

つみれ

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