ミステリー、サスペンス

  (最終更新日:2021.12.10)

【感想】『本陣殺人事件』/横溝正史:難しいが魅力的なトリック!

こんにちは、つみれです。

私はミステリーが大好きなのですが、その必修科目と言っても過言ではない横溝正史さんの「金田一耕助シリーズ」を読んでおりませんでした。

 

「やはりこういう有名どころは押さえておかないといけないよな」と思い、さっそく読んでみました!

 

それでは、横溝正史『本陣殺人事件』(角川文庫)の感想を書いていきます。

作品情報
書名:本陣殺人事件

著者:横溝正史
出版:角川文庫(1973/4/20)
頁数:407ページ

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昭和初期が舞台の本格推理短編集

私が読んだ動機

いつか読もうと思っていた「金田一耕助」シリーズ。ついに手に取る日がきたのです。

こんな人におすすめ

チェックポイント
  • ミステリー短編集が読みたい
  • 昭和初期の独特の世界観を味わいたい
  • 名探偵金田一耕助のデビュー戦を読んでみたい

私が読んだのは、表題作「本陣殺人事件」の他、「車井戸はなぜ軋る」「黒猫亭事件」の3作品が収録された短編集です。

3作品ともに共通しているのは、昭和初期の独特の暗い雰囲気ですね。

いかにもおどろおどろしいこの空気感を味わうだけでも価値のある一冊と言えます。

そんな陰鬱とした雰囲気に似つかわしくないのが、探偵金田一耕助。

私は金田一耕助のことをほとんど知らずに読み始めまして、なんとなくイケメンを想像していたのですが、全くそんなことはありませんでした。

金田一耕助は、しわだらけの羽織と着物を着、たるんだ袴をはき、もじゃもじゃの髪の毛のなんとも風采の上がらない人物として描かれています。

冴えない風体ながらも人懐っこく憎めない性格をしていて、昭和初期の暗い世界を照らしてくれるような明るさを持っていますね。いいキャラです!

そして、この金田一耕助が探偵役をつとめた最初の事件、つまりデビュー戦。それが表題作の「本陣殺人事件」なんですね!

これから金田一耕助シリーズを追っていこうと考えている人にとっては、まさに挨拶代わりの一冊ということができるでしょう。

本書は昭和初期の世界で名探偵金田一耕助が活躍する本格ミステリー短編集!そんな本が読みたいあなたにおすすめです!

珠玉の三作品!

本陣殺人事件

本書の表題作ですね!

およそ探偵小説家を以て自負するほどの誰でもが、きっと一度は取り組んでみたくなるのが、この「密室の殺人」事件である。犯人の入るところも、出るところもない筈の部屋の中で行なわれた殺人事件、それをうまく解決することは、作者にとってなんという素晴らしい魅力だろう。

 

<span class="su-quote-cite">『本陣殺人事件』kindle版、位置No. 29</span>

物語の冒頭で本作の事件がいわゆる「密室殺人」であることが宣言され、読者のハートをガッチリと鷲掴みにしてきます。密室殺人、なんと甘美な響きでありましょうか!

しかもただの密室殺人ではありません。なんと日本家屋での密室殺人なのです。

通常、日本家屋というのは非常に開放的なつくりをしているので、これを題材に密室のミステリーを展開するのは難しいと言われているのです。

そういう意味でなかなかチャレンジングな作品と言えるでしょう。

謎解きについても、三本指の男や琴の音、日本刀、雪についた足跡など、おどろおどろしい要素がてんこ盛りです。

これらの小道具が演出する昭和初期の雰囲気がまた暗く妖しくなんともすばらしいんですよね。

一つ難点を挙げるならば、トリックがかなり複雑で凝ったつくりになっているのと、文章中でつかわれている言葉や単語が若干古風なのとが相まって、謎解きの風景が非常に理解しづらい点ですね!

だいたい何があったのかはわかるのですが、文字で読むと細部がわかりづらいんです!はっきりいってちょっと難しい・・・。

人によってはどんなトリックだったのかわからないということもあるかもしれません。

そういう場合は雰囲気で楽しむのがコツです(*´з`)

戦前の風習や価値観や色濃く反映された謎や動機などは賛否両論あるかもしれませんが、それを補って余りある魅力をもっている本作。

やはり名作中の名作と言っていいのではないでしょうか。

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車井戸はなぜ軋る

本短編集の二番手が「車井戸はなぜ軋る」です。

いわゆる「書簡体小説」というやつでして、基本的に登場人物たちの手紙のやり取りによって物語が間接的に進行していくというスタイルですね。

まずこの短編で注目すべきは冒頭の箇所。

本位田一家に関する覚え書
  付、本位田大助・秋月伍一生き写しのこと

 

<span class="su-quote-cite">『本陣殺人事件』kindle版、位置No. 2521</span>

これは読者に対する挑戦ですよ。キーワードは生き写し。

ミステリーを読んでいて「生き写し」などという言葉が出てきたら、そっくりさん同士が入れ替わるのではないかということを疑わなければなりません。

こんなトリックの根幹に関わってきそうな要素を、物語の冒頭部分でぬけぬけと宣言してしまう大胆不敵さ。これがすごい!

ジャンケンをする前に「俺はグーを出すぜ!」などと宣言して、相手を心理的に追い詰めるような作者のふてぶてしさ(失礼)を感じずにはいられません。

自然、読む側も「その謎、解いてやろうじゃねえか!」となるわけです。みんな、なるでしょ!?

本作の主役は本位田鶴代という少女で、一方の手紙差出人です。

物語序盤で非常にややこしいドロドロした人間関係が語られるのですが、簡単にいうと、鶴代には二人の兄、大助と慎吉がいます。

そして、近所には鶴代の腹違いの兄、秋月伍一という少年もいます。すでにドロドロ感満載です。

問題は、上に引用した箇所にも書きましたが、父を同じくする腹違いの二人の少年、大助と伍一が「生き写し」。要するにまれに見るそっくりさんだったということです。

ただし、伍一の眼にはとある特徴があったため、二人の見分けるのはそれほど難しくありません。

伍一はとある事情で本位田家を恨んでいましたが、大助とともに戦争で招集を受け、共に戦地に向かいます。

ここからですよ、すごいのは・・・!

伍一は残念ながら戦地で死亡してしまいますが、大助は無事に戦地から復員してきます。ただしその朗らかな性格と両眼を失って。

帰ってきた大介は、本当に大助なのか?

実は伍一が大助の名を騙っているのではないのか?

この状況を利用して、過去の恨みを晴らそうとしているのではないのか?

疑心暗鬼にかられる鶴代の書く手紙には、迫りくる恐怖が迫力の筆致で綴られています

読んでいるだけでもう背筋が凍りますね。

このような凝った設定のなか、真相は一体どんな形なのでしょうか?といった短編です。

設定を理解してからが本番という短編ミステリーですが、トリックのおもしろさもさることながら、鶴代の書く手紙の緊張感、切迫した感じがすばらしい一編です。これは、おもしろい!

本短編集のなかでは一番短い物語になりますが、個人的にはこれがベストですね。本当におもしろかったです。

黒猫亭事件

本短編集のラストを飾るのが「黒猫亭事件」ですね。これもおもしろいです!

なにがおもしろいって、まず物語が始まってすぐに登場人物たちが、ミステリー談義のようなものを始めるところです。

と、いうのは、「密室の殺人」や「顔のない屍体」は、それが読者にあたえられる課題であって、読者は開巻いくばくもなくして、ははア、これは「密室の殺人」だなとか、「顔のない屍体」だなとか気がつく。しかし、「一人二役」の場合はそうではない。これは最後まで伏せておくべきトリックであって、この小説は一人二役型らしいなどと、読者に感付かれたが最後、その勝負は作者の負けである。

 

<span class="su-quote-cite">『本陣殺人事件』kindle版、位置No. 3621</span>

もうね。まず、「密室の殺人」とか「顔のない屍体」とか、「一人二役」みたいな、ミステリー好きが喜ぶワードがバンバン出てきてそれだけで楽しいんですよね。

このすばらしく魅力的なミステリー談義が終わると、物語は本題に入るわけですが、いきなり「顔のない屍体」が発見されるんですよ。

これも結果的に見ると、最初のミステリー談義が読者に対する親切な解説に見えて、その実まるで読者を挑発しているかのような作者の先制攻撃がぶちかまされているわけです。

この短編集に通底した趣向と言えるかもしれませんね。物語冒頭で読者に挑みかかってくるかのような姿勢は。

よござんす!私が解いてみせましょう!!(←敗北)

この「黒猫亭事件」、事件の構図自体がとても凝っていておもしろいのですが、何を書いてもネタバレになってしまう危険性を秘めています。

個人的には最初のミステリー談義だけでも読む価値があると思いますし、この存在が作者と読者の駆け引き的な効果を果たしているんですよ。このあたりの巧妙さを味わってほしいです。

さらに言えば、作者横溝正史の思惑にしっかりと引っ掛かり、私と同様のくやしさを味わってほしいですね(笑)

 

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終わりに

正直に言うと「金田一耕助シリーズってちょっと古臭いよね」なんて思い、今まで敬遠していました。

これはあまりにもったいなかったですね。

もっと早く読めばよかったと思うほどにおもしろかったです。

非常に評判のいい『獄門島』も引き続き読んでみたいと思います。

また、いいシリーズ見つけちゃったなあー!

最後までお読みくださり、ありがとうございます。

つみれ

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