こんにちは、つみれです。
このたび、横溝正史さんのミステリー小説『悪魔の手毬唄』を読みました。
名探偵・金田一耕助が静養のために訪れた田舎村「鬼首村」で手毬唄になぞらえられた連続殺人事件が発生するミステリー小説です。
本作は「金田一耕助」シリーズの一作です。
それでは、さっそく感想を書いていきます。
作品情報
書名:悪魔の手毬唄(角川文庫)
著者:横溝正史
出版:KADOKAWA(1971/7/14)
頁数:496ページ
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目次
手毬歌の歌詞に沿って起こる連続殺人事件!
私が読んだ動機
「金田一耕助」シリーズの作品を読んでみる企画に参加し、未読だった本作を選びました。
こんな人におすすめ
- 人里離れた村落が舞台のミステリーが読みたい
- 「見立て殺人」もののミステリーが好き
- 「金田一耕助」シリーズ作品を読みたい
あらすじ・作品説明
金田一耕助は岡山と兵庫の県境にある鬼首村を訪れる。
鬼首村は二十年前に迷宮入りとなったとある殺人事件の舞台だった。
金田一としては当該事件の解決目的でなく、あくまで静養旅行のつもりだったが、訪れた先の鬼首村で昔から伝わる手毬唄の歌詞に沿った連続殺人事件が発生。
無関係と思われていた二十年前の殺人事件との関連性が次第に浮かびあがっていく。
「見立て殺人」のおもしろさ
本作の良い点に「見立て殺人」の魅力があります。
より詳しく言うと童謡殺人ですね。
見立て殺人・・・あるものに見立てて装飾された殺人事件のこと。特にわらべ歌などの童謡に見立られたものを「童謡殺人」と呼ぶ。
本作では冒頭部でいきなり手毬唄の歌詞が掲げられており、いやでも「童謡殺人」ものであることを意識させられます。
「童謡殺人」もののすばらしいところは、やはりその不気味さです。
手毬唄の歌詞通りに殺人事件が起こるという現実世界ではありえない狂気じみた設定が最高なんですよ。
手毬唄は子どもが手毬をつきながら歌うわらべ歌ですが、その無邪気な属性と連続殺人事件とのギャップがその邪悪さに拍車をかけています。
美しき亡骸
不謹慎なことを言うようですが、本作の「見立て殺人」は被害者の亡骸がかなり美しいです。
事件としては村に伝わる手毬唄の内容をなぞっていて、被害者の亡骸が歌詞通りに装飾されています。
この装飾のされ方が非常に美しく、美術作品的な計算された構図のイメージが喚起されるかのようです。
被害者の亡骸という不吉な要素とそれが美しく装飾されるというちぐはぐさが本作の犯人の狂気的な側面を象徴しているようでなんとも不気味。
本来なら行う必要のない装飾をあえて施している点も不可解で、いっそうその不気味さを引き立てていますね。
二十年前の殺人事件
本作で語られるメインの物語の二十年前、鬼首村ではとある殺人事件が起こっています。
温泉宿「亀の湯」の女将である青池リカの夫・青池源治郎が何者かに殺されるというものです。
彼の死体は囲炉裏のなかに頭から突っ込んだ状態で、顔が焼けて区別がつかなくなっているという壮絶なもの。
「顔が判別できない死体」が登場したらミステリー的には「入れ替えトリック」を疑わなければならないところですが、はたして本作はどのような真相が隠されているのでしょうか。
こういうのは「本当は別人なんだろうな・・・」などと想像しながら読むのが最高に楽しいですね。
放蕩爺さんの多々羅放庵
鬼首村はずれの沼の近くには多々羅放庵という遊び人の老人が住んでいます。
庄屋の末裔という出自の良さと裏腹になかなかの道楽者で合計8人の妻に逃げられた強者です。
金田一耕助はこの放蕩爺さんと早い段階で親しくなりますが、のちに放庵は行方不明となってしまいます。
おりん
放庵の5人目の妻は「おりん」という女性でした。
彼女も例にもれず放庵のもとを離れていった人物ですが、この「おりん」については不気味なエピソードがあります。
序盤、鬼首村を訪れた金田一耕助がとある峠に差し掛かったとき、不気味な老婆とすれ違います。
その老婆は「おりん」を名乗り、放庵のもとを訪れる予定だと金田一とすれ違いざまに告げるのです。
直後、おりんはすでに亡くなっているという事実を聞くに及び、老婆の正体はいったい誰だったのかという謎が浮かび上がります。
このエピソードは本作のおもしろさを牽引する大きな謎の一つですが、なんとも不気味ですねえ。
上にも書きましたが、放庵はこのあと失踪します。
放庵の失踪とすでに亡くなっているおりんを名乗った老婆との関係性が気になるところですね。
『悪魔の手毬唄』の欠点
『悪魔の手毬唄』は「見立て殺人」の様式美がこれでもかと詰め込まれた古き良きミステリーの趣がありとても読み応えがあります。
ミステリーとしても物語としてもおもしろく、多くの人におすすめできる一冊です。
しかし、そんな『悪魔の手毬唄』にも欠点があります。
キャラクターが多く覚えるのが大変
本作はとてもおもしろいミステリーですが、個人的に苦労した点があります。
それは「登場人物多すぎ問題」です。
鬼首村には「仁礼家」と「由良家」という二つの有力な家があり、それぞれに多数の人物が在籍しています。
また、今を時めく国民的女優を輩出した「別所家」や、二十年前の事件の当事者となった温泉宿「亀の湯」の一家、庄屋の末裔で今は没落している多々羅放庵などなど、実に多くの人物が登場。
彼らがそれぞれの好悪や利害関係で動き回るので、人物関係をしっかり把握しておかないとわけがわからなくなってしまうんですよ。
私のように登場人物を覚えたり整理したりするのが苦手な人は要注意!
私は読み進めている途中で「これはいかん!」となり、急遽簡単な人物相関図を書いて整理し、事なきを得ました。
地理がわかりにくい
もう一つの本作の残念なところは鬼首村の地図が存在しない点。
本作は有力者の家や温泉宿「亀の湯」などの位置関係が文章から把握しづらく、視覚的に確認できる図版があるとなお良かったと思いましたね。
私は文章から空間を把握する能力が著しく低いので、鬼首村の地図がほしかったというのが正直なところです。
めちゃくちゃおもしろい作品であるだけに、「さらに地図が用意されていれば本作のリーダビリティが格段に上がったのではないか」ともったいなく思ってしまいます。
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終わりに
『悪魔の手毬唄』は、名探偵・金田一耕助が静養のために訪れた「鬼首村」で手毬唄になぞらえられた連続殺人事件が発生するミステリー小説。
とにかく「不吉な死」が暗示されているかのような冒頭部の手毬唄の存在が邪悪で、のちに起こる陰惨な事件をいやでも想像させるおどろおどろしさが最高でした。
本記事を読んで、横溝正史さんの『悪魔の手毬唄』がおもしろそうだと思いましたら、ぜひ手に取って読んでみてくださいね!
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
つみれ
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