こんにちは、つみれです。
このたび、青柳碧人さんの『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』を読みました。
西洋童話を元にした4つの事件を赤ずきんが解決していく一風変わったミステリー連作短編集です。
それでは、さっそく感想を書いていきます。
▼前作『むかしむかしあるところに、死体がありました。』の記事
作品情報
書名:赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。
著者:青柳碧人
出版:双葉社(2020/8/20)
頁数:288ページ
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目次
西洋童話を元にした連作短編!
私が読んだ動機
西洋童話をモチーフにしたミステリーがおもしろそうだったから読みました。
こんな人におすすめ
- 童話を題材にした変わったミステリーが読みたい
- ライトなミステリーが好き
- 連作短編が読みたい
あらすじ・作品説明
クッキーとワインを携えた少女・赤ずきんが、とある目的を持ってシュペンハーゲンの町まで旅をする。
彼女は旅の道中、西洋童話を元にした4つの事件に遭遇。
赤ずきんは持ち前の観察力と洞察力で事件を次々と解決していく。
西洋童話を下敷きにしたミステリー
本作『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』は、実在の西洋童話を下敷きにしたミステリー短編集です。
題材として取り上げられているのは、下記の4作品。
- 「シンデレラ」
- 「ヘンゼルとグレーテル」
- 「眠り姫」
- 「マッチ売りの少女」
主人公の赤ずきんが、上に紹介した各童話の舞台となった城や町を通りすがりざまに事件を解決していきます。
この設定だけでもぶっとんだ世界観が想像できますよね(笑)
元となった童話をミステリー仕立てにした4編の物語を楽しみつつ、1本の「探偵・赤ずきんの物語」としても楽しめる連作短編タイプの一冊となっています。
「魔法」や「動物と会話できる」などの童話由来のファンタジー要素が、謎解きの前提としてうまく機能しているのがいいですね。
ある意味では童話の設定を生かした特殊設定ミステリーということができます。
童話を題材に取ったミステリーというキワモノ感がどうしても先行してしまいますが、謎解きも非常によくできていておもしろかったですね!
各編の紹介
本作に収録された4編のあらすじと簡単な感想を、ネタバレなしで紹介していきます。
ガラスの靴の共犯者
怪しげな魔女のせいで靴を川に落としてしまった赤ずきん。
川岸を走って靴を追いかけていくと、ぼろぼろの服を着た女の子が靴を拾ってくれる。
彼女の名前はシンデレラ。
シンデレラの不憫な境遇に同情した怪しげな魔女が彼女に魔法をかけてやると、その姿はまるで別人のように美しくなる。
なぜか赤ずきんも魔法をかけてもらい、二人して王子様の待っているお城に向かうと、事件が起こる。
第1章「ガラスの靴の共犯者」は「シンデレラ」を元に取った物語です。
本作最初の一編だけあって、本家の物語との違いが分かりやすいのがいいですね。
シンデレラと一緒に城までついていってしまう赤ずきんがシュールすぎて笑えてしまいます。
甘い密室の崩壊
自分たちにつらく当たる継母のソフィアをお菓子の家で殺害してしまったヘンゼルとグレーテル。
二人は「とある偽装」を施してお菓子の家をあとにする。
帰宅したヘンゼルとグレーテルの家に赤ずきんが現れる。
第2章「甘い密室の崩壊」は「ヘンゼルとグレーテル」をモチーフにした作品。
本作に収録された物語のなかでも、原作の設定を最もよく生かしているのが、この短編ではないでしょうか。
とにかくお菓子の家が密室になるというだけでミステリー好きはワクワクすることうけあい。
罪深きヘンゼルとグレーテルの人物造形も最高です。
眠れる森の秘密たち
横柄なじいさんを助けたことから、彼のお屋敷で開かれる晩餐会に招待された赤ずきん。
お屋敷からは立派で荘厳な城が見えるが、その城には活気が感じられず赤ずきんにはまるで「眠っている」かのように見えた。
その夜開かれた晩餐会の出席者は、一癖も二癖もある人物ばかりだった。
第3章「眠れる森の秘密たち」は「眠り姫」を元にした作品です。
偶然に偶然が重なりあって不可解な謎が現出するというミステリーにありがちな設定ながら、流れるような解決編は爽快の一言。
トリック自体はかなりぶっとんでいますが、眠り姫の特性をうまく活かしていておもしろかったです。
少女よ、野望のマッチを灯せ
クッキーとワインを携えながら長い旅路を踏破してきた赤ずきん。
ようやく目的の町、シュペンハーゲンに到着した。
町では「とある品物」が流行っていた。
第4章「少女よ、野望のマッチを灯せ」は「マッチ売りの少女」を下敷きにした物語。
第2章のヘンゼルと同じくらいの変貌を遂げたマッチ売りの少女にはもはや童話時代の面影はありません。
この短編集、キャラクターがおもしろすぎるんですよ!
マッチ売りの物語のなかで描かれている顛末には、現代社会が抱える問題に対する警鐘の側面もあり、なかなか考えさせられるお話になっています。
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元の童話を知っていた方が楽しめる
上にも書いた通り、実在の西洋童話を題材に取っている本作。
元ネタが童話ということ自体が、本作のおもしろさを何倍にも高めています。
いちおう、本家本元の童話を知らなくても楽しめるように書かれています。
しかし、やはり「原作」を知っていた方が本作のブラックユーモア的なおもしろさを余すことなく味わえるでしょう。
それは、元の童話と本作を比べ、世界観やキャラクターの「違い」や「なれの果て」を楽しむのが本作の醍醐味の一つだからです。
「原作」からもほのかに残酷さ・エグさのようなものを感じられますが、それらを最前面に押し出した上でミステリー化しているのがミソ。
なにより原形となった各キャラクターのイメージを豪快に壊しながら、童話をミステリーに塗り替えていく展開はたっぷりと皮肉が効いていて最高に楽しいです。
「あの優しい童話には、本当はこんな裏側があるんだよ」といったようなでっちあげ感、裏話的おもしろさが詰まっていますよ。
赤ずきんのキャラが良い
本作、主人公の「赤ずきん」が非常にいい味出しているんです。
童話通りの好奇心旺盛な部分が前面に出ていて、余計なことにどんどん首を突っ込んでいきます。
この赤ずきんの貪欲なまでの好奇心がミステリーと極めて相性が良く、旅の途中で出会う不思議な事件に自分からガンガン関わっていきます。
一方で、童話で赤ずきんが持っていた無垢で無防備な一面はなくなっており、代わりに「探偵」属性を完備。
本作の赤ずきんは、違和感をしっかりとキャッチする観察力や、集めた証拠を最も効果的な形で披露する抜け目のなさを備え、若いながらも容易ならない人物として描かれています。
特に犯人の罪を指摘するときの「決めゼリフ」は、その「悪事」を糾弾するというよりも、手口の「いい加減さ、詰めの甘さ」を軽蔑する色彩が濃い。
犯人の「悪」ではなく「無能」を蔑む赤ずきんの態度には、どこか冷酷でダーティな色さえ感じられるほどです。
この赤ずきんの「決めゼリフ」はカッコよさと犯人を追い詰める爽快感も相まって作中でも屈指の見どころなので、ぜひ楽しんでもらいたいですね。
特におもしろかったお話
4編のなかでは、「眠り姫」を題材にとった第3章「眠れる森の秘密たち」が一番おもしろかったです。
いくつかの謎が複合的に絡み合い、一つの大きな謎が形成されているのが最高でした。
また、第2章「甘い密室の崩壊」は、舞台設定とキャラクターが秀逸。
「お菓子の家」という童話的小道具が無駄なくミステリーの謎解きに使われているだけでなく、それ自体が密室になるというすばらしさ。
お菓子の家が密室化するという発想には正直かなりワクワクさせられました。
2章はネタバレになるので詳しくはここで書きませんがヘンゼルのキャラクターがいいんですよ。
このキャラはぜひ味わってもらいたい!
というわけで、本作収録の短編のうち、個人的に特におすすめなのは第2章「甘い密室の崩壊」、第3章「眠れる森の秘密たち」です!
また、上で本作は連作短編だと書きましたが、各編に伏線が配されていて、それらが最終章で見事に回収される作りも短編集としては王道ながらうれしい仕掛けです。
なんと前作があった!
本作『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』にはなんと前作がありました!
日本の昔話を題材にした『むかしむかしあるところに、死体がありました。』という作品があり、これが『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』の前作に当たるそうです。
いちおう物語的に繋がりはなく問題ないみたいですが、こういうのは順番通りに読みたい派なんですよね。くうう、しっぱいした!さかのぼって読もう・・・!
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終わりに
『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』は、西洋童話を元にした4つの事件を赤ずきんが解決していく一風変わった連作短編ミステリーです。
童話に皮肉な解釈を加えつつミステリー仕立てにしたブラックユーモア満載の一冊。
童話の世界で用いられている魔法などの特殊な設定を謎解きにしっかりと組み込むなど、テクニカルな面もあってとてもおもしろかったですね。
本記事を読んで、青柳碧人さんの連作短編ミステリー『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』がおもしろそうだと思いましたら、ぜひ手に取って読んでみてくださいね!
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
つみれ
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