こんにちは、つみれです。
このたび、有栖川有栖さんの『新装版 46番目の密室』(講談社文庫)を再読しました。
以前読んだことがあるにもかかわらず、全くトリックを覚えておらず、初読のような感覚で楽しめました。
「密室好き」の方には特におすすめの一冊ですよ!
それではさっそく感想を書いていきます。
作品情報
書名:新装版 46番目の密室(講談社文庫)
著者:有栖川有栖
出版:講談社(2009/8/12)
頁数:434ページ
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目次
「作家アリスシリーズ」第一作目!
私が読んだ動機
新本格のミステリーシリーズを読みたくなり、途中まで読んでいたこの「作家アリスシリーズ」をもう一度最初から読むことにしました。
こんな人におすすめ
- 新本格ミステリーが好き
- 密室ものが読みたい
- 新しいミステリーシリーズに挑戦したい
新本格ミステリーが好き、もしくは密室ものが好きという方にはかなりおすすめの小説です。
また本作は、有栖川有栖さんの「作家アリスシリーズ」の第一作目にあたりますので、新しくミステリーのシリーズを読み始めたいという方にもうってつけの一冊ですよ。
あらすじ
真壁聖一は、〈密室の巨匠〉〈日本のディクスン・カー〉などと呼ばれ、実に45もの密室トリックを発表してきたミステリー小説の大御所だった。
ジョン・ディクスン・カー:密室殺人を題材にとったミステリーを得意としたアメリカのミステリー作家。
真壁は北軽井沢にある自分の別荘「星火荘」に近しい作家や編集者などを招いてクリスマスパーティを開く。
真壁はそのパーティのなかで、なんと「密室ものを書くのはつぎの一作で最後」といった旨の宣言をする。動揺を隠せない作家・編集者たち。
そんな状況のなか、星火荘の周辺をうろつく焦茶色のブルゾンを着た不審な人物が現れたり、招待客の客室にタチの悪いいたずらが仕掛けられるなど、不穏な空気が流れだす。
パーティの翌日、不審な人物が書斎で、真壁が地下室で殺害されているのが発見される。
奇しくも両部屋ともに密室状態であった。
王道の人物設定
本作のいいところは、新本格ミステリーとして、王道の人物設定を貫いていることです。
真壁に招待された作家・編集者たちは、知り合い同士ということもあり、最初は和気あいあいと過ごしています。
ところが、物語が進行していくにつれて少しずつその関係性にヒビが入ったり、心の奥底に沈んでいた闇の部分が表出していったりするのです。
微妙なバランスで成り立っていた危うい人間関係が何かのきっかけでほころび始め、そのなかで事件が起こる、という展開。これがいかにも王道の新本格ミステリーという感じでめちゃくちゃいいんですよ。
ミステリーはやはりこうでないとね!!
プロローグの存在
物語の冒頭で、とあるホテルの火災のエピソードが描かれているのですが、これが一見まったく本編と関係ない話のように見えます。
なかなか物騒なエピソードである上、人死にまで起きているので、この事件が冒頭で語られるということ自体が、本編序盤の和気あいあいとした雰囲気に水を差し、不穏さ、キナ臭さをにじませる効果を持っています。
影を帯びたエピソードと、明るい本編序盤という対比が、読者に、物語の暗い行く末・ある種の絶望を予感させ、なんともいいがたいワクワク感を与えてくれますね。
冒頭で語られるこの火災のエピソードが、真壁の別荘で起こる事件とどのように関わっているのかについても本作の見どころと言えるでしょう。
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「作家アリスシリーズ」の第一作目
有栖川有栖さんの描くミステリー長編シリーズには、下記の二種類の「アリスシリーズ」があります。
- 学生アリスシリーズ
- 作家アリスシリーズ
本作はそのうちの「作家アリスシリーズ」のほうの、記念すべき第一作目です。
英都大学助教授の火村英生とミステリー作家の有栖川有栖(通称アリス、男性)が、それぞれ探偵役・ワトソン役となって事件に向き合っていくシリーズとなります。
探偵役・ワトソン役がレギュラーキャラクターとなるのは、ミステリーとしてお約束の構成なので安心感がありますね。
まず、この火村とアリスのやりとりが親友感があってとても良いです。
個人的には特にアリスのキャラクターが好きですね。
ワトソン役のアリスがいい感じに道化役を買って出てくれるというか。
いろいろな可能性をアリスが率先してつぶしてくれて、いい意味で一般人の目線で読者を真相に誘導してくれるすばらしいワトソンなんですよ。
真相にたどり着くのは探偵火村の役目ですが、読者と一緒にトリックに頭を悩まし、謎に深みを持たせてくれているのはアリスなんじゃないかなと思います。ナイスワトソンです。
また、心に大きな屈折を抱えるという火村の過去も気になるところです。
「人を殺したい、と私自身が思ったことがあるからです」
『新装版 46番目の密室』/有栖川有栖 kindle版、位置No. 833
なかなか穏やかじゃないセリフですが、火村の過去に何があったのかも、本シリーズを追う楽しみの一つと言えそうです。
「作家アリス」シリーズの第一作目ということで、これからこのシリーズを読んでみようという方は、彼らのキャラクターを知るためにもまず本作を読んでみるのが良いですね。
マジメな密室もの
有栖川有栖作品全般に言えることですが、本作はとてもマジメなミステリーです。
優等生的といってもいいかもしれません。
論理的に一足飛びで読者に衝撃を与える一文!みたいなインパクトは弱いかもしれませんが、とにかく密室トリックに真摯に向き合ったマジメなミステリーなのです。
トリックとしては、解けそうで解けない絶妙なラインを攻めていて、そのもどかしさについついページを繰る手が止まらなくなってしまいます。
私は、トリックというのは、「自分にも解けそう!でもむずかしい!」というギリギリのところで、作者と読者の駆け引きを楽しみたいと思っているのですが、本作はまさにそんなラインを突いています。
ドアと掛け金を使った古典的な密室トリックなども丁寧に解説されているので密室初心者にもうってつけですね。
ちなみに私は過去に本作を一回読了しているにもかかわらず、トリックを完璧に忘れていて、今回も解けなかったという頭の悪さを発揮しました。
というか、ミステリーを読んでいて謎の真相までピタリと言い当てたことはほとんどありません・・・!ミステリーは好きなんですけどね・・・!
いずれにしても、理路整然とマジメにトリックが謎解きされていくので、ミステリーとして非常に安心感・安定感があります。
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終わりに
ネタバレになってしまいますので詳細を書くことは控えますが、犯人が最後に見せる狂気的な一面が印象に残る一冊でした。
クセのない王道の密室もので、シリーズものの最初の作品としては、非常におすすめです。
また、有栖川有栖さんの「密室愛・トリック愛」のようなものをはしばしから感じることができるいい作品でした。
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
つみれ
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