ミステリー、サスペンス

  (最終更新日:2021.12.10)

【感想】『双孔堂の殺人』/周木律:眼球堂の続編!

こんにちは、つみれです。

爽やかな春の朝、うららかな好晴の日光を浴びながら、どういうわけかミステリーが読みたくなりました

さっそくKindleでいい作品がないか物色しまして、目についたのが周木律さんの『双孔堂の殺人』(講談社文庫)です。

1年ほど前に前作『眼球堂の殺人』を読んでいましたので、「よし、続編いってみるか!」ということになり、購入。

前作では推理を盛大にはずしましたので、リベンジの意味も込めて理系ミステリーに挑戦です!

ではさっそく感想を書いていきます。

※ネタバレ感想は折りたたんでありますので、未読の場合は開かないようご注意ください。

作品情報
書名:双孔堂の殺人 (講談社文庫)

著者:周木律
出版:講談社 (2016/12/15)
頁数:448ページ

スポンサーリンク

数学者が活躍する理系ミステリー

私が読んだ動機

おもしろいミステリーを探していて、Kindleストアで発見しました。

こんな人におすすめ

チェックポイント
  • 密室ものが好き
  • 理系ミステリーを読みたい
  • 電波系のキャラクターが好き
  • 前作『眼球堂の殺人』の続きを読みたい

前作『眼球堂の殺人』は数学的な知的な会話(私は読み飛ばしました)が特長の理系ミステリーといった作風でしたが、続編である本作もその特長を引き継いでいます。

理系的な要素がバンバン登場する(私は読み飛ばしました)ので、私のような100%文系脳の持ち主は一瞬怯んでしまいますが、そこは理解できなくても物語を追う上では全く問題ありませんでした。

数学要素や登場人物の若干クセのある雰囲気が人を選ぶ感じはしますが、謎解き部分は非常におもしろく、後半部は一気読みでした。

舞台は奇抜な館

前作『眼球堂の殺人』でも「こんな家住めるか!」といったような奇抜な館が登場しましたが、本作も負けていません。

鍵のような形をしたフロアが2層重なったような、見るからに住みづらそうな館「ダブル・トーラス」(元の名前が「双孔堂」)が本作の舞台です。

鍵を思わせる形状。八角形の持ち手に、細長いブレード、大きな円形の穴。それが二枚重なっている。このスケッチを一見しただけでは、これが建物の俯瞰図であるとは、まず思わないだろう。『双孔堂の殺人』kindle版、位置No. 121

前作もそうでしたが、まあよくこんな奇抜な館を考え出したもんだ!と感心してしまうような構造の館です。

非常に住み心地が悪そうです!

鍵状の館。住宅としては鍵の細長いブレード部分なんて扱いに困るしいらないですよね(笑)

作者の周木律さんは学生時代に建築を学んでいたそうで、その経験が奇抜な館の設計に役立っているのは間違いなさそうです。

前作同様、見取り図とにらめっこする楽しさがありますが、最初に登場する館の構造図(位置No.119の図1スケッチ)には部屋のありかが書き込まれておらず、これには正直若干混乱しました。

あれ、みんな部屋の話をしているけど、図に部屋らしきものがないぞ? どういうことだろ?となったのですが、そのあと部屋の位置関係が書き込まれた別の見取り図が提示される(位置No.1026)のでした。

それ以前に館を探索するシーンがあるので、部屋の位置関係はもうちょっと早く知りたかったですね。

なにはともあれ、この奇抜な構造の館の内部で密室殺人が起こるんですよ。

二つの密室に二つの死体です!ワクワクしますね!

スポンサーリンク

キャラクターがいい

前作『眼球堂の殺人』で快刀乱麻を断つ推理ぶりを発揮した放浪の数学者「十和田只人」。

なんとこの十和田が本作では殺人の容疑者になってしまうのです!

十和田は、初対面の俺に向かって、自信満々に、しかしとんでもないことを言ってのけた。

「犯人は僕だ。そうでしかあり得ないんだ」『双孔堂の殺人』kindle版、位置No. 244

しかも、自白なんですよ・・・!

これは前作を読んでいる人間からすれば、なかなか信じられないことです。

たしかに十和田は変わり者ですが、殺人を犯すような人物ではなかったはずなのです。(なんとなくこのシリーズは発刊順に読んだ方がいい気がしますね)

では、誰が本作の探偵役を務めるのかというと・・・!

妹の百合子に十和田のサインをねだられて、ダブル・トーラスを訪れていた宮司警視(シスコンぎみ)が、十和田の自白に違和感を覚え、独自に捜査を始めるという展開を迎えます。

この宮司警視が本作では主人公となって大いに活躍します。いいね、いいね!

他にも、「ブルドッグのような顔つき」の毒島巡査部長(これはいいキャラです!)や、常に宮司警視にツンツンした態度をとる美貌の船生警部補、宮司の妹で数学が得意な百合子(若干電波系)などなど、実に多彩なキャラクターが登場します。おもしろいですね!

数学知識はいらない

既に何度か書いている通り、本作はいかにも理系ミステリーといった感じで数学的な要素がたびたび登場します。

必ずしも高等数学を専攻していなくとも、若干の素養があれば、理解するのはさほど難しくない単純な予想。つまり──。

「単連結な三次元閉多様体は、三次元球面と同相である」『双孔堂の殺人』kindle版、位置No. 678

おお!なんとわかりやすい説明・・・!

とはならないんですよ、私のような文系脳の持ち主には!

若干の素養とかさほど難しくないとか言わないでよ( ;∀;)

つまりって書いてあるけど、全然つまってないじゃん!!

 

安心してください。

最初はこういった理系要素に面食らってしまいますが、もうこれは雰囲気づくりの一環というか、ハッキリ言うとこれらを理解できなくても問題なく読み進めることができます。

私のように数学が苦手な人は、なんか難しい話をしているなー、くらいに考えて流し読みするのがいいでしょう。

でも、この数学トーク。理解できるとより物語を深く楽しめるのかもしれませんね。私には100%無理ですが。

「単連結な三次元閉多様体は、三次元球面と同相である」といわれましても、私にはすべての単語の意味がわからないのでね!!

見取り図が大事

館系ミステリーには「見取り図」がついているものも多いですね。

これは文章だけではわからない館の構造について、視覚的に理解を助けてくれるので非常にありがたいのですが、あくまで見取り図はオマケといった位置づけの作品も少なくありません。

ところが本作は違います。

文章に明記されていないけれど、見取り図に書かれていることが重大なヒントになったりしているのです。

このあたり、作者の周木律さんのこだわりが感じられますね。

 

※電子書籍ストアebookjapanへ移動します

 

【ネタバレあり】すでに読了した方へ

危険!ネタバレあり!

ネタバレがあるかも!まだ読んでいない人は開かないほうがいいかも!

ネタバレあり!読了済の人だけクリックorタップしてね

さっそく、本作に登場した名文ご紹介といきましょう。

解らん。いい加減にしろ。そもそも、君の話はさっぱり先が読めん。不親切すぎる『双孔堂の殺人』kindle版、位置No. 1340

物語も3割を超えたといったあたりでようやく、宮司警視が十和田の意味不明な数学トークにツッコミを入れるシーン。

読者の大半がこう思ったはずです。

もっとはやくつっこめ。

 

当ったり前ですよ。あんなうだつの上がらないハゲとあたしが、どんな関係になるっていうんですか。あたしにとって、あれは単位付与マシーン以外の何物でもありません『双孔堂の殺人』kindle版、位置No. 1801

ダブル・トーラスにやってきた大学講師平国彦とその教え子鳥居美香。

これは二人の関係を怪しんだ宮司がそれを問いただした時の、鳥居の返事です。

一生懸命否定するほど怪しい・・・なーんつってな☆

それにしても、「単位付与マシーン」っていう表現がなんともすばらしいですねえ。

 

だが、正道邪道とは、これまでその道を主に誰が通ったかでしか判断されない概念であって、必ずしも正誤そのものを示さない。『双孔堂の殺人』kindle版、位置No. 2243

大学講師平国彦の発言。これはなかなか深い言葉ですね。

何が「正道」で、何が「邪道」かというのはなかなか難しい。

必ずしも正攻法だから「正道」、裏技だから「邪道」というわけでもありません。

「邪道」的な方法でもみんなが選ぶようになればいつの間にかそれが「正道」になっている。そんなこともあるかもしれませんものね。

正道邪道は必ずしも正誤そのものを示さない。なるほどと思いましたよ!

 

二進数では四は一〇〇、二は〇一〇、一は〇〇一と表される。ランプが点いている状態を一、消えている状態をゼロと考えれば、つまりこれは二進数による階数表示と対応している『双孔堂の殺人』kindle版、位置No. 3849

ここは完全ネタバレです。すみません。

本作のトリックは「館の構造」が全てといっていいほどで、本作を楽しめるかどうかもその構造を楽しめるかどうかにかかっています。

正直、見取り図を見ただけでこれは気づけないだろう・・・!と思いましたが、それでもこの箇所を読んだときには、「あっ、なるほどおもしろい!」と思いました。

ミステリー作家というのはいろいろ考えるものだなあ。すごい。

終わりに

トリック的には前作の方がおもしろいという印象でしたが、それでも十分に楽しめました。

本作は警察関係のキャラクターがいい味出してましたね。

あと、さすがにシリーズものだけあって、次作の展開を期待させるかのような余韻のあるラストがよかったです。

やっぱり新本格ミステリーはおもしろい!

いずれ、3作目にも挑戦しようかと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

つみれ

スポンサーリンク

世界史劇場正史三國志【感想】『世界史劇場正史三國志』/神野正史:「正史三国志」を楽しく解説!前のページ

【感想】『文字渦』/円城塔:言葉遊びの極致!次のページ文字渦

980円で電子書籍が読み放題!?

Kindle Unlimited をご存じですか

本を読むときにおすすめなのが、Kindle Unlimited の30日無料体験。

Kindle Unlimited は、月額980円で対象の電子書籍が読み放題となるサービスです。

最初の30日間が無料です。

実際に使ってみて合わないと思ったら、30日以内に解約すれば一切お金はかかりません。

 

いつでも無料で解約できます

 

関連記事

  1. 信長島の惨劇

    ミステリー、サスペンス

    【感想】『信長島の惨劇』/田中啓文:戦国版「そして誰もいなくなった」!

    こんにちは、つみれです。このたび、田中啓文(タナカヒロフミ)さんの…

  2. 汚れた手をそこで拭かない
  3. 孤島の来訪者
  4. 夏と冬の奏鳴曲
  5. invert 城塚翡翠倒叙集
  6. むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

CAPTCHA


スポンサーリンク

最近の記事

  1. 密室黄金時代の殺人
  2. むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。
  3. 猿六とぶんぶく交換犯罪
  4. 真相・猿蟹合戦
  5. わらしべ多重殺人

カレンダー

2025年7月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  
  1. 曹操 卑劣なる聖人(三)

    歴史

    【感想】『曹操 卑劣なる聖人(三)』/王暁磊:董卓の専横と兗州抗争!
  2. 大鞠家殺人事件

    ミステリー、サスペンス

    【感想】『大鞠家殺人事件』/芦辺拓:旧弊に囚われる商家を襲う怪事件の謎がおもしろ…
  3. 赤と青とエスキース

    ヒューマンドラマ

    【感想】『赤と青とエスキース』/青山美智子:一枚の絵画が見守る赤と青の物語!
  4. 星を掬う

    ヒューマンドラマ

    【感想】『星を掬う』/町田そのこ:自分を捨てた母と再会した女性の成長物語!
  5. 『明智恭介 最初でも最後でもない事件』

    ミステリー、サスペンス

    【感想】『明智恭介 最初でも最後でもない事件』/今村昌弘:『屍人荘の殺人』の前日…
PAGE TOP