こんにちは、つみれです。
このたび、王暁磊さんの『曹操 卑劣なる聖人(三)』を読み終えました。
全10巻のうちの3巻目です。
2巻は黄巾の乱が勃発し、次第に混乱が激化していく様子などを描いていました。
▼前巻の記事
3巻は反董卓同盟から兗州の抗争に至るまでの曹操勢力の草創期について描かれています。
それでは、さっそく感想を書いていきます。
作品情報
書名:曹操 (3) 卑劣なる聖人 (発行:曹操社、発売:はる書房)
著者:王暁磊(オウギョウライ)
出版: (2020/4/7)
頁数:592ページ
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目次
曹操の地盤が確立する三巻!
私が読んだ動機
前巻までが非常におもしろかったからです。
今後も追っていきます。
こんな人におすすめ
- 三国志が好き
- 大長編歴史小説を読んでみたい
- 三国志中級者くらいの知識がある
- 二巻を読み終わり続きが気になっている
董卓の登場
二巻で醜く争った宦官と外戚がともに滅び、平和な時代が訪れるかと思いきや、新たなる悪鬼が登場します。
その名は董卓。
宦官・・・去勢された官吏のことです。後宮(皇帝用のハーレム)の使用人や皇帝の相談役といった役割をもちます。
外戚・・・皇帝の母親、または妃の一族のことです。後漢の時代にはたびたび外戚が権力を持って政権に介入し、政治の腐敗を招いてしまいます。
董卓が出てくると、いよいよ三国志が本格的に始まった感があっていいですね。
董卓は黄巾の乱平定において失敗ばかりのダメダメな武官でしたが、驚異的な運の良さで幼帝劉弁(少帝)とその弟劉協(陳留王)を保護することに成功します。
本作でも史実と同様、彼は独断で少帝を廃し、陳留王を新たな皇帝に立てたり、洛陽に火を放ち長安への遷都を強行するなど、非道な行いをくりかえします。
この董卓、大抵の作品で悪役として描かれるのですが、作品によってそのキャラクターに多少の違いがあります。
一つは悪のカリスマ的な描かれ方。
もう一つは欲望丸出しでやや考え足らずの小悪党的な描かれ方。
本作の董卓は後者寄りです。
本作では、董卓は基本的に無知でありながら、それを隠し必死に背伸びしようとするようなキャラクターとして描かれていました。
そういう単純な部分が付け入る隙となり、罠にはめられたりするシーンが多く、悪逆非道ながらどこか滑稽味を感じさせます。
とても味わい深いいいキャラです!
他の三国志小説の董卓の描かれ方と比較して読むのもおもしろいですね。
反董卓同盟の去就
やがて暴虐非道な董卓の打倒を目的に、複数の有力者が連合していきます。反董卓同盟ですね!
ここは非常にワクワクするシーンです!
ですが、董卓を倒すという共通の大きな目的はあっても、所詮は他人同士の寄せ集め。
集まった諸将は、それぞれが心の内に自分の利益や保身に関する思惑を秘めています。
このあたりの反董卓同盟内のいざこざや対立について、本作は非常に克明に描き切っています。
橋瑁、劉岱、鮑信、張邈など、董卓打倒を目的に集まった諸将それぞれの思惑が非常に丁寧に描かれていて、かなり読み応えがあります。
一致協力して董卓に当たらなければならないはずの彼ら同士の反目、疑心・・・このあたりの描写が秀逸です。
ドロドロした人間関係だけでなく、曹操と鮑信や張邈との友情や信頼なども描かれていて、心が温まる一幕も。
董卓が洛陽を焼いて長安まで退くと、反董卓のために集結した有力者たちも、もともと不仲であったことも手伝って解散。
自分の本拠地に戻ってそれぞれが自勢力の強化を図っていきます。群雄割拠の時代の到来ですね。
ちなみに『三国志演義』では、汜水関で董卓軍の勇将華雄と反董卓同盟軍の関羽が一騎討ちを演じたり、虎牢関で三国志一の豪傑呂布と劉備・関羽・張飛の三人が激闘を演じたりと、やたらと派手に劉備たちの活躍が描かれています。
しかし、本作ではこのあたりの創作部分はすべてカット。こういう創作上の名シーンを大胆にカットしながらも十分におもしろさを確保できているのですから、驚異的な作品です。
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兗州の抗争を克明に描く
基本的に本作は、曹操周辺のできごとを非常に詳しく描いています。
そういう意味では、本作ほど兗州の抗争について詳しく描き切った小説はないのではないでしょうか。
紆余曲折あって曹操はようやく地盤となる兗州をゲットします。
とある事情から曹操は持てる兵力の限りを尽くして隣の徐州を攻めるのですが、それが裏目に出てしまいます。
なんと兗州内で反逆者が現れ、呂布を引き込んでクーデターを起こすのです。
結果、曹操は敵地で孤立するという大ピンチに陥ってしまいます。
曹操の人生において、最大のピンチは赤壁での大敗北だとよく言われますが、実はこの兗州のクーデター発生時のほうがよほど乗り切るのが厳しかったのではないかという声もあるほど。
他国に攻め込んでいる間に、自国で反逆が起こったわけなので、正直かなりやばいです。曹操の人生のなかでも特に注目すべきハイライトといっていいシーンの一つでしょう。
本作は曹操を主人公に据え、曹操周辺を非常に細かく描写していますから、この兗州クーデターを極めておもしろく描き切っています。
3巻最大の見どころと言っても過言ではありません。
兗州のほとんどすべてが乗っ取られてしまった状況で、曹操がどのように兗州奪還を図っていくのかというところもおもしろいですし、反逆した武将たちの事情や心理描写もとてもおもしろく描かれていますよ。
戯志才
いずれ曹操のもとには数々の軍師が集まってくるようになりますが、そのなかでも最初に曹操が策略を相談する相手として登場するのが戯志才です。
記録にも早逝したことくらいしか記述がなく、どの程度の策士であったのかは判然としませんが、なんとこの戯志才が本作第3巻では大活躍します。
たびたび判断を迷う曹操に対し、『呂氏春秋』の一節を引きながら策を授けていくというめちゃくちゃおいしいキャラクターとして描かれています。
史実ではどのような活躍をしたかわからないこういった人物を大きく取りあげ、魅力的なキャラクターに仕立て上げるおもしろさは歴史小説のいいところと言えますね。
というか、正直、この戯志才というマイナーなキャラクターにスポットを当てて、大きく取り扱う本作の目の付け所に私は感動を禁じ得ませんでした!!すばらしすぎます。
早逝したという史実通り、彼の活躍期間は極めて短く、3巻のうちに死を迎えますが、その死にざまも見どころです。
本巻の最強キャラクターですね。
劉備がほとんど出てこない
普通、三国志の物語といえば、主人公格として劉備という人物が大活躍します。
ところが本作、少なくともこの三巻の終盤まで読んだ限りでは、劉備が全くと言っていいほど登場しません。(ちょっとだけ出ます)
三巻の終わりに差し掛かってようやく登場しますが、ここでもすぐに逃げてしまうのでどんなキャラか掴めません。
しかし、その短い登場シーンで絶大なインパクトを残すのです。
劉備は、あごから一尺あまりの長い髭を垂らした謎の武将や、長柄の矛をめちゃくちゃに振り回して大暴れしている謎の猛将を引き連れていて(三国志ファンには正体がすぐわかるのがミソ(笑))、曹操主従を大いに驚かせるのです。
正直、劉備一行のタダものじゃない感がすごい。
曹操の徐州攻めや兗州クーデターまで物語を描いていながら、この劉備の露出の少なさは三国志小説としてもはや異常といってもいいほどです。
おそらく、意図的に劉備を登場させずにここまで書いてきたのだと思います。
曹操の前に立ちはだかる強敵として劉備という人物をどこで登場させるのが一番効果的な演出かということを緻密に計算しているのでしょう。
曹操の人生を描く上で、劉備の存在を避けて通るわけにはいきませんから、今後たっぷりと登場してくれるものと思います。
これからの劉備の活躍が楽しみで仕方ありませんね。
有能な人物が曹操のもとに
見所の多い3巻ですが、もう一つ忘れてはいけないのが、曹操のもとに有能な人物がぞくぞくと集結していくところです。
やはり三国志のおもしろさといえば、多彩な登場人物たちの活躍。
一般的な三国志小説などでは、いつの間にか当然のように仲間に加わっている武将というのがいるものですが、本作はそうではありません。
曹操とその配下一人ひとりとの出会いを非常に丁寧に描いてくれています。
このあたりの人間関係の描写の緻密さは、三国志のなかでも特に曹操だけに注目した本作だからこそ表現できるものですね。すばらしいと思います。
本巻で登場する人物をズラッと並べるだけで興奮しますね!
終わりに
本作の魅力は、曹操という人物にターゲットを絞っているからこその描写の緻密さといっても言い過ぎではないです。
三国志は、曹操、劉備、孫堅(この3人が三国の祖です)の視点をある程度均等に描かないと全貌が見えづらいというところがありますが、そうすることによって視点の分散化が発生します。
つまり、難易度が高くなるわけです。
本作は思い切って描写対象を曹操の視点のみに絞ることによって、物語をわかりやすく表現することに成功しています。
劉備や孫堅の描写も、あくまで曹操が知覚できた範囲というやり方はなかなかおもしろいと思いますね!
次の4巻では劉備や呂布が大活躍していくことでしょう。
個人的には呂布が大好きなので楽しみです!
本作以外におもしろい三国志小説を知りたい場合は、下記の記事で難易度別に紹介していますのでぜひご覧くださいね。
>>おすすめ三国志小説5選!おススメ度、難易度も併せて紹介!
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
つみれ
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