歴史

  (最終更新日:2019.01.25)

【感想】難しい応仁の乱を詳しく説明した新書『応仁の乱』/呉座勇一

応仁の乱。

数ある日本史の戦乱のなかでも屈指の知名度を誇り、多くの人が中学校でも習います。

  • 義政の意思むなしく応仁の乱
  • 人の世むなしい応仁の乱

1467年に始まったことから、上のような語呂合わせで覚えた人も多いことでしょう。

さて、この応仁の乱。とにかく難解なんです。

将軍家の跡継ぎ問題がこじれ、それに口出しした東軍の細川氏と西軍の山名氏が戦いました。

これのせいで京都が荒廃して、幕府や守護大名の力が弱まっていきました。

下剋上発生!戦国時代突入!

だいたいこんな感じで片付けられるのが応仁の乱です。

ふんわりした説明ですね。

誰が起こして、誰が勝って、誰が得したのか。

その辺がふんわりしています。

私もだいたいこんな感じであいまいに理解していましたが、どうも本気で語るとこの程度では済まされない複雑さがあるようなのです。

ベストセラーとなった呉座勇一『応仁の乱 – 戦国時代を生んだ大乱』(中公新書)。

確かに読んでみると大変に難しかったですが、よくわからなかったところはふんわりとごまかしつつ感想を書いていきます。

作品情報
書名:応仁の乱 戦国時代を生んだ大乱 (中公新書)

著者:呉座勇一
出版:中央公論新社 (2016/10/19)
頁数:302ページ

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ベストセラーとなった応仁の乱解説本

私が読んだ動機

ベストセラーの歴史本だというので、おもしろそうだと思って読みました。

こんな人におすすめ

チェックポイント

応仁の乱になんとなく詳しくなりたい

日本中世史が好き

話題の本が読みたい

まず本書の一番の特徴として、経覚(キョウガク)と尋尊(ジンソン)という奈良興福寺の二人の僧侶たちの日記をメインに応仁の乱を読み解いていくという試みを行っていることが挙げられます。

京都で起こった応仁の乱について、奈良で生活する僧侶の日記から背景を読み取るというのは一見迂遠なようですが、幕府の主導権争いのようなところからは若干離れた視点を提供してくれている点は見逃せませんね。

また、本書でも触れられていますが、この経覚と尋尊が互いに正反対の性格をしていて、同じ事象に対する二人の受け止め方の違いなどにも言及されているのもおもしろい点といっていいでしょう。

基礎知識

まず応仁の乱の根本的な発生原因について。

これは将軍家の跡継ぎ問題です。

時の将軍足利義政には息子がいなかったので、弟の義視(ヨシミ)に後継者になってくれないかと頼みました。

仕方なく義視はその申し出を受けるのですが、そんな矢先に義政に息子(義尚)が生まれます。

タイミング考えろ。

義政の正室、日野富子は誕生した息子を次の将軍にしたくてたまりません。

コントです。

わざわざお家騒動を起こしたくてやっているとしか思えません。

お家騒動クリエーター義政。

 

なんという無計画。なんという無神経。なんという無頓着。

この足利義政という人は終始この調子で、行き当たりばったりの決定を繰り返していきます。

もうしまいにはかわいらしさすら感じられるようになってきます。

まあでも、上司にはしたくないですね。

振り回されることうけあいです。

 

この将軍後継問題に介入し、あわよくば幕府の実権を握ろうとしたのが細川勝元と山名宗全。

細川勝元は駆け引き大好き、陰謀が得意な策略家タイプ。

山名宗全は豪快な武闘派。顔が赤くてすぐキレるため、あだ名は「赤入道」

応仁の乱は東軍と西軍に分かれて争ったと説明されることが多いですが、このふたりが東軍と西軍の総大将ですね。

かれらが京都を舞台に戦う。京都は盛大にファイアーする。

どうでもいいですけど、山名宗全って名前カッコいいよね。

 

同時に管領家(幕府のお偉いさん)である畠山家や斯波家でも家督相続問題が発生しています。

将軍足利義政は調子に乗ってこれらの内紛の調停のために動きましたが、その性格が災いしたのかあっちへふらふら、こっちへふらふらし、あろうことか内紛を激化させました

余計なことをせずにまず自分の家のことをなんとかしろよと強く言いたい。

こんな感じで登場人物たちの利害が交錯している上、将軍足利義政の優柔不断が戦乱を無用に混乱させました。

完全に利害で動いている人物も多数いまして、数多くの裏切り者が登場します。

西軍の人物がいつの間にか東軍にいたりする。当然、私の脳みそはカオスになる

私は応仁の乱はどんな戦乱だったの?と聞かれたら「カオスだった」と答えようと思っています。これが一番、応仁の乱の性質を端的に表しているワードです。カオス。

そうなんです。応仁の乱を簡単に説明してくれ、と言われてもなかなかむずかしい。

この戦乱の基本的な属性自体がすでに複雑なんです。

呉座氏は冒頭で、下のように言っています。

結局、「この戦乱によって室町幕府は衰え、戦国時代が始まった」という決まり文句で片付けられてしまうのである。『応仁の乱 - 戦国時代を生んだ大乱』はじめに

致し方ないという気もしますね(笑)

気まぐれ将軍足利義政

本書の見どころの一つは足利義政の比類なき気まぐれさを再確認できるところにあるんじゃないだろうか。

筆者も書いていておもしろくなってきちゃったんじゃないだろうか

 

義政は情勢に流される傾向があり、その優柔不断さが混乱に拍車をかけた『応仁の乱 - 戦国時代を生んだ大乱』p.61

冷静な分析。こういう歴史の残り方はしたくない。

 

義政が決定を二転三転させることが政治・社会の混乱を生んでいることは疑いなく『応仁の乱 - 戦国時代を生んだ大乱』p.74

もうやめてくれえ。彼もがんばっているんだ。

 

勝った方を支持するという義政の態度は無定見の極みであるが、これまでの畠山氏内訌においても、義政は基本的に優勢な側の味方であった。

おかしな言い方だが、情勢次第で方針を転換するという点では一貫しているのである『応仁の乱 - 戦国時代を生んだ大乱』p.86

朝令暮改をモットーとするという意味でブレない。いやいやいやいや。

 

足利義視を京都に呼んでおきながら、義視を追いつめるような措置をとった足利義政の行動は、率直に言って理解に苦しむ『応仁の乱 - 戦国時代を生んだ大乱』p.103

移ろいやすく気まぐれなのは、女心と秋の空、それと義政

 

こんな愛すべきキャラクターいます???

隣にはいてほしくないが。

ただ、呉座氏はこうした足利義政の無定見を絶妙な物言いで弾劾しながらも、そこにはそこはかとない愛を感じます。

そして、呉座氏は、義政の意外な面を繰り返し強調しているのです。

結果論的に政治に興味を持たず、文化事業に傾倒した人物と解釈されがちな義政ですが、呉座氏は、そんな義政像を完全に継承せず、新しいイメージを提供してくれています。

義政は義政なりに乱の早期解決を望み、それなりに手を打っているが、タイミングが悪く、結果的に成果が出なかったのだといいます。

マイナスがプラマイゼロくらいにはなったのでしょうか。なってねえ

ふーむ、しかしなるほど。

これは考えもしなかった義政像といっていいですね。おもしろいぞ。

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日記のおもしろさ

歴史を知ろうと思ったら、過去の文献やら遺物やらに当たる必要がありますね。

これらの歴史研究の材料のことを「史料」といいます。

史料といってすぐに思い浮かぶのが歴史書ですね。

歴史を書いた書籍のことをいいますが、実は日本中世史を調べていると、ときにこうした歴史書以上に当時の事件や世相を鮮明に伝えてくれるものがあります。

その一つが「日記」です。

中世の公家や僧侶たちは、非常にまめに日記をつけています。

日記によって過去の事件や人の噂などがリアルに甦ったりするのです。

歴史書のように客観的な事実が淡々と書かれているわけではなく、実に感情豊かで血の通った人間らしさがあらわれている。このあたりは日記ならではですね。

別々の二人の日記の同じ日付の記事を読むと、同じ事件のことについて全く別の感想が書かれていたりして、歴史の世界の広がりやストーリーを実感することができます。

本書のおもしろいところは、性格の異なる二人の興福寺の僧侶の日記を手掛かりに、応仁の乱という事件を読み解いていくというスタイルそのものといっていいでしょう。

つまり、下記の二つの日記です。

  • 経覚『経覚私要鈔』
  • 尋尊『大乗院寺社雑事記』

この二人はライバル的関係なのですが、どう性格が違うかといいますとですね。

経覚は能動的で積極的。紛争にも前のめりに首をつっこんでいき、自分がいいと思った方に積極的に加担する。男気もある。亡くなったときに多額の借金が発覚。おい。

尋尊は受動的で消極的。基本的に中立を保ち、非常に冷静。一歩退いた目線が特徴。乱が起こると愚痴を書きまくる。なにかにつけて愚痴っている。経覚の借金を肩代わりさせられそうになるが鉄壁の防御態勢で防ぎきる。

この正反対な感じ、すばらしいですね。

乱中の遊芸について

ここがおもしろかった!

応仁の乱が激化すると、公家が地方に逃げるので、それに伴って都の文化も地方に普及したと説明されることが多いです。

この説は一面しか見ておらず、実は武家も大いに地方に流れたというのが本書の主張の一つで興味深い指摘なのですが、まあそれはいい。

 

おもしろいのが上で紹介した日記の作者尋尊の父親。

一条兼良という人物ですが、関白ですから実質公家のトップです。

彼も御多分にもれず応仁の乱の拡大によって奈良に疎開することになり、子の尋尊のもとを訪ねます。

一条兼良は一般的にとんでもないほどの博学として知られ、いかにも優等生的なイメージを受けますが、呉座氏はそんな兼良像をぶち壊してくれます。

一条兼良は尋尊の経済力にものを言わせて、連日飲めや歌えのドンチャン騒ぎをしたそうです。

尋尊はこのために借金までこしらえたそうな。

限度を知らぬ最強のオヤジですね。

 

ここで「林間」という遊芸が紹介されています。

林間といえば林間学校しか思い浮かばない私ですが、この林間は「淋汗」。

風呂のことを指すようです。当時は風呂が流行ったみたいですね。

さらに風呂から上がるとお茶がでる。ときにお酒や食事も出たようでさながら宴会のようだったといいます。

古市胤栄という武将がこの饗応にあたったときのド派手な宴会に関する内容は、本書のなかでも特におもしろかった必読の箇所。

うーむ、京都で応仁の乱が起こっていたとき、奈良ではこんな派手なことが行われていたとは知らなかったですね。

奈良の僧侶や公家、古市胤栄などの奈良の武士たちにとって、応仁の乱は対岸の火事だったと呉座氏は言っています。(『応仁の乱 – 戦国時代を生んだ大乱』p.149)

そういうものかー。

 

「闘茶」も行われたと書いてありますね。

闘茶といっても、お茶をぶっかけ合ったり、茶器で殴り合ったりするエキセントリックなイベントではありません。

公家や僧侶たちがそんなことをしている様子を想像するととんでもなくシュールですが、違います。

闘茶とはいわゆる利き茶のことで、お茶を飲んで産地を当てるというゲームです。

一気に上流階級感が出てきました。

トイレが近くなりそうですね。

政治史は政治史、文化史は文化史という歴史の読み方をしていると、応仁の乱と闘茶がなかなか結び付かなかったりするのですが、こういう流れを知ることができるのはおもしろいですね。

応仁の乱で京都から逃げ出した公家たちが、奈良の疎開先で僧侶たちと遊芸にふけったというストーリーはなかなか興味深いものがあります。

 

最後に

一般的な応仁の乱のイメージを少しでも壊して、より当時の人間の感情によりそった解釈を試みた一冊。

無能の烙印を押されることが多い足利義政や悪女のイメージが強い日野富子にも別の印象を与えるような説明がなされていたりして、なかなかおもしろかったです。

記事では触れませんでしたが、他にも応仁の乱で獅子奮迅の大活躍をした猛将、畠山義就が興味深かったですね。

解釈によっては下剋上とか戦国大名の走りといっていい存在です。

この人はちょっと調べてみようかな。

 

ただ、やはり題材自体のむずかしさは本書だけではカバーできず、個々のエピソードはおもしろくても全体として理解が及んでいない感がぬぐい切れない読書となりました。

この難しい本がベストセラー・・・!

本当に何が売れるかわからない世界ですね。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

つみれ

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