歴史

  (最終更新日:2021.12.10)

『銀河英雄伝説』リップシュタット戦役の元ネタを考えるぞ!

こんにちは、つみれです。

現在、田中芳樹さんの『銀河英雄伝説』(らいとすたっふ文庫)、通称「銀英伝」を読み進めています。

何しろ、文庫本にして全十巻という大作ですので、他の本と交互に少しずつ読み進めているところです。

ところで本作、なんとなく読んでいると、三国志的なエピソードが多いな!ということに気付きました。

私は三国志が大好きです!なので、ひょっとしてこれが元ネタかな!?というエピソードを比べてみたい衝動に突き動かされるようにして本記事を書きはじめました。

完全に主観的な記事ですので「ちがうよばか!」ということもあるかもしれませんが、いろいろとご容赦ください(笑)

まだ読み途中で、ただ今文庫の5巻(2020年1月現在)を読み進めているところですが、今回は2巻「野望篇」で描かれた「リップシュタット戦役」についてです。

 

リップシュタット戦役は三国志の「官渡の戦い」に似ている・・・!

 

そんなことを思ったので、二つの戦いを比べる形でさっそく書いていきます。

作品情報
書名:銀河英雄伝説 野望篇(2巻) (らいとすたっふ文庫)

著者:田中芳樹
出版:らいとすたっふ (2014/9/5)
頁数:331ページ

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リップシュタット戦役の元ネタ

私が読んだ動機

いろいろな方に薦められました。三国志好きにはたまらない内容だよ!「銀英伝」はあなたにぴったりだ!とまで言われたことも(笑)

こんな人におすすめ

チェックポイント
  • 壮大なスペースオペラが読みたい
  • 歴史(特に戦国もの、三国志など)が好き
  • 大長編小説にチャレンジしたい
危険!ネタバレあり!

銀河英雄伝説は、簡単に言ってしまうと、銀河を舞台にした戦記物です。人類が銀河帝国(帝国)と、自由惑星同盟(同盟)の二大陣営に分かれて戦うという図式ですね。

帝国側の主人公がラインハルト・フォン・ローエングラム、同盟側の主人公がヤン・ウェンリーです。

本記事の趣旨は、銀英伝と古代中国史(今回は三国志)のエピソードを比べてみよう!というものですので、記事全体がネタバレです。ご注意くださいね!

また、本記事では、元ネタの妥当性、信頼性がどの程度あるかということを自分なりに五段階で評価してみました。

元ネタの可能性が高いと思ったら☆☆☆☆☆を付けています。

 

五段階評価も主観が入っていますが、ご参考までに!

 

リップシュタット戦役

リップシュタット戦役は、帝国暦488年に銀河帝国内で起きた大規模な内乱です。

銀河帝国第36代皇帝フリードリヒ4世の死後、幼年のエルウィン・ヨーゼフ2世が即位すると、本作の主役の一人ラインハルトが属する新皇帝派とそれに反発する門閥貴族を中心とした反皇帝派間で政争が起こり、ついには軍事的衝突にまで発展してしまいました。

「新皇帝派のリヒテンラーデ公+ラインハルト」 VS 「反皇帝派のブラウンシュヴァイク公+リッテンハイム侯」という構図です。

このあたりは整理して読まないと難しいですよね。

大部分の貴族を味方につけた大勢力のブラウンシュヴァイク陣営に対し、ラインハルト陣営は兵力的に劣っているという状況です。

しかし、長年の特権的立場に慣れ、状況の観測にどうしても甘さが出てしまうブラウンシュヴァイク陣営の貴族と、戦慣れしたラインハルト陣営の将官とでは能力的に比較にならず、ブラウンシュヴァイク陣営は次第に崩れていきます。

官渡の戦い

この両者の関係の元ネタを三国志に求めると、西暦200年に起きた「官渡の戦い」が想起されます。

冀州(キシュウ)青州(セイシュウ)幽州(ユウシュウ)并州(ヘイシュウ)の4州を支配し、中国最大の勢力を有した袁紹(エンショウ)と、呂布(リョフ)袁術(エンジュツ)張繍(チョウシュウ)などの強敵に苦しい戦いを強いられながらもどうにか中原での基盤を確保しつつある曹操(ソウソウ)とが激突します。

袁紹は「四世にわたり三公を輩出した名門」と言われますが、これはブラウンシュヴァイク陣営の貴族たちの描写に似ていますね。

一方、兵力的には袁紹に劣るもののいくつもの戦いを経て精鋭揃いの曹操軍は、配下武将の優秀さもあわせてラインハルト陣営と酷似していると言っていいでしょう。

ラインハルト=曹操、ブラウンシュヴァイク公=袁紹と見るとかなりおもしろいですね!

ヒルダ=賈詡?

さらに私が、「リップシュタット=官渡」の確信を強めたのは「銀英伝」の下記のエピソードです。

リップシュタット戦役を前に、どちらの勢力につくか迷っている貴族としてマリーンドルフ伯フランツという人物が登場します。

彼は帝国貴族としてブラウンシュヴァイク陣営につこうとしますが、娘のヒルデガルド・フォン・マリーンドルフ(ヒルダ)にたしなめられます。いわく、ラインハルト陣営に付くべきです。理由は四つあります、と。

ひとつ。ローエングラム侯ラインハルトは新皇帝を擁しており、皇帝に背く者を皇帝の命令によって討伐するという大義名分を有している。(中略)

ふたつ。いずれ大部分の貴族を結集するブラウンシュヴァイク公らの兵力は強大であり、そこにマリーンドルフ家が参加してもかるく扱われるであろう。それにたいし、ローエングラム陣営は劣勢であり、そこに参加すれば勢力が強化されるだけでなく、政治的効果もある。ゆえにマリーンドルフ家は厚遇されるにちがいない。(後略)『銀河英雄伝説2 野望篇』kindle版、位置No. 759

わずかの兵力しかもたないマリーンドルフ家が、優勢なブラウンシュヴァイク陣営についてもたいして評価してもらえないけれども、劣勢のローエングラム(ラインハルト)陣営につけばありがたがられるだろうという意見です。慧眼ですね。

三国志では、官渡の戦いを前に似た状況に直面した勢力があり、そのトップの人物に同じような献策をした人物がいます。

張繍の勢力ですね。献策をしたのは張繍の懐刀、賈詡(カク)です。井波律子さん訳『三国志演義(一)』(講談社学術文庫)で賈詡の献策を見てみましょう。

「曹操に従う利点は三つあります。そもそも曹操は天子の詔を奉じて、天下を征伐しております。これが従うべき第一の理由です。袁紹は強大ですから、われわれが少数の軍勢をもって従ったとしても、重視しないにきまっております。曹操は弱小ですが、われわれが味方につけば喜ぶにちがいありません。これが従うべき第二の理由です。(後略)」『三国志演義(一)』kindle版、位置No. 7833

上でも少し触れた通り、張繍や賈詡は直前まで曹操と敵対していたという事情がありました。

それでも「このタイミングで曹操に付けば、必ず厚遇してくれますよ」と張繍に献策できたのは、賈詡のすごいところですね。その後、賈詡は曹操配下のスーパー軍師として活躍することになります。

いやー、ヒルダも賈詡も頭がいいですねえ!まるで私のようです!

元ネタ度:☆☆☆☆☆

 

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終わりに

銀河英雄伝説、おもしろいですねえ。

この記事を書いている現在は5巻を読んでいる最中ですが、ゆっくりと味わいながら読んでいきたいと思います。

また、本記事のようなものも書いてみたいですね。ネタがあれば。

最後までお読みくださり、ありがとうございます。

つみれ

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コメント

    • つみれ
    • 2020年 7月 28日

    通りすがりの三国志ファンさん、コメントありがとうございます!

    とても興味深いコメントで思わず熟読してしまいました。
    私の見立てなどよりもよほど考え抜かれていて舌を巻く思いです。
    故事を知っていると、普通に読む以上に楽しめる作品なのかもしれませんね!

    私は三国志以外はあまり詳しくなく、その他の元ネタのところは全く気付かなかったですがおもしろいですね!
    いろいろと教えてくださりありがとうございます!

    つみれ

    • 通りすがりの三国志ファン
    • 2020年 7月 28日

    官渡の戦いとリップシュタット戦役を重ねるのは、銀英伝ファンには有名なようで
    リッテンハイム侯:皇帝を挟んだブラウンシュヴァイク公の親戚 袁術に相当
    アンスバッハ:優秀な謀臣だが、敗戦を予見する愚痴を聞き咎められ投獄 田豊に相当
    フェルナー:戦役の最初期にラインハルト襲撃を企てるも捉えられ寝返る 許攸に相当
    キルヒアイス:ラインハルトの半身とまでいわれるが、戦役の最後の最後で命を失い嘆かれる 郭嘉に相当
    といった見立てがありました。
    三国志以外ですと
    清の太祖ヌルハチが明と連合軍による分進合撃策を時間差の各個撃破で破ったサルフの戦いとアスターテ会戦
    ヌルハチと対峙した将軍袁崇煥がポルトガル製大砲の紅夷大砲で撃退に成功した寧遠城の戦いとイゼルローン攻防戦
    などもイメージソースなのではないかと言われています。

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