新史太閤記

歴史

  (最終更新日:2021.12.10)

【感想】『新史 太閤記』/司馬遼太郎:戦国一の出世人・豊臣秀吉の活躍を描く!

こんにちは、つみれです。

このたび、司馬遼太郎さんの歴史小説『新史 太閤記(タイコウキ)』を再読しました。

司馬遼太郎さんの戦国4部作と呼ばれる作品のうちの第二作目にあたる作品で、上下巻の2巻構成。主人公は戦国一の出世人・豊臣秀吉(トヨトミヒデヨシ)です。

それでは、さっそく感想を書いていきます。

作品情報
書名:新史 太閤記(新潮文庫)

著者:司馬遼太郎
出版:新潮社(1973/5/29)
頁数:(上巻)560ページ、(下巻)544ページ

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戦国一の出世人・豊臣秀吉の活躍を描く!

戦国一の出世人豊臣秀吉の活躍を描く

私が読んだ動機

斎藤道三(サイトウドウサン)織田信長(オダノブナガ)の生涯を描く司馬遼太郎さんの『国盗り物語』を読んで、豊臣秀吉の物語も再読したくなりました。

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こんな人におすすめ

チェックポイント
  • 長編歴史小説を読みたい
  • 日本の戦国時代に興味がある
  • 豊臣秀吉が好き
  • 立身出世物語が好き

あらすじ・作品説明

尾張の百姓から身を立て、最終的に関白・太政大臣の高位にまでのぼり詰めていく〝戦国一の出世人″豊臣秀吉の活躍を描く。

 

体格に恵まれず、武器を取って戦うことではほかの武将に後れを取る秀吉が、持ち前の謀才と人をとろかす人たらし的魅力を武器に出世街道をひた走る。

 

日本で最も有名なサクセスストーリーを司馬遼太郎がさまざまなエピソードをまじえながら語る一冊。

戦国一の出世人・秀吉の人生を好意的に描く

秀吉は尾張の百姓の生まれで(諸説あります)、その出自はお世辞にも高貴なものとは言えませんでしたが、最終的には関白・太政大臣にまで栄達していきます。

信長のように父の築いた地盤(領地・家臣)があったわけでもなく、まさに徒手空拳から己の才覚だけで大出世していった人物です。

本作『新史 太閤記』は、そんな大出世人・秀吉の活躍を、上司の信長とのやり取りや、強敵との戦争、秀吉が発案した斬新なアイディアのエピソードなどをまじえながら描いていく痛快なサクセスストーリーです。

秀吉は晩年に老害化することもあり評価が分かれる人物なのですが、司馬遼太郎さんは秀吉好きで知られていて、本作でも一貫して秀吉に好意的な立場から描いています。

秀吉は最終的に大坂を拠点とし、政権の基盤となる壮麗な大坂城を築きました。

もしかしたら、それと司馬遼太郎さんが大阪生まれであるのとが関係しているのかもしれませんね。

秀吉の性格

ニホンザル

秀吉の性格を一言で表すと、「人たらし」

表情や言動に愛嬌があり、人間性がとびぬけて明るいので、それに釣り込まれるようにしていろいろな人物が魅了されていきます。

最初は秀吉と敵対していた人物でも、秀吉の毒気のなさについ気を許してしまう。そんな性格をしています。

秀吉は自分のこの性格を自覚しており、それを武器として最大限に使っていくのです。

体格的に恵まれない秀吉は戦場での槍働きで活躍するのは難しいので、その不足分を頭脳労働で補っていくことになります。

しかし、秀吉が得意とする謀略・調略(政治的工作)の類はほの暗さがつきまとい、当時の武将たちの多くに軽蔑される傾向がありました。

ダークな政治的工作を仕掛けるシーンでは、自分のいかにも好人物らしい明るさを意図的に前面に出し過剰演出することで、秀吉の工作に加担する相手の後ろ暗さをかき消す効果を期待するような狡猾なところもあります。

自分の明るさすら、計略で利用していく。凄みがあります。ある意味ではとんでもない食わせ者ですよね。

また、本作の秀吉は幼いころの苦労から人間心理やその場の空気を読むことに長けていて、その天性の明るさも相まって、まさに処世のプロと言えそうです。

トップビジネスパーソン秀吉

琵琶湖

下準備・根回しを入念に行う

上でも書きましたが、体格の小さい秀吉は戦場を駆け巡る武将としての素質はなかったので、頭脳労働で主君の織田信長に貢献します。

特に調略にかけては、信長の家臣のなかでも随一の才能を持っています。

当時の戦争では、いざ戦いとなると多くの兵をかき集め「出たとこ勝負の力押し」のような戦い方をする武将も多かったなかで、「裏工作が得意」という秀吉の特殊な才能は信長に愛されました。

秀吉は「戦う前にできる限り勝率を上げておく」という思考回路の持ち主なのです。これは良将の条件の一つです。

かれ以前の軍事的天才たち――上杉謙信(ウエスギケンシン)武田信玄(タケダシンゲン)でさえ――敵を肉眼で見てから合戦を開始した。しかし秀吉の合戦は、敵を見たときにはもはや合戦のほとんどがおわっていた。あとは勝つだけであった。

 

<span class="su-quote-cite">『新史 太閤記(下)』、p.151</span>

だから、実戦家というよりは寝業師といったほうが秀吉の才能をうまく表現しているかもしれません。

  • どういう手を打てば最も効率よく戦いを進められるか。
  • どういう条件を出せば敵は自陣に寝返ってくれるか。

以上のようなことを肌感覚でわかっているのが秀吉の強みです。

上司に気に入られる

さらに、注目すべきは主君信長に対する秀吉の接し方です。

秀吉の上司である織田信長は、「短気かつせっかちで、無駄や非効率を嫌い、部下の怠慢を許さない」といった激しい気性の持ち主です。

なので、部下としては非常に「やりづらい上司」となるわけで、実際に、信長の部下として「働き方」を失敗した武将も大勢いました。

例えば、佐久間信盛(サクマノブモリ)林通勝(ハヤシミチカツ)(歴史研究上は林秀貞(ハヤシヒデサダ)とする説が有力)は、信長を若い頃から支えた織田家臣団の筆頭格ですが、その働きぶりの悪さから「利用価値」がなくなったとして晩年に追放されています。

また、「部下としてのやりづらさ」がどこまで影響したかはわかりませんが、松永久秀(マツナガヒサヒデ)荒木村重(アラキムラシゲ)明智光秀(アケチミツヒデ)などの優秀な武将がつぎつぎと信長に対し謀反を起こしています。

そんななかで秀吉は、信長から有能な部下として信頼され続けました。

秀吉は、信長とのやりとりのコツ、家臣としての呼吸法を知り抜いていたのですね。

部下をやる気にさせる

秀吉は、自分に部下ができると、彼らを非常にうまく使いこなしています。

自分の配下の十人をわが長屋にひき入れて雑居し、彼等とおなじめしを食い、物を貰えば同じように分け、一人々々の気質を見きわめてそれをたくみに御したからみな感激をもって働いた。

 

<span class="su-quote-cite">『新史 太閤記(上)』、p.142</span>

人使いのうまい秀吉のまわりには、有能な部下がどんどんと集まってきます。

特に戦国時代きっての知将、竹中半兵衛(タケナカハンベエ)重治(シゲハル))・黒田官兵衛(クロダカンベエ)孝高(ヨシタカ)如水(ジョスイ))の2名が秀吉に力を貸すシーンでは、秀吉のもとで部下として働くことの嬉しさ・楽しさが司馬流に表現されていてワクワク感がほとばしっていました。

現代社会でも通用する秀吉流仕事術

こうやって見ていくと、秀吉は人間に使われるプロであり、人間を使うプロでもあったということができそうですね。

一般社員から中間管理職を経て、最終的に組織のトップにまでのぼり詰めた秀吉の処世術・仕事術は、現代のビジネスでも十分通用するスキルのように思えます。

ぜひ本書を読んで、戦国時代のトップビジネスパーソン秀吉の働きぶりを味わってほしいですね!

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城攻めの天才

稲

秀吉は城攻めの天才で、その攻城テクニックがおもしろすぎます。

一般的に「攻城には籠城側の3倍の兵力が必要」と言われます。

それだけ、城攻めというのは難しい戦いということですが、この難しい城攻めがめちゃくちゃうまかったのが秀吉なのです。

本作でもたびたび書かれていますが、秀吉は城攻めでもむやりやたらと力攻めを行いません。

特に中国攻め(信長の命令で秀吉が担当した毛利攻め)の際の3つの攻城戦は、秀吉の攻城技術のユニークさが光っていておもしろく、秀吉の「三大城攻め」などと呼ばれています。

播州三木城(バンシュウミキジョウ)攻めでは、城を包囲して糧道を断ち、兵糧攻めにしました。(三木の干殺し)

因幡鳥取城(イナバトットリジョウ)攻めでは、「三木の干殺し」をさらに発展させ、下記三案の合わせ技で敵城を凄絶な飢餓状態に追い込み戦意を喪失させました。(鳥取の(カツ)え殺し)

  • 周辺の住人が鳥取城に逃げ込むように仕向ける(兵糧消費を増大させる)
  • 商人に食糧を買い占めさせる
  • 毛利からの補給路を断つ

さらに、備中高松城(ビッチュウタカマツジョウ)攻めでは、スケールの大きな土木工事で川の流れを変え、敵城を水没させました。(高松城の水攻め)

どれをとっても「これが本当に城攻めなのか!?」と思わせるようなものばかりで興味深いですよね。

『新史 太閤記』では、これらの城攻めテクニックを物語として楽しむことができますよ。

『国盗り物語』のあとに読むとおもしろい

岐阜城

司馬遼太郎さんの『国盗り物語』は文庫本全4巻で、前2巻が斎藤道三を、後2巻が織田信長を描く長編となっています。

『国盗り物語』後半部の織田信長編と、本書『新史 太閤記』の前半部は時代的に重複しています。

同じ時代を『国盗り物語』では信長の視点から、『新史 太閤記』では秀吉の視点から味わうことができ、とても楽しいですよ。

『新史 太閤記』は『国盗り物語』の正式な続編というわけではありませんが、人物描写なども基本的には共通しているので、続けて読むことで司馬遼太郎の描く戦国時代をより深く味わうことができます。

また、信長から見た秀吉観、秀吉から見た信長観の違いも注目ポイントです。

一つの時代を様々な角度から楽しむことができる歴史小説のおもしろさをぜひ味わってくださいね。

秀吉の晩年を描かずに終わる

秀吉の人生は大きく分けると、下の3段階になります。

  1. 信長の家臣として一心不乱に働き、出世街道をばく進する
  2. 本能寺での信長横死を受け、その後を継ぐ形で天下統一する
  3. 権勢を極め老害と化す

1.から2.にかけて上り坂であったのが、3.に至って急降下していく落差の激しい人生ですね。まさに「晩節を汚す」というやつです。

あまりに上り坂と下り坂との印象の差が激しく、それも急激にプラスからマイナスに落ち込んでいくので、正直、小説の主人公としては扱いづらい人物といえるかもしれません。(序盤の好感度を維持したまま人生の終盤を描くことが難しい)

上でも触れましたが、司馬遼太郎さんは大阪生まれで、秀吉好きであることが知られています。

晩年の老害化した秀吉の姿を描くことなくこの『新史 太閤記』を完結させているのは、いかにも司馬遼太郎さんらしい終わり方といえると思います。

いいところだけを書き、悪いところを書かずに終えるというのは、秀吉が確かに持っていたもう一つの側面から目を背けているということで、この点が本作の長所でもあり短所でもあるでしょう。

小説の主人公としての「魅力ある秀吉」を描写したということなら大いに成功していると言えますが、この物語に続く形での秀吉の変貌を見てみたかった気もしています。

 

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終わりに

豊臣秀吉の天性の明るさ、そして機略に満ちた思考回路は単純に興味深いものばかりでとても楽しい読書でした。

好きな人物のことを描いている司馬遼太郎さんの筆の乗りっぷりが、読んでいる私にまで伝わってくるようなワクワク感がありましたね!

本記事を読んで、「豊臣秀吉の小説に興味が出てきたな!」と思いましたら、ぜひ司馬遼太郎さんの『新史 太閤記』を読んでみてくださいね。

最後までお読みくださり、ありがとうございます。

つみれ

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