こんにちは、つみれです。
このたび、鴨崎暖炉さんのミステリー小説『密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック』を読みました。
「密室での殺人事件であれば容疑者が無罪となる世界」が舞台の、「密室殺人事件」てんこ盛りの一冊です。
それでは、さっそく感想を書いていきます。
作品情報
書名:密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック(宝島社文庫)
著者:鴨崎暖炉
出版:宝島社(2022/2/4)
頁数:416ページ
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目次
密室尽くめのクローズドサークル・ミステリー小説!
私が読んだ動機
本作『密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック』が、私が所属している文学サロン「朋来堂」の「ミステリ部」2022年6月の課題図書だったので読みました。
こんな人におすすめ
- 本格ミステリーが読みたい
- 密室殺人ものが読みたい
- ライトノベルが好き
- 軽めのノリが好き
あらすじ・作品説明
現場が密室であったことにより被疑者が無罪となった判例によって、無罪を獲得するための密室殺人が激増した時代。
主人公の葛白香澄は友人の朝比奈夜月とともに、とあるミステリー作家が遺したホテル「雪白館」に宿泊することになった。
この雪白館は、10年前に発生して未だ解決されていない『雪白館密室事件』の舞台となったいわくつきのホテルだ。
雪白館の他の宿泊客たちは一癖も二癖もあるメンバーばかりだったが、彼らが次々と殺害されていく。
現場はいずれも密室で、死体の傍にはトランプのカードが残されていた。
密室尽くめの長編ミステリー
本作『密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック』は、タイトルからもわかる通り、密室殺人をテーマとしたミステリー作品です。
作中で扱われる事件のすべてが密室事件で、まさに「密室尽くめ」の一作となっています。
では、なぜそんなに密室事件が頻発するのでしょうか。
密室事件が激増した世界
一般に、「密室事件」はわざわざ密室にする意味が分からないと言われがちです。
本作ではその点、非常にうまい理由付けがなされています。
過去に「現場が密室だったことにより被疑者が無罪になった事件」があり、その判例によって「密室=無罪」の構図が成り立ちました。
この判例があるために、密室殺人の件数が爆発的に増えたというわけです。
おもしろい世界観ですね!
起きる事件のすべてが密室殺人というのは不自然さが先に立ちそうところ、この設定があるために「なぜ密室にしなければならないのか?」という根本的な問題を回避しています。
ライトな作風
本作の特徴の一つに読み心地のライトさが挙げられます。
雰囲気や文章が基本的にかなり軽めで、作風としてはライトノベル感が非常に強いです。
舞台にそぐわない緊張感のなさ
凄惨な事件が連続し緊迫した状況のはずなのですが、登場人物たちの会話が軽いので緊張感に欠けるところがあります。
キャラクターたちの行動も連続殺人が起きている建物のなかとは思えないほど緊張感に欠けていて、これは正直なところ読者の好みが分かれそうですね。
文体のライトさ
本作は文章についてもかなり軽めでストレートな表現が多く、特別魅力的ではありません。
ラノベっぽい文章が本作の軽薄さに拍車をかけていて、本格ミステリーらしい重厚感がほとんどないんですよね。
しかしその分、余計な修飾がなく読みやすいと言えるかもしれません。
ミステリーとして
本作は、作品自体が持つ軽めの雰囲気とは裏腹に、作中で扱われる密室トリックはかなり本格的です。
正直、序盤は「少しもの足りないかも」と思いましたが、中盤から終盤にかけては謎解きのレベルが高くておもしろかったです。
「リアリティに欠けるが理論的には可能」というレベルの実現性の低いトリックが頻出しますが、これが「謎解きゲームとしてのミステリー」にとてもマッチしています。
多少リアル感を損ねてでも、新機軸の密室で読者を楽しませてやろうという作者の気概を感じましたね。
「密室」にとことんこだわり、密室以外の事件は描いていないにもかかわらず、都度凝った仕掛けが用意されていて飽きさせない工夫がなされているのが良かったです。
わかりやすい描写
一般的に「密室系トリック」はけっこう仕組み自体が複雑で理解しづらいものも多いのですが、本作のトリックは図示も多く説明がわかりやすいです。
さまざまな密室トリックを楽しめるので、「次はどんな密室が登場するのか!?」というワクワク感がありました。
さらに物語の後半になればなるほど密室の強度(難易度と言ってもよい)が上がるのも良かったですね。
謎解きレベルが徐々にアップしていくので満足感がありました。
典型的なクローズドサークル
本作の舞台は典型的なクローズドサークル的状況となっています。
クローズドサークル・・・何らかの事情で外界との往来が断たれた状況、あるいはそうした状況下でおこる事件を扱ったミステリー作品。
物語の序盤で館に通じる橋が焼き落とされ電話線も切られるというクローズドサークル・ミステリーのお約束ももちろんしっかりと押さえられています。
これはミステリーファンもうれしいポイントですね。
稚気
本作には本格ミステリーらしい「稚気」が随所に散りばめられていて、これがかなりいい味を出してくれています。
たとえば密室殺人の現場には必ずトランプのカードが残されているのです。
こういうリアリティに欠ける趣向は「殺人に不要な要素が持つ不気味さ」以外に、「一連の殺人の連続性」を表す印でもあり、いかにも本格ミステリーらしい遊び心と言えますね。
また、「密室使い」といういかにも本作らしい犯罪者が本作の敵(犯人)として登場しますが、これもこの作品ならではの魅力です。
登場人物の覚えやすさ
本作では、登場人物の名前が覚えやすく配慮されています。
彼女は詩葉井玲子と名乗った。
「支配人のシハイさんか」
間髪入れずに夜月が呟く。『密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック』p.28
上の例のように、キャラクターの名前からその職業や立場が連想しやすいような名付けになっています。
キャラクターを覚えることに脳のメモリを消費せず、「トリックに集中できる環境」となっているのがすばらしいですね。
最近のミステリー作品にはこういった趣向が多い気がするので、もしかしたら一種のトレンドなのかもしれません。
オシャレな読者への挑戦
本格ミステリーには「読者への挑戦」という趣向があります。
読者への挑戦とは「ここまでの描写ですべてのヒントは出揃ったので、謎を解けるものなら解いてみろ」という作者の挑戦状です。
本作には明確な読者への挑戦はありませんが、物語終盤でそれに近い工夫がなされています。
ネタバレになるので詳細は書きませんが、その工夫がかなりオシャレでカッコいいので、ぜひ実際に読んで確認してみてくださいね!
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終わりに
『密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック』は、密室での殺人事件であれば容疑者が無罪となる世界が舞台の、「密室殺人事件」てんこ盛りのミステリー小説です。
とにかく多種多様の密室が楽しめるので、密室トリックが好きな人には特におすすめできる一冊となっています。
本記事を読んで、鴨崎暖炉さんの『密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック』がおもしろそうだと思いましたら、ぜひ手に取って読んでみてくださいね!
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
つみれ
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