こんにちは、つみれです。
このたび、松本清張さんの『日本の黒い霧(上)』を読みました。
GHQの占領下にあった時期の日本、そしてGHQから脱却した直後の日本で起きた不可解な事件を取り扱うノンフィクションです。
それでは、さっそく感想を書いていきます。
作品情報
書名:日本の黒い霧(上)(文春文庫)
著者:松本清張
出版:文藝春秋(2004/12/7)
頁数:416ページ
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目次
戦後日本の怪事件を扱うノンフィクション!
私が読んだ動機
- 下山事件に興味があった
- 昭和の怪事件に興味があった
こんな人におすすめ
- 未解決事件に興味がある
- 昭和の怪事件を広く浅く知りたい
昭和の怪事件を扱うノンフィクション
『日本の黒い霧』は戦後日本の怪事件を扱うノンフィクション短編集。
ノンフィクションなので本作で取り扱われている事件はすべて本当にあった事件です。
上巻で描かれる事件・事柄は下記の通り。
- 下山事件
- もく星号墜落事故
- 昭電疑獄・造船疑獄
- 白鳥事件
- ラストヴォロフ事件
- 伊藤律スパイ説
以上の事件は、過去に実際に起きたものだということは百も承知です。
しかし、事件が発生した年代と私が生まれた年代が隔たっていることから、まことに不謹慎ながら本作をミステリー的に読んでしまったところがあるのはご容赦いただければと思います。
下山事件
上記の通り、『日本の黒い霧(上)』では6つの事件がそれぞれ短編として扱われています。
そのなかでも出色の一作が1949年に起きた下山事件を描いた「下山国鉄総裁謀殺論」。
下山事件とは、国鉄総裁・下山貞則が不可解な経路の移動を繰り返したあとに失踪し、翌日轢死体となって発見された衝撃的な事件です。
個人的にも下山事件の内容を詳しく知りたくて本書を手に取ったという経緯があるので、期待しながら読みました。
実際にあった事件に対してこういう感想を持つのも不謹慎なのですが、「めちゃくちゃミステリーだ!」と感じましたね。
事件の不思議さ・不可解さは下手なミステリーをはるかに上回っており、まさに「事実は小説より奇なり」を地で行くような事件です。
この下山事件のあと、相次いで2つの国鉄関係の怪事件が発生しました。
下山事件を含めた下記の三事件を総称して「国鉄三大ミステリー」などと呼ばれることもあります。
- 下山事件
- 三鷹事件
- 松川事件
特に下山事件は、失踪直前の下山総裁の不可解な足取りや複数の目撃証言、異常な死体の状況などなど、謎のセンセーショナルレベルが高すぎるんですよね。
これがただの殺人事件ならまた印象も違ったと思いますが、GHQ内部の派閥争い的な綱引きも絡んだりと政治色も濃い事件です。
この「深追いしちゃいけない感」がまた絶妙に怪しくて昭和の闇を深く感じさせる一件でしたね。
下山事件については、他の書籍も当たってみたいです。
「もく星」号墜落事故
「もく星号墜落事故」を扱った「「もく星」号遭難事件」もなかなか衝撃的な内容でした。
これは1952年、日本航空のマーチン202、通称もく星号が伊豆大島・三原山に墜落した事故です。
この墜落事故については今まで私は知らず、本書を読んで初めて知りました。
もく星号墜落事故の不思議さは、最初、乗客全員救助成功という吉報が入ったにもかかわらず、後に一転して全員死亡という凶報にすり替わったこと。
これはなかなか奇怪です。
いったん安心させておいてから一気に絶望の淵に突き落とす趣味の悪さの裏にはどんな背景があったのか、このあたりの謎がミステリーでしたね。
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二大疑獄事件
短編「二代疑獄事件」では、戦後に起きた二つの贈収賄事件「昭電疑獄」と「造船疑獄」を取り扱います。
私にとってこの二つの事件は、実際にあった事件というよりも教科書で習った歴史用語という感覚が強かったです。
前二編と比べて経済的な色が濃く、とにかく私は経済に疎いので細部を理解するのに異様に時間がかかりました。
でも内容はかなり興味深かったです。
二つの事件を「狙って起こしたのか」「偶然起きたのか」という視点で対比的に考察しているのがおもしろかったですね。
「汚職事件はこうやって起きる」という構造的な問題を深く考えたことがなかったのでとても勉強になりました。
経済的な知識、法律的な知識があればより理解が深まったかもしれません。
私が近現代史をあまり勉強したことがないこともあり、とても新鮮な気持ちで読めた一編です。
後半3編
後半の3編は、いずれも「スパイ」が絡んでくるという共通点があるのが特徴的です。
扱われている事件は「白鳥事件」「ラストヴォロフ事件」「ゾルゲ事件」です。
いずれも私の知らなかった事件です!
事件そのもののセンセーショナルさもさることながら、「スパイって小説のなかの生き物じゃないのね!」という驚きが強かったですね。
さすがに小説の登場人物のスパイのような感じではないものの、ノンフィクション作品に登場するスパイの異様なリアルさに読んでいてちょっと怖くなりました。
一見単純そうに見える事件でも、その裏には意外なほど複雑な陰謀じみた背景がある場合があるんですね。
そういう意味でも怖い3編です。
陰謀論などに興味がある人は必読の内容です。
あとから否定された内容も
本作は1960年発刊ということで、当然のことながらその後に明らかになった事実は反映されていません。
今では否定されている内容も多分に含まれており、あくまで「当時のものの見方」だという認識を持って読むべき本です。
特に伊藤律のスパイ疑惑については、その後に発見された資料によって完全に否定されていて、本書のなかでも断り書きがあるほど。
本書の趣旨ではありませんが、歴史はただ一つの資料の発見によって様相が大きく変わるということを実感させられる読書となりました。
本書を読む場合には、後から否定された内容もあるということを前提として知りつつ読むのがおすすめです。
だからといって松本清張さんの洞察が信用ならないかというとそういうことはなく、ところどころに現れる鋭い考察に驚かされるシーンもたくさんありますよ。
スムーズに読むには
正直なところを言うと、本作はある程度「戦後の日米ソの関係」や「日共関係」の時代背景的な知識がないと読み進めるのが難しいかもしれません。
私はそのあたりの周辺知識が全くないので、都度調べながらの読書となってしまい読むのにとても時間がかかりました。
ただ、調べれば調べるほどこの時代に興味が出てくるのも事実で、本書は昭和前半期という時代に興味を持つきっかけとなりうる一冊といえるかもしれませんね。
とにかく引き続き下巻を読んでみようと思いました。
下巻は私が気になっている「帝銀事件」も取り扱われているということで、今から読むのが楽しみです。
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終わりに
『日本の黒い霧(上)』は、GHQの占領下にあった時期、そしてGHQから脱却した直後の日本で起きた怪事件を取り扱うノンフィクションです。
描かれている6つの事件のいずれかに興味のある場合や、昭和前半期の闇の部分に触れてみたい場合におすすめの一冊です。
本記事を読んで、松本清張さんの『日本の黒い霧(上)』がおもしろそうだと思いましたら、ぜひ手に取って読んでみてくださいね!
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
つみれ
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