こんにちは、つみれです。
このたび、伊吹有喜さんの『犬がいた季節』を読みました。
とある高校に迷い込んだ子犬「コーシロー」の存在を軸に、高校生たちの青春を描いた連作短編です。
また、2021年本屋大賞にノミネートされた作品でもあります。
それでは、さっそく感想を書いていきます。
▼2021年本屋大賞ノミネート作10作をまとめています。
作品情報
書名:犬がいた季節
著者:伊吹有喜
出版:双葉社(2020/10/15)
頁数:352ページ
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目次
6つの時代の高校生の青春を描く!
私が読んだ動機
2021年本屋大賞にノミネートされたので読んでみようと思いました。
こんな人におすすめ
- 高校生の青春物語が読みたい
- 犬が好き
- 連作短編が読みたい
- 読後感の良い物語が好き
- 本屋大賞ノミネート作品が読みたい
あらすじ・作品説明
とある高校に迷い込んだ子犬は「コーシロー」と名付けられ、そのまま飼われることになる。
以来12年間を高校で過ごしたコーシローは、その間、何人もの卒業生を見送る。
昭和、平成、令和の各時代の高校生の青春模様を描く一冊。
とある高校の六つの時代を描く
本作『犬がいた季節』の物語の舞台となるのは四日市市八稜高校(通称八高)。
この八高に迷い込み、そのまま飼われることになった「コーシロー」という一匹の子犬がいます。
本作は、このコーシローと高校生たちの交流を中心に物語が展開していく連作短編です。
といっても一つの時代の高校生たちの姿を描いているわけではありません。
六つの異なる時代で、その時代を生きる八高生たちと、時代を経るごとに少しずつ年を取っていくコーシローとの交流が描かれているのです。
- めぐる潮の音:昭和63年度(1988~1989)
- セナと走った日:平成3年度(1991~1992)
- 明日の行方:平成6年度(1994~1995)
- スカーレットの夏:平成9年(1997~1998)
- 永遠にする方法:平成11年(1999~2000)
- 犬がいた季節:令和元年(2019)
各編、八高が舞台ということは変わらないのですが、編ごとに少しずつ時代が下っていき、主人公はあくまでその時代の卒業生。
各時代の卒業生たちの青春、そしてコーシローとの交流を楽しむことができますよ。
また、時代時代の時事ネタ、当時話題・問題になっていたことなどがふんだんに盛り込まれていて、「時代の移り変わり」を楽しめるのも本作の醍醐味です。
当時を知っている人にとっては「そんなこともあったねえ」と懐かしみながら、知らない人にとっては「そんな時代があったとは」と驚きながら読むことができますよ。
各短編だけでも十分に楽しむことができるのですが、本作には連作短編ならではのおもしろい仕掛けがふんだんに盛り込まれています。
たとえば、前の編までの主人公たちの行動が後の編に何らかの影響を与えていることがわかったり、などです。
以上のように、連作短編であることのメリットを最大限に生かした作品となっており、連作短編の鑑と言ってもいいほどだと思います。
高校に迷い込んだ子犬
上にも書いたとおり、本作は八高に子犬コーシローが迷い込んできたところから物語が始まります。
コーシローは各時代の主人公たちの傍らで、高校生18歳の友情や決意を常に見守り、応援しながら、年を重ねていきます。
このように書くと、コーシローは物語の添え物のように思えてしまいますがそんなことはありません。
各話の冒頭と末尾はコーシローの独白となっています。
犬のコーシローの言葉は登場人物たちには伝わりませんが、読者にはこの独白の形でしっかりと伝わるんです。
コーシローは人間の発する匂いで感情を察する能力を持っていて、登場人物たちの秘めた想いが、この独白を通して読者にだけ伝えられます。
これが感情を揺さぶるんですね。
コーシローの独白パートはどこか滑稽でかわいらしさがありながらも、時に人間よりも物事を深く捉えていてハッとさせられることもしばしば。
読み進めるうちにコーシローのいじらしさ、かわいらしさにどんどん惹かれていってしまいます。
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各話の主人公は普通の高校生
本作の主人公は八高に通う高校三年生たちで、みんな卒業を間近に控え悩みを持っています。
進路のことだったり、家庭環境のことだったり、友情のことだったり内容はいろいろですが、そのすべてが等身大の悩み。
ここで描かれる高校生たちが決して優等生でないのがリアルでいいですね。
みんな軽く校則を違反していたりするんですが、そのあたりがサラッと描かれていてとても自然な高校生という感じ。
彼らの言動や考え方も変に芝居がかっておらず、スッと頭のなかに入ってきました。
変に肩肘を張ったり斜に構えた態度で読ませることがなく、読みやすくていい小説だなあと思いましたね。
また、時代が少しずつ下っていく構成になっているので、悩みを抱えながらも奮闘していた高校生たちのその後を知ることができます。これもおもしろいです。
本作は、現役高校生が読んで楽しむことができるのはもちろんのこと、様々な年代の人たちが高校生のころの自分を思い出しながら読むことのできる小説です。
各話を読む順番について
本作は昭和から平成を経て令和に至るまでの各短編が時系列に沿った形で並べられており、「各短編を読みながら一冊の長編を楽しむ」といった趣向になっています。
ですので、基本的には素直に前から順番に読んでいくのがおすすめ。
基本的に連作短編は、各編の並びにも仕掛けがあることが多いので収録順に読んでいくのがおすすめです。
特に、本作の第1編目「めぐる潮の音」は子犬のコーシローが八高で飼われることになった経緯を描いた物語になっていて、本作の土台部分に当たります。
「めぐる潮の音」のメインキャラである塩見優花、早瀬光司郎の二人は作中の主人公格のキャラのなかでも特殊な扱いを受けており、外せない一編となっています。
また、最終章はこれまでに登場した人物の「その後」がほのめかされる総まとめ的な内容になっているので、最後に読むことをおすすめします。
三重県四日市市の風景描写
本作の舞台は主に三重県四日市市となっていますが、この四日市市の描写が見事で市内の風景が実にうまく捉えられています。
実は作者の伊吹有喜さんは三重県の生まれで、四日市市の観光大使にもなっているそう。
伊吹さんの周辺地理の明るさが作品内の表現にも反映されているのでしょう。
地元作家によるすばらしい風景描写をぜひ味わってほしいですね。
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終わりに
時代は変わっても高校生の青春物語は変わらないんだなあと改めて思わせてくれるいい作品でした。
本作を収録順に読んでいくと、前に読んだお話が後のお話に影響を与えていることがわかってとてもおもしろかったです。
こういう楽しさは連作短編ならではですね。
本記事を読んで、伊吹有喜さんの連作短編『犬がいた季節』を読んでみたいと思いましたら、ぜひ手に取ってみてくださいね!
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
つみれ
▼2021年本屋大賞ノミネート作10作をまとめています。
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