スモールワールズ

ヒューマンドラマ

  (最終更新日:2021.10.30)

【感想】『スモールワールズ』/一穂ミチ:どこかせつない家族を描いた短編集!

こんにちは、つみれです。

このたび、一穂(イチホ)ミチさんの『スモールワールズ』を読みました。

 

家族がテーマのバラエティに富んだ6編を楽しめる短編集です。

 

また、第165回直木賞候補作(2021年上半期)、第12回山田風太郎賞(2021年)の候補作です!

それでは、さっそく感想を書いていきます。

作品情報
書名:スモールワールズ

著者:一穂ミチ
出版:講談社(2021/4/22)
頁数:306ページ

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どこかせつない家族を描いた短編集!

どこかせつない家族を描いた短編集

私が読んだ動機

第165回直木賞候補作にノミネートされたので読みました。

こんな人におすすめ

チェックポイント
  • 家族がテーマの物語を読みたい
  • いろいろな読後感を味わえる短編集が読みたい
  • 直木賞候補作を読みたい

あらすじ・作品説明

さまざまな読み心地の短編6編を収録。

 

  • ぎこちない夫婦関係に不穏さを滲ませる妻と、父から虐待を受けている少年の交流を描く「ネオンテトラ」
  • 離婚して出戻ってきた恐怖の姉と高校生の弟のやり取りをユーモアたっぷりに描く「魔王の帰還」
  • 初孫の誕生に喜ぶ祖母と娘夫婦の穏やかな日常の裏に隠された過去をひも解いていく「ピクニック」
  • 被害者遺族の女性と加害者の男性が手紙で交流を続ける様子を描く「花うた」
  • 離婚後長い時を経て再開した父子の奇妙な同居生活を描く「愛を適量」
  • 一年ぶりに連絡を取った先輩と後輩の旅先での何気ないできごとを描く「式日」

6編ともに「家族」をテーマにしていながら、全く違った読後感を提供してくれる短編集。

いろいろな読み心地を楽しめる

金魚の群れが泳いでいる

本書には6編の短編が収録されており、いちおう「家族」という共通したテーマがあります。

しかし、決して統一感のある短編集というわけでなく、いろいろなジャンルの盛り合わせといった印象です。

イヤミス風味の苦みたっぷりな作品があるかと思えば、読後の余韻が爽やかな青春ものがあったりと非常にバラエティに富んでいます。

全ての短編が異なった読み心地を提供してくれている上、いずれもかなりハイレベルでおもしろい!

いろいろな読後感があるのは良し悪しかもしれませんが、「せっかく買ったのにまるごと合わなかった!」とはなりにくい一冊です。

全く異なる6種の読み心地をぜひ味わってほしいですね。

短編の並び順も良い

電線に並んでとまる鳩たち

本短編集は、各編の並び順がとてもよかったです。

上にも書いた通り、いろいろなジャンルの作品が収録されている本短編集。

そのなかには大きく分けて「シリアス路線」のものと「コメディ路線」のものがあります。

並び順的に「シリアス」と「コメディ」が適度に切り替わり、「飽き」が来ないつくりになっていると感じました。

仮に一つの短編が合わなかったとしても、次の一編が全く異なる作風になっているため、気持ちを新たに読み進めることができますよ。

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珠玉の6編

6つのろうそく

上記の通り、本短編集『スモールワールズ』にはバラエティに富んだ6つの短編が収録されています。

下記で各編を簡単に紹介します。

ネオンテトラ

泳ぐ一匹のネオンテトラ

不誠実な夫とのモヤモヤする日々のやりとりに悩む美和(ミワ)

 

ある出来事をきっかけに、彼女は夜のコンビニのイートインスペースで中学生の少年笙一(ショウイチ)との交流に安らぎを見出すようになる。

一編目は「ネオンテトラ」。

しょっぱなから親しみやすさとは無縁のイヤミス風味!

どう見ても不健全な逢瀬が、美和の不健全な精神を浄化していくのがなんとも皮肉に見えてしまいます。

個人的に不倫ものは大の苦手でかなりのビターさを感じました。

「ネオンテトラの水槽」が暗示するものがとても印象的な一編でしたね。

正直、かなり好みの分かれそうな作品ではあります。

魔王の帰還

道路でトラックとすれ違う

実家に出戻った姉・真央(マオ)によって日常をかき乱されてしまう高校生の鉄二(テツジ)

 

高校で孤立していた鉄二とクラスメイトの菜々子(ナナコ)は、真央の行動力に引っ張られるようにしてあるイベントに参加することになる。

二編目は「魔王の帰還」。

前編「ネオンテトラ」とは打って変わって明るめでユーモアあふれる筆致が特徴的な一編。

 

とにかく鉄二の姉の真央が豪放磊落すぎて笑ってしまいます。

 

鉄二目線の真央評がおもしろく、読んでいて戦国武将みたいな姉だなと思っていたら、鉄二が同じツッコミをしていて噴き出しそうになりました。

ただ明るくておもしろいだけでなく、とあるエピソードの描写を境に熱い青春ものの面が強調されてきます。

メインキャラの鉄二・真央・菜々子の3人がとても親しみやすく、読後感もスッキリしていて、良くも悪くも重めな一編目との落差がおもしろいです。

とはいえ、それぞれの人物が程度の差こそあれ、過去につらい経験をしていて、どこか達観しているところがあります。

キャラが単に明るいだけではなく、時折り大人っぽさが垣間見えるギャップもよかったですね。

ピクニック

ピクニックのバスケット

のどかな陽光のもとでピクニックを楽しむ幸せそうな家族。

 

一家にはこのピクニックの一幕からは想像もできないような過去があった。

三編目は「ピクニック」。

一見幸せそうに見える家族が過去に経験した悲劇の物語です。

まず前2編と異なり、「です、ます」体の文章であること自体にすさまじい不穏さがにじみ出ています。

あまりここで書いてしまうとネタバレになるので詳細は伏せるのですが、この家族の秘密が判明するにつれて背筋が凍ってくる感じがなんとも落ち着かない一作。

この物語に平穏さの象徴と言えそうな「ピクニック」というタイトルをつけるのはなかなかヤバい(語彙力)

本短編集のなかでも特にミステリー的な味わいの強い一作でしたね。

 

すさまじくおもしろい一編でした。

これは本当に読んでよかった。

 

花うた

敷き詰められた便箋

過去に起きた傷害致死事件。

 

被害者の遺族の一人「新堂深雪(シンドウミユキ)」と加害者「向井秋生(ムカイアキオ)」は手紙のやり取りを重ねるうちに、次第に二人の心情に変化が訪れる。

四編目は「花うた」。

手紙の文面だけで進行していく「書簡体(ショカンタイ)小説」です。

いろいろな趣向の物語を提供してくれる本短編集のなかでも異彩を放っている一編ですね。

地の文がないからこそ、手紙と手紙の間にある空白部分を想像で補って読む必要があり、その「行間部分」が地の文以上に雄弁に彼らの心情の変化を語ってくれます。

とにかく最初の一通目の手紙が反則的にうまくて、これのおかげで先が気になってついつい読みたくなってしまうんですよ。

また、向井の文章力の変化によって、文面に現れない彼の日常生活や彼を取り巻くできごとがあれこれと想像できるのがすごいです。

愛を適量

温泉に濡れた岩

公立高校教師の「慎悟(シンゴ)」は、離婚時十二歳だった娘「佳澄(カスミ)」とそれ以来会っていない。

 

突然、佳澄が慎悟のマンションに現れ、不思議な同居生活が始まる。

五編目は「愛を適量」。

仕事もプライベートも冴えない中年オヤジとトランスジェンダーを告白する子の交流を描く一作。

何をやってもうまくいかない父と、離婚後長期間顔をあわせていなかった子というテーマから、ヘビーな物語が展開するのかと思いきや、意外にもコメディタッチ。

しっかり者に成長していた佳澄と、ダメダメな慎悟のやり取りがなんとも微笑ましいです。

ラスト間際に意外な展開もあり、本作のなかでも特に好きな一作ですね。

式日

線路のカーブを曲がる電車

一年ぶりの電話で「後輩」から頼まれ、後輩の父の葬式に参列することになった「先輩」。

 

旅先での何気ないできごとが二人の過去を照らす。

六編目は「式日」。

本短編集としては珍しく、登場人物の名前が明かされないまま進行していく物語。

二人のなんとなくそっけなくてぎこちない会話が妙にリアルです。

最後の一編が短編集全体をキリっと引き締めてくれるというのは、短編集としてはよくある趣向。

「式日」もそんな一編になっていて、最後に配置されていること自体に特別な意味を感じてしまいます。

さりげなく繋がる各編

手を繋ぐ男女のシルエット

本短編集に収録されている6編は、よく読んでみると各編がさりげなく繋がっています。

ですが、あからさまに繋がりがわかるように描かれてはおらず、むしろわかりにくいものが多いです。

本当にさりげないので、注意して読まないと気付けないようなものもけっこう多いんですよ。

この繋がりは仮に気付けなくても何の問題もありませんが、気付けるとちょっと楽しさがアップするという、短編集の良さを最大限引き出したつくりになっています。

 

読後に「あれとあれが繋がってるよね」と語り合いたくなることうけあいの一冊です!

 

 

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終わりに

『スモールワールズ』は、家族という共通のテーマを持ちながら、いろいろな読後感を楽しめるバラエティに富んだ短編集です。

各編いずれもおもしろくハイクオリティな一冊ですが、個人的には「魔王の帰還」「ピクニック」「愛を適量」が特によかったです。

本記事を読んで、一穂ミチさんの短編集『スモールワールズ』に興味を持ちましたら、ぜひ手に取って読んでみてくださいね!

最後までお読みくださり、ありがとうございます。

つみれ

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