こんにちは、つみれです。
このたび、千早茜さんの『ひきなみ』を読みました。
瀬戸内海の島に移り住むことになった小学生の少女・葉と、島内で孤立する少女・真以の関係性の変化を描く長編小説です。
また、本作は第12回山田風太郎賞(2021年)の候補作です!
それでは、さっそく感想を書いていきます。
作品情報
書名:ひきなみ
著者:千早茜
出版:KADOKAWA(2021/4/30)
頁数:264ページ
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目次
二人の女性の関係を追いつつ女性蔑視問題に切り込む!
私が読んだ動機
第12回山田風太郎賞候補作にノミネートされ、興味が湧いたので読みました。
こんな人におすすめ
- 島が舞台の物語を読みたい
- 女性の友情を描いた小説を読みたい
- 性差別・女性蔑視の問題を扱った小説に関心がある
あらすじ・作品説明
小学校最後の年、桑田葉は家庭の事情で香口という島にある祖父母の家に預けられることになる。
島の人間関係に馴染めなかった葉だったが、とある事件をきっかけに隣島の桐生真以と親しくなる。
しかし、二人の友情は突然の真以の失踪により途切れることに。
月日は流れ、毎日の会社勤めに疲弊する葉は、仕事の関係で閲覧したホームページ上に真以の姿を発見する。
二部構成で女性の友情を描く
本作『ひきなみ』は、前編・後編の二部構成になっています。
前編は「海」、後編は「陸」のタイトルがつけられています。
「海」編は主人公桑田葉の少女時代の物語が、「陸」編は大人になった葉の物語が綴られています。
「海」編
物語の前半部にあたる「海」編は、主人公・桑田葉の少女時代が描かれます。
葉は家庭の事情で瀬戸内海に浮かぶ香口という島の祖父母の家に預けられるようになります。
香口で暮らすようになった葉は、隣の亀島に住む桐生真以と仲良くなっていきます。
葉と真以の関係はしばらく安定していましたが、とある男性の出現により真以が失踪。
真以の行動を裏切りと捉えた葉は、島をあとにし東京に戻ってしまいます。
「陸」編
物語後半部の「陸」編は、大人になった葉が主人公のお話。
成長し社会人となった葉がどのような生活をしているかが描かれています。
また、「海」編では描かれなかった真以の裏事情や香島の秘密も明らかになるなど、本作の答え合わせ的な位置づけとなっています。
「陸」編によって物語前半の違和感が少しずつ氷解していきます。
葉と真以
東京から香口に来た葉は島の人間関係に馴染めず、島内で孤立していた真以と仲良くなっていきます。
葉と真以、二人の関係の変化を追うのが本作のテーマの一つ。
物語序盤では、特に葉の弱さと真以の強さが対比的に描かれています。
葉は島の閉鎖的・排他的な雰囲気に馴染めない面が強調して描かれ、真以に対しても「置いていかれたくない」「自分を一人にしないでほしい」という気持ちが強い。
一方、真以は香口で孤立していますが、したたかに生きている面が強調して描かれます。
真以は理不尽を感じたとき、納得がいかないときに相手に食ってかかっていける性格。
そもそも葉との出会いも、葉が男子にしつこくからかわれていたのを目の当たりにした真以が、その男子をボコった(葉から見れば救ってくれた)ことがきっかけ。
一見、真以が葉の足りないところを補っている関係に見えますが、読み進めていくとそんな単純な話でもないんです。
真以が葉に対して自分のことを多く語らないので、読む側としても二人の関係が非常に不安定に見えるんですよね。
ちょっとしたことで二人の関係が壊れてしまいそうでいかにも不穏なのですが、そのあたりの微妙な危うさが丁寧な筆致で綴られています。
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女性蔑視
本作は全体を通して「女性蔑視」「性差別」をテーマにしています。
物語前半の「島」編では、葉は祖父母の家に預けられることになります。
葉の祖父母の日常のやりとりや、寄合での男女の振舞い・立場の違いには、女性蔑視的な考え方の根強さが透けて見えます。
本作の場合、これを「香口という島の特殊性」と簡単に切り捨てるわけにいかないんですよね。
なぜなら続く「陸」編でも、姿を変えて女性蔑視が描かれているから。
「陸」編では、葉はとある大企業に勤めています。
葉の上司がセクハラ・パワハラ過剰でわかりやすい敵役として登場。
島という特殊性を失った分、「陸」編はいっそう現代社会に対する警鐘という意味合いが強まった印象を受けました。
本作は全編にわたって「男に対する女」の問題を取り扱っています。
女であるというだけで「女という属性」で一括りにし、本人を見ようとしない。
そういうことに対する問題提起的な面を強く感じる一冊です。
私は男ですが、本作は男女で感想が大きく変わってくる作品だと思いました。
言い出せないという問題
本作のテーマは女性蔑視でしたが、そのテーマに限らず「言い出せない」という問題の根深さを感じた読書となりました。
どこかおかしいと思っても、それを簡単に指摘することができない。
「昔からそうだから」とか「相手が社会的に高い立場にあるから」とか、そういう事情が障壁となって言い出せなくなってしまう。
本作でもあからさまな女性蔑視のおかしさに気づいていながら、それを指摘できない人が登場しました。
周囲から浮いてしまうことの恐怖だったり、自分がターゲットになってしまうことの恐怖だったりと理由は様々。
本作は「事なかれ主義」に対する問題提起でもある作品と言えそうです。
読後感の良さ
本作を読み終わって思ったのが、読後感がとても良かったということ。
陳腐な表現になりますが、葉と真以の絆の強さを噛みしめつつの読了です。
重いテーマを扱った物語でありながら、ラストシーンがとても美しく印象に残る一冊です。
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終わりに
『ひきなみ』は、葉と真以の二人の関係を追いつつ、女性蔑視・ハラスメント問題に切り込んだ一作です。
現代社会に対する問題提起の側面を持ち、とても考えさせられる作品でした。
重いテーマを扱っていますが、読後感がとてもよくスッキリと読み終えることができますよ。
本記事を読んで、千早茜さんの『ひきなみ』がおもしろそうだと思いましたら、ぜひ手に取って読んでみてくださいね!
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
つみれ
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