こんにちは、つみれです。
このたび、青柳碧人さんの短編「真相・猿蟹合戦」を読みました。
日本の昔話『猿蟹合戦』をモチーフにしたミステリー短編です。
本記事は『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』所収の一編「真相・猿蟹合戦」について書いたものです。
それでは、さっそく感想を書いていきます。
本作「真相・猿蟹合戦」と次に収録されている「猿六とぶんぶく交換犯罪」は、実質連続した一つの物語なので、両編併せて読むのがおすすめです。
作品情報
書名:真相・猿蟹合戦(『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』所収)
著者:青柳碧人
出版:双葉社(2021/10/21)
頁数:46ページ
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目次
本当の猿蟹合戦とは!?
私が読んだ動機
前作『むかしむかしあるところに、死体がありました。』がおもしろかったので続編にあたる本作も読みました。
こんな人におすすめ
- 『猿蟹合戦』が好き
- 二転三転する物語が読みたい
- 日本の昔話をモチーフにしたミステリーを読んでみたい
あらすじ・作品説明
狸の茶太郎は人間の長兵衛から「猿蟹合戦」の物語を聞く。
それは、一般に流布している「猿蟹合戦」そのもので、蟹は猿の南天丸に騙されたうえ固い柿の実を投げつけられて殺されてしまうというものだった。
蟹の敵討ちのために集まったのは栗、蜂、臼、牛糞の4匹。
4匹は見事な連携で猿の南天丸を倒し、敵討ちを成し遂げたという。
しかし、そんな「猿蟹合戦」の物語を信じ込んでいる茶太郎の前に栃丸という一匹の猿が現れる。
南天丸の息子を名乗る栃丸は「猿蟹合戦」の物語は間違っていることを指摘し、茶太郎にとある取引を持ち掛ける。
昔話『猿蟹合戦』をモチーフにしたミステリー
本作「真相・猿蟹合戦」は、昔話の『猿蟹合戦』をモチーフにしたミステリーです。
というより、「真相」とタイトルにもある通り、一般的に伝わる『猿蟹合戦』の物語は嘘で「その舞台裏にはこんな物語があったのだ!」とでっちあげた作品というほうが正確。
単純明快な復讐譚である『猿蟹合戦』が、意外な物語に変貌を遂げるおもしろさが光る一作ですね。
猿の栃丸によるテスト
本作は、狸の茶太郎が人間の長兵衛から昔話『猿蟹合戦』を読み聞かされるところから始まります。
そんな茶太郎の前に現れたのは一匹の猿・栃丸。
栃丸は茶太郎に対し「とある計画」を語りだし、協力するかどうかを問うのです。
しかし、栃丸は茶太郎を完全には信用しておらず、自分の協力者にふさわしいだけの知恵が茶太郎にあるかどうかを判断するという。
そして、「猿蟹合戦」が起こった時の状況を茶太郎に語って聞かせ、その真相を言い当てることができたら協力者として認めるというのです。
茶太郎の事情
これだけ聞くと、「茶太郎が栃丸に協力するのになぜそんなテストまでされなければならないのか」という疑問が当然のように湧いてきますよね。
しかし、茶太郎は茶太郎で栃丸に協力してほしい「とある事情」を抱えており、このテストに合格すれば自分の抱える問題に強力な助っ人を得ることができるわけです。
茶太郎は目的達成のために、「猿蟹合戦」の真相を言い当てることができるのでしょうか。
昔話に鋭いツッコミ
本作のおもしろい点は、本家の『猿蟹合戦』に対して鋭いツッコミを入れていること。
本家『猿蟹合戦』では、蟹の友達として「栗、蜂、臼、牛糞」の4匹が登場します。
蟹の友人が他の動物や水棲生物ではなく、「栗、蜂、臼、牛糞」というのはラインナップとして普通ではないですよね。
特に「栗」や「臼」「牛糞」などは動物ですらなく、よく考えればなかなか異常なチョイスといえます。
本作はその不思議な擬人化が起こった理由について鋭く切り込んでいます。
特に「柿」は果物のまま描かれているのに「栗」は意思を持っているという不自然さに鋭いツッコミが入れられており、作者の着眼のおもしろさが光っています。
作中ではこの点についても作者独自のおもしろい解釈が加えられていてとても楽しめました。
「栗」だけでなく「蜂」や「臼」などにも独自の物語が追加されており、敵討ちを行う側の背景や人物像が深堀りされているのもポイントですね。
後編「猿六とぶんぶく交換犯罪」とセットで読もう
短編集『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』所収の本作「真相・猿蟹合戦」とその次に収録されている「猿六とぶんぶく交換犯罪」は物語的に繋がりがあります。
もちろん「真相・猿蟹合戦」だけ読んでも十分におもしろいのですが、やはり続きの「猿六とぶんぶく交換犯罪」と併せて読んで初めて真価を発揮する物語なんです。
二編併せると『猿蟹合戦』と『ぶんぶく茶釜』の物語を巧妙につなぎ合わせた壮大な世界観が浮かび上がる力作なので、ぜひとも両編併せて読んでもらいたいですね。
ちなみに後編に当たる「猿六とぶんぶく交換犯罪」には、前編「真相・猿蟹合戦」のネタバレが含まれています。
そういう意味でも「真相・猿蟹合戦」「猿六とぶんぶく交換犯罪」の順番で読むのがおすすめですね。
終わりに
「真相・猿蟹合戦」は、日本の昔話『猿蟹合戦』をモチーフにしたミステリー短編。
昔話の『猿蟹合戦』に鋭いツッコミを入れながら、その舞台裏をミステリーチックにでっち上げた力作です。
本記事を読んで、青柳碧人さんの「真相・猿蟹合戦」がおもしろそうだと思いましたら、ぜひ『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』を手に取って読んでみてくださいね!
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
つみれ
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