こんにちは、つみれです。
このたび、凪良ゆうさんの連作短編集『滅びの前のシャングリラ』を読みました。
一ヶ月後に小惑星が地球に衝突すると宣告され全世界がパニックに陥るなか、主人公の4人が生きることの意味を再確認する連作短編です。
また、2021年本屋大賞にノミネートされた作品でもあります!
それでは、さっそく感想を書いていきます。
▼2021年本屋大賞ノミネート作10作をまとめています。
作品情報
書名:滅びの前のシャングリラ
著者:凪良ゆう
出版:中央公論新社(2020/10/8)
頁数:334ページ
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目次
あと一ヶ月で地球が滅ぶとしたらどうする?
私が読んだ動機
2021年本屋大賞にノミネートされたので読んでみようと思いました。
こんな人におすすめ
- 世界の終末を描いた小説が読みたい
- 家族の物語が読みたい
- バイオレンスな世界観が好き
- 本屋大賞ノミネート作品が読みたい
あらすじ・作品説明
一ヶ月後に小惑星が地球に衝突する。
そのニュースが駆け巡ると、世界は急速に荒廃していく。
「普通」の世の中に生きづらさを感じていた4人は、世界のタイムリミットが決まった世界を生きるうちに少しずつ変わっていく。
シャングリラ
本作のタイトルにある「シャングリラ」とは、とある小説に登場する理想郷の名前です。
そこから転じて一般名詞的に理想郷という意味でも使われるようになりました。
本来的には相容れない「滅び」と「シャングリラ」という言葉の並列には意味深なものを感じますね。
終末感あふれる社会
一ヶ月後、小惑星が地球に衝突します。
「まじか」『滅びの前のシャングリラ』kindle版、位置No.462
なんとも衝撃的ですね。
本作の序盤で、一ヶ月後に小惑星が地球に衝突し人類が滅亡する、というニュースが全世界を駆け巡ります。
最初は半信半疑だった人々も少しずつその事実を信じるようになっていくと、社会が徐々に壊れていくのです。
もともと人間は今の楽しみのためだけに今を生きているのではありません。
10年先、20年先を見据えつつ、都度自分の人生計画を微調整しながら今を生きているわけです。
それなのに、寝耳に水状態で知らされる一ヶ月後の世界滅亡の報。
大半の人間は自分の人生の残り時間を一ヶ月以上はあると見積もっていたはず。
長いスパンで見積もっていた自分の人生をあと一ヶ月でこなさなくてはならないとわかった時、人は残りの一ヶ月をどのように生きるのでしょうか。
あと一ヶ月しかないのだからと、好き勝手な行動を始める輩も多く出てきます。
当然、治安が急激に悪化していきます。
治安というのは、社会が今後も長く続いていくであろうことが信じられているからこそ「自分を守ってくれる概念」として機能します。
ところが多くの人々が「あと一ヶ月生き延びられればいいや」という考えに変わると同時に、そういった価値観も大きく変わっていきます。
ルールを守り治安の維持に貢献することが、自分の残りの人生を全うすることに直結しなくなるからです。
急激に治安が悪くなっていく社会で、残りの一ヶ月どうやって生き延びるかを考えるか、あと一ヶ月しかないのだから好きなことをやってやろうという考えに行きつくか。
そのどちらかなのではないでしょうか。
本作でメインに描かれるのは、地球滅亡の報が全世界を駆け巡ったあとの終末感にあふれたどこかなげやりでおざなりな社会です。
世界の終わりの間際の様子を描いている以上、良くも悪くもハードでバイオレンスな描写が多く、読む人やタイミングを選ぶ小説だと思いましたね。
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皮肉の物語
本作は連作短編になっていて、それぞれの編で異なる主人公が据えられています。
その主人公たちはみんな普通の社会にどこか生きづらさを感じている人ばかり。
各章の最初は、とにかくこの世界に生きづらさを感じている人たちの不遇な日常が描かれています。
例えば、1編目の主人公江那友樹は典型的ないじめられっ子で、訳のわからないゲームでいじめられたり、好きな女の子の前でパシらされたりしています。
また、2編目の主人公目力信士はチンピラくずれで、自堕落でなげやりな生活をしています。
信士は兄貴分の五島にヤバい仕事を頼まれても流されるまま承諾してしまうあたりに自分の命すら軽視している感じが見て取れますね。
心のなかで不遇をかこっているような彼らの人生が、小惑星衝突のニュースで一変します。
何気ない日常に窮屈さを感じながら生きている本作の主人公たちは、世界滅亡の間際になって何かしら自分なりの居場所を見つけようと行動を起こすのです。
『滅びの前のシャングリラ』という意味深なタイトルはこういうわけだったのですね。
「普通の社会」では幸せになれなかった人たちが、世界滅亡という絶望の状況下になってはじめてささやかな幸せを手にすることができるなんとも皮肉の物語です。
このまま世界が滅亡せずにそのあとも続いていけばいいのにと思ってしまいますが、そもそも彼らが享受している幸せは世界が滅亡するからこそ得られたものであるという究極の皮肉。
ここに本作の強いドラマ性があります。
もしあなたがこの状況に置かれたなら、どうしますか?という強烈な問いかけがあるように感じられましたね。
家族の物語
4編構成になっている連作短編集ですが、各編のストーリーがきれいに繋がっているので実質長編小説といってもいいほどです。
編のまたぎはあくまで語り手を変えるスイッチとして機能しており、物語がある程度進むと視点が切り替わるイメージです。
一見、1編目と2編目が無関係に見えるのですが、3編目を読むことによってそれまでの物語が一気に繋がってくる構成は非常におもしろかったですね。
私は本作を家族の物語と捉えました。
バラバラになっていた家族が終末を前に奇跡的に一つになっていく愛情の物語だと思ったのです。
なので、3編目までの各登場人物の関わりの濃さを考えると、正直4編目は異質だと思いました。
この4編目をどのように捉えるかは読む人によって変わってくると思います。
個人的には、もう少し家族の物語を読みたかったという想いが強く、4編目で物語を締めくくるのは若干消化不良感が残りましたね。
伊坂幸太郎『終末のフール』と読み比べてもおもしろい
本作『滅びの前のシャングリラ』の状況は、伊坂幸太郎さんの『終末のフール』と非常に似ています。
『滅びの前のシャングリラ』では一ヶ月後に小惑星が地球に衝突することになっています。
一方、『終末のフール』は8年後に小惑星が地球に衝突して地球が滅びると予告されてから5年経過したところから物語がスタートします。
『終末のフール』で描かれるのは、滅亡の予告直後は『滅びの前のシャングリラ』でも描かれたようなパニックが起きたものの、それもやや落ち着き「小康状態」にある社会。
残り3年という人生のタイムリミットが定められたなか、「生きる」ということの意味を再確認する登場人物たちの物語となっています。
二作を比べたときに最も異なるのが、滅亡のタイミング。
残り一ヶ月しかないのか、まだ残り3年あるのか。
このタイムリミットの違いによって、登場人物たちの心の余裕や諦めの深度に差異が生まれていて、読み比べてみるとおもしろいなと思いましたね。
単行本初回限定の小冊子「イスパハン」
2021年本屋大賞ノミネート作に関するオンライン読書会に参加したとき、本作の単行本初回限定の付録で「イスパハン」という小冊子があるということを教えてもらいました。
私はKindleで読んだのでこの小冊子の存在は知らなかったのですが、内容的にかなりオススメということでした。なんてこった・・・!
調べてみると、本作の登場人物のひとり「藤森さん」に関するスピンオフ作品だそうですね。
私もこの小冊子を読む機会があれば、感想を追記したいと思います。
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終わりに
皮肉の物語は、読む人の感情に強く訴えかけるものがあります。
読んでいるうちに、「本当は地球は滅びないんじゃないか?」とか「地球が滅びなかったらいいのになあ」と思わされてしまうんですよね。
本記事を読んで、凪良ゆうさんの連作短編『滅びの前のシャングリラ』を読んでみたいと思いましたら、ぜひ手に取ってみてくださいね!
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
つみれ
▼2021年本屋大賞ノミネート作10作をまとめています。
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