こんにちは、つみれです。
このたび、西加奈子さんの『夜が明ける』を読みました。
「俺」と「アキ」の二人の人生を通して、現代社会が抱える問題をあぶり出す物語です。
本作は、2022年本屋大賞ノミネート作でもあります。
それでは、さっそく感想を書いていきます。
▼2022年本屋大賞ノミネート作をまとめています。
作品情報
書名:夜が明ける
著者:西加奈子
出版:新潮社(2021/10/20)
頁数:416ページ
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目次
夜はいつ明けるのか?
私が読んだ動機
2022年本屋大賞にノミネートされたので読んでみようと思いました。
こんな人におすすめ
- 貧困・虐待・過重労働などのテーマに興味がある
- 現代社会が抱える問題をテーマにした物語を読みたい
- 二人の視点を切り替えながら展開する物語が好き
あらすじ・作品説明
高校時代に俺は深沢暁という男に出会う。
暁はフィンランドの無名の俳優、アキ・マケライネンにそっくりだったので、俺はそれを教えてやった。
それ以来、暁はアキの言動を真似るようになり、周囲からも「アキ」と呼ばれるようになる。
高校時代から33歳までの俺とアキの人生を交互に描く。
俺とアキの友情の物語
本作『夜が明ける』は、高校時代に出会った俺とアキの二人の人生を交互に描いていく物語です。
主人公の「俺」は名前が最後まで明かされません。
一方、「アキ」はニックネームで本名は深沢暁です。
基本的に俺が語り手となって物語が進行していきますが、アキのことを描くシーンでは「俺の語り」と「アキの語り」が入り混じる不思議な構造となっています。
二人の出会い
もともと映画好きだった俺は、いかつい風貌で孤立していた深沢暁を見てフィンランドの無名俳優「アキ・マケライネン」に似ていることに気づきます。
実際に俺はそのことを暁に教えてやると、暁はアキ・マケライネンにドはまりし、その言動を真似るようになります。
下手をすれば孤立しっぱなしだった恐れのある暁は、その「モノマネ」が周囲に受け、いつしか「アキ」と呼ばれるようになり友人が増えていきます。
本作は「アキ・マケライネン」で繋がった俺とアキの友情の物語なのです。
前編と後編
本作は、物語が前編と後編に分かれており、両者で読み心地が全く異なります。
前編
前編は俺とアキが高校時代に出会うところから、社会に出る直後までの時期を描きます。
暗い描写もありますが、基本的には未来に希望を抱く若者の物語です。
俺も「世界を変えたい」という野望を持ってテレビ関係の仕事に就くなど、未来を見据えた展開に希望を感じます。
後編
部分的に辛い描写を含みながらも基本的には希望の物語であった前編に対し、後編は絶望ムードが漂っています。
後編で描かれているのは、前編の時期から数年が経過し、社会に潰され希望を失い疲れ切っている二人。
とにかくこの後編が本当に希望がなくて辛いんですよ。
社会に出て辛い思いをする人は数多くいると思いますが、弱小の映像会社でボロくずのようになるまで使い倒された俺の疲弊した姿は本当にキツそうの一言。
後編の俺の物語は過重労働が一つのテーマになっていて、仕事に潰される辛い男の人生が描かれています。
一方のアキも「アキ・マケライネン」に憧れて劇団に入るものの、従来のコミュニケーションの下手さが災いし辛い経験を繰り返すことに。
俺とアキが互いに別々の道を進んだ先は、まさに暗い夜の道。
いつこの夜が明けるのか・・・となかば祈るような気持ちで読み進める読書でした。
数々の問題提起
本作は、貧困・虐待・過重労働などを現代社会が抱える問題を広く扱っています。
「貧困」と「奨学金」問題
本作のテーマの一つは、「貧困」と「奨学金」の問題。
貧困について、大学の奨学金返済の問題と絡ませて書いている点がとても良かったです。
「奨学金」は進学のためにお金が融通される制度ですが、目的を「進学」に置いている以上、語感的にプラスのイメージが漂いますよね。
しかし、実質的には借金と同じであり、「奨学金」という言葉はそういった印象を与えないズルい響きがあります。
結局、「奨学金」の語感に惑わされて後悔する若者が後を絶たないわけですから、最初から「借金」と言ってあげたほうがどれだけ親切だろうか!と思ってしまいます。
無知であることがリスクとなる現代社会において、こういう問題に真正面から切り込んでいる点はすばらしいと思いました。
ネタバレを避けるためここで詳細を書くことはしませんので、具体的にどんな事件が起こるかについては本編を読んでみてくださいね。
二人の家庭環境
俺とアキの二人はともに家庭環境によって苦労することになります。
ですが、高校時代に限定すると俺は恵まれた環境にあり、彼が貧困に喘ぐようになるのはだいぶ後の話となります。
一方、アキは物語冒頭部から一貫して恵まれない家庭環境にあります。
アキの物語はストレートに「貧困」と「虐待」がテーマになっていて、俺との関わり以外は基本的に辛い描写が多かったですね。
最初は恵まれた環境にあったのが徐々に「貧困」方向に向かっていく「俺の物語」と、もともと「貧困」の底にいた「アキの物語」。
「貧困」という共通点はありますが、印象はだいぶ違ったものとなっていますね。
何を描きたかったのか
上記の私の感想・作品説明を読んでもらうと伝わるかもしれませんが、正直、作者・西加奈子さんの主張が私に理解できているのか不安な読書となりました。
下記は本作に対してネタバレ・批判的な内容を含みますので、嫌な人は見ないでね。
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終わりに
『夜が明ける』は、「俺」と「アキ」の二人の人生を通して、現代社会が抱える問題をあぶり出す物語です。
本記事を読んで、西加奈子さんの『夜が明ける』がおもしろそうだと思いましたら、ぜひ手に取って読んでみてくださいね!
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
つみれ
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