こんにちは、つみれです。
このたび、小田雅久仁さんの『残月記』を読みました。
「月」をモチーフにした「異世界」を舞台にしたSF、もしくはファンタジー短編集です。
本作は、2022年本屋大賞ノミネート作でもあります。
それでは、さっそく感想を書いていきます。
▼2022年本屋大賞ノミネート作をまとめています。
作品情報
書名:残月記
著者:小田雅久仁
出版:双葉社(2021/11/18)
頁数:384ページ
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目次
「月」がモチーフのディストピア短編集!
私が読んだ動機
2022年本屋大賞にノミネートされたので読んでみようと思いました。
こんな人におすすめ
- SFやファンタジーが好き
- 短編集が読みたい
- 予測不能な「何でもあり」の物語が好き
- 現実と地続きの「異世界」を楽しみたい
あらすじ・作品説明
「月」にまつわる下記3編を収録した短編集。
「そして月がふりかえる」のあらすじ
家族とレストランに食事をしにきた大槻高志は、トイレに行くため席を外す。
トイレで不気味な男とすれ違い、席に戻る途中で「月」が振り返った。
月の裏面が完全に姿を現すと、家族は高志のことを忘れていた。
高志の人生は同姓同名の男に取って代わられてしまったのだ。
「月景石」のあらすじ
とある町で男と一緒に暮らしている澄香は、かつて叔母の桂子から不思議な石「月景石」を譲り受けた。
この月景石を枕の下に潜ませて眠ると悪い夢を見るという。
ある日、澄香は月景石を枕の下に入れて眠りに落ちた。
「残月記」のあらすじ
「月昂」という感染症が蔓延する近未来の日本。
「月昂」に感染した人間は、満月に近づくにつれて狂暴な一面が姿を現す。
家具職人の宇野冬芽も「月昂」に感染し、隔離のために療養所に「強制収容」される運命が待ち受けていた。
彼は補導員の男にとある取引を持ち掛けられる。
冬芽の戦いの日々が始まった。
月をテーマにしたディストピア短編集
『残月記』は月をテーマにしたディストピア(反理想郷)系の短編が3編収録された短編集となっています。
ディストピア短編集
本作『残月記』はディストピア短編集です。
収録作は下記の3編。
- 「そして月がふりかえる」
- 「月景石」
- 「残月記」(表題作)
収録作3編はともに現実世界と地続きの「異世界」が、そして突然平和な日常を失う主人公たちの姿が描かれています。
いずれもすっかり変わり果ててしまった暗く重い世界を舞台としており、まさにディストピア短編集といった一冊です。
普通に生きてきた人の普通の人生がいきなり一変してしまう恐怖を味わってほしいです。
月がテーマ
本作収録の3編には、「月」が主人公たちに変化をもたらす不気味なモチーフとして登場します。
この「月」が各編で全く異なる役割を果たし、そのいずれもがどこか不穏さを持っているのです。
収録作3編のなかでは、特に「そして月がふりかえる」に登場する月が最も不気味でいい味出していると思いました。
月がくるりと回転して裏面がこちらを向くシーンがマジで不気味です!
本作を読むときは、「月がどのような効果をもたらすのか」に注目しながら読んでみてくださいね。
連作短編ではない
『残月記』について、私は少し読み方を間違えてしまい、そのおもしろさを最大限に堪能することができませんでした。
どういう間違いを犯したかというと、本作を連作短編だと勘違いして読み進めてしまったこと。
つまり、1編目「そして月がふりかえる」と2編目「月景石」の主人公は、3編目「残月記」で合流するのだろうと勝手に思い込んでいたのです。
本当に読み終わる寸前まで本作を各編独立した短編集だと思わずに読んでしまったので、「おい、これ伏線回収できるのか」などと見当違いなツッコミまで入れながら読みました。
それどころか「かなりハチャメチャな物語だな・・・」などと思ってしまう始末。
なぜなら、各編での「月」の役割が全く異なっていて、いろいろ設定を盛り込みすぎだと思ってしまったからです。
3つの独立した短編を完全に別個のものとして楽しんでいたら印象が違ったかもしれません。
同じ失敗をした人もいたようなので、そういった勘違いを起こさせやすい要素があるのかもしれません。
各編独立した短編集であることを知っておいたほうが本作を楽しめると思います。
各編の読みどころ
本作に収録された3編の読みどころについて書きに書いていきます。
本当のところを言うと苦手な作品もありましたが、SFやファンタジーが得意でない私の正直な感想を書いていきます。
「そして月がふりかえる」
収録作のなかでは最も短い物語ながら、個人的には一番味わい深いと感じたのが「そして月がふりかえる」。
上にも書きましたが、月がその場で回転し裏面がこちらを向くシーンがかなり不気味で秀逸でした。
時間が止まっているシーンや、時が動き出した後、知り合いが自分を忘れている「異世界」の描写がとにかく不気味で、全体的にホラー感が強い一作です。
「月景石」
今は亡き叔母からかつてもらい受けた不思議な石「月景石」を枕の裏に隠して寝ると、異世界に飛んでしまうSF。
飛んだ先の異世界がディストピア感マックスでなかなか救いがない物語でした。
基本的に「どうしてそうなったか」の説明がないため「何でもアリ」感が強い一編。
個人的には世界観を十分に理解できず、消化不良の感があります。
「残月記」
本短編集の表題作です。
世界観がかなり緻密に作られており、作者・小田雅久仁さんのとんでもない想像力を実感させられる一作。
「月昂」という架空の感染症が流行った近未来の日本を描いています。
月昂感染者は、体調が月齢にかなり左右されるようになり、満月のときは身体能力が激しく向上し、攻撃的な性格になります。
他にも早口になったり、創作能力が上がったり、性欲が高まるなど、一種の躁状態になるわけですね。
一方、新月時は「昏迷期」と呼ばれ、体調が著しく悪くなり、これを乗り越えられずに死んでいく月昂者も多く存在します。
物語としては近未来版『グラディエーター』と言った感じで、為政者によって「月昂者」同士が隔離されたコロシアムで戦わされるというもの。
なかなかぶっ飛んだ展開に度肝を抜かれましたが、これは正直かなり好き嫌いが分かれそうです。
コロナ禍の前に描かれた一編ということですが、コロナ禍真っ最中の今読むと考えさせられるところのある一編ですね。
収録作3編のなかでも最もページ数が多い作品で、本作の約半分を占めています。
もはや短編というよりは中編といったほうがしっくりくるボリューム感ですね。
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終わりに
『残月記』は、「月」をモチーフにした「異世界」を舞台にしたSF、もしくはファンタジー短編集です。
収録作の3編は繋がっておらず完全に独立しており、各編で読み心地もかなり異なっています。
全体的に「何でもアリ」感が強く、個人的に苦手な一編もありましたが、作者小田雅久仁さんの想像力による緻密な世界観設定には驚かされました。
本記事を読んで、小田雅久仁さんの『残月記』がおもしろそうだと思いましたら、ぜひ手に取って読んでみてくださいね!
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
つみれ
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