ミステリー、サスペンス

  (最終更新日:2020.11.5)

【感想】『ジェリーフィッシュは凍らない』/市川憂人:SF寄りの本格ミステリー!

こんにちは、つみれです。

このたび、ミステリーとSFを融合させた市川憂人さんの『ジェリーフィッシュは凍らない』(創元推理文庫)を読みました。

トリックの見事さもさることながら、雰囲気やキャラクターなども実にすばらしかったです!とても楽しく読み終えました!

※「第26回鮎川哲也賞」受賞
 「2017本格ミステリ・ベスト10」(原書房)国内:第3位
 「このミステリーがすごい!2017年度版」(宝島社)国内:第10位

それでは、さっそく感想を書いていきます。

※ネタバレ感想は折りたたんでありますので、未読の場合は開かないようご注意ください。

作品情報
書名:ジェリーフィッシュは凍らない (創元推理文庫)

著者:市川憂人
出版:東京創元社 (2019/6/28)
頁数:382ページ

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二十一世紀の『そして誰もいなくなった』!?

私が読んだ動機

文庫化を機に読んでみようと思い、手に取りました。

こんな人におすすめ

チェックポイント
  • 本格ミステリーを読みたい
  • 「そして誰もいなくなった」系のミステリーが好き
  • 新感覚のミステリーを味わいたい

本作は、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』、綾辻行人の『十角館の殺人』などに代表されるような「誰もいなくなった」系ミステリーです。

クローズドサークルものの一形態といえるスタイルで、つまるところ私の大好物です!!

クローズドサークル

何らかの事情で外界との往来が断たれた状況、あるいはそうした状況下でおこる事件を扱った作品Wikipedia「クローズド・サークル」

外界との連絡手段が絶たれることも多い。サークル内にいる人物のなかに高確率で犯人がいると思われたり、捜査のプロである警察が事件に関与できない理由づけになったりなど、パズルとしてのミステリーを効果的に演出する。

「嵐の孤島」「吹雪の山荘」などがその代表例として挙げられる。

「誰もいなくなった」系ミステリーとは、外界との接触を断たれた状況で一人、また一人と登場人物が退場していくスタイルのミステリーのことです。登場人物がどんどん減っていくスリルがたまりません!

それは同時に犯人候補がだんだんと絞られていくことを意味しますが、最後の最後まで犯人が誰であるかを悟らせない、真相がどんなものかを悟らせない作者の演出がまたいいんですよ。

これらの要素があまりに魅力的でついつい読んでしまうんですよね。「誰もいなくなった」系ミステリー。

本作『ジェリーフィッシュは凍らない』も、とてもすばらしい「誰もいなくなった」的展開で楽しませてくれます。

まさに、二十一世紀の『そして誰もいなくなった』です。

つみれ
新本格ミステリーが好きな方にもおすすめ!

 

80年代アメリカのようなSF世界

本作、まず世界観がとてもいいです。

基本的には80年代のアメリカのような国が舞台(作中ではU国)となっていて、パソコンも一般には普及しておらず、当然スマホも一切登場しません。

しかし、現実のアメリカと異なるのは、タイトルにもある「ジェリーフィッシュ」という架空のクラゲ型飛行船が開発され、U国をはじめ、ある程度の普及を見せているというところです。

つみれ
そもそも「ジェリーフィッシュ」はクラゲのことらしい・・・

 

本作は、このジェリーフィッシュの機内で乗組員全員が他殺体として発見されるという謎の連続殺人事件が起こり、それを捜査していくというミステリー作品となっています。おい、最高かよ!!

単にミステリーというより、「特殊設定のミステリー&SF」というととてもしっくりくる感じですね。おもしろそうな要素しかありません。

このジェリーフィッシュのおかげで「いかにも近未来的な雰囲気が漂いながらも、実際には現実世界より少し過去」という非常にユニークな世界が描かれています。

文庫版解説にも書いてあるようにある意味ではパラレルワールドなのですが、これがたまらなく魅力的なのです。まるで洋画のようなこの雰囲気をぜひ味わってほしいですね。

また、クローズドサークル系ミステリーの場合、いかにして警察の捜査や文明の利器の行き届かない状況を作るかというところに作者の苦心が見え隠れするわけです。だいたい川に架かっている橋は落ちるし、電話線は切られるわけです。

本作は、「時代を少し過去にずらし、SF要素を盛り込む」ことでこれらの強敵をギリギリで回避し、世界観を演出すると同時に物語展開的にもすばらしい効果をあげるという離れ業を使っています。すごい。

つみれ
よく見知った世界のようだけどちょっとだけSFが入ってるという絶妙のラインをついているぞ

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3つの時間を描く構成

ミステリーでは、過去と現在とが交互に語られるスタイルのものはよく目にします。

本作もその一類ということができ、基本的に過去と現在が交互に語られます。

しかし、過去と現在が極めて近い時間であるのが一つの特徴です。本作では過去を「ジェリーフィッシュ」、現在を「地上」という形で章分けし、それらが交互に語られます。

  • 【ジェリーフィッシュ(過去)】:ジェリーフィッシュ内で連続殺人(と思われる)事件に巻き込まれた乗組員たちの物語
  • 【地上(現在)】:ジェリーフィッシュの事件発覚後に捜査に乗り出す刑事たちの物語

その他に、「インタールード」という上記の両時間軸とも異なる視点の物語が描かれます。インタールードとは、直訳すると「間奏曲」「幕間狂言」といった意味ですが、ミステリーの場合、犯人の独白や犯行風景などが描かれることが多いです。

本作のインタールードも、事件の真犯人らしき人物が自分の正体を明かさないまま、事件の発端となった出来事を述懐しているかのような物語が展開します。ヒント+伏線といった感じでしょうか。

【ジェリーフィッシュ】【地上】【インタールード】という3つの時間軸を順番に描きながら、少しずつ事件の真相に迫っていく物語となっています。

特にインタールードの犯人視点の物語が、読者に対しヒントを与えつつ、本作のスリル感、ワクワク感を増幅させるアクセントのような役割を果たしていてよかったですね。

キャラクターの魅力

本作の特徴として、過去を描く「ジェリーフィッシュ」パートと現在を描く「地上」パートとで雰囲気が大きく異なることが挙げられます。

その理由の一つに、登場するキャラクターの違いがあります。

「ジェリーフィッシュ」パートに登場する人物は、新しいジェリーフィッシュの試験運転のために搭乗した科学者たちなのですが、まあ彼らの怪しいことといったらありません。

みんな性格にクセがあるし、いかにも何か隠し事をしていそうなオーラをバンバン出している上、彼らが最終的に全員死んでしまうことが明らかになっています。だから、なんとなく落ち着かないジメジメした雰囲気なんですよね。

それに対して、何とも明るく物語を照らしてくれるのが「地上」パートに登場する刑事コンビ、マリアと漣(レン)です。

この二人が中心となってジェリーフィッシュで起きた惨劇の謎を解いていきますので、本作においては彼らが主役のような感じです。

マリアが上司、漣が部下に当たるのですが、この二人の関係がいいんですよ。

まずマリアは、非常に美人なのですが、性格的にはズボラでがさつ、加えてグータラという生活能力に乏しい人物として描かれています。

一方の漣は、皮肉屋で冷笑的。普段はマリアのズボラさや常識のなさを見ると嫌味を言わずにいられないというキャラクターです。

これだけ見ると、「えっ、どこがいい関係なのよ?」と思ってしまいますが、ひとたび事件に向き合うと!

マリアはいざというときにはとんでもない冴え、閃きを見せる「やるときゃやる女」。漣はマリアの足りないところ(スケジュール管理、今するべき事柄の整理、根気のいる作業など)を完璧にサポートする名コンビとなるのです。

こうなると、普段のマリアと漣の開き直りと嫌味の応酬のようなやり取りも、お互いを信頼しているからこそできるコミュニケーションに見えてくるから不思議ですね。

マリア・漣のやり取りの明るさは、「ジェリーフィッシュ」パートの暗さをうまく相殺し、物語に緩急をつけてくれていますね。いや~、いいコンビですよ!

 

 

▼クローズドサークルまとめ

【ネタバレあり】すでに読了した方へ

危険!ネタバレあり!

本作に登場する名文をご紹介してみようかと思います。

ネタバレ成分がありますので折りたたんであります!

今後本作を読む予定の方は開かないでくださいね!

ネタバレあり!読了済の人だけクリックorタップしてね

「そもそも今の俺たちがおいそれと警察へ通報できる状況にあると思うか。航行試験の件が外部に露見したら、お前も只では済まなくなるぞ」『ジェリーフィッシュは凍らない』kindle版、位置No. 619

教授には命を狙われてもおかしくない充分な理由がある。そしてそれは、自分たち技術開発部のメンバーも変わらない。『ジェリーフィッシュは凍らない』kindle版、位置No. 632

「ジェリーフィッシュ」パートの序盤も序盤というところで、乗組員たちが陰謀めいた不審な会話を交わしたり、後ろ暗さ全開の独白をしたり。もう彼らは最初から怪しいんですよね!彼らに対する復讐が事件の根底にあることは容易に推測されます。

ミステリーにおいて、彼らの持つ怪しさはまさに旨味ですね!本作のジェリーフィッシュの内部は旨味の宝庫です(←悪趣味)

いかにもな怪しさが物語序盤からフルスロットルで登場するので、読む側としてはこれからおもしろいミステリーが展開されるんだろうな、とついつい期待に胸がふくらみます。

 

「ちょっとレン、どんな魔法を使ったのよ。悪魔に魂売っ払いでもした?」

「そんなわけがないでしょう。貴女ではあるまいし」『ジェリーフィッシュは凍らない』kindle版、位置No. 2007

とある謎を漣が解決したときの、マリアと漣の軽やかな嫌味の応酬。なぜだか微笑ましくなってしまうこんなやり取りが本作にはいくつも登場しますが、そのうちの一つを抜き出しました。

こういうの、なんか好きですねえ。本作の魅力をアップさせている要素の一つと言えそうですね。

終わりに

二十一世紀の『そして誰もいなくなった』の名に恥じないすばらしいクローズドサークル・ミステリーでした!

上にも書きましたが、アガサ・クリスティの本場『そして誰もいなくなった』や、綾辻行人の『十角館の殺人』が好きな人にはぜひ読んでいただきたいですね。今風の「誰もいなくなった」系ミステリーが楽しめると思います。

いや~、これはおもしろすぎました。続編もあるらしいので近いうちに読んでみようと思います!

▼続編も読みました

 

最後までお読みくださり、ありがとうございます。

つみれ

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