こんにちは、つみれです。
このたび、知能犯が起こす連続詐欺事件を描いた高木彬光さんのミステリー小説『白昼の死角』(光文社文庫)を読みました。
法の目をかいくぐって罪に問われない詐欺を繰り返していく圧巻のピカレスク・ロマン(悪漢小説)です!
それでは、さっそく感想を書いていきます。
作品情報
書名:白昼の死角(文庫)
著者:高木彬光
出版:光文社 (2006/4/13)
頁数:848ページ
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目次
法の目をかいくぐる詐欺師を描く!
私が読んだ動機
- インターネットでおもしろそうな本を探していて見つけました。
- kindle unlimited の対象作品(2020年10月現在)だったので読みました。
こんな人におすすめ
- 詐欺や知能犯を題材にとった小説が読みたい
- ピカレスク・ロマン(悪漢小説)を堪能したい
- 大戦直後の世相や事件について知りたい
あらすじ・作品説明
とある作家が温泉療養のために訪れた箱根芦ノ湯で、一人の男と意気投合する。
その男の身なりから相当の身分のように思われ、何気なく職業を尋ねたところ、男は自分の商売は犯罪者だと言う。
作家が事情を聴き出してみると、男は過去にやってのけた恐ろしい一連の詐欺事件について滔々と語り始める。
法律の盲点を突いて大胆不敵な詐欺を繰り返してきた「天才的知能犯」鶴岡七郎の悪行の数々を淡々と描いた一冊。
法の網をかいくぐる詐欺
『白昼の死角』は、主人公鶴岡が起こす大胆不敵な詐欺事件が魅力的なピカレスク・ロマンです。
東京大学出身のエリートである鶴岡は、六法全書を隅から隅まで調べつくし、法律の抜け道・盲点を突いて詐欺を行う知能犯。
まだ警察力が整っていない未成熟な昭和初期だからこそ通用する手口という面も多分にありますが、とにかくやり方が鮮やかなんです。
法律の条文や判例をトコトン調べぬき、「ここまでやったら法律は自分を罪に問うことはできない」という安全地帯を探ります。
そしてその安全地帯に逃げ込めるストーリーを緻密に描き、適切な被害者を探し、入念に下準備を行う。悪ですねぇ!
次なるターゲットを見つけたときの高揚感、不気味さが凄まじいです。
警察側からすれば、鶴岡が犯人であるということはわかりきっているにもかかわらず、法律や判例の抜け道をうまく利用されて手出しすることができない。
鶴岡らが犯罪を実行に移すときのスリル感・鮮やかさ、そして鶴岡の罪を追及することができない警察・検察側の苛立ち・もどかしさの描写が秀逸です。
合間合間に鶴岡への復讐譚なども差し挟まれ、物語が進むにつれてよりダークに、よりダーティになっていくのもとてもよかったですね。
金融知識があるとより楽しめる
本作は、「手形のパクり」という詐欺をメインで扱っています。
白状すると、私はあまり金融関連に詳しくないので、銀行関連の細かい話や詐欺の詳細などの描写でわからない箇所も多々ありました。
金融の知識がもう少しあれば本作をより深く楽しめたんだろうな、と思いながらの読書となりました。
が、そういった知識の不足は、物語を追う上では特に不都合はありません。
難しいところは軽く読み飛ばしても、物語の大筋は簡単に理解できます。
難解な部分を補ってあまりあるおもしろさがありますので、興味があればぜひ読んでもらいたいなと思いますね!
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光クラブ事件
本作の主人公鶴岡が詐欺に手を染めるようになるきっかけとなるのが、本作の序盤で語られる「太陽クラブ事件」です。
鶴岡は同じ東京大学の仲間で、「悪魔的な天才」であった隅田光一から誘われ、闇金融業者「太陽クラブ」を結成します。
実はこの「太陽クラブ」は、終戦直後に実際に起きた事件「光クラブ事件」をモデルにしています。
東京大学の学生による闇金融業者「光クラブ」は、高い配当とセンセーショナルな宣伝、現役学生による金融業者という話題性によって莫大な金を集めます。
そして集めた金を、資金繰りに苦しむ中小企業に高利で貸し付けるという戦略で急成長しますが、その違法性から設立後わずか1年で摘発、倒産していくという事件です。
本作は、この「光クラブ事件」の主犯格を隅田光一という人物に置き替え、非常にうまく小説化しています。
鶴岡が「太陽クラブ」の活動のなかで隅田の薫陶を受け、次第に悪事に目覚めていく様子を、実際にあった「光クラブ事件」とあわせて味わうことでおもしろさが倍増します!
本作を読む前に、簡単に「光クラブ事件」について調べておくと、より本作を深く楽しむことができますよ。
大戦直後の昭和を描く
本作『白昼の死角』は、まだGHQの占領下にある終戦直後の混乱に乗じて金融詐欺を実行に移す詐欺グループを描きながら、当時の日本の空気感を如実に伝えてくれています。
闇ブローカーや闇金融が必要悪として幅を利かせる昭和初期という時代。
物資不足に苦しむ当時の雰囲気や、社会制度が未発達な時代の混沌感などが、実に鮮やかに切り取られています。
終戦直後の空気感に触れたい場合にもおすすめの一冊となります。
哲学的・芸術的詐欺
詐欺を重ねて行くうちに、鶴岡の手口がだんだんと哲学的・芸術的になっていきます。これがまたおもしろい!
もともと鶴岡は、危険なので同じ手口を二度は使わないという方針を持っています。(このおかげで物語が常に変化し、飽きさせない展開になっています)
手を変え品を変え、次々と新しい手口を考案するうちに、どんどんとエスカレートし、スケールの大きなものになっていく鶴岡の詐欺。
その鮮やかさに、ついついページをめくる手がとまらなくなってしまいます。
そして詐欺を重ねて行くうちに、だんだんと鶴岡の悪事に対する心理的な躊躇・ハードルが下がっていくところになんともいえない不気味さ、恐ろしさを感じさせます。
果ては、彼の詐欺は単なる金儲けのための犯罪ではなく、詐欺のための詐欺というような哲学的・芸術的な境地にたどり着きます。
「犯人が誰だかわかりきっているのに完全犯罪」という犯罪の美学をつき詰めたような鶴岡のやり方には、清々しさすら感じますね。
転落・破滅する被害者たちの人間模様
鶴岡の周辺にいる人物は、どんどん転落し、破滅していきます。
鶴岡が人間の心理を利用して獲物を捕捉し、絶望の淵に叩き落す様は、恐ろしさを通り越してある種の痛快さすら感じさせます。
鶴岡によって破滅する人物は金融詐欺の被害者にとどまらず、彼と一緒に仕事をした仲間、彼と関わりをもった女性たちにまで及びます。
特に鶴岡と関係の深い女性たちの人生模様は、本作の見所の一つです。
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終わりに
知能犯というものの恐ろしさが分かる、とにかく読み応えのある一冊です。
時代背景的にはけっこう古いので、こんな時代もあったんだな~、と懐古的に楽しむこともできますね。
極めて骨太な一冊ですが、本記事を読んで興味がわきましたら、ぜひ手に取って読んでいただけると嬉しいです。
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
つみれ
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