楽園とは探偵の不在なり

ミステリー、サスペンス

  (最終更新日:2022.04.29)

【感想】『楽園とは探偵の不在なり』/斜線堂有紀:連続殺人が起きないはずの世界で発生する連続殺人!

こんにちは、つみれです。

このたび、斜線堂有紀(シャセンドウユウキ)さんのミステリー小説『楽園とは探偵の不在なり』を読みました。

 

「二人以上殺した者は天使によって即座に地獄に堕とされる」という特殊なルールが取り入れられたクローズドサークル・ミステリーです。

 

それでは、さっそく感想を書いていきます。

作品情報
書名:楽園とは探偵の不在なり

著者:斜線堂有紀
出版:早川書房(2020/08/20)
頁数:320ページ

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連続殺人が起きないはずの世界で発生する連続殺人!

連続殺人が起きないはずの世界で発生する連続殺人

私が読んだ動機

「同一人物による連続殺人は起きないはず」という特殊設定がおもしろそうだったから。

こんな人におすすめ

チェックポイント
  • クローズドサークル・ミステリーが好き
  • 特殊設定ミステリーが好き
  • 奇抜な本格ミステリーを読みたい気分

あらすじ・作品説明

舞台は、二人以上殺した者は天使によって即座に地獄に堕とされるようになった世界。

 

探偵・青岸焦(アオギシコガレ)は富豪の常木王凱(ツネキオウガイ)に招待され、天使が群棲する孤島「常世島(トコヨジマ)」を訪れる。

 

天使の『降臨』によって「連続殺人が起きなくなった世界」になったにもかかわらず、常世島では相次いで殺人事件が発生。

 

探偵が不要となった世界で、青岸は再び事件に挑む。

孤島系クローズドサークル

夕方の島

本作『楽園とは探偵の不在なり』はクローズドサークル・ミステリーです。

クローズドサークルの説明は下記。

クローズドサークル

何らかの事情で外界との往来が断たれた状況、あるいはそうした状況下でおこる事件を扱った作品 <span class="su-quote-cite">Wikipedia「クローズド・サークル」</span>

外界との連絡手段が絶たれることも多い。

サークル内にいる人物のなかに高確率で犯人がいると思われたり、捜査のプロである警察が事件に関与できない理由づけになったりなど、パズルとしてのミステリーを効果的に演出する。

「嵐の孤島」「吹雪の山荘」などがその代表例として挙げられる。

本作は、富豪から呼ばれて絶海の孤島を訪れた招待客たちが事件に巻き込まれていく孤島系クローズドサークルです。

嵐に襲われるわけではないですが、迎えの船が数日後まで来ないのでその間外界から隔絶されるパターンですね。

「孤島+クローズドサークル」の組み合わせはこれまでにもいろいろな作家さんが作品を書いているミステリーの王道。

しかし、本作は「とある特殊設定」を加味することによって、全く別の味わいを提供してくれています。

なんとこの物語の世界には「天使」が登場するのです。

特殊設定ミステリー

渦を巻く炎

『楽園とは探偵の不在なり』の最大の特徴は、「特殊設定ミステリー」であること。

本作の舞台は、突然世界に天使が降臨し、「二人以上殺した者は天使によって即座に地獄に堕とされる」ようになってしまった世界です。

連続殺人が起きない世界

ハテナのブロック

「二人以上殺すことができない」ということは、言いかえれば「連続殺人が発生しない」ということ。

これは一見ミステリーと相性が悪そうですよね。

しかし、なんとこの特殊な設定があるにもかかわらず、本作では主人公たちが訪れる島で起きないはずの連続殺人が起こってしまうのです。

この趣向のおかげで、他ではなかなか読めない珍しい謎解きを楽しむことができるわけですね。

地獄に堕とされる

燃え盛る炎

本作では、二人以上殺してしまった者は、天使によってその場で地獄に引きずり込まれます。

 

天使が、そのワードから連想されるようなかわいらしい姿ではなく、非常にグロテスクな存在として描かれているのもポイントですね。

 

ミステリー的におもしろい点は、地獄に堕ちた人間の死体は跡形も残らず消えてしまうところ。

つまり、二人以上の死体が出た状態で一人の姿が見えない場合、たとえば下記の可能性が考えられるわけです。

  • 単独の犯人による連続殺人で、犯人は地獄に堕ちた
  • 複数の犯人による別々の殺人で、消えた犯人は姿を隠している

普通のミステリーにはない特殊な設定が一つ導入されただけで、謎解きの視点がガラリと変わるのがおもしろいですね。

特殊設定ミステリーは最近流行りの趣向ですが、本作は「本格+特殊設定」の可能性を強く感じさせてくれます。

クローズドサークルという使い古された感のあるシチュエーションが、特殊なルールを一つ追加しただけでこれほど新鮮な味わいに変わるとは本当にすごいです。

登場人物が覚えやすい

3人の影

本作では孤島「常世島」の主人・常木王凱から複数の人物が招待されます。

クローズドサークル・ミステリーの難しさは、物語の序盤で登場人物が一気にワーッと登場すること。

キャラクターを覚えるのが苦手な人はここで苦戦するんですよ!(私のことです)

本作もその例に漏れず、序盤で立て続けにキャラが登場します。

ところが本作は、キャラとその職業を結び付けやすいように人物の名前が工夫されています。

たとえば下記のような感じ。

  • 政崎來久(マサザキクルヒサ)(代議士)
  • 天澤斉(アマサワタダシ)(天国研究家)
  • 報島司(ホウジマツカサ)(記者)

説明するのも野暮ですが、政治家だから政崎だし、天国研究家だから天澤、記者は報じるから報島といった具合です。

 

本作ならではの職業「天国研究家」がいい味出してますね!

 

ただ正直、この趣向のためにあえて凝った名前になっているので覚えやすいかどうかは人それぞれかもしれませんね。

私はかなり覚えやすかったです。謎解きに集中した読者としては、こういう工夫は嬉しいですよねえ。(私は解けませんでしたが)

主人公・青岸の過去

未来と過去の標識

主人公の青岸焦は探偵事務所を開設しています。

しかし、「天使」の降臨によって連続殺人が不可能になり、探偵が不要な世の中になってから腑抜けになってしまうんです。

 

探偵は殺人以外にも調査をするので不要にはならないはずですが、ここでいう探偵とはあくまでミステリー的な探偵ということかもしれませんね。

 

天使の降臨は五年前に突然起きた現象なので、それ以前の青岸探偵事務所はそれなりに繁盛していました。

本作では過去の青岸探偵事務所が賑やかだった時代のエピソードがちょくちょく差し挟まれます。

この過去のエピソードがいいんですよ。所属していたメンバーたちも魅力的でね。

彼らが登場するサイドストーリーなどがあったらぜひ読んでみたいです。今後に期待ですね!

 

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終わりに

『楽園とは探偵の不在なり』は、突如出現した天使によって連続殺人が起きないはずの世界で、探偵が連続殺人事件の謎に挑んでいく特殊設定ミステリーです。

 

このオリジナリティあふれる特殊設定を加味することで、王道のクローズドサークルがこれまでにない味わいに変貌していますよ。

 

本記事を読んで、斜線堂有紀さんの『楽園とは探偵の不在なり』がおもしろそうだと思いましたら、ぜひ手に取って読んでみてくださいね!

最後までお読みくださり、ありがとうございます。

▼他のクローズドサークル作品を読みたい時はこの記事
>>おすすめクローズドサークル系ミステリー小説!

つみれ

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