心理試験

ミステリー、サスペンス

  (最終更新日:2022.05.28)

【感想】「心理試験」/江戸川乱歩:心理学の要素を盛り込んだ倒叙ミステリー!

こんにちは、つみれです。

このたび、江戸川乱歩(エドガワランポ)さんの短編「心理試験」を読みました。

 

名探偵・明智小五郎(アケチコゴロウ)緻密な犯罪計画を組み立てた優秀な犯人を追いつめていく短編ミステリーです。

 

本記事は『江戸川乱歩傑作選』所収の一編「心理試験」について書いたものです。

それでは、さっそく感想を書いていきます。

作品情報
短編名:心理試験(『江戸川乱歩傑作選』所収)

著者:江戸川乱歩
出版:新潮社(1960/12/27)
頁数:37ページ

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心理学で犯人が追いつめられる倒叙ミステリー!

心理学で犯人が追いつめられる倒叙ミステリー

私が読んだ動機

本編が収録されている『江戸川乱歩傑作選』が、私が所属している文学サロン「朋来堂」の「ミステリ部」2022年4月の課題図書だったので読みました。

こんな人におすすめ

チェックポイント
  • 名探偵・明智小五郎が初登場する物語を読みたい。
  • 倒叙ミステリーが好き。
  • 心理学の理論を組み込んだミステリーを楽しみたい。

あらすじ・作品説明

苦学生の蕗屋清一郎(フキヤセイイチロウ)は、友人・斎藤勇(サイトウイサム)の下宿先の大家が蓄財趣味を持っていて、大金を隠していることを知る。

 

蕗屋は綿密に計画を立てて大家を殺害し、奪った金を遺失物として警察署に届け出る。

 

世間の嫌疑の目は小心者で挙動不審な斎藤に向かう。

 

心理学を趣味にしている担当判事の笠森(カサモリ)は、第一の嫌疑者・斎藤と彼の友人で事件当日に大金を警察に届けた蕗屋の二人に「心理試験」を試みた。

 

試験の結果はやはり気の小さい斎藤に不利なものだったが、名探偵・明智小五郎は二人の試験の結果に違和を感じ取る。

倒叙ミステリー

フードを被った犯人

本作「心理試験」は倒叙ミステリーです。

倒叙ミステリー・・・最初から読者に犯人が明かされているミステリーのこと。

蕗屋清一郎という青年は高い学費にあえぐ苦学生でしたが、ある日、友人・斎藤勇の下宿先の大家が大金を隠し持っていることを知ります。

蕗屋はこの金は「おれのような未来ある青年」のために使うのが合理的だという無茶苦茶な理論から強奪計画を進めていきます。

 

とんでもない野郎です。

 

知的な犯人・蕗屋清一郎

黒板に描かれた豆電球

本作のおもしろい点の一つが犯人の蕗屋清一郎が非常に知的で用意周到なところ。とても緻密な性格が垣間見えるんです。

蕗屋の緻密な性格を示すエピソードは下記。

  • 老婆の金を奪う計画立案にたっぷり一ヵ月を費やす。
  • のちに受けることになる「心理試験」への対策(後述)を入念に行う。

特にすごいと思ったのが、蕗屋の大胆さ。

金の強奪と老婆の殺害をあえて日中に行ったり、奪った金を警察に届けたりなど、真犯人が行いそうにない大胆な行動を織り交ぜることで捜査の目を攪乱します。

 

単純に盗み取るのではなく遺失物取得で生じる所有権を狙っていく点は、この犯人の周到さを端的に示していておもしろいですね。

 

決定的に尻尾をつかまれるような内容でない限り、「不必要な秘密性」を排除し、あからさまにやってのけるほうがかえって発覚の恐れがないというのが彼の犯罪哲学。

強奪した金を拾得者として名乗り出るという危険な行動も「真犯人ならそんなことをするはずがない」という心理的効果を狙ったものなのです。

本作タイトルの「心理試験」は被疑者側が受ける「心理学に基づいた試験」のことを指していますが、犯人側の思考にも心理学的な側面が見て取れるのがおもしろい!

蕗屋の「自分が疑われないように」という目的に対する手段の緩急の付け方が絶妙で、なかなかナイスな犯人だと思いました。

蕗屋のミス

屏風柄の背景

以上のように本作の犯人・蕗屋清一郎はとても理知的で周到な性格をしていますが、彼も完璧ではありません。

蕗屋は老婆を殺害する際にちょっとしたミスを犯します。

格闘時、現場に立てかけてあった屏風を傷つけてしまうのです。

 

これは本当に何気なく書かれているのですが、ミステリー的には「犯人のちょっとしたミス」は破滅の伏線であることが多いですよね。

 

この伏線的な描写がのちにどのように生きてくるのかはぜひとも本作を読んで楽しんでもらいたいですね。

心理試験

テスト

本作において、蕗屋清一郎が罪を犯すシーンは言ってみれば前座のようなもの。

 

この短編のおもしろさは、本作のタイトルにもなっている物語後半部の「心理試験」に凝縮されています。

 

心理学に興味を持っていたという江戸川乱歩が、本作の中で心理学的な理論をミステリーに転用してみせました。

心理学をかじっている笠森判事

ジャッジ

事件の担当判事である笠森は、大家殺害の被疑者候補を全員招集し徹底的に取り調べます。

しかし、どれほど取り調べても一番怪しいのは殺害された大家の家に下宿する斎藤勇なのです。

そんな折、笠森判事は、老婆殺害事件と同日に、近隣の警察署に拾得物として大金を届け出た人物がいる旨の報告を受けます。

それは第一嫌疑者・斎藤の親友である蕗屋清一郎。

妙な符合に違和感を覚えた笠森判事は趣味の「心理試験」を彼ら二人に仕掛けてみることを思いつきます。

試験結果がおもしろい!

試験結果

以上のような経過で、本作のメイン登場人物である蕗屋と斎藤の二人は「心理試験」を受けさせられることになります。

この二人の心理試験の解答が作中で一覧表として載せられています。

 

この解答一覧がめちゃくちゃおもしろいんですよ!

 

生来気が弱く事件のことを何も知らない斎藤と、綿密な計画の上で殺害を実行し心理試験についても予行練習を重ねた蕗屋とでは、試験結果の差は歴然。

焦りに焦った斎藤の試験結果は、心理学をかじってはいるものの所詮素人の笠森判事にはいかにも怪しく見えてしまうのです。

生兵法は大怪我のもとという言葉が脳裏をかすめますね。

名探偵・明智小五郎の洞察

砂上の水晶玉

本作「心理試験」は、「D坂の殺人事件」に続く「明智小五郎」シリーズの短編です。

物語前半部は蕗屋清一郎が犯罪を犯す過程が描かれているので、明智小五郎の実質的な出番は後半以降になります。

詳細はここでは書きませんが、明智小五郎の洞察力と犯罪者を罠にはめる手腕などが最大限に発揮されていて最高に良かったですね。

 

明智小五郎の魅力がこれでもかと詰め込まれている一編です。

 

本作は蕗屋清一郎が前半部の主人公的なポジションなので、正直なところ、明智小五郎の活躍シーンはそれほど多くありません。

ですがそのインパクトは絶大。

探偵が単純に犯人を追い詰めるというのではなく、探偵と犯人の知恵比べ的・頭脳戦的展開のおもしろさは格別ですね。

優秀な犯人が緻密な計算に基づいて計画した犯罪が、犯人の一歩上をいく探偵によって看破され、やがて犯人逮捕に繋がっていくというところに本作の快感があるのです。

終わりに

「心理試験」は、名探偵・明智小五郎が緻密な犯罪計画を組み立てた優秀な犯人を追い詰めていく短編ミステリー。

 

タイトルの通り、心理学に基づいた分析や探偵・明智小五郎の鋭い洞察がめちゃくちゃおもしろい一編となっています。

 

本記事を読んで、江戸川乱歩さんの「心理試験」がおもしろそうだと思いましたら、ぜひ『江戸川乱歩傑作選』を手に取って読んでみてくださいね!

最後までお読みくださり、ありがとうございます。

つみれ

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