こんにちは、つみれです。
このたび、竹本健治さんのミステリー小説『狂い壁 狂い窓』を読みました。
「樹影荘」という陰気なアパートで立て続けに起こる怪事件に振り回される住人たちの混乱を描くミステリー小説です。
それでは、さっそく感想を書いていきます。
作品情報
書名:狂い壁 狂い窓(講談社文庫)
著者:竹本健治
出版:講談社(2018/2/15)
頁数:384ページ
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目次
不気味なアパートの住人を怪事件が襲う!
私が読んだ動機
本作『狂い壁 狂い窓』が、私が所属している文学サロン「朋来堂」の「ミステリ部」2022年5月の課題図書だったので読みました。
こんな人におすすめ
- ホラー感あふれるミステリーを読みたい
- 語り手が複数切り替わる物語が好き
- 陰鬱で不気味な雰囲気が好き
あらすじ・作品説明
産婦人科病院を改装した陰鬱なアパート「樹影荘」には六組の住人が住んでいる。
樹影荘では怪事件が続発し、住人たちも不安に苛まれる。
樹影荘の住人たちには秘められた過去があった。
意味不明な序盤とそれ以降
本作『狂い壁 狂い窓』は、序盤の「わけのわからなさ」が特徴です。
序章から序盤にかけて、ホラー的で何が起こっているのかわからない展開が続きます。
それに加え、視点の切り替えがかなり頻繁に起こり、語り手がコロコロと変わるのも特徴。
話に連続性がないので描写されている出来事を関連付けて記憶しづらく、私としては難度の高い読書を強いられた感じがありました。
序章
上にも書いた通り、本作は視点の切り替えを頻繁に行い、都度語り手が変わっていきます。
特に本作冒頭部の「序章」については、各エピソードが「誰が、いつ、どこで」体験した逸話なのかが書かれていません。
誰かの記憶の断片を切り取ったような不気味なエピソードがいくつか語られますが、読者としてはそのとりとめのなさに思わず混乱してしまいます。
しかし中盤以降を読んでいくと、序章の各エピソードの意味が徐々にわかるようになっているんですね。
わけのわからなかったものが「徐々にわかっていく過程」「ああ、そういう意味だったのね」という「腑に落ちるスッキリ感」を味わうところに本作の醍醐味がありそうです。
章タイトルは5文字
繰り返しになりますが本作はかなり頻繁に語り手が切り替わるのが特徴。
そして語り手が変わるタイミングで、都度「章タイトル」が設定されます。
章タイトルはすべて下記の通り5文字で統一されています。
- 死後の蜜月
- 夢を見る壜
- 沈黙のなか
この切り口で見ると全部で37タイトルが付けられています(つまりその分だけ視点切り替えがある)が、それがすべて5文字なんですよ。
パッと見では詩的な風情を感じるものの物語の性質を勘案すると、この名付けにもある種の偏執的なこだわりを感じますね。
タイトルの付け方に完璧主義的な執拗さのようなものを覚えました。
中盤以降はミステリー色が強くなる
中盤以降、楢津木という不気味な刑事が登場すると、徐々にミステリー小説的な属性が強まっていきます。
刑事・楢津木に関しては、私は完全に『笑ゥせぇるすまん』の喪黒福造のイメージで再生されました。
あんな感じの刑事です。
個人的には、よくわからなかった序盤の謎がスルスルと解けていく中盤から終盤がおもしろかったですね。
ミステリー属性が加味されてくるととたんにおもしろくなると感じましたが、これは人によるかもしれません。
不気味で不可解な描写に魅力を感じる人は序章から序盤の展開を、何が起こっているのかの謎解きに魅力を感じる人は中盤以降の展開を楽しむことができそうです。
樹影荘の雰囲気
本作の舞台となるアパートが「樹影荘」です。
かつては病院だった建物をアパートに改装したもので、もともと住居用ではなかったというのがポイント。
正直、かなりいびつな構造をしています。
部屋の大きさもそれぞれ全然違うし、建物内で互いに行き来できない空間があるなど、一筋縄ではいかない構造に思わず混乱してしまいます。
本作冒頭部には三階分の「樹影荘見取図」がついていて、基本的にはこれを参照しながら物語を読み進めていく形になります。
「各住人がどの部屋に住んでいるか」が物語のおもしろさに直結するので、早い段階で部屋と住人の関係性を頭に叩き込んでおくと本作をスムーズに楽しめますよ。
今風のアパートではない
この「樹影荘」がいわゆる今風のアパートではなく、いかにも「昭和」を感じさせる建物なんですよ。
各個人の生活空間が完全に独立しておらず、玄関部分やトイレなどが共用になっていて、隣人とのコミュニケーションをある程度強要されるような作りですね。
古い例えだけど、不気味な『めぞん一刻』みたいな感じ。
この構造が物語をおもしろくするうえで一役買っていますが、個人的にはあまり住みたい気持ちにはなりませんでしたね。
ちなみ巻末のあとがきに、この「樹影荘」の間取りは作者の竹本健治さんが以前住んでいたものとほぼ同じという趣旨のことが書いてあってかなり驚きました。
陰鬱さの発生源
本作は全編を通して陰鬱な雰囲気に包まれており、その空気感の発生源は「樹影荘」のたたずまいにあるのではないかと思います。
どこか陰りを帯びているような暗い「樹影荘」の雰囲気。
これが最高に良かったです。
もともと病院であった建物をアパートに改装している点や、路地の奥まった場所に建っている立地的なこともあるかもしれませんが、とにかく終始暗い雰囲気を発している感じでした。
昭和的で陰鬱な雰囲気を常に発しているような舞台が好きな人はぜひ読んでみてくださいね。
文章の独特さ
本作は作品の雰囲気だけでなく文章もかなり独特で、いわゆる「異体字」が多く使われているのが特徴です。
「体」ではなく「躰」みたいな感じ。
文章自体は理知的かつ端正で伝わりやすいのですが、とにかく漢字が難しくて読みづらく、サラッと読めずにウッと止まるようなテンポの悪さがありましたね。
難読字については、なんとなくこういう意味だろうなと想像したり、Kindleの辞書機能の力を借りたりしてどうにか読みました。
しかしこの「異体字」の多さは、本作の持つ「不気味さ」や「昭和的な空気感」をかなり助長している感じがあって、ホラー的な雰囲気を盛り上げてくれる効果的な演出でもあります。
読みやすさというメリットをかなぐり捨て、不気味さの演出のほうを重視したと捉えれば、頻出する「異体字」もまた本作の味と言えるかもしれませんね。
キャラクターについて
本作は基本的にキャラクターで読ませる小説ではないため、特段読む人を惹きつけるような人物は登場しません。
ただ、かなり強めの方言を話すキャラクターが複数登場して、これは個性的だなと思いました。
私は方言を持っていない人間なので、個性的な喋り方につい惹きつけられてしまうところがあるんですよね。
本作に登場する梅本夫妻や小野田などは方言で個性付けされている良いキャラクターだと思いました。
怖いのか?
本作は「怖さ」がウリの小説ということですが、怖いものが苦手な私としても実はそれほど怖くなかったというのが正直なところ。
おどろおどろしい雰囲気や序盤のわけのわからなさは不気味ではあるものの、「ギャー!怖い!もう無理!」となるような一作ではありません。
普通に「ホラー的な演出の多いミステリー」として楽しんで読むことができました。
「怖い物語」が苦手という人でもおそらく読めるのではなかろうか、というレベルですね。
ただ、虫が大量に登場したり、廊下が血まみれになったりと趣味の悪い描写があるので、そういう種類の描写が苦手な人は無理かもしれません。
『狂い壁 狂い窓』の素敵なつぶやき
『狂い壁 狂い窓』に関するTwitterのつぶやきのうち、参考になるものや素敵なものをご紹介します。
#竹本健治『狂い壁 狂い窓』(講談社文庫/2018年)
怪事件が続くアパート・樹影荘。
大半は嫌がらせレベルなのに、視点の切り替えや難解な単語が、不快感と不安感をじわじわと駆り立てます。冒頭からホラーの空気に吞み込まれますが、最後はちゃんとミステリ。
陰鬱とした映像美も素晴らしい!#読了 pic.twitter.com/BhT5IT2Rir— 文学サロン 朋来堂 (@horaido_j_book) May 15, 2022
竹本健治『狂い壁狂い窓』#読了
かつて産婦人科医院だったアパート「樹影荘」。そこで起こる奇妙な現象と相次ぐ怪事件…。狂気に満ちた建物で起こる事件の真実とは…?情景描写が陰惨でね…ジワジワと狂気が滲んでくるタイプの作品だったよ。 pic.twitter.com/Qh2UEQyQeF
— 長谷川 (@NowmanSho) October 22, 2019
第四の奇書「匣の中の失楽」も最高に野心的な反転の名作なのだが、ホラー者のアライさん的に、竹本健治は「狂い壁、狂い窓」が外せないのだ!
虫と血文字と白骨に彩られた狂気のアパートもの怪作ホラーミステリ。ぞわぞわおぞましくて皮膚にクるのだ!そういや昔Fateの奈須きのこ氏も絶賛してたのだ。 pic.twitter.com/SMhkAyWwnk
— 奇書が読みたいアライさん (@SF70687131) May 10, 2019
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終わりに
『狂い壁 狂い窓』は、「樹影荘」という陰気なアパートで立て続けに起こる怪事件に振り回される住人たちの混乱を描くホラー要素強めなミステリー小説です。
序盤のよくわからない描写が、終盤からラストにかけて一気に氷解していくスッキリ感もよかったですね。
本記事を読んで、竹本健治さんの『狂い壁 狂い窓』がおもしろそうだと思いましたら、ぜひ手に取って読んでみてくださいね!
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
つみれ
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