狂い壁 狂い窓

ミステリー、サスペンス

  (最終更新日:2022.05.16)

【感想】『狂い壁 狂い窓』/竹本健治:陰気なアパートで続発する怪事件!

こんにちは、つみれです。

このたび、竹本健治(タケモトケンジ)さんのミステリー小説『狂い壁 狂い窓』を読みました。

 

樹影荘(コカゲソウ)」という陰気なアパートで立て続けに起こる怪事件に振り回される住人たちの混乱を描くミステリー小説です。

 

それでは、さっそく感想を書いていきます。

作品情報
書名:狂い壁 狂い窓(講談社文庫)

著者:竹本健治
出版:講談社(2018/2/15)
頁数:384ページ

スポンサーリンク

不気味なアパートの住人を怪事件が襲う!

不気味なアパートの住人を怪事件が襲う

私が読んだ動機

本作『狂い壁 狂い窓』が、私が所属している文学サロン「朋来堂」の「ミステリ部」2022年5月の課題図書だったので読みました。

こんな人におすすめ

チェックポイント
  • ホラー感あふれるミステリーを読みたい
  • 語り手が複数切り替わる物語が好き
  • 陰鬱で不気味な雰囲気が好き

あらすじ・作品説明

産婦人科病院を改装した陰鬱なアパート「樹影荘」には六組の住人が住んでいる。

 

樹影荘では怪事件が続発し、住人たちも不安に苛まれる。

 

樹影荘の住人たちには秘められた過去があった。

意味不明な序盤とそれ以降

水たまり

本作『狂い壁 狂い窓』は、序盤の「わけのわからなさ」が特徴です。

序章から序盤にかけて、ホラー的で何が起こっているのかわからない展開が続きます。

それに加え、視点の切り替えがかなり頻繁に起こり、語り手がコロコロと変わるのも特徴。

 

話に連続性がないので描写されている出来事を関連付けて記憶しづらく、私としては難度の高い読書を強いられた感じがありました。

 

序章

モノクロの荒れた庭

上にも書いた通り、本作は視点の切り替えを頻繁に行い、都度語り手が変わっていきます。

特に本作冒頭部の「序章」については、各エピソードが「誰が、いつ、どこで」体験した逸話なのかが書かれていません。

 

誰かの記憶の断片を切り取ったような不気味なエピソードがいくつか語られますが、読者としてはそのとりとめのなさに思わず混乱してしまいます。

 

しかし中盤以降を読んでいくと、序章の各エピソードの意味が徐々にわかるようになっているんですね。

わけのわからなかったものが「徐々にわかっていく過程」「ああ、そういう意味だったのね」という「腑に落ちるスッキリ感」を味わうところに本作の醍醐味がありそうです。

章タイトルは5文字

チャプター

繰り返しになりますが本作はかなり頻繁に語り手が切り替わるのが特徴。

そして語り手が変わるタイミングで、都度「章タイトル」が設定されます。

章タイトルはすべて下記の通り5文字で統一されています。

  • 死後の蜜月
  • 夢を見る壜
  • 沈黙のなか

この切り口で見ると全部で37タイトルが付けられています(つまりその分だけ視点切り替えがある)が、それがすべて5文字なんですよ。

パッと見では詩的な風情を感じるものの物語の性質を勘案すると、この名付けにもある種の偏執的なこだわりを感じますね。

 

タイトルの付け方に完璧主義的な執拗さのようなものを覚えました。

 

中盤以降はミステリー色が強くなる

幾何学的な模様

中盤以降、楢津木(ナラツギ)という不気味な刑事が登場すると、徐々にミステリー小説的な属性が強まっていきます。

 

刑事・楢津木に関しては、私は完全に『笑ゥせぇるすまん』の喪黒福造(モグロフクゾウ)のイメージで再生されました。

あんな感じの刑事です。

 

個人的には、よくわからなかった序盤の謎がスルスルと解けていく中盤から終盤がおもしろかったですね。

ミステリー属性が加味されてくるととたんにおもしろくなると感じましたが、これは人によるかもしれません。

不気味で不可解な描写に魅力を感じる人は序章から序盤の展開を、何が起こっているのかの謎解きに魅力を感じる人は中盤以降の展開を楽しむことができそうです。

樹影荘の雰囲気

雨に濡れる雨どい

本作の舞台となるアパートが「樹影荘」です。

かつては病院だった建物をアパートに改装したもので、もともと住居用ではなかったというのがポイント。

正直、かなりいびつな構造をしています。

部屋の大きさもそれぞれ全然違うし、建物内で互いに行き来できない空間があるなど、一筋縄ではいかない構造に思わず混乱してしまいます。

本作冒頭部には三階分の「樹影荘見取図」がついていて、基本的にはこれを参照しながら物語を読み進めていく形になります。

 

「各住人がどの部屋に住んでいるか」が物語のおもしろさに直結するので、早い段階で部屋と住人の関係性を頭に叩き込んでおくと本作をスムーズに楽しめますよ。

 

今風のアパートではない

ブロック塀

この「樹影荘」がいわゆる今風のアパートではなく、いかにも「昭和」を感じさせる建物なんですよ。

各個人の生活空間が完全に独立しておらず、玄関部分やトイレなどが共用になっていて、隣人とのコミュニケーションをある程度強要されるような作りですね。

 

古い例えだけど、不気味な『めぞん一刻』みたいな感じ。

 

この構造が物語をおもしろくするうえで一役買っていますが、個人的にはあまり住みたい気持ちにはなりませんでしたね。

ちなみ巻末のあとがきに、この「樹影荘」の間取りは作者の竹本健治さんが以前住んでいたものとほぼ同じという趣旨のことが書いてあってかなり驚きました。

陰鬱さの発生源

グレーの暗雲

本作は全編を通して陰鬱な雰囲気に包まれており、その空気感の発生源は「樹影荘」のたたずまいにあるのではないかと思います。

 

どこか陰りを帯びているような暗い「樹影荘」の雰囲気。

これが最高に良かったです。

 

もともと病院であった建物をアパートに改装している点や、路地の奥まった場所に建っている立地的なこともあるかもしれませんが、とにかく終始暗い雰囲気を発している感じでした。

昭和的で陰鬱な雰囲気を常に発しているような舞台が好きな人はぜひ読んでみてくださいね。

文章の独特さ

異体字を含む斉藤の文字

本作は作品の雰囲気だけでなく文章もかなり独特で、いわゆる「異体字」が多く使われているのが特徴です。

 

「体」ではなく「躰」みたいな感じ。

 

文章自体は理知的かつ端正で伝わりやすいのですが、とにかく漢字が難しくて読みづらく、サラッと読めずにウッと止まるようなテンポの悪さがありましたね。

難読字については、なんとなくこういう意味だろうなと想像したり、Kindleの辞書機能の力を借りたりしてどうにか読みました。

しかしこの「異体字」の多さは、本作の持つ「不気味さ」や「昭和的な空気感」をかなり助長している感じがあって、ホラー的な雰囲気を盛り上げてくれる効果的な演出でもあります。

読みやすさというメリットをかなぐり捨て、不気味さの演出のほうを重視したと捉えれば、頻出する「異体字」もまた本作の味と言えるかもしれませんね。

キャラクターについて

3人の影

本作は基本的にキャラクターで読ませる小説ではないため、特段読む人を惹きつけるような人物は登場しません。

ただ、かなり強めの方言を話すキャラクターが複数登場して、これは個性的だなと思いました。

 

私は方言を持っていない人間なので、個性的な喋り方につい惹きつけられてしまうところがあるんですよね。

 

本作に登場する梅本(ウメモト)夫妻や小野田(オノダ)などは方言で個性付けされている良いキャラクターだと思いました。

怖いのか?

暗い公園

本作は「怖さ」がウリの小説ということですが、怖いものが苦手な私としても実はそれほど怖くなかったというのが正直なところ。

おどろおどろしい雰囲気や序盤のわけのわからなさは不気味ではあるものの、「ギャー!怖い!もう無理!」となるような一作ではありません。

 

普通に「ホラー的な演出の多いミステリー」として楽しんで読むことができました。

 

「怖い物語」が苦手という人でもおそらく読めるのではなかろうか、というレベルですね。

ただ、虫が大量に登場したり、廊下が血まみれになったりと趣味の悪い描写があるので、そういう種類の描写が苦手な人は無理かもしれません。

『狂い壁 狂い窓』の素敵なつぶやき

『狂い壁 狂い窓』に関するTwitterのつぶやきのうち、参考になるものや素敵なものをご紹介します。

 

※電子書籍ストアebookjapanへ移動します

 

終わりに

『狂い壁 狂い窓』は、「樹影荘」という陰気なアパートで立て続けに起こる怪事件に振り回される住人たちの混乱を描くホラー要素強めなミステリー小説です。

 

序盤のよくわからない描写が、終盤からラストにかけて一気に氷解していくスッキリ感もよかったですね。

 

本記事を読んで、竹本健治さんの『狂い壁 狂い窓』がおもしろそうだと思いましたら、ぜひ手に取って読んでみてくださいね!

最後までお読みくださり、ありがとうございます。

つみれ

スポンサーリンク

あと十五秒で死ぬ【感想】『あと十五秒で死ぬ』/榊林銘:「十五秒後に死ぬ状況」を描く4つの短編が収録!前のページ

【感想】「心理試験」/江戸川乱歩:心理学の要素を盛り込んだ倒叙ミステリー!次のページ心理試験

980円で電子書籍が読み放題!?

Kindle Unlimited をご存じですか

本を読むときにおすすめなのが、Kindle Unlimited の30日無料体験。

Kindle Unlimited は、月額980円で対象の電子書籍が読み放題となるサービスです。

最初の30日間が無料です。

実際に使ってみて合わないと思ったら、30日以内に解約すれば一切お金はかかりません。

 

いつでも無料で解約できます

 

関連記事

  1. 時空犯

    ミステリー、サスペンス

    【感想】『時空犯』/潮谷験:タイムリープと犯人当てをかけ合わせたSFミステリー!

    こんにちは、つみれです。このたび、潮谷験(シオタニケン)さんの『時…

  2. 白昼の死角

    ミステリー、サスペンス

    【感想】『白昼の死角』/高木彬光:法の目をかいくぐる天才詐欺師を描く!

    こんにちは、つみれです。このたび、知能犯が起こす連続詐欺事件を描い…

  3. 螢

    ミステリー、サスペンス

    【感想】『螢』/麻耶雄嵩:ネタバレ前に読むべし!

    こんにちは、つみれです。このたび、麻耶雄嵩さんの本格ミステリー小説…

  4. 『明智恭介 最初でも最後でもない事件』
  5. 魔眼の匣の殺人

    ミステリー、サスペンス

    【感想】『魔眼の匣の殺人』/今村昌弘:待望の『屍人荘の殺人』続編!

    こんにちは、つみれです。このたび、今村昌弘(イマムラマサヒロ)さん…

  6. ミステリー、サスペンス

    【感想】『眼球堂の殺人』/周木律:奇抜な館が舞台の理系ミステリー!

    こんにちは、つみれです。私はクローズドサークルもの(外界との往来が…

スポンサーリンク

最近の記事

  1. 密室黄金時代の殺人
  2. むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。
  3. 猿六とぶんぶく交換犯罪
  4. 真相・猿蟹合戦
  5. わらしべ多重殺人

カレンダー

2024年10月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  
  1. 二廃人

    ミステリー、サスペンス

    【感想】「二癈人」/江戸川乱歩:回顧談を楽しむ二人の不穏な関係性とは?
  2. いけない

    ミステリー、サスペンス

    【感想】『いけない』/道尾秀介:隠された真相に気づけるか?再読必至の連作短編!
  3. 星落ちて、なお

    歴史

    【感想】『星落ちて、なお』/澤田瞳子:天才絵師を父に持つ娘の苦悩を描く!
  4. 首が取れても死なない僕らの首無殺人事件

    ミステリー、サスペンス

    【感想】「首が取れても死なない僕らの首無殺人事件」/榊林銘:首の着脱可能な人間が…
  5. 魔眼の匣の殺人

    ミステリー、サスペンス

    【感想】『魔眼の匣の殺人』/今村昌弘:待望の『屍人荘の殺人』続編!
PAGE TOP