『クジラアタマの王様』

ミステリー、サスペンス

  (最終更新日:2021.07.24)

【感想】『クジラアタマの王様』/伊坂幸太郎:小説なのにマンガが!?

こんにちは、つみれです。

このたび、伊坂幸太郎さんの『クジラアタマの王様』を読みました。

物語の合間に「謎のマンガ」が差し挟まれるユニークな小説です!

それでは、さっそく感想を書いていきます。

作品情報
書名:クジラアタマの王様

著者:伊坂幸太郎
出版:NHK出版(2019/7/9)
頁数:328ページ

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小説なのにマンガが差し挟まれる!

小説なのにマンガが差し挟まれる

私が読んだ動機

  • インターネットでおもしろそうな本を探していて見つけました。
  • kindle unlimited の対象作品(2020年10月現在)だったので読みました。

こんな人におすすめ

チェックポイント
  • 変化球的な小説が読みたい
  • 斬新なアイディアの構成を味わいたい
  • 伊坂幸太郎のセリフ回し(伊坂節)が好き

あらすじ

製菓メーカーに勤める広報部員・岸の平凡な人生が、一本のクレーム電話対応をきっかけに一変する。

 

今を時めくアイドルや、権力志向の強い都議会議員など、クセの強いキャラクターたちに翻弄されながらも、次々と起こるトラブルをどうにか解決していく岸。

 

巨獣、投げる矢、動かない鳥ハシビロコウ。

 

時折差し挟まれる不可思議なイメージは一体何を意味するのか?

謎のマンガ

ハシビロコウ

『クジラアタマの王様』では、物語の合間に「謎のマンガ」が差し挟まれます。

本作の主人公・岸の周辺を描く小説部分はあくまで現実的な世界観であるのに対し、このマンガ部分は戦士や巨獣が登場するファンタジックな世界観です。

それも、「ハシビロコウの指示に従って、戦士たちが巨獣と戦う」という不可解さマックスの世界です。

そして、このマンガは前置きや説明などなく、突然、岸たちの物語の合間に差し挟まれるので、読んでいる側からすると、「どういうことだ?」となってしまいます。

ただの挿絵ではない

小説内に登場するイラストといえば、小説の内容を補完する挿絵が一般的ですよね。

ですが、本作のマンガは単純な挿絵ではありません。

その時に進行している物語の内容とはかけ離れた、一見、何の脈絡もないようなマンガが不意に差し挟まれていて、「小説の内容を補う挿絵」にはなっていないのです。

茶目っ気、いたずら心の旺盛な伊坂さんのことだから、「何か新しい試みなんだろうな」と思いながら二つのストーリーを読み進めていくとだんだんと仕掛けがわかってくる。そんな趣向になっているんですね。

マンガの意味がわからない序盤はその不可思議さを、だんだんとわかってくる中盤以降は物語との関連性を楽しむことができますよ。

文章を補う挿絵的なものではなく、ストーリーの一部分として「マンガ」を使うという大胆さ、ユニークさが本作のウリの一つですね。

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絵に味がある

川口澄子さんが描いているというこのマンガは、お世辞にも洗練されているとは言いづらいのですが、なんともいえない味があって不思議な魅力があります。

とぼけた絵柄というか、脱力系というか、そんな感じの絵柄ですね。

「ハシビロコウの指示のもと、戦士たちが巨獣と戦う物語」を描くにはあまりにそぐわない絵柄なので、すさまじくシュールです。

また、セリフが一切ないマンガなので、サイレント映画を観ているような不思議な感覚があり、その謎具合が強調されています。

絵だからこそ表現できるもの

マンガ部分に着目すると、「確かにこの描写はマンガの方が適しているな」と思わせてくれるのが、『クジラアタマの王様』の不思議なところです。

「文字が得意とすること」と、「絵が得意とすること」というのが明確に存在していて、それぞれ役割分担しているんですね。

「絵を使う」のは、小説としては邪道という気もしますが、「文字で表現しきれない部分を絵で」というのは非常におもしろい試みだと思いました。

3名の運命が交錯

物語の序盤は、普通の製菓メーカーの一社員である岸の日常を描いています。

イヤな上司や報われない同僚の描写についつい共感してしまい、思わず「これはお仕事小説か」と思ってしまうくらい普通です。

ただ、「謎のマンガ」の存在があるので、「ただのお仕事小説では終わらないだろうな」と思いながら読み進めていくことになるわけですね。

そんななか、「今をときめくアイドル、小沢ヒジリ」や「権力志向の強い都議会議員、池野内」が登場してくると、お仕事小説的だったはずの物語が、徐々に不穏さマックスに変化していきます。いいぞもっとやれ。

特に池野内の方はかなりエキセントリックなキャラクターで、彼が岸に大きく関わるようになってからは、物語が意外な方向に転がっていきます。いいぞもっとやれ。

岸・小沢・池野内の3名には、とある「共通点」があるのですが、それがわかってからは物語が加速度的に展開していきます。お仕事小説らしさは完全に失われます。

以上のように、とにかく物語の終着点が読めない!そんな小説です。

その不可思議さもあってか先が気になってページを繰る手が止まりませんでしたね。

これまでの伊坂さんの小説なら、この3名のキャラクターそれぞれを交互に語らせる形で3つの視点から描いていきそうなところです。

しかし、本作は一貫して岸を主役に据えていて、そこも新鮮さがありましたね。

伊坂節全開

伊坂さんの文章は、読むとすぐに「伊坂さんの文章だな」と分かる独特さがあります。

本作『クジラアタマの王様』でもそれは健在で、どこか人を食ったような独特のセリフ回しや、若干ひねくれた視点からとぼけた表現を生みだす様は、まさに「伊坂節」全開といった感じでした。

また、序盤の何でもないような小さな事柄があとで伏線となって生きてきたり、終盤のスリル感・スピード感あふれる展開など、いかにも伊坂作品らしい要素が多くて読んでいて安心感がありましたね。

スリル感のある描写から安心感が感じ取れるのが伊坂小説です(ホントか?)

コロナ騒ぎを予言!?

マスクと消毒薬

本作を読んでいて一番驚いたのは、2020年現在、全世界を騒がせている「コロナ騒動」を彷彿とさせる箇所があることです。

本作の刊行は2019年7月で、コロナ騒動が起こる前の作品です。

ネタバレになるので詳細はここで触れませんが、本作中盤から終盤にかけての展開があまりに現実の「コロナ騒動」に酷似しているので、空恐ろしさすら感じました。

コロナ騒ぎを知らない時期に生まれた作品なのに、現実のコロナ騒ぎを風刺したような箇所があるんです。

コロナ騒ぎを経験した今の段階で本作を読むと、伊坂さんの慧眼に恐れ入ってしまいますね。

 

 

終わりに

『クジラアタマの王様』は、冒頭からいきなり意味不明のマンガが登場するので面食らいますが、読み進めていくにつれて伊坂作品らしさが全開になる、そんな作品でした。

マンガの使い方がユニークで、なかなかチャレンジングな一作です。

物語の合間にマンガが差し挟まれる不思議な小説に興味があったら、伊坂幸太郎さんの『クジラアタマの王様』をぜひ読んでみてくださいね。

最後までお読みくださり、ありがとうございます。

つみれ

 

 

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