こんにちは、つみれです。
このたび、有栖川有栖さんの「学生アリス」シリーズ第3作目『双頭の悪魔』(創元推理文庫)を読みました。
英都大学推理小説研究会のメンバーが旅先の山や島に閉じ込められた上、殺人事件に巻き込まれるといういわゆる泣きっ面に蜂シリーズクローズドサークルを扱ったシリーズです。
大学生という立場のフリーダムさが大好きなのと、ミステリーが好きなのとが相まって、すでにお気に入りのシリーズとなっています。
それでは、さっそく感想を書いていきます。
ネタバレ箇所は折りたたんでありますので、未読の場合は開かないようご注意ください。
作品情報
書名:双頭の悪魔 (創元推理文庫)
著者:有栖川有栖
出版:東京創元社 (1999/4/21)
頁数:698ページ
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目次
まだ読んでいない方へ
私が読んだ動機
前作、前々作がおもしろかったので読みました。
こんな人におすすめ
- クローズドサークルものが好き
- 二つの事件を並行して追う楽しさを味わいたい
- 「読者への挑戦」に挑みたい(3回もある!)
冒頭でも触れた通り、本シリーズはクローズドサークルをテーマにしたミステリーシリーズです。
そのなかでも本作『双頭の悪魔』のユニークなところは、なんと二重のクローズドサークルという趣向で読者を楽しませてくれる点。
基本的には天候が悪化して橋が落ちるというクローズドサークルのお手本のような流れを辿ります。
おもしろいのは、この橋が繋いでいた両村落がともにクローズドサークル化し、主人公一行も二組に分断されてしまうところ。
さらに突っ込むならば、その後、両村落でともに殺人事件が起こるという冗談のような展開を迎えます。
物語は、各村落に一人ずつ計二人の語り手を据え、場面を切り替えながら二つの事件を追っていくことになります。
これはおもしろくないわけがありませんね!
アリス編とマリア編
旅先で事件に巻き込まれるのが本シリーズの特徴ですが、今回の旅の発端は前2作ほどおちゃらけたものではありません。
推理小説研究会のメンバーであるマリアがとある理由から家出してしまい、彼女を連れ戻すという名目で、四国の山深いところにあるという芸術家の村「木更村」を訪ねていくという流れです。
家出の理由は前作『孤島パズル』を読むとわかります。これもおすすめです。
この村が非常に排他的で、外部の人間は足を踏み入れるのも一苦労といった状況。
山深いところにある排他的な芸術家の村!
怪しさ全開ですね・・・!
これで殺人事件が起きないはずがないです!
マリアを連れ戻すために木更村を訪れるも、村落の住人とひと悶着起こしてしまい、結局橋を渡った先にある隣村「夏森村」まで半ば強制的に送り帰されてしまいます。
ただし、推理小説研究会部長江神二郎だけは、騒動の隙をついて木更村への潜入に成功します。
そういうわけで、下のような組み合わせができあがります。
- 江神部長とマリア(語り部はマリア)
- アリス含む推理小説研究会メンバー3名(語り部はアリス)
さらに先にも触れたとおり、両村を繋ぐ橋が豪雨によって流され、木更村がクローズドサークル化します。更に、読者の期待に応えて電話も不通になります。
夏森村も土砂崩れによって一時的に外部との交通が遮断されてクローズドサークル化したりと、なかなか凝ったつくりになっていて、読者の頭を悩ませてくれること間違いなしです。
この作品の最大の特徴は、この両村で別々の殺人事件が発生し、木更村ではマリアチームが、夏森村ではアリスチームがそれぞれ事件と向き合うという展開になっていくことです。最高ですか!?
前作までは、その快刀乱麻を断つ推理ぶりで数々の謎をぶった切ってきた江神部長が常に隣にいましたが、今回の夏森村の事件ではアリスたちが江神部長に頼ることなく様々な名(迷)推理を繰り広げます。ここも見どころのひとつでしょう。
「マリア編」は、天才的な江神部長の才覚によって事件が解決していく、言ってみれば前作までの系譜をひくストーリー展開です。
江神部長がいるから、マリア編は安心感があります
それに対し「アリス編」は、いわゆる探偵役という立ち位置の人物がおらず、ワトソンたちが集まってあーだこーだ言いながら事件の核心に少しずつ迫っていく総当たり的な謎解き展開となっています。
物語の趣旨からは遠く離れますが、とりあえず発言してみる!ことの大事さがわかります。
的外れのような発言が呼び水となって、他の人間のひらめきに繋がっていくようなシーンは実際の会議などでもありますよね。ここがアリス編のおもしろいところです。
アリス編は安心感は皆無です
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ゲストキャラクターたちの魅力
本作は「学生アリス」シリーズの第3作にあたりますが、前2作に比べて圧倒的にすばらしいのが、木更村の芸術家たちのキャラクターです。
前々作『月光ゲーム』も、前作『孤島パズル』も、ともにミステリーとしては秀逸な出来だと思いますが、登場人物の造形については、他人と差別化できていなかったり、覚えづらかったりといった欠点がありました。
ところが本作の登場人物は、「画家」であったり「音楽家」であったり「詩人」であったりと明確に差別化できているので非常に覚えやすい。
さらに、彼らの特殊技能が一部謎解きにまで関わってくるので、職種が肩書きだけで終わらないというすばらしさがありますね。これは見事と言わざるを得ません。
木更村の住人の一人に志度晶という詩人がいるのですが、彼が非常にいいキャラクターをしています。
ワカメのような蓬髪、斜に構えたような言動など、いかにも怪しい感じなんですが、アリス一行と意気投合するシーンもあり、妙な人間くささがいい感じです。レギュラーキャラになってほしいと思わせるほどです。
他にも逆立ち歩きをする舞踏家(本作を読んでいると感覚が麻痺してきますが、現実社会にこんなのがいたら私は脱兎のごとく逃げます)がいたり、ミステリアスな画家がいたり、改めて書き出してみるとみんな怪しいですねえ。
この住人たちも決して一枚岩ではありません。
まず、木更村の観光資源に目をつけた住人の一人が、鎖国状態であった木更村のレジャーランド化を目論み、それに他の住人たちが難色を示すという構図があります。
既にこの時点でギスギスしているのですが、そこに殺人事件が絡み、人間関係は複雑化していきます。
うむ!ミステリーはこうでなくちゃね!という要素を満たしていますね。
3回の読者への挑戦
ミステリーに詳しい方は「えっ!」と思うかもしれませんが、本作、「読者への挑戦」が3回も登場します。
その前に「読者への挑戦」とはどういうものかご説明します。
推理小説の手法の一つ。探偵や刑事役が犯人を特定する前に物語を止め、読者に対して誰が犯人であるかを問うこと。エラリー=クイーンの一連の作品などが知られる。コトバンク「読者への挑戦」
本作は、上記の通り、「アリス編」と「マリア編」とが並行で進行していきますが、その両編で1回ずつ、さらに事件の全貌として1回、合計3回の読者への挑戦が登場するのです。
これは実に豪華・・・!!本格ミステリーファンなら歓喜してしまうところですね。
まぁ、私は一つも解けませんでしたが・・・。文句ある?
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終わりに
一応、本作は単体でも楽しめるように作られていますが、やはり私は、『月光ゲーム』、『孤島パズル』と読んでからの方が満足度が高いのではないかと思います。
特に『孤島パズル』を読まないと、マリアがただのお騒がせ娘になってしまって若干不憫というのがあるんですよね。
それはそれとして。
2つのクローズドサークルと3つの読者への挑戦が特色のミステリー『双頭の悪魔』。
非常におもしろい作品でした。名作ですね!
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
つみれ
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