こんにちは、つみれです。
私は辻村深月の作品が大好きなのですが、最近は他の作家さんの作品も手に取ることが多くなって、相対的に辻村作品を読む機会が減ってきていました。
今回感想を書いていく『かがみの孤城』(ポプラ社)はかなりおもしろいという感想を何度も目にしていましたし、読もう読もうと思っていたのですが、なかなか手に取るところまでいきませんでした。
そうこうしているうちに、本作、本屋大賞を受賞しました。おめでとうございます!
しかし、同時に私は思いました。
「・・・しまった!遅れをとったか!」
あふれるミーハー心を抑えることができずに、ついに購入に踏み切った次第でございます。
笑わば笑うがいいさ!
実はこの本、帯に「問答無用の著者最高傑作」とあって、これがいかにおおげさかというのは、これまでの経験上わかっているわけです。
ハードルを上げすぎると作品にとっても読者にとってもいいことないのに・・・ブツブツ・・・。
そもそも辻村深月には『スロウハイツの神様』という傑作があるから、最高傑作というハードルは相当高いはずなのに・・・ブツブツ・・・。
などと、呪文のように唱えながら帰宅し、ページをめくりました。
「おぉお、おもしろい!!」(←単純)
それでは、感想を書いていきます。
※ネタバレ箇所は折りたたんでありますので、未読の場合は開かないようご注意ください。
作品情報
書名:かがみの孤城
著者:辻村深月
出版:ポプラ社 (2017/5/11)
頁数:554ページ
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目次
まだ読んでいない方へ
私が読んだ動機
本屋大賞の受賞で一気に読みたくなりました。
こんな人におすすめ
- 少年少女の心の繊細さを味わいたい
- 小説で感動したい
- 話題の本を読みたい
この作品については、初期辻村作品群の読後感、という表現を何度か見てきましたが、まさにいい得て妙です。
序盤は辛い状況を耐え抜くような描写が多いけれども、後半一気に爽快モードに移行。
少年少女の繊細な精神面を丁寧に、そして鋭くすくい取る抜群の洞察力。それを過不足なく読者に伝える表現力。
いやー、これでこそ辻村深月作品。
登場人物たちは中学生ですが、同じ年代の方々にぜひおすすめしたい作品ですね。
もちろん、他の年代の方でも十分楽しめるすばらしい一冊です。
不登校の生徒の心情を鋭く描く
辻村深月の作品には、「いじめ」や「仲間外れ」などのテーマがたびたび登場します。
以前、朝日新聞に連載されていた「いじめられている君へ」というコラムに、辻村深月が投稿した記事があったそうで、それによると彼女も中学時代には辛い思い出が多いといいます。(私はウェブでこの記事を読みました)
この中学時代の辛い記憶が、彼女の描く作品に強い影響を与えていることは間違いないのでしょう。
いじめられている側、いじめている側の心情を、実に的確にすくい取り、鋭く描き出してきます。
カーテンの布地の淡いオレンジ色を通し、昼でもくすんだようになった部屋は、ずっと過ごしていると、罪悪感のようなものにじわじわやられる。
自分がだらしないことを責められている気になる『かがみの孤城』p.12
とある事情で不登校になってしまった主人公こころの心情を描いた箇所です。
学校が辛いなら行かなければいい、という単純な方法では何も解決しません。
不登校になった生徒側も、その状況を良好な状態だとは決して捉えていなくて、葛藤なり、罪悪感なりがあるけれども、どうしていいかわからないという複雑な心情をとらえている。
物語が始まってわずかなページで、主人公の置かれた状況とこの小説のテーマとが見えてきます。
そして、辻村深月が、そういう機微に敏感な作家であるということも非常によく伝わってきますね。
すごい文章だなあと思いました。
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招待客の共通点
ある時、主人公のこころの部屋にある大きな姿見が光りだします。
試しに触れてみると、そのまま「鏡の向こう」に引きずり込まれてしまいます。
気がつくと、そこには西洋風のお城があり、狼のお面をつけた少女「オオカミさま」に出迎えられるのでした。
・・・なんというファンタジックな話か!
ファンタジーが苦手な私は、一瞬「これは私に合わないやつか」という考えが頭をかすめましたが、まったくもって問題なかったです。
紆余曲折あって、こころは鏡の世界と現実世界を行き来するようになるのですが、「オオカミさま」に招待されたのはこころだけではなかったのです。
少年が4名。少女が2名。こころを含めて計7名。
こころが物語の序盤で気づいたように、鏡のなかの不思議な世界も時間の流れは現実世界と共有しているようです。
一般的には学校に行っていなければならない時間帯に鏡の世界にやってくることができる7名は、つまり「学校に行っていない」。
城のルール
「オオカミさま」曰く、かがみの孤城には下記のルールがあるとのことです。
- 招待された7名はそれぞれ自分の鏡を使って、鏡の世界と現実世界を行き来できる。
- 城には鍵のかかった「願いの部屋」があり、入ると願いが叶う。
- 願いの部屋に入れるのは、鏡の世界のどこかにある「願いの鍵」を探し当てた一人だけ。
- タイムリミットは3月30日までの約1年で、それを過ぎれば鍵も城も鏡の世界も消える。
- 誰かが鍵を見つけ、願いの部屋を開いた場合も、同じく「閉城」となる。
- 城が開いている時間は、日本時間の朝9時から夕方5時まで。
- 5時までに退城しない者がいたら、その日の来城メンバー全員がペナルティーを受ける。
- ペナルティーは「狼に食われる」こと。
7人それぞれの事情
鏡の世界に呼ばれた7名が何か深刻な事情を抱えていて不登校になったのだろう、ということは物語の序盤からなんとなく察せられます。
しかし、序盤では、登場人物の誰もが他人の事情の深い部分に関わろうとはせず、表面的な付き合いに終始しています。
これは「不登校」の原因になった何らかの事情が彼らから積極性を奪っているようにもとれるし、現実世界の事情を知らない者同士の気楽な付き合いに安心しているからともとれ、なかなか深いです。
いずれにしても、だんだんと彼らの結束が固まり、鏡の世界が居心地のいいものになっていくにつれ、彼らの持つそれぞれの事情も見えてくる。
そうなってくると、誰かが鍵を見つけ願いを叶えること自体が、「抜け駆け」的な意味を持ってきます。
鏡の世界の居心地の良さと現実世界をどうにかしなくてはという焦り。
この二つを天秤にかける7人の心の揺らぎが非常にうまく描かれていて、それが本作の醍醐味でもあるのでしょう。
すごい作品です。
伏線がいっぱい
上記の内容からは、ファンタジックな香りしかしませんが、実際に読み進めてみると、そこはさすが辻村深月というべきか、ミステリー要素がふんだんに盛り込まれています。
そのほとんどがネタバレになってしまうのでここでは触れませんが、細かい伏線がよく利いていて、後半になればなるほど、「あれがここに繋がるのか」という驚きを味わうことができます。たのしいですね!
仕込まれている伏線のうちいくつかは直感的に気づけるような難易度の低いものもあり、謎解きという意味では手軽な楽しさ、嬉しさがあります。
ただし、伏線の数が恐ろしく多いので、全てを言い当て、物語の全貌を看破するのはなかなか至難の業といえるでしょう。
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危険!ネタバレあり!辻村流の鋭く深い心理描写や泣きそうになるほどの名文、名言がいくつもありますが、そのうちのいくつかをご紹介します。
ネタバレ成分を多く含みます!
今後読む予定の方は絶対に見ちゃダメ!おもしろさが激減するよ!
終わりに
今まで辻村深月といえば『スロウハイツの神様』をおすすめしてきましたが、ちょっとこれは強力なライバルが出現してしまいましたね。
正直に言ってしまうと「本屋大賞」受賞作ってどんなもんかね、みたいな試すような気持ちで読んだ部分もあったのですが、すみませんでした。
いやー、本当にすばらしい作品です。まさに感動の一作。
やはり、後半の展開がすばらしかったですね。これぞ辻村深月作品といった感じです。
読み終わるのがもったいない!という稀有な作品でした。辻村深月渾身の感動作。また、いつか読み返したいと思います。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
つみれ
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