かがみの孤城

ミステリー、サスペンス

  (最終更新日:2021.07.24)

【感想】『かがみの孤城』/辻村深月:感動の一作。これはすごい。

こんにちは、つみれです。

このたび、辻村深月(ツジムラミヅキ)さんの長編青春ミステリー『かがみの孤城』(ポプラ社)を読みました。

本作は2018年本屋大賞受賞作です!

それでは、感想を書いていきます。

※ネタバレ箇所は折りたたんでありますので、未読の場合は開かないようご注意ください。

※2021年3月3日追記

本作の文庫版が発刊されましたが、本記事の引用箇所は単行本当時のものです。

作品情報
書名:かがみの孤城

著者:辻村深月
出版:ポプラ社 (2017/5/11)
頁数:554ページ

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まだ読んでいない方へ

辻村深月の感動の一作

私が読んだ動機

2018年本屋大賞の受賞をきっかけに読みました。

こんな人におすすめ

チェックポイント
  • 少年少女の心の繊細さを味わいたい
  • 小説で感動したい
  • 話題の本を読みたい

本作『かがみの孤城』を評して、「初期辻村作品群の読後感」と表現されているのを何度か見てきました。

これはまさにいい得て妙です。

序盤は辛い状況を耐え抜くような描写が多いのですが、後半にさしかかると一気に爽快モードに移行。

少年少女の繊細な精神面を丁寧に、鋭くすくい取る抜群の洞察力。それを過不足なく読者に伝える表現力。

辻村深月さんの真骨頂がこれでもかと詰め込まれていますね。

メインの登場人物たちは中学生ですが、同じ年代の方々にぜひおすすめしたい作品です。

もちろん、他の年代の方でも十分楽しめる一冊になっていますよ。

不登校の生徒の心情を鋭く描く

辻村深月さんの作品には、「いじめ」や「仲間外れ」などのテーマがたびたび登場します。

以前、朝日新聞に連載されていた「いじめられている君へ」というコラムに、辻村深月さんが投稿した記事があったそうで、それによると彼女も中学時代には辛い思い出が多いといいます。(私はウェブでこの記事を読みました)

この中学時代の辛い記憶が、彼女の描く作品に強い影響を与えていることは間違いないのでしょう。

いじめられている側、いじめている側の心情を、実に的確にすくい取り、鋭く描き出してきます。

カーテンの布地の淡いオレンジ色を通し、昼でもくすんだようになった部屋は、ずっと過ごしていると、罪悪感のようなものにじわじわやられる。

自分がだらしないことを責められている気になる『かがみの孤城』p.12

とある事情で不登校になってしまった主人公こころの心情を描いた箇所です。

学校が辛いなら行かなければいい、という単純な方法では何も解決しません。

不登校になった生徒側も、その状況を良好な状態だとは決して捉えていなくて、葛藤なり、罪悪感なりがあるけれども、どうしていいかわからないという複雑な心情をとらえている。

物語が始まってわずかなページで、主人公の置かれた状況とこの小説のテーマとが見えてきます。

そして、辻村深月さんが、そういう機微に敏感な作家であるということも非常によく伝わってきますね。

すごい文章だなあと思いました。

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招待客の共通点

ある時、主人公のこころの部屋にある大きな姿見が光りだします。

試しに触れてみると、そのまま「鏡の向こう」に引きずり込まれてしまいます。

気がつくと、そこには西洋風のお城があり、狼のお面をつけた少女「オオカミさま」に出迎えられるのでした。

・・・なんというファンタジックな話か!

ファンタジーが苦手な私は、一瞬「これは私に合わないやつか」という考えが頭をかすめましたが、まったくもって問題なかったです。

紆余曲折あって、こころは鏡の世界と現実世界を行き来するようになるのですが、「オオカミさま」に招待されたのはこころだけではなかったのです。

少年が4名。少女が2名。こころを含めて計7名。

こころが物語の序盤で気づいたように、鏡のなかの不思議な世界も時間の流れは現実世界と共有しているようです。

一般的には学校に行っていなければならない時間帯に鏡の世界にやってくることができる7名は、つまり「学校に行っていない」。

城のルール

「オオカミさま」曰く、かがみの孤城には下記のルールがあるとのことです。

  • 招待された7名はそれぞれ自分の鏡を使って、鏡の世界と現実世界を行き来できる。
  • 城には鍵のかかった「願いの部屋」があり、入ると願いが叶う。
  • 願いの部屋に入れるのは、鏡の世界のどこかにある「願いの鍵」を探し当てた一人だけ。
  • タイムリミットは3月30日までの約1年で、それを過ぎれば鍵も城も鏡の世界も消える。
  • 誰かが鍵を見つけ、願いの部屋を開いた場合も、同じく「閉城」となる。
  • 城が開いている時間は、日本時間の朝9時から夕方5時まで。
  • 5時までに退城しない者がいたら、その日の来城メンバー全員がペナルティーを受ける。
  • ペナルティーは「狼に食われる」こと。

7人それぞれの事情

鏡の世界に呼ばれた7名が何か深刻な事情を抱えていて不登校になったのだろう、ということは物語の序盤からなんとなく察せられます。

しかし、序盤では、登場人物の誰もが他人の事情の深い部分に関わろうとはせず、表面的な付き合いに終始しています。

これは「不登校」の原因になった何らかの事情が彼らから積極性を奪っているようにもとれるし、現実世界の事情を知らない者同士の気楽な付き合いに安心しているからともとれ、なかなか深いです。

いずれにしても、だんだんと彼らの結束が固まり、鏡の世界が居心地のいいものになっていくにつれ、彼らの持つそれぞれの事情も見えてくる。

そうなってくると、誰かが鍵を見つけ願いを叶えること自体が、「抜け駆け」的な意味を持ってきます。

鏡の世界の居心地の良さと現実世界をどうにかしなくてはという焦り。

この二つを天秤にかける7人の心の揺らぎが非常にうまく描かれていて、それが本作の醍醐味でもあるのでしょう。

すごい作品です。

伏線がいっぱい

上記の内容からは、ファンタジックな香りしかしませんが、実際に読み進めてみると、そこはさすが辻村深月さんというべきか、ミステリー要素がふんだんに盛り込まれています

そのほとんどがネタバレになってしまうのでここでは触れませんが、細かい伏線がよく利いていて、後半になればなるほど、「あれがここに繋がるのか」という驚きを味わうことができます。たのしいですね!

仕込まれている伏線のうちいくつかは直感的に気づけるような難易度の低いものもあり、謎解きという意味では手軽な楽しさ、嬉しさがあります。

ただし、伏線の数が恐ろしく多いので、全てを言い当て、物語の全貌を看破するのはなかなか至難の業といえるでしょう。

 

 

▼関連記事

【ネタバレあり】すでに読了した方へ

危険!ネタバレあり!

辻村流の鋭く深い心理描写や泣きそうになるほどの名文、名言がいくつもありますが、そのうちのいくつかをご紹介します。

ネタバレ成分を多く含みます!

今後読む予定の方は絶対に見ちゃダメ!おもしろさが激減するよ!

ネタバレあり!読了済の人だけクリックorタップしてね

チェックの布に包まれたお弁当のリボンをほどく時、お母さんはたぶん、これを包む時には、私がスクールでこれを食べると思っていたんだろうな、と思う『かがみの孤城』p.17

不登校の子どもが通う「スクール」にも行けなかったこころが、家でお弁当を開けるときのこころの心情を描いたシーン。

こういう繊細さを描かせたら辻村深月さんは当代随一ではないか、と思わせます。

 

恋愛至上主義の、こんな男子。

みんなから嫌われて、学校にも行けてなくて、当然だ『かがみの孤城』p.101

鏡の世界に招待された男子の一人ウレシノは最初アキが好きだったのですが、わずかな期間でその好意をこころに移してしまいます。

鏡の世界に呼ばれた女子3名を順番に好きになっていくウレシノは、物語序盤のヒール役。

何らかの事情で不登校になった7名の内部で、現実世界のようないじめの構図が再びできあがりかけてしまいます。

こころたちを単なるいじめの「被害者」にしておかないのは、辻村深月さんの厳しい視点といっていいですね。

立場はかんたんに逆転してしまうということを示唆した一文。深い。

 

少なくとも、オレたち、助け合えるんじゃないかって『かがみの孤城』p.291

皮肉屋でいつも斜に構えたような態度ばかりとっていたマサムネ。

このセリフをリオンでもスバルでもなく、マサムネに言わせてしまうところがポイントです。

心を開いてくれたんだなぁという感動にじわっときてしまいます。

基本的にマサムネ関係のエピソードは泣けますね。いかにも中学生らしいところが出ていて、いいキャラしています。

 

これから自分がどうなるか、いつまでこのままかわからないのに、前に進んでいる人を見ると、ただそれだけで無性に胸が苦しくなる『かがみの孤城』p.390

これはわかるなあ。こういうところをすくい取るのが辻村深月さんは本当にうまい。

若いころ、私もこんなことをよく感じましたね。焦りというヤツです。

他人を比べて自分は遅れてしまっているのではないか。

今やるべきことを、自分だけがやっていないのではないか。

若いときほど、人生には模範解答があると思い込んでしまいがちですね。

 

大丈夫。大丈夫だから、大人になって『かがみの孤城』p.554

くはー、泣けるわ・・・。こんなのずるいぜ・・・。

終わりに

今まで辻村深月さんといえば『スロウハイツの神様』をおすすめしてきましたが、ちょっとこれは強力なライバルが出現してしまいましたね。

正直に言ってしまうと「本屋大賞」受賞作ってどんなもんかね、みたいな試すような気持ちで読んだ部分もあったのですが、すみませんでした。

いやー、本当にすばらしい作品です。まさに感動の一作。

やはり、後半の展開がすばらしかったですね。これぞ辻村深月作品といった感じです。

読み終わるのがもったいない!という稀有な作品でした。辻村深月さん渾身の感動作。また、いつか読み返したいと思います。

辻村深月さんの作品の読む順番をまとめた記事もありますので、よければそちらもご覧くださいね。
>>読む順番に気をつけよう!辻村深月の楽しみ方

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

つみれ

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