こんにちは、つみれです。
このたび、麻耶雄嵩さんの『翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件(新装版)』を読みました。
人里離れた屋敷で奇怪な連続殺人事件が発生する長編ミステリーです。
麻耶雄嵩さんのデビュー作でもありますね。
それでは、さっそく感想を書いていきます。
作品情報
書名:新装版 翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件(講談社ノベルス)
著者:麻耶雄嵩
出版:講談社(2012/3/7)
頁数:328ページ
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目次
異色の探偵二人が活躍する麻耶雄嵩のデビュー作!
私が読んだ動機
- 昔読んだことがありましたが、内容をすっかり忘れていたので。
- とある会で本作を紹介され、再読したくなったので。
こんな人におすすめ
- 変化球寄りの本格ミステリーを楽しみたい
- 物語が二転三転する小説を読みたい
- 個性的な探偵が複数登場するミステリーが好き
あらすじ・作品説明
探偵・木更津悠也の元に京都の富豪・今鏡伊都から依頼の手紙が届く。
彼の友人である「私」香月実朝は、木更津とともに今鏡家の館・蒼鴉城を訪れる。
二人が蒼鴉城に到着するとそこには警察の姿が。
なんと木更津の依頼人である伊都が自室で首なし死体となって発見されたのだ。
さらに捜査を進めると、別室でも首斬り死体が発見される。
通称「地獄の門」と呼ばれるその部屋は、死体発見時には密室状態だった。
二人の探偵が登場
本作のおもしろいところは、探偵役が二人登場する点。
下記の二人です。
- 木更津悠也
- メルカトル鮎
二人ともクセのある性格をしていて、一筋縄ではいかないのが良いんですよ。
木更津悠也
本作に登場する探偵の一人、木更津悠也は主人公の駆出し推理小説作家・香月実朝の友人です。
語り手&ワトソン役が推理小説作家というのも本格ミステリーでは鉄板ですね。
木更津は本格ミステリーによくいるタイプの正統派の探偵といった印象。
やや回りくどいもったいぶった言い回しが特徴で、推理に集中するときにあやとりをするなど、ちょっと変わった性格の探偵です。
いかにも本格ミステリーに登場しそうな感じの探偵役ですよね。
主人公の香月とは友人同士なので、変わり者ながら気心の知れた安心感のある探偵です。
メルカトル鮎
本作に登場するもう一人の探偵がメルカトル鮎です。
本作は二部構成になっていて、彼が登場するのは第二部以降。
第一部で木更津による調査が停滞すると、メルカトル鮎が颯爽と現れるのです。
メルカトルはタキシードに蝶ネクタイ、シルクハットに黒マント、手には棒状のステッキという奇矯ないでたちが特徴。
彼は、木更津や香月を小馬鹿にしたような言動が目立つ冷笑的な探偵で、アクの強さでは木更津をはるかに上回ります。
第二部ではメルカトル鮎と木更津悠也とが推理を戦わせるシーンも出てくるなど、物語はいっそう盛り上がっていきます。
このメルカトル鮎がめちゃくちゃいいキャラしてるんです。
探偵同士の論戦
上で紹介した探偵二人は基本的に協力体制を取りません。
お互いに相手を小馬鹿にしている感じがあってなんともハラハラさせられる関係なんですよ。
やがては彼ら二人が推理合戦を繰り広げていく展開になっていきます。
探偵・木更津悠也と、“銘探偵”・メルカトル鮎の対決シーンは本作の見どころの一つ。
探偵が複数存在するミステリーの場合、一人が推理を披露するたびに真相の様相がガラリと変わっていくおもしろさがあります。
本作も物語が二転三転していくのでワクワクが止まりませんでした。
一人が提示した推理をもう一人が鮮やかに否定し、新しい推理でどんどんと上書きしていく展開に、読む側は翻弄されてしまいますね。
こういう展開を考えられるミステリー作家の凄さに改めて驚かされます。
二人ともシリーズ化している
上で紹介した二人の探偵「木更津悠也」と「メルカトル鮎」は、それぞれシリーズ化しています。
下記の通りです。(そのままですが)
- 「木更津悠也シリーズ」
- 「メルカトル鮎シリーズ」
本作『翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件』は二人の探偵の起点となる物語なので、二人の活躍を追うならぜひとも押さえておきたい一作です。
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クセが強い麻耶雄嵩のデビュー作
本作『翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件』は、ミステリー作家・麻耶雄嵩さんのデビュー作です。
私が読んだのはその新装版ですね。
これがもう、めちゃくちゃクセが強く大胆なミステリーです。
良くも悪くも荒唐無稽で、既存の本格ミステリーに対する挑戦というか、愛のこもったアンチ・ミステリーという感じですね。
掟破り感もかなり強く、デビュー作としてかなりの異彩を放っているのではないでしょうか。
デビュー作でこれを書いてしまうのはヤバい。
好き嫌いが分かれそう
正直なところ、本作はかなり好き嫌いの分かれそうな作品です。
苦手な人はめちゃくちゃ苦手だし、ハマる人はめちゃくちゃハマる、そんな作品になっています。
そもそも万人受けを狙った作品というよりは、ニッチな部分を狙っている感じなんですよね。
王道の本格ミステリーを味わってきた人に対して「たまにはこんな変化球もいいんじゃないか」といった作者の挑戦的な心意気が感じられます。
本格ミステリーを読み慣れていない人が読むのはおすすめできないかもしれません。
ちなみに私はこういう作品が大好物!めちゃくちゃおもしろかったです。
インパクト大の事件
本作は最初に描かれる事件がかなりインパクト大。
その謎の不可解さが強烈に読者を惹きつけます。
探偵役・木更津とワトソン役・香月は、京都の富豪・今鏡一族の伊都の依頼を受けて蒼鴉城を訪問します。
二人が到着すると、彼らに先んじて警察が捜査を行っており、依頼人の伊都が首なし死体の状態で発見されていました。
さらに館内の「地獄の門」と呼ばれる部屋では、伊都の子・有馬の首斬り死体まで転がっていたのです。
この「地獄の門」がなんと密室状態だったというので、状況の不可解さに拍車をかけていますね。
警察が捜査を進めていくと、地獄の門の死体は、首が伊都のもの、胴体は有馬のもの。
死体の首がすげ変わっているというショッキングでセンセーショナルな描写に、度肝を抜かれてしまいます。
犯人はなぜそんな操作をしたのでしょうか。
「死体の細工」と「密室」という相容れない要素が混在する事件現場はいったい何を意味しているのかに注目です。
キャラの見分けがつきづらい
本作のゲストキャラ陣である「今鏡」一族は人物数が多く、名前も基本的に覚えづらいです。
伊都・畝傍のように漢字が読みづらい名前や、有馬・静馬のように似ている名前が出てくるので混乱してしまうんですよ。
血縁関係も複雑でその覚えづらさに拍車をかけています。
彼らは本作の事件に大きく関わってくる重要人物ばかりなので、こんがらがることのないように巻頭の今鏡家家系図を見比べながら読み進めていくのがおすすめです。
読み飛ばしが必要な箇所も
本作はなかなかクセの強い作品なので、時には読み飛ばしが必要な箇所もあります。
登場人物の会話に意味不明な箇所が多々あるのと、作者の衒学趣味がほとばしっているのとで、序盤から中盤にかけてはどうしても読みづらさが目立ってしまうんですよ。
ペダンティックで気取った会話が頻出しますが、意味がわからなくても大部分は読み飛ばしてOK。
そういった箇所は雰囲気づくりの一環にすぎず、謎解きの根幹に関わる部分はわかりやすく書かれていますよ。
第二部に入ると、メルカトル鮎のキャラのおもしろさと文章への慣れ、物語展開のおもしろさとが相まって格段に読みやすくなってきますので安心してくださいね。
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終わりに
『翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件』は、とにかく読者を驚かせることに命を懸けているような一作でした。
王道風でありながら限りなく邪道という感じで、振り切った推理が連続するので読者としても食らいついていくのに必死です。
再読ながら完全にストーリーを忘れていて、ラストまで一気に読んでしまうほどおもしろかったです。
本記事を読んで、麻耶雄嵩さんの『翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件(新装版)』がおもしろそうだと思いましたら、ぜひ手に取って読んでみてくださいね!
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
つみれ
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