時空旅行者の砂時計

ミステリー、サスペンス

  (最終更新日:2022.05.5)

【感想】『時空旅行者の砂時計』/方丈貴恵:タイムトラベルが組み込まれた特殊設定ミステリー!

こんにちは、つみれです。

このたび、方丈貴恵(ホウジョウキエ)さんの『時空旅行者の砂時計』を読みました。

 

悲劇的な妻の運命を変えるために主人公が過去にタイムトラベルし、その大元となった事件の真相を突き止める特殊設定ミステリーです。

 

また、本作は「竜泉家の一族」シリーズ第一作目であり、作者・方丈貴恵さんのデビュー作でもあります!

それでは、さっそく感想を書いていきます。

作品情報
書名:時空旅行者の砂時計

著者:方丈貴恵
出版:東京創元社(2019/10/11)
頁数:320ページ

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タイムトラベルが組み込まれた特殊設定ミステリー!

タイムトラベルが組み込まれた特殊設定ミステリー

私が読んだ動機

以前、友人から紹介を受けて読んでみたいと思っていました。

こんな人におすすめ

チェックポイント
  • 本格ミステリーを読みたい
  • 特殊設定ミステリーを読みたい
  • タイムトラベルを扱った物語が好き
  • クローズドサークル・ミステリーが好き

あらすじ・作品説明

雑誌ライター・加茂冬馬(カモトウマ)の妻・伶奈(レナ)は重い病にかかり死に瀕していた。

 

伶奈は名家・竜泉(リュウゼン)家の人間で、1960年、一家の人間が次々と殺され、生き残った者も土砂崩れでほとんどが死んでしまったという呪われた一族の子孫だった。

 

そしてその呪いはいま伶奈を死へと誘おうとしている。

 

加茂はマイスター・ホラと名乗る不思議な声の指示のもと、2018年から1960年にタイムトラベルする。

 

1960年に竜泉家を襲った「死野(シノ)の惨劇」の真相を解明し、妻の運命を変えるために。

タイムトラベルが組み込まれた特殊設定ミステリー

白い砂の砂時計

本作は本格ミステリーにタイムトラベル要素を組み込んだ特殊設定ミステリーです。

主人公の加茂は、呪われた一族「竜泉家」の子孫である妻・伶奈の悲劇的な運命を変えるために「奇跡の砂時計」の力を使って過去にタイムトラベルします。

1960年に竜泉家を襲った「死野の惨劇」で、竜泉家の人々は次々と何者かに殺され、生き残った人物も土砂崩れによってほとんどが死んでしまいました。

そして、その後も竜泉家の人々は次々と不審死を遂げていくのです。

加茂の目的は、タイムトラベルで「死野の惨劇」の現場に行き、その真相を解明することによって妻の命を救うこと。

悲劇の未来を知っている主人公がその運命を変えるためにタイムトラベルで過去の事件現場に赴くという設定が秀逸ですね。

 

主人公が知っている「未来の情報」をどこまで過去の事件に活かせるか、という普通のミステリーにはない楽しみ方ができる一冊です。

 

タイムトラベルの条件・制約

メリットとデメリット

上にも書いた通り、本作はタイムトラベル要素が導入された特殊設定ミステリー。

タイムトラベルがストーリー的な都合で行われるだけでなく、しっかりとトリック・謎解きに関わってくるのが本作の大きな魅力です。

こういった特殊設定ミステリーで大事なのは、本格的に謎解きが始まる前に作品独自の特殊設定に関する説明があること。

本格ミステリーとしてフェアであるために、特殊設定の条件や制約に関して事前に宣言しておく必要があります。

本作でも物語の最序盤で、タイムトラベルには4つの制約があることが語られます。

この説明によって決して「なんでもあり」にならず、あくまで本格ミステリーの一要素としてタイムトラベルが組み込まれるわけですね!

タイムトラベルがロジックに絡んでくる時点で、これまでにあまり例がないユニークなミステリーが楽しめます。

設定として荒唐無稽な印象を受けますが、タイムトラベルに関する条件・制約がしっかり説明されているので、謎解きやトリックはフェアという珍しさがウリです。

 

「フェアさ」と「奇抜さ」がきちんと同居していて、特殊設定ミステリーとして模範的ですね。

 

これまでのミステリーにはない新鮮なおもしろさを提供してくれるので、普通の本格ミステリーに飽きてしまった人にこそおすすめできる一作です。

クローズドサークル・ミステリー

橋

本作はタイムトラベルという特殊な要素があるものの、基本的には古典的な「館もの」の本格ミステリーです。

ベースは昔ながらのクローズドサークル・ミステリーなので、基本的には本格ミステリーを普段通りに楽しむスタイルで読み解いていけます。

クローズドサークルとは・・・何らかの事情で外界との往来が断たれた状況、あるいはそうした状況下でおこる事件を扱ったミステリー作品。

大富豪の別荘で起こる連続殺人、別荘への道にかかる橋の崩落、電話線の切断などなど、館ものクローズドサークルのお約束がこれでもかと詰まっていて楽しいですね。

さらに終盤では「読者への挑戦」まで用意されていますので、謎解きに自信がある人はぜひチャレンジしてみてください。

読者への挑戦とは・・・解決編の直前で読者に犯人、または真相を問う趣向のこと。

巻頭から資料がたくさん

たくさんの資料

本作は巻頭に資料がたくさん用意されています。

物語に入る前に下記の資料がバーッと提示されるんですよ。

  • 竜泉家・別荘図(見取り図)
  • 竜泉家・別荘周辺図
  • 竜泉家・関係者図(家系図)
  • 登場人物リスト
 

こういう資料がクローズドサークル・ミステリーの雰囲気を盛り上げてくれるんですよね。

 

本作は名家で起こる殺人事件を扱う一族もののミステリーなので、名字が同じ登場人物を混同せずに覚えることが大事になってきます。

なので、「関係者図」と「登場人物リスト」はとても便利でありがたかったですね。

ちなみにこういった資料は最初からすべて覚えようとせず、物語を追うなかで混乱してきたら振り返って見るくらいの感覚で全く問題ありませんよ。

タイムトラベルも効果的な演出

タイムトラベル

本作はタイムトラベルという特殊な設定をミステリーにかなり活かしています。

基本的にスマホやパソコンなどの文明の利器は強力すぎるためクローズドサークル・ミステリーと相性が悪く、物語序盤でそういった端末が使えなくなるくだりが挿入されることが多いです。

本作は過去にタイムトラベルすることで、そういった便利な機器のない時代が舞台となる状況が自然と作り出されています。

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マイスター・ホラ

スマホの注意表示

本作には、主人公・加茂に対してスマホ越しにコンタクトを取ってくる謎の人物がいます。

それがマイスター・ホラです。

ホラは本作のガイド役を果たすのですが、これが実に秀逸なんですよ。

 

マイスター・ホラはミヒャエル・エンデ『モモ』の登場人物の名前だそうですが、私は未読なので知りませんでした。

 

タイムトラベルという非現実的な現象を扱う以上、ミステリーとしてさまざまな障害があります。

タイムトラベルが一般的でない世界で主人公がその超常現象の存在を信じ、さらに条件・制約などを理解するのは難しいですよね。

主人公がさまざまな検証・実験を済ませるなどの描写が必要になってきてしまいます。

しかし、ミステリーとタイムトラベルをかけ合わせた特殊設定ミステリーを展開するのが本作の趣旨なので、その検証・実験に紙幅を割くのは無駄が大きすぎます。

そこで生み出されたキャラがマイスター・ホラなのでしょう。

ホラは主人公・加茂にタイムトラベルの存在を信じ込ませ、その条件・制約を説明するキャラクターです。

フェアなミステリーであるために特殊設定の仕様が序盤で説明されると上で書きましたが、それを担っているのがホラなのです。

 

このホラという特殊な存在のおかげで序盤の展開がかなりスムーズで、パパっとミステリー展開に入っていく点が本作のすばらしいところです。

 

それだけでなく、ホラはミステリーのキーキャラクターの一人としての役割も果たしており、彼の発言や存在が謎解きにも大いに関わってきます。

普通の本格ミステリーにはいないユニークな存在ですが、「本格ミステリー+タイムトラベル」の特殊設定に最適化されたすばらしいキャラクターだと思いました。

登場人物について

ダリの時計

本作を鮮やかに彩るのが竜泉家の人々たちです。

竜泉家にはいろいろな性格の人物がおり、加茂に親しげな者もいれば、敵意を向ける者もいます。

彼ら一人ひとりのキャラクターが個性的でとてもおもしろいのですが、その一方で誰が誰だかわからなくなる難しさもあります。

一族もののミステリーは、キャラクター自身の個性と親族内での関係性の両方を押さえる必要があり、覚えるのが難しいんですよね。

さらに本作ではキャラクター一人ひとりに十二支の名を冠した部屋が割り当てられており、冒頭の見取り図で確認できます。

キャラの個性・親族内の位置(続柄)・別荘内の部屋割とキャラに紐付く要素が多く、覚える難度が高めですね。

上に書いた冒頭の見取り図や関係者図を最大限に活用して、読み進めながら覚えてしまいましょう。

また、部屋割の覚え方についてはちょっとした救済措置があります。

12の部屋と登場人物を結びつけるのが大変だと思っていたら、主人公が覚え方の講釈をしてくれるシーンがあるんですよ。

十二支で最も小さい鼠は最年少の文香(アヤカ)の部屋。草食動物の羊は、無口で喋っている声すらも聞いたことがない月恵(ツキエ)の部屋。<span class="su-quote-cite">『時空旅行者の砂時計』p.86</span>

こういった具合に記憶を助ける配慮がなされているのは、読者の負担減に繋がるのでかなりうれしいですね。

そして、複数いる竜泉家の人々のなかでも、特に重要な役割を果たすのが竜泉文香という少女です。

竜泉文香

読書中の少女のシルエット

本作は、2018年の時代を生きる加茂冬馬が妻を救うために1960年にタイムトラベルする物語です。

加茂は過去に降り立った直後、竜泉一族の娘・文香に自分が未来の人間であることを知られてしまいます。

既に「死野の惨劇」が始まり、死者が出てしまっている状況にあって、加茂と文香は協力して事件を食い止めていくことになります。

竜泉文香はミステリー小説好きで、この事件のなかでもなかなかの謎解き能力を発揮。

明るく賢い文香の存在は過去に知り合いを持たない加茂の強力な助けとなるだけでなく、暗めな物語を照らすオアシス的な存在でもあり、本作を読みやすくしてくれる要素となっています。

『時空旅行者の砂時計』の素敵なつぶやき

『時空旅行者の砂時計』に関するTwitterのつぶやきのうち、参考になるものや素敵なものをご紹介します。

 

※電子書籍ストアebookjapanへ移動します

 

終わりに

『時空旅行者の砂時計』は、悲劇的な妻の運命を変えるために主人公が過去にタイムトラベルし、その大元となった事件の真相を突き止める特殊設定ミステリーです。

 

館もののクローズドサークル・ミステリーにタイムトラベル要素を加味することで、新しい本格ミステリーを味わうことができる一冊となっています。

 

本記事を読んで、方丈貴恵さんの『時空旅行者の砂時計』がおもしろそうだと思いましたら、ぜひ手に取って読んでみてくださいね!

最後までお読みくださり、ありがとうございます。

つみれ

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