こんにちは、つみれです。
辻村深月という作家をご存知でしょうか。2012年には『鍵のない夢を見る』で第147回直木賞を受賞し、話題になりました。
おもしろい本をたくさん書いていますが、読み方をちょっと気をつけるだけでさらにおもしろくなるんです!
※2018年4月29日に「『かがみの孤城』もかなりいい」を追記しました。
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目次
私と『凍りのくじら』
本屋の特設コーナー
社会に出てから数年間、私は仕事についていくのに必死でした。
せっかく大学生のときに習慣化した読書という趣味も残念ながら風化しているような状態だったのです。
入社から4、5年経ち、ようやく余暇を楽しむ余裕が出てくると、読書の習慣を復活させようと再び小説を読み始めました。
せっかくだから、新しい作家を開拓しようとしていて本屋で見つけたのが辻村深月です。
そのころの私はギリギリ20代といった年代で社員寮に住んでいました。
寮の近くにはイオンがあり、なかに小さな書店が入っていたのですが、そこに辻村深月の特設コーナーがあったのです。
ほほう、辻村深月とな。私と同じ年代の作家じゃないか。
なに!辻村深月はドラえもん好きだと!!
私も無類のドラえもん好きで、マンガの単行本は45巻すべてを所有していました。
小学生の頃の私にとって金曜日は一週間のなかで最高に楽しい曜日でした。(よく考えると今もそう。土日休みの人にとっては大半がそうでしょ?)
金曜の夜7時は、アニメ「ドラえもん」が放映されたからなのです。毎週、弟と二人でわくわくしながら観ていたものです。
同年代のドラえもん好き作家。なるほど。
その実力の程、同じドラえもん好きの私が測ってくれよう!
と偉そうに思って偉そうに手に取ったのが、『凍りのくじら』でありました。
なぜこれを最初に手に取ったかといえば、イオンのその書店に「辻村深月はこの順番で読みなさい」というPOPがでかでかと貼ってあり、つまりその指示に従ったのです。
私はこの手の指示には素直に従い、用意された楽しみ方を最大限に満喫するタイプです。POPを疑うことなく全面的に信用しました。
この『凍りのくじら』が私にとっての記念すべき辻村深月小説1冊目です。
そこそこ分厚いにもかかわらず一気に読み通した記憶があります。やっぱりね、おもしろいんですよ!
ドラえもん好きにクリティカルヒット
『凍りのくじら』を一冊読むだけでだいたい辻村深月の作風はつかめます。
硬すぎず、くだけすぎない読みやすい文章と豊富な語彙。
そして、高校生の繊細な内面を鋭く分析し、過不足なく正確に言語化してみせる言葉選びのセンス、文章力。
信じられない。こんなすごい人が私と同年代の作家・・・。
なによりこれは本物のドラえもん好きだ!!
決して、ドラえもんを題材にとってみました。珍しいでしょ?といったようなスレた内容ではありません。
ドラえもん、そして藤子・F・不二雄に対する本物のリスペクトが感じられるのです。
『凍りのくじら』の各章のタイトルは下記のように、ドラえもんのひみつ道具の名前になっています。
- 第1章 どこでもドア
- 第2章 カワイソメダル
- 第3章 もしもボックス
私は本当にドラえもんが好きでした。ひみつ道具の名前を聞くと、自動的にマンガのコマが思い出されるくらいです。
『凍りのくじら』では、この章タイトルのひみつ道具がその章のなかでしっかりと説明され、辻村流の旨味として上手に活用されています。
これはね~、ドラえもん好きにはたまらんよ。私の心は完全なる鷲掴み状態。うむ、これはずるいぜ。
辻村深月ワールドの特徴
鋭い洞察力と豊かな表現力
辻村深月さんは鋭い洞察力と豊かな表現力を持った作家です。
まずは洞察力についてですが、辻村深月さんは容赦がありません。登場人物の行動を正確に分析し、実に筆鋒鋭く説明し尽くしてしまいます。
特に初期の作品でそれが顕著。
若者が必死に隠している心の奥底の幼くて醜い部分「イタさ」を暴き立て、「これはこういう心理です」と実に的確な表現で饒舌に解説してしまうのです。
読んでいる側としても逃げ場がなく、自分の内面までも見透かされているような気持ちになります。
自分の中にも巣くっていたであろう「イタさ」を丁寧に解説されるというのはなかなか居心地が悪いんですよね。
しかし、その鋭い分析が当時のもやもやをうまく言い当てていたりしてすっきりもする。
言ってみれば、これは若者特有の言動を「あるある化」しているようなものです。
「私もそういうところあるかも」という共感。
「ほかのみんなもそうなのかも」という安心感。
高校生、大学生くらいの若い年代の人にはなかなか刺さるでしょう。いや、30手前の当時の私にも刺さりましたよ。へへへ。
特に若い女性の心理描写の鋭さは一級品です。
男性の私からみれば怯んでしまうほど辛辣だし、それこそ、女性の世界の窮屈さ、いやらしさまで透けて見えてしまうほどに鋭い。
まさに人間の本質を見抜く鋭い洞察力と、それを文字化する見事な表現力をあわせ持っている作家といっていいでしょう。
一方、エッセイではそういった鋭い分析的性質は影を潜め、辻村深月本人の人柄の良さ、謙虚さ、好きなものに対する熱意などが前面に出てきます。ニクいですね。
序盤と終盤のコントラスト、最後はすっきり
これも辻村深月の初期作品群に顕著なのですが、序盤から中盤にかけてはなんとなく暗くて居心地の悪いようなトーンの物語が続く。加えて序盤から中盤では、謎や伏線が目白押しなんです。
それが、終盤になると一気にポジティブ路線に切り替わり、謎や伏線もポンポンときれいに解き明かされ、回収されていきます。
終盤は素晴らしく爽快というのがお決まりのパターンです。そして、「本当に序盤を書いていたのと同じ作家か」というくらい、優しいエンディングが待っている。
『凍りのくじら』もこのパターンにぴったりとあてはまります。
序盤と終盤のコントラストからくる、突き抜けるような読後感の良さ。ラストのじんわりと沁みるような優しさ。
このカタルシスが辻村作品の特徴といえます。
私も例外ではありませんが、人間はどんぞこからのV字回復というストーリーに感動しやすいようにできています。
もともと爽やかな物語が明るく終わるのとは違うのです。
捨てられた子犬を拾ってあげるにしても、普段から優しい菩薩のような人が拾うのと、地獄から来たような凶悪な不良が拾うのとでは感情の揺さぶりの程度がまったく変わってくるというものです。
序盤は暗くてつらいトーンの物語で、若者特有の「イタさ」をざくざくと突き刺していたのに、最後はそれらを解決させて気持ちよく爽快に終わるのです。
しかも、ここに人間が誰しも隠し持つ後ろめたさを肯定してくれているような優しさが加味される。うまいですね~。
辻村作品の魅力はそんなところにあるのでしょう。
暗い、つらいだけで終わらず、終盤でものすごい爽快感、カタルシスが待っている。
何冊か著作を読んで、次第にそれが読者に刷り込まれてくると、序盤の暗さやつらさがスパイスであることがわかってくる。それこそがまさに辻村深月作品の中毒性というべきものです。
これはすごい作家だと思って、一気に私のお気に入りになったのです。
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読む順番
これを書きたくて今回の記事を書き始めました。
辻村深月を最大限に楽しむには「読む順番」が大事なのです。
辻村深月はいわゆる「スターシステム」を採用している作家で、ひとつの作品に登場した人物が、その後の他作品にもある程度の重要性をもって登場するのです。
つまり、作品同士がリンクしている!
ある人物が初登場する核の作品を抜かして他作品を読み進めると、肝心なところがわかっていない状態になってしまうことがあるのです。
本来であれば連作的に楽しめたはずの数作品を、個々に楽しんで終わりという残念な味わい方になってしまいます。
確かに一作一作は、その人物の他作品での活躍を知らなくても楽しめるように丁寧に作られてはいるのです。
ですがやはり、順番に読み進め、「全貌を知ることができた瞬間の衝撃」を味わってこその辻村深月作品です。
完全に味わいつくそうと思ったら、順番の下調べが必要。
これは辻村深月作品の長所でもあり、短所でもあります。
好きな人は好きだけれど、めんどくさい人はめんどくさい読み方になるからです。まあ、そういうのを気にしない人には全く関係ない話なんですけどね。
で、その順番ですが、講談社の文庫に付いていた帯にはこうあります。
「この順番で読めば、辻村ワールドがより楽しめる!」
それが下記の順番なのです。
- 『凍りのくじら』
- 『スロウハイツの神様』(←最高におすすめ)
- 『冷たい校舎の時は止まる』(若干のホラー属性)
- 『子どもたちは夜と遊ぶ』
- 『ぼくのメジャースプーン』(←おすすめ)
- 『名前探しの放課後』
- 『ロードムービー』
- 『光待つ場所へ』
- 『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ』(未読。すみません!)
この順番で読めば間違いなく楽しめるでしょう。ただし、忙しくて時間がない人のためにあえてポイントを絞るなら、
- 『凍りのくじら』
- 『子どもたちは夜と遊ぶ』
- 『ぼくのメジャースプーン』
- 『名前探しの放課後』(←これは最後。最初に読んじゃだめ!)
とりあえず、この順番だけは守りましょう。
ちなみに私は間違って、『子どもたちは夜と遊ぶ』と『ぼくのメジャースプーン』の順番を逆に読んでしまいました。痛恨のミスです。
このときの後悔が、本記事に反映しています!
そして、自分には辻村深月は合わないなあと感じ始めたら、すかさず、『スロウハイツの神様』を読みましょう。
『スロウハイツの神様』を読まずに、辻村深月作品を諦めてしまってはもったいないです。それほどの傑作です。
もう本当に時間がないなら、『スロウハイツの神様』だけでも読んでくれ。
ちなみに辻村深月さんのデビュー作は『冷たい校舎の時は止まる』なのですが、ちょっとホラー要素が入っています。
これを最初に読んで「辻村深月、怖い!」となって読まなくなってしまうというのが一番もったいないです。
▼『冷たい校舎の時は止まる』の感想を書きました!
『かがみの孤城』もかなりいい
『スロウハイツの神様』は本当におすすめです、と言ってきましたが、それに匹敵する作品が登場してしまいました・・・!
2018年本屋大賞を受賞した『かがみの孤城』です。
上に挙げたような辻村初期作品の特徴をしっかりと押さえつつ、大人になった辻村深月だからこそ持ちえた視点を織り交ぜて少年少女の繊細な心理を描き出した感動作です。
これはぜひ多くの方に読んでもらいたいです。
別記事に感想を書いていますので、興味があればぜひ読んでみてくださいね!
>>【感想】『かがみの孤城』/辻村深月:感動の一作。これはすごい。
※2021年3月3日追記
『かがみの孤城』の文庫版が発刊されました。
▼関連記事
終わりに
それにしても同年代の作家がこれだけ有名になるとちょっと悔しいですね。会社の同期が部長になった!とかそういう感覚ですよ、これは。
これからもバラエティに富んだ作品で楽しませてくれると思います!
もし、まだ辻村作品を読んだことがなければ、ぜひ一度手に取って読んでみてくださいね。その時には、読む順番を意識してみるとより楽しくなることうけあいです!
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
つみれ
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sayuさん、コメントありがとうございます!
当記事の読む順番については、かなり昔に講談社の文庫版についていた帯に記載されていたもので、その内容をお借りした形ですが、言われてみると『凍りのくじら』が先でも楽しめるかも・・・と思いました。
おっしゃる通り影響度は低めなので、どちらのエピソードを先に読んだ方が楽しめるかは、読む人によるかもしれませんね。
『スロウハイツの神様』いいですよね!!私も辻村さんの作品のなかでは、不動のナンバーワンです。
『傲慢と善良』は未読ですので、今度読んでみたいと思います。
つみれ
はじめまして。
わたしも辻村深月さん大好きで
何度も繰り返し読んでいます。
「辻村深月 読む順番」で検索して
こちらの記事にたどり着いて読まさせて頂きました。
読む順番なんですが、
①「冷たい校舎」→②「子どもたちは〜」→
③「ぼくのメジャースプーン」→④「凍りのくじら」→
⑤「スロウハイツ」→⑥「名前探し」
…ではないですかね?
メジャースプーン読んでいた方が、
凍りのくじらは良い気がします。
(大きく影響はしないけれど、ふみちゃんが登場するので)
その後、「ロードムービー」→「V.T.R」→
「光待つ場所へ」→「本日は大安なり」→
「島はぼくらと」→「ハケンアニメ」
…といった感じでしょうか?
なんにせよ、兎にも角にも「スロウハイツ」は読め!!っていうのは同感です♪
本当に素晴らしい。
わたしのナンバーワンです( ˊᵕˋ )
「かがみの孤城」についても
共感しながら読ませて頂きました。
「傲慢と善良」も良かったけど、
「かがみの孤城」の方が辻村ワールド全開でしたね。
また新しい作品が出たらぜひ更新してください。
楽しみにしています。