こんにちは、つみれです。
このたび、知念実希人さんの『硝子の塔の殺人』を読みました。
奇妙なガラスの塔で起こる連続殺人事件の謎を名探偵と医師のコンビが追っていく長編ミステリー小説です。
また、本作は2022年本屋大賞ノミネート作でもあります。
それでは、さっそく感想を書いていきます。
▼2022年本屋大賞ノミネート作をまとめています。
作品情報
書名:硝子の塔の殺人
著者:知念実希人
出版:実業之日本社(2021/7/30)
頁数:504ページ
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目次
奇妙なガラスの尖塔で起こる連続殺人!
私が読んだ動機
私が所属している文学サロン「朋来堂」の「ミステリ部」2021年9月の課題図書だったので読みました。
こんな人におすすめ
- 本格ミステリーを読みたい
- 「館もの」のミステリーを読みたい
- 密室トリックが好き
- クローズドサークルが好き
- これまでいろいろな本格ミステリーを読んできた
あらすじ・作品説明
雪山に空高くそびえる奇妙なガラスの塔に一癖も二癖もあるゲストたちが招かれる。
しかし、ホスト役の館の主人は自室で毒殺され、その翌日にはダイニングで別の殺人も発生。
連続する惨劇の謎に名探偵・碧月夜と医師・一条遊馬が挑む。
本格ミステリー
知念実希人さんはミステリー作家であると同時に医師でもあるということで、「医療ミステリーの名手」というイメージが強いですね。
ですが、本作『硝子の塔の殺人』は完全なる本格ミステリー。
私のような本格ミステリー好きにはうれしい限りです。
ただ、本作の主人公は一条遊馬という医師で、主役級の人物に医師をあてがっているところにその名残を感じることができそうです。
奇抜すぎる館
本作の舞台は雪山の奥に建造された円錐型のガラスの尖塔「硝子館」。
いかにも本格ミステリーの舞台といった感じで楽しいですね。
塔の中心部の支柱には螺旋階段が巻き付いており、各階にある客室等の部屋は支柱から外壁に向かって放射状に伸びる形になっています。
本作の巻頭には見取り図もついていて、「館もの」のミステリー好きとしてはこういうのを見るだけで興奮しますね。
ただこの見取り図、パッと見ただけでは建物の構造がわかりにくいかもしれません。
見取り図は立体図と断面図の2種が用意されているのでしばらくにらめっこしてみましょう。
しばらく見取り図を見ていると、意外と単純な構造であることがわかってきますよ。
また、構造がよくわからないまま読み進めても、物語を追っていくうちに自然と把握できますので安心してくださいね。
クローズドサークル
本作の舞台「硝子館」は、人里離れた山奥に建てられ雪に閉ざされた状態です。
ネタバレ回避のため詳細は書きませんが、登場人物たちが外界との交通手段・連絡手段を断たれ、館に閉じ込められるクローズドサークル・ミステリーです。
クローズドサークルの説明は下記の通り。
何らかの事情で外界との往来が断たれた状況、あるいはそうした状況下でおこる事件を扱った作品 Wikipedia「クローズド・サークル」
外界との連絡手段が絶たれることも多い。
サークル内にいる人物のなかに高確率で犯人がいると思われたり、捜査のプロである警察が事件に関与できない理由づけになったりなど、パズルとしてのミステリーを効果的に演出する。
「嵐の孤島」「吹雪の山荘」などがその代表例として挙げられる。
舞台設定が「これでもか」というほど模範的な雪山系クローズドサークルになっていて、本格ミステリーファンにはたまらない一作となっています。
気になるプロローグ
本作冒頭部のプロローグでは、主人公の医師・一条遊馬が硝子館最上階の展望室に幽閉されている状況が描かれています。
この状況が物語のどの段階のものなのかプロローグを読んだだけではわかりませんが、非常に気になる内容ですね。
しかも、そこで遊馬は硝子館の主・神津島太郎に対する殺意を吐露しています。
「なるほど!これは倒叙ミステリーか!」と思ってしまいますよね。
「倒叙ミステリー」とは、「最初から読者に犯人が明かされているミステリー」のことです。
別の殺人が発生
物語の最序盤で遊馬は神津島殺害を実行に移すのですが、翌朝、それとは別の密室殺人事件が発生します。
二つ目の事件は遊馬のあずかり知らないところで起きたもので、つまり塔のなかに別の殺人者がいるということになります。
一見、「倒叙ミステリー感」を臭わせておきつつ、それとは別件の殺人事件が発生するという趣向には震えましたね。
遊馬としては、「二つ目の殺人を誰がやったのか」は死活問題となります。
なぜなら、二つ目の殺人の実行者はその罪を遊馬になすりつけようとしている可能性を否定できないためです。
そういうわけで一つ目の事件の犯人である遊馬が、もう一人いるはずの犯人を捜し、逆に罪をなすりつけてやろうという動きをし始めるのです。
ここに「見えない敵と罪のなすりつけ合い」という極めて駆け引き感の強いミステリーが展開されるわけです。
一方の事件の犯人でありながら、探偵側としてもう一方の事件の調査に携わるというのが最高におもしろくていいですね!
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キャラクターの良さ
本作、登場人物が本格ミステリー好きにはたまらない感じなんですよ。
どういうことかというと、いかにも「本格ミステリーのテンプレ!」といった人物ばかりなんです。
本作巻頭に用意されている登場人物一覧を見ると、彼らの職業・肩書きは下記の通り。
- 館の主人
- 刑事
- 料理人
- 医師
- 名探偵
- メイド
- 霊能力者
- 小説家
- 編集者
- 執事
(『硝子の塔の殺人』4ページ「目次」より抜粋)
これは本格ミステリーとして100点満点のラインナップ!
登場人物一覧を見ただけで思わず「めちゃくちゃおもしろそう~!」となってしまいますね。
正直、個々のキャラクターについては好き嫌いが分かれそうですが、ミステリーによく登場するキャラクターの属性を各人物に割り振っていったような感じなんです。
よく言えば本格ミステリー感満載、悪く言えば目新しさはないと言えるかもしれません。
個人的には本格ミステリーに登場しがちな「テンプレキャラ」が大好きなので大いに楽しんで読めましたね。
下に私の好きなキャラを二人挙げておきます。
変わり者属性の名探偵
本作に登場する碧月夜は「変わり者属性」を持った名探偵です。
本格ミステリーでは常識・良識をわきまえず奇矯な行動を取りがちな名探偵が少なくないんですよね。
碧月夜もそのタイプの名探偵で、熱狂的なまでのミステリーマニアという側面を持っています。
事件に関するマジメな話をしている最中でも話がすぐに脱線し、いつの間にかミステリー談義にすり替わってしまうのが碧の悪いクセ。
しかし、こういう探偵役の困った悪癖は、「名探偵に振り回されるワトソン役」とセットで本格ミステリーの旨みといってもいい部分です。
一般的な感覚の持ち主であるワトソン役が探偵役の行き過ぎをセーブしたりと、互いの不足を補完している感じがいいんですよね。
ワンマン刑事
本作の登場人物の一人、刑事の加々見剛は神津島によって硝子館に招待されたゲストの一人です。
この刑事・加々見がめちゃくちゃいいキャラしているんですよ。
とにかくワンマンな性格で、刑事であることを笠に着て他の人物に喧嘩を売りまくり。
他人の意見を聞かずに独裁的に仕切りたがる協調性のない性格は、まさに序盤で殺されそうなキャラです(笑)
実際に加々見刑事が殺されるかどうかは、本作を読んで確かめてみてください。
また、この加々見はところどころで「ミステリー嫌い」を公言しており、その点でも他のメンバーとはソリが合いません。
そんな加々見ですが、彼のセリフを見ると刑事用語を使いまくっていて笑ってしまいます。
自称名探偵の姉ちゃんの言う通りだ。このヤマのホシは、また殺るつもりだろうし、山をおりる方法はねえ。『硝子の塔の殺人』p.144
一人だけこんな調子で、「警察小説、もしくは刑事ドラマから出てきたんじゃないか」と思わせるほど。
個人的に大好きなキャラですね。
刑事・加々見の味のあるセリフの数々をぜひ堪能してほしいです。
往年の名作ミステリーをリスペクト
本作『硝子の塔の殺人』には、往年の名作ミステリーに対するリスペクトが随所に感じられます。
過去の名作ミステリーのウンチクがぎっしりと詰め込まれており、これがめちゃくちゃおもしろいんです。
作者・知念さんのミステリーに関する造詣の深さには本当に驚かされます。
特に自分の読んだことのある作品のウンチクが出てきたときの喜びはひとしお。
本格ミステリーを多く読んできた人ほどニヤニヤしながら読み進めることができますよ。
また、それら過去の名作のネタバレは一切なく、未読の人への配慮も行き届いているので、ミステリー初心者でも安心して読むことができます。
ただ、元ネタがわからないと多少の置いてけぼり感を受けるかもしれませんね。
私もいくつかわからないネタがありましたが、それはそれと割り切って本作そのものを楽しむ姿勢が大切です。
むしろ私としては、「まだまだ知らない傑作がこの世にたくさんあるんだ」とワクワクしながら読みました。
気になる作品名が出てきたらとりあえずメモしておいて、あとで読んでみるとおもしろいかもしれませんよ。
「館シリーズ」リスペクト
私が本作を読んでいて感じたのは、綾辻行人さんの『十角館の殺人』に代表される「館シリーズ」に対する強いリスペクト。
知念さん自身が綾辻さんの「館シリーズ」を心から敬愛し楽しんできたということが十二分に伝わってくるんです。
できれば、数作で良いので綾辻さんの「館シリーズ」を事前に読んでから本作を読むとより楽しめると思いました。
私も「館シリーズ」は『暗黒館の殺人』までしか読んでいませんが、そこまででも読んでおいてよかったと思いました。
本格ミステリーの様式美
本作はメインストーリーでもこれまでの本格ミステリーへのリスペクトを思わせる箇所が数多くあります。
例えば冒頭の、神津島太郎が重大発表のために複数のゲストを硝子館に招待するという経緯の部分。
大富豪が自分の館に複数のゲストを呼び集めるというのは館系のクローズドサークルものの導入部としてよくある話で、本格ミステリーの様式美といっても過言ではありません。
先達に対するリスペクトをしっかりと感じられる演出と言えますね。
また、トリックについては小ネタから大技まで幅広く使用されていて、簡単に解けそうなものもあれば「よくこんなの思いついたな!」という難解なものもあります。
一冊のなかに数々のトリックが仕込まれているので謎解きが好きな人は大いに楽しめることうけあいです。
読者への挑戦
本作には、終盤できちんと「読者への挑戦」まで用意されていて本格ミステリーとして死角なし。
「読者への挑戦」は、解決編の直前で読者に犯人、または真相を問う趣向のことです。
ミステリーファンをとことん楽しませてやろうという意気込みが感じられますね。
謎解きに自信がある人は、ぜひこの「読者への挑戦」にチャレンジしてもらいたい一冊です。
私はまったく解けませんでしたが。
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読書会風動画
本作『硝子の塔の殺人』は、私が所属している文学サロン朋来堂ミステリ部の2021年9月の課題図書でした。
ミステリ部員5名が読後に本作について語り合う動画がありますのであわせて紹介します。
私も「つみれ」という名前で参加しているのでぜひ観てね!
▼知念実希人『硝子の塔の殺人』の感想を語り合う。【朋来堂ミステリ部】
終わりに
『硝子の塔の殺人』は、奇妙な尖塔「硝子館」で起こる連続殺人事件の謎を名探偵・碧月夜と医師・一条遊馬のコンビが追っていく長編ミステリー小説です。
いかにも本格ミステリーなキャラクターや二転三転するめまぐるしい展開が魅力の一冊でした。
本記事を読んで、知念実希人さんの『硝子の塔の殺人』がおもしろそうだと思いましたら、ぜひ手に取って読んでみてくださいね!
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
つみれ
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