こんにちは、つみれです。
このたび、塩田武士さんの『罪の声』(講談社)を読みました。
とにかく骨太で濃厚!
めちゃくちゃおもしろかった!
『罪の声』は、1984年から1985年にかけて実際に起きた「グリコ・森永事件」(詳細は後述)をモチーフにした作品です。
あくまでフィクション作品ですが、実話をもとにしており、限りなくノンフィクションに近い作品となっています!
本作では「ギンガ・萬堂事件」、略して「ギン萬事件」という名前に置き換えられていますが、事件の経緯から日時まで、実際の「グリコ・森永事件」をほぼ完全にトレースしています。
結局、現実の「グリコ・森永事件」は迷宮入りし、そのまま昭和の未解決事件ということになってしまいました。
本作はあくまでフィクションですが、現実の未解決事件をどのように解釈し、その結末にどのような解答を与えたのかというところも注目される一冊ですね。
それでは、感想を書いていきます。
※ネタバレ箇所は折りたたんでありますので、未読の場合は開かないようご注意ください。
作品情報
書名:罪の声
著者:塩田武士
出版:講談社 (2016/8/3)
頁数:418ページ
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目次
昭和の未解決事件を思い切ってフィクション化
私が読んだ動機
未解決事件「グリコ・森永事件」を下敷きにしたフィクションに、どのような結末が与えられたのかに興味があったから。
こんな人におすすめ
- ミステリーが好き
- 現実の未解決事件を題材にしたフィクションが読みたい
- グリコ・森永事件に興味がある
限りなくノンフィクションに近いフィクション
分類上はミステリー作品となりますが、本作はミステリーとしてはやや特殊な立ち位置にあります。
どういうことかといいますと、本作は、現実にあった未解決事件「グリコ・森永事件」を題材に取っているということです。
事件の様子を描いている箇所は、まさに「グリコ・森永事件」そのものといっていいレベルです。
そのリアリティたるや、あくまでもフィクションであるという大前提を忘れそうになってしまうほど。
だから、「グリコ・森永事件」のあらましを知って読むのと、知らないで読むのとでは、印象が大きく異なってきます。
頭のなかで、現実の「グリコ・森永事件」とフィクションの「ギン萬事件」とを行き来し、あの未解決事件の裏にはこんな事情があったのか・・・!と興奮しながら読むのが一番楽しめると感じました。
この興奮を味わうためにも、読む前にある程度「グリコ・森永事件」を調べておいたほうがいいと個人的には思います。
ミステリーの多くはできる限りネタバレを避けるべきですが、本作に限ってはオリジナルの「グリコ・森永事件」を予習しておくといいという意味で「やや特殊」なのです。
グリコ・森永事件
本作で取り上げられる事件「ギン萬事件」のモチーフになった「グリコ・森永事件」。
そんなの知らないよ!という人もいるかもしれません。
これは1984年から1985年にかけて発生した一連の脅迫事件のことで、主に関西の食品会社がターゲットにされました。
ターゲット企業の食品に毒物を混入させたものを、脅し文句の書かれた紙と一緒にスーパーの売り場に置くなどして社会を混乱させたりしたのです。
「どくいり きけん たべたら 死ぬで」
おい!怖すぎるだろうが!
ひらがなを多用したおどけたのような言葉遣いが、かえってなんともいえない不気味さを感じさせます。
当然、世間やマスコミは大騒ぎ。
世間を観客に見立てるような見世物じみた構造から、「劇場型犯罪」という言葉を生んだ事件としても知られています。
かく言う私もリアルタイムでこの事件を知っているわけではありません。
なぜなら、この事件が起きた1984~1985年というのは、まさに今から30年以上の昔。
私は1歳。玉のようにかわいい赤ちゃんだったのです。
事件のことなど知らず、行儀よくすやすやと寝ていたに違いありませんね。
そして、玉のようなかわいさが無残にも失われた10代半ばころに、「昔、こんな事件があったんだよ」と「グリコ・森永事件」のことを聞かされたのです。
調べてみると、脅迫テープであるとか、「キツネ目の男」であるとか、いかにも小説じみた内容が次々と登場するではありませんか。
まさに、「事実は小説より奇なり」でした。
この「キツネ目の男」についても、本作を読んでいていきなりこの言葉に出くわすより、事前に実際の画像を見ておいたほうが何倍もその不気味さを味わうことができます。
繰り返しになってしまいますが、軽く予習程度に「グリコ・森永事件」のあらましを知ってから読むほうがいいでしょう。
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二人の主人公
『罪の声』には二人の主人公が登場します。
脅迫テープの声の主
一人は、スーツを仕立てるテーラーの若き店主、曽根俊哉。
ある日、彼は父の遺品のなかから、黒革のノートとカセットテープを発見します。
ノートを開くと、そこには「ギンガ」(現実の江崎グリコに相当)、「萬堂」(現実の森永製菓に相当)の文字。
カセットテープを再生すると、「ギン萬事件」で脅迫に使われたというフレーズが流れます。
そして、その脅迫テープの声の主は、どうも幼少時の曽根俊哉自身であるようなのです。
父は「ギン萬事件」に関与していたのか、なぜ自分の声が脅迫テープに使われているのか。
真相を知るために俊哉は独自に調査を開始します。
新聞記者の目線で事件を追う
もう一人は、大日新聞文化部の記者、阿久津英士。
(えっ、社会部じゃないの?と思いましたが、そのあたりのドラマもなかなかおもしろいです)
実は、作者である塩田武士氏はもともと新聞社に勤めていて、記者の経験があるのだそうです。
その経験をもとに阿久津の物語は書かれたのでしょう。
取材時の臨場感や駆け引きはリアリティにあふれていて、まさに人対人、気持ち対気持ち。
一介の新聞記者が30年以上前に起きた昭和の未解決事件「ギン萬事件」の謎に挑んでいきます。
グリコ・森永事件は未解決だけど
『罪の声』の「ギン萬事件」は発生から30年の時を経て、一応の解決を見ます。
現実のグリコ・森永事件とは異なる結末ですが、これは実際の事件を下敷きにした限りなくノンフィクションに近い物語という姿と、エンタメとしての姿を両立させようとした結果なのではないかと思います。
やはり「謎」には答えがあってほしいというのが人情だと思いますし、もしかしたらグリコ・森永事件の舞台裏もこうだったんじゃないか、などという妄想も膨らんでいきます。
現実のグリコ・森永事件と物語中のギン萬事件とを引き比べてみて、驚いたり、興奮したり、憤ったりというのが、エンタメとしての『罪の声』の楽しみ方と言えます。
昭和最大の未解決事件ともいわれる大犯罪をテーマにしていることから一見ハードボイルドな印象を受けますが、終盤の展開が見せる人間ドラマは涙なくして語れないものがあります。
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【ネタバレあり】すでに読了した方へ
危険!ネタバレあり!名文ご紹介のコーナーです。
ネタバレ成分を多く含みます!
今後読む予定の方は絶対に見ちゃダメ!おもしろさが激減するよ!
終わりに
読ませる一作ですよ、これは!
読み応え抜群。
途中、こんがらがって、「お、これはどうなっているんだ・・・?」とか「これはだれだっけ・・・?」とかなりましたが、そんなことはもはやささいなことです!
普通に読むと数あるミステリーのなかの一作に埋没してしまいそうな感じですが、「グリコ・森永事件」をちょっとだけでも調べてから読むとたちまち光を放ち始める。そんな作品です。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
つみれ
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