こんにちは、つみれです。
このたび、相沢沙呼さんの『invert 城塚翡翠倒叙集』を読みました。
話題になった『medium 霊媒探偵城塚翡翠』の続編で、今作は倒叙スタイルの物語が3編収録された短編集となっています。
「倒叙」については記事内で説明しています。
▼前作の記事
それでは、さっそく感想を書いていきます。
本記事は本作のネタバレは含みませんが、前作『medium 霊媒探偵城塚翡翠』のネタバレを含みます。未読の方はご注意くださいね。
作品情報
書名:invert 城塚翡翠倒叙集
著者:相沢沙呼
出版:講談社(2021/7/7)
頁数:434ページ
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目次
あの城塚翡翠が活躍する倒叙ミステリー短編集!
私が読んだ動機
シリーズ前作の『medium 霊媒探偵城塚翡翠』がおもしろかったので読みました。
また、私が所属している文学サロン「朋来堂」の「ミステリ部」2021年8月の課題図書だったので読みました。
こんな人におすすめ
- 前作『medium 霊媒探偵城塚翡翠』がおもしろかった
- 倒叙ミステリーが好き
- キャラクターが魅力的な作品が好き
あらすじ・作品説明
緻密な計算の上に実行に移された殺人事件。
しかし、事故として処理されるはずだった事件の違和感に気づく一人の女性が現れる。
死者の声を聴くことができる霊媒能力を持つという彼女の名は城塚翡翠。
完全犯罪を目論む殺人者の前に、彼女の異能が立ちはだかる。
前作『medium 霊媒探偵城塚翡翠』の読了は必須
本作『invert 城塚翡翠倒叙集』は、前作『medium 霊媒探偵城塚翡翠』を読み終わっていることを前提にした物語になっています。
その証拠に、本作を開くと下記の文言が目に飛び込んできます。
この作品は『medium 霊媒探偵城塚翡翠』の結末に触れています。未読の方はご注意ください。『invert 城塚翡翠倒叙集』p.3
前作を先に読んでおいたほうがいい理由を下記に3つ挙げておきます。
- 時系列的に前作→本作となっており、順番に読んだほうが物語を理解しやすい。
- 本作のおもしろさは、前作の読了を前提としている。
- 本作を先に読んでしまうと、前作のおもしろさを激減させてしまう。
以上のことから、本作を読む前に前作を読んでおくことを強くおすすめします。
繰り返しになりますが、本記事も前作を読了した人向けに書いていきます。
>>前作『medium 霊媒探偵城塚翡翠』の紹介記事はこちら
倒叙ミステリー
本作『invert 城塚翡翠倒叙集』は、倒叙形式のミステリーです。
「倒叙ミステリー」とは、「最初から読者に犯人が明かされているミステリー」のこと。
一般的なミステリー作品は、犯人がわからない状態で物語が進み、その犯人を発見することを目的にしていることが多いですよね。
ですが、倒叙ミステリーは、犯人は冒頭部で明かされます。
だから、小説としてのおもしろさは「犯人探し」ではないところに現れてきます。
例えば下記のようなところですね。
- 探偵役が犯人の犯行を見抜く過程
- 探偵役が犯人を追い詰める過程
また、犯人が最初からわかっているため、犯人の事情や思惑を遠慮なく物語に盛り込むことができるのもポイント。
「犯行動機」や「犯人と探偵役の駆け引き」など、犯人がわかっているからこそ楽しめる要素が深く描かれているのが倒叙ミステリーの醍醐味!
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各編のあらすじ
本作には3編の短編が収録されています。下記で簡単に各編のあらすじを紹介します。
雲上の晴れ間
昔から自分のすべてを奪ってきた男、吉田直政。
ITプログラマーの狛木繫人は、自分が企画・開発したプロジェクトを、今また吉田に奪われようとしている。
狛木はついに吉田を殺害するが、そんな狛木の前に城塚翡翠という女性が現れる。
泡沫の審判
小学校教諭の末崎絵里は、非人道的な行いを繰り返す田草明夫を許すことができない。
絵里はとある口実を用いて田草を誘い出し殺害する。
やっと安息の日々が訪れた絵里の前に、白井奈々子と名乗るスクールカウンセラーが現れる。
信用ならない目撃者
探偵会社を運営する雲野泰典は表向きは探偵だが、活動の裏で著名な人間の弱みを握り、脅迫を繰り返してきた。
雲野はその罪を白日の下に晒そうとしている部下・曽根本を殺害。
そんな雲野の前に城塚翡翠が立ちはだかる。
各編の並び順が良い
上にも書いた通り、本作には3つの短編が収録されていますがその並び順が秀逸なんです。
本作の各編は下記の順番で収録されています。
- 雲上の晴れ間
- 泡沫の審判
- 信用ならない目撃者
1編目で倒叙形式の型を示す
本作収録の第1編目は「雲上の晴れ間」です。
もともと前作『medium 霊媒探偵城塚翡翠』は続編を書くのは不可能と言われていましたが、「倒叙」という武器を引っさげてそのハードルを軽々と超えて見せたのが1編目の「雲上の晴れ間」。
この1編目は、読者に対して本作の趣向や方針を示してくれています。
つまり、「倒叙型のミステリーはこういうものですよ」と説明する役割と、「前作とは少し異なる趣向で進めていきますよ」という宣言を兼ねています。
城塚翡翠は霊媒能力を使って死者と意思疎通し、そこから得た情報をもとに犯人を言い当てることをウリにしています。
翡翠ちゃんのキャラ設定と、犯人が読者に最初から明かされている倒叙スタイルがめちゃくちゃマッチしているんですよ。
読者も翡翠も犯人は最初からわかっている。
その状態からどうやって犯人を追い詰めていくのかという翡翠の思考をなぞっていく楽しさは、まさに倒叙ミステリーの醍醐味ですね。
2編目は1編目の単純進化
本作収録の第2編目「泡沫の審判」は、1編目「雲上の晴れ間」を単純に進化させたような内容。
1編目の犯人・狛木繁人は女性に対する免疫があまりなく、美女の翡翠に簡単に魅了されてしまう少し「チョロい」男性です。
一方、2編目の犯人・末崎絵里は女性なので、翡翠の美しさやあざとさに惑わされないどころか、翡翠を嫌悪するような態度さえ取ります。
物語の展開としては1編目と似ているものの、簡単に翡翠に丸め込まれないという意味では単純に犯人が強敵になった印象です。
犯人が一筋縄ではいかなくなった分、謎解きの過程のおもしろさも倍加しています。
3編目で本領発揮
1編目、2編目と読んできて、城塚翡翠版倒叙スタイルにも慣れてきたな・・・と読者を油断させておいてからの、この3編目の一捻りがすごい。
1編目と2編目の存在自体が仕込みになっていると言っても過言ではないほど、本作のラストを飾るに恥じない秀逸な作品となっています。
あまり書くとネタバレになってしまって怖いのですが、とにかく「invert=反転」がテーマになっている本作らしい一編になっていて、素直にめちゃくちゃおもしろかったです。
また、この3編目は犯人が強敵なのもポイント。
3編目の犯人・雲野泰典は元刑事というだけあって極めて優秀で、証拠を残さずに行動する技術を持っているんですよ。
本作は編が進むほどに、犯人がランクアップしていくのがおもしろいんです。
また、1編目・2編目は被害者側があまりにもひどいので犯人に肩入れしてしまうところがありましたが、3編目の雲野はいい感じにゲス野郎なのでそこも最高でしたね。
また余談になりますが、この3編目は相沢沙呼さんの別作品『午前零時のサンドリヨン』を事前に読んでいるとちょっとしたリンク要素を楽しめますよ。
ロジックにこだわった作品
本作は「倒叙」形式のミステリーなので、犯人と探偵役の知の攻防戦的な側面が強いです。
犯人からすれば、いかに尻尾を掴ませないか。
探偵からすれば、いかにボロを出させるか。
犯人と探偵それぞれの論理のどちらが上を行くのかという丁々発止のやり取りが実にスリリングです。
謎解きのヒントらしきものはそこらじゅうに転がっていますが、そのどれが犯人にとって致命的なミスに繋がるのか。
城塚翡翠になりきったつもりで犯人の論理の穴をさがしつつ本作を読んでみるのもおもしろいかもしれませんよ。
表紙のイラストがきれい
前作『medium 霊媒探偵城塚翡翠』の表紙イラストも良かったですが、本作の表紙もすばらしいですね!
書店などでこの表紙に目を惹かれたという人も多いのではないでしょうか。
この表紙イラストは、イラストレーターの遠田志帆さんが手掛けているそうです。
単にきれいなだけではなく、ミステリーに絶妙にマッチする「妖しさ」があるんですよね。
もちろん、「城塚翡翠シリーズ」の雰囲気にも良く合っていると思います。とてもいいですね!
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読書会風動画
本作『invert 城塚翡翠倒叙集』は、私が所属している文学サロン朋来堂ミステリ部の2021年8月の課題図書でした。
ミステリ部員5名が読後に本作について語り合う動画がありますのであわせて紹介します。
私も「つみれ」という名前で参加しているのでぜひ観てね!
▼相沢沙呼『invert 城塚翡翠倒叙集』の感想を語り合う。【朋来堂ミステリ部】
終わりに
『invert 城塚翡翠倒叙集』は、続編不可能と言われた前作『medium 霊媒探偵城塚翡翠』の設定をうまく生かした倒叙ミステリー短編集です。
城塚翡翠というキャラクター自体が倒叙型のミステリーとたいへん相性がよく、また各短編の並び順もしっかりと考えられているなど、仕掛け満載の一冊でした。
本記事を読んで、相沢沙呼さんのミステリー『invert 城塚翡翠倒叙集』がおもしろそうだと思いましたら、ぜひ手に取って読んでみてくださいね!
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
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