ミステリー、サスペンス

  (最終更新日:2021.08.19)

【感想】『女王国の城』/有栖川有栖:学生アリスシリーズ第4弾!

こんにちは、つみれです。

このたび、有栖川有栖の「学生アリス」シリーズ第4弾、『女王国の城』(創元推理文庫)を読みました。

「学生アリス」は外界との往来を断たれた状況で起こる事件を扱う「クローズドサークル」をテーマにしたシリーズ。

私はクローズドサークルが大好きなので、とても楽しく読ませていただいております。

主人公たちが所属する推理小説研究会の旅の目的は毎回異なりますが、旅先でクローズドサークル的な状況に陥り、殺人事件に巻き込まれるというのは毎回同じ。

いつしかこの展開に安心している自分がいます。いいのかそれで

そろそろ推理小説研究会のメンバーの誰かが「殺人事件に遭遇しやすい」とか「クローズドサークラー」とか、そういった特殊能力をもっている設定にしないと不自然なくらいに、毎回事件に巻き込まれています。

このあたりはシリーズもののミステリーが共通で持つ悩みといっていいのかもしれませんね。

それでは、さっそく感想を書いていきます。

※ネタバレ箇所は折りたたんでありますので、未読の場合は開かないようご注意ください。

作品情報
書名:女王国の城 (創元推理文庫)

著者:有栖川有栖
出版:東京創元社 (2011/1/28)
頁数:(上)435ページ、(下)438ページ

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正統派のクローズドサークル・ミステリー

私が読んだ動機

このシリーズ、おもしろいんですもの。

こんな人におすすめ

チェックポイント
  • クローズドサークルものが好き
  • 長編本格ミステリーを読みたい(シリーズ初の文庫本上下巻構成)
  • 「読者への挑戦」に挑みたい

前作『双頭の悪魔』では推理小説研究会のメンバーであるマリアが失踪したのを、他のメンバーが助けに行くというストーリーでしたが、本作ではなんと江神部長が失踪してしまいます。

突如いなくなってしまった江神部長を他のメンバーが探しに行くという流れは前作と酷似しているのですが、シリーズで何度も名推理を披露してきた江神さんですから、彼の不在はとんでもないほど不安です。

この喪失感を味わうためにも、本シリーズはできるだけ第1作から順番に読み進めることをおすすめします。

もちろん、いきなりこの第4作を読んでしまっても十分楽しめるように作られていますのでご安心ください。

異様なクローズドサークル

冒頭でも書きましたが、「学生アリス」シリーズはクローズドサークルが一つのテーマになっています。

これまでの3作でも、舞台が嵐の孤島であったり、大雨によって橋が流されたり、絶賛活動中の火山の噴火によってクローズドサークルが形成されたりしています。

これらはすべて自然の力によって主人公たちがあるエリアに閉じ込められてしまうわけですが、本作『女王国の城』は少し様相が異なります。

舞台は木曽山中にある村落「神倉」。

もともとUFOの目撃談が多いエリアで、近年ではとある新興宗教団体の本部が設置された場所として有名という設定です。

新興宗教団体の名前は「人類協会」。

怪しい要素しかないですね(笑)

この「人類協会」ですが、設立の経緯や思想などがよく練られていて、所属する会務員たちも妙に人間くさく、設定的にすばらしいです。

上巻はこの説明にかなりの紙幅を割いていて、若干間延びしているようにも思えますが。

ネタバレになってしまうのでここで詳細は語りませんが、この人類協会本部がクローズドサークル化したり、村落自体がクローズドサークル化したりするわけです。

自然の力によるものでなく、完全に人為的な理由によるクローズドサークルの形成ですから、なんとなく悪意を感じます。

そしてその悪意の矛先がどこに向いているのかが掴めそうで掴めないという不気味さが、「人類協会」の思想の不可解さとも相まって、異様な雰囲気を作り出しています。いいねえ、いいねえ。

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<静の巻>と<動の巻>

この表現は作者有栖川有栖が上下に分冊されている本作の上巻と下巻の性質を言い表したものです。

本作の性格がよく言い当てられている表現で、まさに前半はゆっくり展開、後半は怒涛の展開といった感じなのです。

だからといって、前半部がおもしろくないかというとそうではありません。

上巻で巧妙に張られた伏線が下巻で一気に回収されていくので、<静の巻><動の巻>に見えてしまうということです。

ちなみに、作者はあとがきでこの表現を用いているわけですが、これはネタバレではありませんよね?ね?

ゆ、許してください。

正々堂々とした本格ミステリー

ミステリーは読者を楽しませるために、実にいろいろな趣向を凝らしてくれています。

読者をミスリードし誤認に導いたり、冒頭で犯人がわかったり、などなど。

しかし、有栖川有栖の「学生アリス」シリーズは、正々堂々と読者に謎解きを仕掛けてくる本格ミステリーシリーズです。

本作『女王国の城』もその例外ではありません。

掟破りの一発芸的な謎解きに頼らない真面目で正統派のミステリーに仕上がっています。

こういうミステリーを何作も書けるというのはすごいなと思います。

 

 

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【ネタバレあり】すでに読了した方へ

危険!ネタバレあり!

本作に登場する名文をご紹介してみようかと思います。

ネタバレ成分を多分に含むので折りたたんであります!

今後読む予定の方は見ちゃダメです!

ネタバレあり!読了済の人だけクリックorタップしてね

この原木に椎茸の種ゴマを植えてやれば、そこから生えてきます。いわばシーちゃんの揺り籠です<span class="su-quote-cite">『女王国の城』上p.182</span>

やけに椎茸の描写が多い本作、絶対にミステリーに関わっていると直感しました。

そういえばこの直前、アリスがマリアと夜の散歩をしているときに、幻覚に襲われるシーンがあったな!!

ああ、なるほどね。キノコが幻覚を視せているわけだ。

つまり、怪しい「人類協会」とこの椎茸栽培のオヤジはグルか。

謎は解けた!!(←バカ)

正直、このキノコ幻覚説を諦めたくなくて、終盤までこの説を引きずったのが本作での敗因です。

ここまでくると、ミステリーセンスのなさが泣けてくるよね。

くそっ、なにがシーちゃんだよ!!

 

皆さん、冷静に、冷静に。<和をもって貴しとなす>ですよ<span class="su-quote-cite">『女王国の城』上p.311</span>

推理小説研究会メンバーと「人類協会」の会務員とが険悪な雰囲気になってくるなか、人類協会の青田が発したセリフ。

なんで聖徳太子

和をもって貴しとなす。

会議中、議論が紛糾したときに言ってみたいセリフですが、言ったら三白眼で睨まれること請け合いです。

 

人間ってミスをするんですね。

人生が懸かったそんな大事な場面で、子供みたいな間違いをしてしまうんや<span class="su-quote-cite">『女王国の城』上p.419</span>

本作一切ないシーン。セリフだけですでに泣ける。

そのあとに、こういうミスによるすれ違いがたくさんの小さな謎を生んでいるといった趣旨のことが書かれている。

ミステリーとして美しい表現です!

 

邪魔しやあすな!<span class="su-quote-cite">『女王国の城』下p.73</span>

なんじゃこれは、カッコよすぎる!

本作の見どころといえば、推理小説研究会メンバーによる人類協会の総本部からの脱出劇。

これは脱出時の信長のシャウト。最高のシーンです!

この「学生アリス」シリーズのレギュラーメンバーであるはずのモチと信長ですが、正直、全3作まではあまり区別がついていなかったんです。(←最低)

本作はこの脱出シーンでモチはモチらしく、信長は信長らしく、脱出をやってのけるんですね。いやー、ほんと最高。

前作『双頭の悪魔』でも小競り合い程度のドタバタはありましたが、本シリーズでこんなアクションが繰り広げられるとは夢にも思わなかったです。

ちなみにこの脱出劇では、この信長のシャウト以外にも名セリフ、珍セリフが満載でおもしろさ大爆発です。

消火器(武器)を持ったマリアをみて、人類協会メンバーが放った「やめろ。そんなもの、しまうんだ」(『女王国の城』下p.71)も秀逸だし、結局消火器をぶっ放すマリアが心の中で叫んだ「ファイア!」(『女王国の城』p.72)など最高でしょうよ。

消火器なのにファイアだからね、最高ですね。

 

人は、自分の閃きには恥ずかしげもなく甘くなれる<span class="su-quote-cite">『女王国の城』下p.152</span>

その閃きや思いつきを捨てるのって結構勇気がいるんですよね。

深いセリフです。

終わりに

ミステリーとしての緻密さは前作『双頭の悪魔』に軍配があがると思いますが、それでも正統派の謎解きを十分に楽しませてくれる一作です。

青春ものとしてはもうこれは最高の出来ではないでしょうか。

読んでいて興奮してしまいました(笑)

この興奮を味わうためにも、ぜひ第1作『月光ゲーム』から読むことをおすすめいたします。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

つみれ

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