こんにちは、つみれです。
このたび、田中啓文さんのミステリー連作短編集『落下する緑』を読みました。
ジャズマンが謎を解くユニークさと、事件の多彩さが魅力の一冊です!
それではさっそく感想を書いていきます。
作品情報
書名:落下する緑 永見緋太郎の事件簿(創元推理文庫)
著者:田中啓文
出版:東京創元社(2008/7/1)
頁数:340ページ
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目次
ジャズマンが謎解き!
私が読んだ動機
- インターネットでおもしろそうな本を探していて見つけました。
- kindle unlimited の対象作品(2020年10月現在)だったので読みました。
こんな人におすすめ
- 人が死なないミステリーが読みたい
- 天才的な探偵役の活躍を楽しみたい
- ジャズや音楽が好き
あらすじ・作品説明
音楽・芸術をテーマにした事件・謎を扱った短編を7編収録した連作短編集。
トランペット奏者の唐島英治は、ジャズバンド「唐島英治クインテット」のバンドマスターで、メンバーのテナーサックス奏者年の永見緋太郎とは年齢こそ離れているが、公私ともにとても仲が良い。
永見はサックス演奏にかけては天才的な才能の持ち主だが、音楽以外のこととなると無頓着で、世間の常識にも疎い。
しかし、その永見が、事件に直面すると、持ち前の洞察力と「空気の読めなさ」を発揮して、謎を鮮やかに解決していく。
メインキャラが良い
本作の物語中で、メインで活躍する唐島英治と永見緋太郎がわかりやすいキャラでとてもいいです。
ミステリーの王道をしっかり押さえたわかりやすい配役なので、読む側も身構えることなく自然に読み進めることができますよ。
唐島英治
唐島英治は常識人かつ一般的な感覚の持ち主で、登場人物や事件の状況などを読者に寄り添ってわかりやすく説明してくれるキャラクターです。
ミステリー的にはワトソン役ですね。
ワトソン役は基本的に謎を前にオロオロするのが仕事みたいなものですが(暴論)、この唐島はトランペット奏者としては一流の腕前を持っていて、名前も結構知られているという設定がまたいいんですよ!
永見緋太郎
永見緋太郎は、空気が読めず奇人変人の類ですが、優れた洞察力で物事の本質をつかむ謎解き担当で、ミステリー的な位置づけはホームズ役です。
弱齢ながらテナーサックス奏者としても超一流の力量を持っていて、基本的に音楽以外に興味を示さないという徹底して偏ったキャラクターです。いかにもホームズ的なキャラですね。
永見のはっちゃけっぷりを楽しむのも本短編集の楽しみの一つです!
それにしても、緋太郎って名前めちゃくちゃかっこいいな・・・!
「人が死なない」文科系ミステリー
本短編集は「人が死なない」日常系ミステリーを集めた連作短編集です。
また、主要な人物がジャズマンであることもあって、楽器や音楽が関係する事件が多いです。
物語中にもジャズ絡みのウンチクが多いのですが、特段ジャズに詳しくなくても楽しめる作りになっていますよ。
ジャズ以外にも、絵画や小説を題材にした下記のような文化的な謎を扱っています。
- 「展覧会で展示されていた絵画が逆さまになっていたのはなぜ」
- 「著名作家の死後に発見された未発表原稿は本当にその作家自身が書いたものか」
おもしろそうでしょ?
いずれも殺人事件を扱っていないので安心感がありますが、ただの「日常系」ミステリーではなく、「ジャズ」という個性的なワンポイントが入っているため、読み心地は独特です。
物語にもジャズ由来のユニークさがあってオンリーワンの魅力を放っていますよ。
多彩な7編
表題作の「落下する緑」の他に6編、合計7編が収録されています。
タイトルはすべて「落下する緑」のように「~する色の種類」という形になっていて統一感がありますね。
物語としては、人の心の醜い部分や復讐譚などを描くダーク系のものから、心温まる人情系のもの、恋愛系などもカバーしていて、隙のない短編集となっています。
多彩な謎を幅広く楽しむことができ、7編全部がおもしろいですよ。
基本的にはコテコテの本格ミステリーではなく、推理を楽しむタイプではありません。
あくまでも物語を楽しむことが主体のミステリーですが、ロジックもそこそこ楽しめるよ、といった軽い感じです。
7編のどこから読んでも問題なく楽しめますので、気楽に手に取っていただきたい一冊です。
収録された7編すべておもしろかったですが、特に私がおもしろいと思ったお気に入りの2編を紹介します!
「虚言するピンク」と「砕けちる褐色」ですね!
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虚言するピンク
日本の心を理解することに燃える元フルート奏者で現尺八奏者のデイヴ・スプリングが荒れに荒れている、という冒頭からおもしろい。
デイヴは尺八の流派染田流に入門するもなかなかうまくいかず、そのあたりの苦悩をうまく描き切っています。
デイヴ・スプリングとその師匠染田研一郎の関係がとてもよくて、読後はホッと温かい気持ちになる人情ものです。
砕けちる褐色
「一緒にセッションすることで犯人を探しだす」という「マジかよ!?」的なストーリー展開が秀逸でした。
謎解き要素は薄めですが、性格診断的な推理で犯人を絞り込んでいくのが最高におもしろいです。
ゲストキャラとして登場する片桐芳彦というスーパーわがままなベース奏者の無茶苦茶っぷりもかなり良かったです。
勧善懲悪的な物語になっていて、読後の痛快さ・スッキリ感がとてもよかったです。
ジャズ・音楽に詳しくなくてもOK!
音楽をメインテーマに扱っている本作ですが、特にジャズとか音楽に詳しくなくても楽しめます。
私は、トランペットとクラリネットの違いが咄嗟に判断できないほどの音楽無知野郎ですが、それでも本作を十分に楽しむことができました。
音楽的な要素はあくまで作品の味付けにすぎず、ミステリー作品としてのメインの謎解き部分にそういった音楽知識は不要です。
音楽のことなんてわからないよ!という場合でも安心して楽しむことができますよ。
田中啓文の「大きなお世話」的参考レコード
本短編集には“田中啓文の「大きなお世話」的参考レコード”という、物語部分とは全く関係のない、作者田中啓文さんの割とガッツリめのジャズうんちく語りが、一編終わるごとに差し挟まれます。
いわゆるライナーノーツ的なジャズ解説文なのですが、本編とは無関係なので、物語をまとめて楽しみたい場合には、読み飛ばしたりあとでまとめて読んだりしても良いかと思います。
ですが、このジャズ語り、田中啓文さんご自身もテナーサックス奏者ということもあって語りの熱量が凄まじく、一読の価値ありです。
もうジャズに対する熱意が「これでもか!」というくらい伝わってきます!(笑)
個人的には、本編の7編すべてを読み終えてから、「大きなお世話」的参考レコードをまとめて読むのがいいかなと思いました。
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終わりに
『落下する緑』は、ジャズの世界で起こる謎(例外もある)をジャズマンが解いていくというユニークさと、肩ひじ張らずに気軽に読めるお手軽さが魅力の連作短編集でした。
音楽関係の小説や、軽めのミステリーを読みたい場合にうってつけの一冊ですので、興味があればぜひ手に取ってみてくださいね。
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
つみれ
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