蒼海館の殺人

ミステリー、サスペンス

  (最終更新日:2021.07.24)

【感想】『蒼海館の殺人』/阿津川辰海:洪水が迫りくるクローズドサークル!

こんにちは、つみれです。

このたび、阿津川辰海(アツカワタツミ)さんのミステリー長編『蒼海館(アオミカン)の殺人』を読みました。

前作『紅蓮館(グレンカン)の殺人』の直後の物語となっていて、台風による洪水で館が孤立してしまうクローズドサークル作品です。

▼前作の記事

それでは、さっそく感想を書いていきます。

※本記事には、一部、前作『紅蓮館の殺人』の内容が含まれますので、未読の場合はご注意ください。

作品情報
書名:蒼海館の殺人

著者:阿津川辰海
出版:講談社タイガ(2021/2/16)
頁数:640ページ

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洪水が迫りくるクローズドサークル!

洪水が迫りくるクローズドサークル

私が読んだ動機

  • 前作『紅蓮館の殺人』がおもしろく、続編を楽しみに待っていました。
  • 2020年発刊のミステリー短編集『透明人間は密室に潜む』がおもしろかったから。

こんな人におすすめ

チェックポイント
  • 本格ミステリーが好き
  • クローズドサークルものを読みたい
  • 複雑な謎解きに挑戦したい
  • 圧巻の解決編を堪能したい
  • 前作『紅蓮館の殺人』の続編を読みたい

あらすじ・作品説明

前作『紅蓮館の殺人』の事件以来、不登校になってしまった「名探偵」葛城輝義(カツラギテルヨシ)

 

彼に会うために、彼の友人の田所信哉(タドコロシンヤ)は、Y村にある彼の実家「青海館(アオミカン)」を訪れる。

 

最初は明るく歓待を受けるが、とあるやり取りを境に次第に関係がギクシャクしていく。

 

豪雨により洪水が迫るなか、「青海館」は連続殺人の舞台に変貌する。

クローズドサークル

黒雲

本作の大きな特徴の一つが、クローズドサークルもののミステリーだということです。

クローズドサークルの説明は下記。

クローズドサークル

何らかの事情で外界との往来が断たれた状況、あるいはそうした状況下でおこる事件を扱った作品 Wikipedia「クローズド・サークル」

外界との連絡手段が絶たれることも多い。

サークル内にいる人物のなかに高確率で犯人がいると思われたり、捜査のプロである警察が事件に関与できない理由づけになったりなど、パズルとしてのミステリーを効果的に演出する。

「嵐の孤島」「吹雪の山荘」などがその代表例として挙げられる。

クローズドサークルの典型例は上記の通り「嵐の孤島」「吹雪の山荘」などです。

私、こういうクローズドサークルものが大好きなんです!

前作『紅蓮館の殺人』はちょっと特殊なクローズドサークルでしたが、本作もそのスタイルを踏襲しています。

前作『紅蓮館の殺人』のクローズドサークル

発火

『紅蓮館の殺人』は、館に閉じ込められ、その内部で殺人事件が起こるクローズドサークル作品です。

しかし、『紅蓮館の殺人』が珍しいのは、落雷による火事によって館が炎に囲まれて次第に登場人物たちの行動範囲が狭まっていくこと。

それが都度【館焼失まで~時間~分】という形で示されるのです。言ってみれば「時限式」クローズドサークル。これがおもしろい!

館のなかで殺人事件が発生している状況なのに、外では火が迫ってくるというダブルの危機!まさに内憂外患!

このような極限状態での謎解きが前作『紅蓮館の殺人』の醍醐味でした。

本作『蒼海館の殺人』のクローズドサークル

一方、この『蒼海館の殺人』では、前作とは打って変わって台風による大雨の影響で登場人物たちが館に閉じ込められてしまいます。

火属性から水属性に変えてきましたね。

高台にある館が迫りくる水に取り囲まれ、次第に水没していく時限式クローズドサークルです。

本作では、時間の経過が【館まで水位~メートル】のように「水位」で表現されています。

単純に前作の様式を継承して【館浸水まで~時間~分】とストレートな残り時間表記にするのではなく、「水位」で間接的に時限が示される形に変わっているのがポイント。

シリーズものとしての統一感を担保しつつも正確なタイムリミットが捉えづらくなっていて、より恐怖感が増しています。

この「タイムリミット系クローズドサークル」とでも呼ぶべき趣向が本シリーズの特徴。

天災による外からの恐怖と、館内の殺人事件という内からの恐怖のダブルパンチで楽しませてくれます。

ぜひともこのスタイルでシリーズを続けていってほしいですね。

クローズドサークルのお約束も

橋

クローズドサークルもののお約束的な展開として、館に通じる道が何かしらの事故で遮断される、ということがよくあります。

こうすることでクローズドサークルが形成されるわけですが、この「お約束」が登場するとミステリー好きは「キターーー!」となります。

本作でも下記の形で登場。

「Y村に至る道路が土砂崩れで寸断されているそうだ」 『蒼海館の殺人』kindle版、位置No.2863

「橋が──橋が流されてしまいました!」 『蒼海館の殺人』kindle版、位置No.2966

こういうセリフが出てくると、私のようなクローズドサークル好きは「すばらしい!もっとやれ!」とハイテンションになります。最低すぎる。

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先に『紅蓮館の殺人』を読んでおくのがおすすめ

火災

本作『蒼海館の殺人』は、前作『紅蓮館の殺人』の直後の物語を描いています。

登場人物を取り巻く状況などは『紅蓮館の殺人』を読んでいた方が格段に理解しやすいです。

とくに、主役の一人で探偵役の葛城輝義が『蒼海館の殺人』の序盤では腑抜けた状態になってしまっていますが、これは前作の事件を引きずっているから。

このあたりの事情は、本作の事件にも関係してきます。

それ以外にも、前作の内容を振り返るシーンが頻繁に登場しますので、本作『蒼海館の殺人』を読む前に『紅蓮館の殺人』を読んでおくのがおすすめです。

ただし謎解き自体は『蒼海館の殺人』単体で完結していますので、本作だけでも十分に楽しめます。

「前作との細かい繋がりなんて気にしないぜ!」という「物語より謎解き派」はいきなり本作から読んでもまったく問題ありません。

前半は探偵役不在

上にも書きましたが、本作『蒼海館の殺人』の前半では探偵役の葛城輝義が腑抜け状態になっています。

つまり、前半部は探偵役不在!

ワトソン役である主人公の田所信哉とその友人三谷緑郎(ミタニロクロウ)が館の住人たちと時に協力し、時に敵対しながら謎を解こうとします。

しかし、謎は堂々巡りで、その間にも水がどんどんと押し寄せてくる。

探偵不在の不安のなか、葛城の復活を待つ時間的猶予もないのが本作のおもしろさです。

物語的に葛城が復活するのは想像できるのですが、それが非常に待ち遠しい。

探偵の復活をいまかいまかと待ち焦がれながらも、事態が徐々に緊迫していくスリルが最高ですね。

怪しい人物ばかりで楽しい

本格ミステリーのおもしろさの一つは怪しい登場人物です。

正直に言ってしまうと、前作『紅蓮館の殺人』はキャラクターの魅力の面では弱く、どうも好きになれない人物が多かったです。

しかし、本作はキャラクターも非常に良かった(しかもみんなほどほどに怪しい)です。

まず、館の住人である葛城一族(葛城輝義の家族)が怪しい。

政治家に学者、モデルに弁護士。すごい一族です。

基本的に善人っぽい彼らですが、何かを隠していそうな雰囲気を序盤から発しまくっています。

それから、館を訪問している来客がみんな怪しい。

挑戦的で誰かれ関係なく突っかかる雑誌記者や、陰気な性格の家庭教師など、とにかくミステリー的に死にそうな人ばかり登場します(笑)

とくにミステリーでは記者とかカメラマンは致死率が高い(断言)

決定的な写真を撮ってしまってその証拠隠滅のためにフィルムともども消されるのが、ミステリーの王道パターンです。「記者=死」です(断言)

もう記者は館に近づかない方がいい。

なごやかなのは最序盤だけで、ある場面でこの雑誌記者が周りの人に喧嘩を売るのを境に、一気に登場人物全員が怪しくなります。

ミステリーの怪しい人物大好き!最高ですねえ!!

圧巻の解決編

本作の謎解きはかなり複雑で、いろいろな要素が幾重にも絡み合っています。

あまりに二転三転する状況に翻弄されるので、真相を想像するのが楽しくてしかたなかったです。

正直なところ、犯人や犯行動機は途中でなんとなくわかってしまったのですが、トリック自体は全くわかりませんでした。

この複雑怪奇に入り組んだトリックが解決編で理路整然と解き明かされていく様子はまさに圧巻。

解決編は怒涛の展開で、読んでいてすさまじく気持ちいいです!

探偵役もここぞとばかりにケレン味たっぷりの謎解き披露をしていて、不謹慎にも笑ってしまいました。

現実的に考えるとかなりありえない物語展開ですが、本格ミステリーとして捉えると満足度がめちゃくちゃ高いです。

まさにミステリーのためのミステリーと言っても過言ではない、一気読み必至の解決編でした。

これはぜひミステリー好きに読んでほしい一冊ですね!

 

 

終わりに

おもしろすぎて一気読みしてしまいました。

いろいろな要素が絡み合った複雑怪奇なトリックと、それらがスルスルと解かれていく解決編。爽快感抜群です!

謎解きに重点を置いた本格的なミステリーを読みたいときにうってつけの一冊ですよ。

本記事を読んで、阿津川辰海さんの長編ミステリー『蒼海館の殺人』を読んでみたいなと思いましたら、ぜひ本書を手に取ってみてくださいね!

最後までお読みくださり、ありがとうございます。

つみれ

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