塞王の楯

歴史

  (最終更新日:2022.04.29)

【感想】『塞王の楯』/今村翔吾:最強の楯か、至高の矛か?

こんにちは、つみれです。

このたび、今村翔吾(イマムラショウゴ)さんの『塞王(サイオウ)(タテ)』を読みました。

 

関ヶ原(セキガハラ)の戦い直前、大津(オオツ)の地で「最強の楯」石垣と「至高の矛」鉄砲がぶつかり合うユニークな戦国小説です。

 

それでは、さっそく感想を書いていきます。

※2022年1月19日追記

第166回直木賞は、本作『塞王の楯』と、米澤穂信(ヨネザワホノブ)さんの『黒牢城(コクロウジョウ)』が受賞しました。

今村翔吾さん、米澤穂信さん、おめでとうございます!!

▼第166回直木賞候補作をまとめています。

>>【2021年下半期】第166回直木賞候補5作まとめ!

作品情報
書名:塞王の楯

著者:今村
出版:集英社
頁数:560ページ

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最強の楯か、至高の矛か?

最強の楯か、至高の矛か

私が読んだ動機

第166回直木賞候補作(2021年下半期)に選ばれたので読みました。

こんな人におすすめ

チェックポイント
  • 歴史小説が好き
  • 戦国時代に興味がある
  • 少年マンガ的でライトな歴史小説を読みたい
  • 石垣が好き
  • 直木賞候補作を読みたい

あらすじ・作品説明

越前(エチゼン)一乗谷(イチジョウダニ)織田信長(オダノブナガ)に襲撃され、家族を喪った少年匡介(キョウスケ)は、石垣職人の源斎(ゲンサイ)に救われる。

 

源斎は石垣造りを職能とする「穴太衆(アノウシュウ)飛田屋(トビタヤ)の頭目で、匡介は彼のもとで石垣造りの技術を身につける。

 

絶対に破られない「最強の楯」としての石垣によって、戦をなくせると信じる匡介。

 

豊臣秀吉(トヨトミヒデヨシ)の死をきっかけに戦乱の機運が高まるなか、匡介は大津城城主・京極高次(キョウゴクタカツグ)に石垣改修の依頼を受ける。

 

一方、大津城に侵攻する毛利元康(モウリモトヤス)のもとには絶対に敵を破る「至高の矛」たる鉄砲職人「国友衆(クニトモシュウ)」の国友彦九郎(クニトモゲンクロウ)を帯同していた。

 

琵琶湖岸にたたずむ大津城を舞台に、「最強の楯」と「至高の矛」の戦いの火ぶたが切って落とされる。

「最強の楯」と「至高の矛」

石垣

本作は日本の戦国時代を舞台に「最強の楯」たる石垣と「至高の矛」たる鉄砲が相争う戦国小説です。

争うのは下記の二人。

  • 飛田匡介:石垣造りを職能とする技術集団「穴太衆」飛田家の若き副頭
  • 国友彦九郎:鉄砲の機能美を追求する技術集団「国友衆」の若き天才

この二人が一つの戦場でその技術の成果をぶつけ合います。

石垣造りの「穴太衆」と鉄砲造りの「国友衆」とが、同じ近江国内に同居し、最初からお互いをライバルとして強く意識しているのもおもしろいですね。

 

本作は私が言うまでもなく、故事成語の「矛盾」を日本の戦国時代にあてはめ直した物語です。

 

匡介と彦九郎の前にあるのは、「戦をなくすために必要なのは何か?」という一つの問題。

この問題に対して、匡介は「攻撃を受け付けない最高の防御力」、一方の彦九郎は「戦いの抑止力となる最高の攻撃力」という異なる解をはじき出します。

現代の核兵器保有の是非にも通じるテーマで非常に興味深いですよね。

戦いの花形をメインに描かない戦国小説

城のお堀

本作の特徴として、戦国の花形でない部分を魅力的に描き出していることが挙げられます。

純粋な戦闘員でなく、石垣職人や鉄砲職人を前面に押し出しているという点で他の戦国小説とは一線を画した作品となっていますね。

さらに、匡介の所属する飛田屋では、石垣造りに必要な職能によって部署が下記の3つに分かれています。

  • 山方:山から石を切り出す
  • 荷方:切り出した石を石垣造りの現場に運ぶ
  • 積方:石垣を積む

本作ではこの三部署の業務内容が非常に丁寧に説明されています。

石垣造りの技術集団だけあって飛田屋では「積方」が花形部署となるわけですが、その他の「山方」「荷方」についてもその必要性をしっかりと描き出しているのが良かったですね。

どうしても花形部署が注目されがちなのは世の常ですが、世界は花形だけでは回りません。

 

「縁の下の力持ち」にもしっかりと注目してくれているのは嬉しい限り。

 

戦国の花形とも言える戦闘員ではなく、あくまで技術集団に着目し、さらにそのなかでも目立たない仕事まで丁寧に説明してくれているのが最高の一冊です。

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登場人物がいい

武将のシルエット

本作『塞王の楯』は、登場人物がみんな魅力的です。

上記ですでに紹介した飛田匡介・国友彦九郎のライバル二人も魅力的ですし、その他登場する実在の歴史上の人物なども非常に魅力的に描かれています。

本作で敵味方に分かれて戦う京極高次と立花宗茂(タチバナムネシゲ)がとても良いんですよ。

本作のいいところの一つは、登場人物をとても大事にしていて、敵味方の別を問わず極めて丁寧に描いているということです。

 

特に「敵キャラの良さを丁寧に描く」ことは作品に深みを出すのに大事な要素だと私は思っていて、それが本作はきっちりと行われています。

 

主人公の匡介から見れば、国友彦九郎や立花宗茂は敵に当たるわけですが、この敵キャラがどこか少年マンガ的でめちゃくちゃカッコよく描かれているんです。

気になる人は、実際に『塞王の楯』を手に取ってこのカッコいい敵キャラを味わってほしいですね。

大津城の戦い

朝の琵琶湖

本作最大の見どころは「大津城の戦い」です。

「大津城の戦い」は若干マイナーな戦いで、これをメインとして扱っているのはなかなか珍しいですね。

この戦いは日本の歴史上の戦いでも三本指に入るほど有名な「関ヶ原の戦い」の前哨戦に位置づけられますが、本戦が有名すぎる故に霞んで見えるんですよね。

 

このニッチな戦いを題材に取っているのは歴史好きの私としては嬉しかったですね。

 

戦いの概要

夕方の琵琶湖畔

関ヶ原の戦い前夜、徳川家康(トクガワイエヤス)の東軍と石田三成(イシダミツナリ)の西軍が衝突するにあたり、琵琶湖畔の大津城は戦略上の要地となりました。

特に西軍にとって大津城は各進攻路を繋ぐ交通の要衝であったと同時に補給の拠点ともなり得る重要な地点。

この地を押さえることは、近い未来に起こるであろう大決戦に重大な影響を与えるということで激戦が繰り広げられたわけです。

これが「大津城の戦い」の概要です。

東軍側の大将にして大津城の城将は京極高次。

一方、西軍側の大将は毛利元康ですが、こちらには当時を代表する名将・立花宗茂がついています。

籠城側の京極高次に「最強の楯」飛田匡介が、攻城側の立花宗茂に「至高の矛」国友彦九郎が協力するという熱い展開が本作の最高におもしろいところです。

少年マンガ的戦闘描写

鉄砲を撃つ武将

本作の魅力の一つは歴史小説にありがちな重厚で重苦しい感じを排除し、ライトな読み口で楽しませてくれるところです。

上でも触れた通り、登場キャラクターも多分に少年マンガ的な魅力を備えており、良くも悪くも軽めの読み応えのおかげで歴史小説が得意でない人でも楽しめる作品と言えそうですね。

そしてとりわけ少年マンガ的な魅力にあふれているのは、作中でたびたび登場する戦闘描写です。

「懸」

石垣

石垣造りの技術集団「穴太衆」のなかでも匡介が所属する飛田屋は、「(カカリ)」という特殊な技能を持っています。

これは言ってみれば究極の突貫工事

時は戦国時代、場合によっては石垣をゆっくり積んで守りに備えるということができない状況もありますよね。

「懸」は防備が万全でない状況下で、敵の侵攻にあわせてインスタントで石垣を積み、臨時の楯として機能させるというもの。

 

つまり、飛田屋は金で雇われて戦の楯を請け負う傭兵のような仕事も行っているわけですね。

 

「懸」というのは作者・今村翔吾さんの造語で、本作に描かれるそういった傭兵的な仕事もおそらくオリジナルの要素です。

この「懸」が、単なる技術集団の一員である匡介が戦場で熱い戦いを繰り広げる理由づけになっていて、本作を大きく盛り上げてくれる一要素となっています。

正直なところ、戦国のリアリティとして欠けている部分がありますが、その分、エンタメ方面に振り切っていて「創作の戦国時代」を存分に楽しむことができます。

戦国小説として極めてユニークで、私としても最高に楽しい読書体験となりました。

とにかく、敵の攻撃を推測してそれに対応する臨時の石垣を組んでいく職人たちの、戦闘員顔負けの活躍がおもしろい一作でしたね。

石垣造りを前面に押し出したオリジナリティあふれる戦国小説を楽しんで欲しいです。

『塞王の楯』の素敵なつぶやき

『塞王の楯』に関するTwitterのつぶやきのうち、参考になるものや素敵なものをご紹介します。

 

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終わりに

『塞王の楯』は、大津城の戦いを舞台に「最強の楯」石垣と「至高の矛」鉄砲がぶつかり合うユニークな戦国小説です。

 

全編を通して少年マンガ的な演出が多く、極めて読みやすい戦国小説となっています。

 

本記事を読んで、今村翔吾さんの『塞王の楯』がおもしろそうだと思いましたら、ぜひ手に取って読んでみてくださいね!

最後までお読みくださり、ありがとうございます。

つみれ

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