星落ちて、なお

歴史

  (最終更新日:2021.07.27)

【感想】『星落ちて、なお』/澤田瞳子:天才絵師を父に持つ娘の苦悩を描く!

こんにちは、つみれです。

このたび、澤田瞳子(サワダトウコ)さんの『星落ちて、なお』を読みました。

絵師である河鍋(カワナベ)とよが偉大な父暁斎(キョウサイ)の影に踊らされながらも自分の生き方を模索していく歴史小説です。

また、第165回直木賞候補作にノミネートされた作品でもあります!

それでは、さっそく感想を書いていきます。

※2021年7月14日追記

第165回直木賞は、本作『星落ちて、なお』と、佐藤究(サトウキワム)さんの『テスカトリポカ』が受賞しました。

澤田瞳子さん、佐藤究さん、おめでとうございます!!

作品情報
書名:星落ちて、なお

著者:田瞳子
出版:文春秋(2021/3/26)
頁数:328ページ

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天才絵師を父に持つ娘の苦悩を描く!

天才絵師を父に持つ娘の苦悩を描く

私が読んだ動機

第165回直木賞候補作にノミネートされたので読みました。

こんな人におすすめ

チェックポイント
  • 美術史や昔の絵画が好き
  • 戦の登場しない歴史小説が読みたい
  • 才能の壁に苦悩する絵師の人生を味わいたい
  • 直木賞候補作が読みたい

あらすじ・作品説明

幕末・明治に活躍した絵師「河鍋暁斎」の娘「とよ」の人生を描く。

 

「画鬼」と呼ばれた父暁斎はおろか、腹違いの兄周三郎(シュウザブロウ)にすら絵の腕は遠く及ばないとよだったが、才能の壁や家を守る重圧に翻弄されながら日々を過ごす。

 

明治から大正にかけての急速な時代の変化に対応するように絵を取り巻く環境も変質していく。

 

そのなかでとよは、「暁斎の子」ではない一人の絵師としての生き方を模索する。

偉大な親を持つ子の苦しみ

葉っぱの上にいる蛙

本作『星落ちて、なお』の主人公は「河鍋とよ」(画号は「暁翠(キョウスイ)」)という女性絵師です。

「画鬼」と仇名された鬼才「河鍋暁斎」を父に持つとよは、物語序盤、暁斎の子というだけでチヤホヤされます。

しかし、実際には自分の画才が父に遠く及ばないことはとよ自身が一番よくわかっているんです。

実力と名声を併せ持つ父は死してなお幻影となって彼女を悩ませます。

本作は、才能の壁にもがき苦しみながらも自分の生き方を模索していく河鍋とよの一代記となっています。

『星落ちて、なお』というタイトルにも、父の幻影に翻弄される彼女の声がにじみ出ているようですね。

お母さんも作家

本作の作者は澤田瞳子さんですが、彼女のお母さんも同じく作家で、主に時代小説を書いている澤田ふじ子さんなんです。

もしかしたら本作で描かれる「父河鍋暁斎に対する娘とよの絵師としての想い」のなかには、「澤田瞳子さんのふじ子さんに対する小説家としての想い」が重なっているのかもしれませんね。

史実で実在の登場人物たち

積み重ねられたノート

本作を読み始めてしばらくは、恥ずかしながら本作を架空の時代小説だと思い込んでいました。

登場人物なども大部分は作者のオリジナルキャラだと思っていたのです。

ところが、主人公のとよや父の暁斎が歴史上実在する人物と関わりがあったことを示す描写がたびたび登場するんです。

「これはもしかして河鍋一族は実在したのか!?」と思って調べてみると、なんと河鍋一族のみならず、本作の登場人物の大部分が実在の人物だったんです。これには驚きました。

正直、明治から大正にかけての絵の世界を全く知らなかったので、初めて知ることが多く読んでいて勉強になりましたね。

ちなみに本作表紙の絵は「五節句之内 文月」といい、とよが実際に描いた絵なんだそうです。オシャレですね!

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6つの年代を描写

6つのビー玉

本作は絵師、川鍋とよの人生を大きな事件のある6つの年代に絞り、それぞれを短編として活写しています。

短編タイトルと年代は下記の通り。

  • 「蛙鳴く」 :明治22年、春(1889)
  • 「かざみ草」:明治29年、冬(1896)
  • 「老龍」  :明治39年、初夏(1906)
  • 「砧」   :大正2年、春(1913)
  • 「赤い月」 :大正12年、初秋(1923)
  • 「画鬼の家」:大正13年、冬(1924)

明治から大正にかけてのこの時代は、日本が3つの戦争を経験した激動の時代で、急速に近代化していくんですよね。

このあたりの当時の雰囲気が本作の文章からもよく伝わってくるんです。

章が切り替わるごとに、徐々に江戸の風味が薄れていき、代わりに近代的な風景の色彩が濃くなっていく。

7年とか10年とか、けっこう大胆に年代がジャンプする本作だからこそ、時代の変化がより目に見えて表れるのでしょう。

昭和から平成を経て令和に至る近年の変化も相当のものですが、明治から大正にかけての変化もそれに勝るとも劣らなかったことが文章の端々から感じられます。

行間を読ませる

積み重ねられた本

本作のうまいところは、物語上に描かれない空白の年代を読者に鮮やかに想像させてくれるところです。

上にも書きましたが、本作では7から10年単位で年代がジャンプします。

本作はその間の空白期間に何があったのかということを、少ない情報で自然にイメージさせてくれるんです。

まさに「行間を読ませる」作品になっており、その技術の高さに驚嘆しました。

明治・大正の絵画史を知っていれば

赤い月

私は歴史好きを自任していますが、明治・大正の絵画史というのは守備範囲外で、正直全く知らない世界でした。

本作を読むことで多くのことを知りましたが、一方でこの周辺の文化史的知識が豊富にあれば、本作の楽しみ方に深みが出てきたのかもしれないという思いもあります。

この時代の絵画史に詳しい人が本作を読んだとき、どのような感想を抱くのか非常に興味がありますね!

終わりに

『星落ちて、なお』は明治・大正の絵師河鍋とよが、天才絵師であった父暁斎の影に翻弄されながらも自分なりのスタイルを追求していく歴史小説です。

また、当時の絵画の世界が急速に変質していった様子を追っていくことができる物語でもあります。

歴史小説としては珍しい時代・珍しいテーマを扱った小説で、読んでいて新鮮でしたね。(私が無知なだけかもしれませんが)

本記事を読んで、澤田瞳子さんの歴史小説『高星落ちて、なお』がおもしろそうだと思いましたら、ぜひ手に取って読んでみてくださいね!

最後までお読みくださり、ありがとうございます。

つみれ

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