こんにちは、つみれです。
このたび、砂原浩太朗さんの『高瀬庄左衛門御留書』を読みました。
神山藩で郡方を務める中年の武士・高瀬庄左衛門が、人々と交流したり政争に巻き込まれたりする様子を描いた時代小説です。
また、第165回直木賞候補作にノミネートされた作品でもあります!
それでは、さっそく感想を書いていきます。
▼第165回直木賞候補作をまとめています。
作品情報
書名:高瀬庄左衛門御留書
著者:砂原浩太朗
出版:講談社(2021/1/20)
頁数:338ページ
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目次
五十路男の前進を描く時代小説!
私が読んだ動機
第165回直木賞候補作にノミネートされたので読みました。
こんな人におすすめ
- 江戸時代を舞台にした時代小説が好き
- 人情ものが好き
- 中年男が前進する物語が読みたい
- 伏線が巧みに張られた小説が読みたい
- 直木賞候補作を読みたい
あらすじ・作品説明
江戸時代の地方の藩「神山藩」を舞台に描かれる長編時代小説。
五十歳を前に妻と子を亡くした失意の高瀬庄左衛門は、気を紛らすために嫁の志穂と絵を描きながら日々を過ごしていた。
庄左衛門は、とある事件で思いがけず美貌の青年立花弦之助と知り合ったことをきっかけに藩の政争に巻き込まれていく。
高瀬庄左衛門という男
本作の主人公高瀬庄左衛門は五十前の男性で、架空の藩「神山藩」で郡方を務める武士です。
仕事の内容は主に農民の管理や徴税などで、本作でも庄左衛門が領内の豪村をめぐる様子が描かれています。
年齢にふさわしい思慮分別を持ち合わせており、基本的に落ち着いた雰囲気の持ち主です。
庄左衛門の寂しさと後悔
庄左衛門は物語開始の時点で二年前に妻を失っており、さらに本作冒頭部で一人息子の啓一郎も事故死してしまいます。
そういう境遇のせいか、庄左衛門の佇まいにはどこか達観しているような「もの寂しさ」があります。
また、庄左衛門の過去の「悔い」に関するエピソードもあるなど、なんとなく影が差すような人物描写が多いですね。
人生長く生きていると、誰かと死に別れることによる「寂しさ」や過去の「後悔」の数がどんどん増えていってしまうのかもしれません。
上にも書いた通り、庄左衛門は五十歳近い中年ですが、彼はいろいろな人物と関わるなかで精神的にどんどんと成長し、停滞していた時間も少しずつ動き出します。
この五十路男の前進というのが、本作のユニークさでもありテーマでもあるのだと思います。
これがまるで「前進するのは若者の専売特許ではない」と教えてくれているかのようなんですよね。
高瀬庄左衛門の生き方は、私を含め、壮年から中年に差し掛かった人間を勇気づけてくれます。
志穂
庄左衛門の息子、啓一郎は冒頭部で亡くなってしまいますが、その妻志穂は本作でも重要な役割を果たします。
本作では志穂が舅の庄左衛門に絵を習うシーンが頻繁に描かれています。
単純に子を亡くした舅と夫を亡くした嫁という以上の穏やかながら情熱的な交流が描かれており、彼らの関係の行く末も本作の見どころの一つですね。
若かりし頃の庄左衛門
本作では、高瀬庄左衛門がまだ二十代だった頃のエピソードも差し挟まれます。
どこか達観したような「現在」の庄左衛門と違い、彼の青くて熱い青春物語を楽しめますよ。
また、これは単なる昔ばなしではなく現在に繋がるエピソードになっていて、過去の因縁的な物語として機能しています。
このエピソードの存在が、現在の庄左衛門の物語をいっそう深みのあるものにしていますね。
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文章の良さ
私が本作を読んでいてとても良いと思った点は、文章にクセがなく落ち着いた筆致であることです。
登場人物の心情や風景、季節の移ろいの描写が非常に淡白かつ繊細な文章で綴られています。
高瀬庄左衛門が抱えているもの寂しさや後悔が文章に静かに滲んでいるような感じで、物語と文体が非常にマッチしている印象を受けました。
あと、食べ物の描写がおいしそうでよかったですね!
作中に蕎麦とか蟹雑炊とかが登場するのですが、これがうまそうなんですよ。
私など、本作を読んでいる最中に思わず蕎麦を食べに行ったくらいです。
まあ、これは私が空腹の時に読んだからかもしれませんが。
キャラクターの魅力
本作の登場人物はいずれも個性的でキャラが立っています。
キャラの書き分けが見事でそれぞれの内面も丁寧に描かれているので、「人間味」を感じられるのがよかったです。
私個人としては立花弦之助と夜鳴き蕎麦の半次が特に好きでしたね。
登場人物は多め
本作は魅力的な登場人物が多いのはとてもうれしいのですが、そもそも登場人物の数自体がやや多めです。
しかも江戸時代の馴染み薄い名前のキャラばかりなので、時代物に慣れていない場合は正直覚えづらいところがあるかもしれません。
キャラを覚えるのが苦手なら、メモを取りながら読み進めるのが良さそうです。
私は簡単なメモを取りながら読みましたが、内容をスムーズに理解するのにかなり役に立ちました。
中盤の「転調」
本作の序盤から中盤にかけては、まさに模範的な「人情もの」です。
若干不穏な描写が差し挟まれつつも、基本的には人と人の交流がメイン。
ところが中盤に差し掛かると、一転して庄左衛門は自身の意に反して藩の政争に巻き込まれていきます。
また、中盤以降はチャンバラシーンもしっかり描かれます。
ただの人情もので終わらないところは賛否あるかもしれませんが、個人的には政争に関わる部分はクライマックス感があってとてもおもしろかったですね。
政争の箇所は、それまでの描写で個別に積み上げられてきたいろいろな人間関係が物語として一気にまとまるシーン。
ハラハラするシーンながらも、この物語を序盤から追ってきた読者に対し高い充足感を与えてくれる一幕です。
各エピソードが伏線として機能
本作を読んでいて強く感じたことは、一つのエピソードを一気に描き切らず後半まで引っ張るということ。
途中まで進んだ話題を宙ぶらりんのままにして、他の話に転じるシーンが目立ちます。
一つ一つのエピソードを解決するまで描くのではなく、途中で放置して他のエピソードに突入するわけです。
個々のエピソードを物語途中で完結させず、伏線や謎としてラスト付近まで取っておく描き方のおかげで、先の展開が気になって仕方ないんですよ。
上にも書きましたが、序盤で個々に積み上げられた人間関係が終盤で一気にまとまるのもこの一環かもしれません。
終盤では、序盤から貼られていた数々の伏線が一気に回収されるので、いろいろなものが「腑に落ちる」感覚が心地よかったですね。
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終わりに
『高瀬庄左衛門御留書』は、失意の五十路男が人々との交流や大きな事件を通して再び前進し始める様子を描いた時代小説です。
登場人物や各種エピソードがとても丁寧に描かれ、読後には充足感やすがすがしさを感じさせてくれる一冊になっています。
正直なところ、直木賞候補に選出されていなかったらおそらく読んでいなかった作品でしたが、かなりおもしろかったです。
本記事を読んで、砂原浩太朗さんの長編時代小説『高瀬庄左衛門御留書』がおもしろそうだと思いましたら、ぜひ手に取って読んでみてくださいね!
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
つみれ
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