こんにちは、つみれです。
このたび、似鳥鶏さんのミステリー小説『推理大戦』を読みました。
特殊能力を持つ超人的な探偵たちが一つの事件に対してさまざまな推理を提示し、「真の名探偵は誰か」を決めていくミステリーです。
それでは、さっそく感想を書いていきます。
作品情報
書名:推理大戦
著者:似鳥鶏
出版:講談社
頁数:354ページ
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目次
最強の名探偵たちの推理バトルが熱い!
私が読んだ動機
私が所属している文学サロン「朋来堂」の「ミステリ部」2021年10月の課題図書だったので読みました。
こんな人におすすめ
- 名探偵たちの推理合戦を味わいたい
- 特殊能力を持つ名探偵たちの活躍を楽しみたい
- 特殊設定+多重解決の合わせ技のミステリーを読みたい
あらすじ・作品説明
北海道の古民家の蔵から世界的に貴重な「聖遺物」が見つかった。
発見者は大のミステリーマニアで、各国の名探偵を相手取り「聖遺物争奪ゲーム」を開催。
彼が出題する「問題」を一番早く解き明かした者に聖遺物を与える、という内容だ。
聖遺物を手に入れるため、世界中のカトリック及び正教会は凄腕の探偵を日本に派遣する。
各国の特殊能力を持った名探偵たちが北海道に集結することになる。
各国の名探偵たちが集う
本作『推理大戦』では、北海道で見つかった聖遺物の所有をめぐる「聖遺物争奪ゲーム」で、名探偵たちが「推理合戦」を行います。
聖遺物とは聖者の遺体や遺品のことで、今回見つかったのは大変貴重なもの。
世界中のカトリック及び正教会が、その誇りと威信をかけて探偵を日本に遣わします。
本作のおもしろいところは、いきなり本題の「名探偵たちの推理合戦」に入らないということなんです。
その前にゲーム参加者となる4名の名探偵のすごさを表す短編が描かれています。
各短編は短めですが全部で4人分あり、それだけで本作の半分くらいのボリュームを占めているのでなかなか読みごたえがありますよ。
探偵たちの紹介を兼ねた短編
本作では本題の「聖遺物争奪ゲーム」に入る前に、その参戦者である各探偵たちの紹介を兼ねた短編が描かれます。
これが全部で4編あり、ゲームに参戦する探偵たちがそれぞれの出身国で難事件を解決していく様子が描かれています。
各探偵の出身国は下記の通り。
- アメリカ
- ウクライナ
- 日本
- ブラジル
世界各国から集まった彼ら名探偵たちの謎解きの様子がめちゃくちゃおもしろいのですが、それにはワケがあります。
なんと彼らは単に推理力が優れているだけでなく、それぞれ特殊な能力を持っていて、それを謎解きに活用していくのです。
特殊設定ミステリー
本作『推理大戦』は「特殊設定ミステリー」です。
特殊設定ミステリーとは、魔法などの特殊能力やSF的な舞台設定など「現実にはない要素を謎解きに組み込んだミステリー」のこと。
本作では各国から集まった探偵たちが推理合戦を行いますが、彼らはそれぞれ特殊な能力を持っています。
この名探偵たちが持っている特殊能力が多彩でめちゃくちゃおもしろいんですよ。
普通のミステリーであれば、彼らが一人でもいれば簡単に事件が解決してしまうのではないかというくらい強力な能力の持ち主たち。
しかも、そんな能力者が4人も登場する上、一堂に会して推理合戦を行うというのですからなんとも胸熱な一冊です。
本当は彼らの特殊能力についてもここで語りたいのですが、それをしてしまうと本作中盤までの楽しみを奪ってしまうことになります。
ネタバレを回避するためにもここで彼らの特殊能力の詳細に触れることは避けますが、本作の魅力は彼らの能力によるところが大きいです。
彼らの特殊能力があってこそのオリジナリティあふれる謎解きを楽しんでもらいたい一作です。
多重解決ミステリー
上で『推理大戦』は特殊設定ミステリーであることを書きましたが、本作は「多重解決ミステリー」でもあります。
多重解決ミステリーとは、一つの事件に対し複数の人物が推理を行い、それぞれ解答を提示するタイプのミステリーのこと。
多重解決ミステリーの金字塔としては、アントニー・バークリーの『毒入りチョコレート事件』がよく知られていますよ。
本作では、北海道に集結した各国の探偵たちが「聖遺物争奪ゲーム」で知恵比べを行い、最もすぐれた真の名探偵を決定していきます。
彼らはコテージで起きた一つの事件に対し、それぞれの推理を繰り広げます。
たった一つの事件を扱っているはずなのに、一人が推理を披露するたびに、そして他の者がその推理に反証を加えるたびに事件の様相や容疑者がガラリと変わっていきます。
まさに論理バトル!
これこそが多重解決もののおもしろさですね。
特殊設定と多重解決の合わせ技
本作で描かれる「聖遺物争奪ゲーム」は、特殊設定ミステリーと多重解決ミステリーの合わせ技です。
つまり、異能を持つ超人的な探偵たちがその能力を最大限に利用して論理バトルを闘い抜き、いち早く真相にたどり着いた者が勝者となるゲームです。
固有の特殊能力をもった者たちがその能力を使って闘うというのは少年マンガの形式の一つですよね。
そういった少年マンガ的スタイルをミステリーにうまく転用しているのが見事!
複数の異能の人物たちがその能力をぶつけ合う展開はミステリーとしては珍しく、またミステリーファンならずともワクワクさせてくれる魅力があります。
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謎解きと反証の繰り返し
本作の聖遺物争奪ゲームは、「犯人」が存在するタイプの謎です。
つまり、ゲーム参加者(ホスト役+名探偵たち)のなかに犯人がいるということ。
これは集まった名探偵のなかに容疑者がいる可能性を意味しています。
一つの事件についていろいろな解決を提示していくだけでなく、それまで名探偵だった者が一転して容疑者に早変わりするめまぐるしさは、多重解決ものとして非常によくできています。
まして、本作に登場する名探偵は異能の持ち主たちです。
つまり、「特殊能力」は謎解きだけに使われるのではなく、犯人として能力を使っている可能性があるということになりますね。
名探偵たちの「特殊能力」を組みこんだ大胆な謎解きと素早い反証が繰り返されるテンポのよい展開が非常に心地よい一冊です。
注釈のおもしろさ
似鳥鶏さんの作品は、ページ見開きの左端に注釈が差し挟まれるのが特徴です。
そのページに登場した難しい単語の説明が作者によって用意されているんですね。
本作でもこの注釈システムが採用されており、これがまたおもしろいんですよ。
辞書的で無味乾燥な注釈ではなく、クスリと笑える小ネタだったり興味深いエピソードだったりと「似鳥流の読んで楽しい注釈」になっているんです。
単なる単語の説明にとどまるのではなく、作者のオリジナリティが光る「小説の一部分」としてしっかりと機能しています。
この注釈も含めて似鳥鶏作品なので、ぜひ楽しく味わってほしいと思います。
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読書会風動画
本作『推理大戦』は、私が所属している文学サロン朋来堂ミステリ部の2021年10月の課題図書でした。
ミステリ部員5名が読後に本作について語り合う動画がありますのであわせて紹介します。
私も「つみれ」という名前で参加しているのでぜひ観てね!
▼似鳥鶏『推理大戦』の感想を語り合う。【朋来堂ミステリ部】
スピンオフ「第0章 アメリカ合衆国 モンゴメリー郊外」
本作にはスピンオフストーリーがあります。
タイトルは『推理大戦第0章 アメリカ合衆国 モンゴメリー郊外』。
本編の「聖遺物争奪ゲーム」にもともと参加する予定だった人物の物語です。
実際には本編に登場するアメリカ合衆国代表のほうがゲーム参加者となり、このスピンオフの主人公は代表者として選ばれませんでした。
そんな『推理大戦』への参加が叶わなかった「とある探偵」の物語です。
ボリューム的にも少なめでサクッと読めるので、本編が楽しかったという方はぜひこのスピンオフも読んでみてくださいね。
終わりに
『推理大戦』は、特殊能力を持つ探偵たちが一つの事件に対して推理で闘いあい、「真の名探偵は誰か」を決めていく異色のミステリー小説です。
異能の名探偵たちが論理バトルを繰り広げる少年マンガ的なノリが楽しい一冊でした。
本記事を読んで、似鳥鶏さんの『推理大戦』がおもしろそうだと思いましたら、ぜひ手に取って読んでみてくださいね!
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
つみれ
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