こんにちは、つみれです。
このたび、青柳碧人さんの短編「七回目のおむすびころりん」を読みました。
日本の昔話『おむすびころりん』をモチーフにしたミステリー短編です。
本記事は『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』所収の一編「七回目のおむすびころりん」について書いたものです。
それでは、さっそく感想を書いていきます。
作品情報
短編名:七回目のおむすびころりん(『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』所収)
著者:青柳碧人
出版:双葉社(2021/10/21)
頁数:68ページ
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目次
ミステリーとSFがプラスされた『おむすびころりん』!
私が読んだ動機
前作『むかしむかしあるところに、死体がありました。』がおもしろかったので続編にあたる本作も読みました。
こんな人におすすめ
- 『おむすびころりん』が好き
- 「ループもの」のミステリーを読みたい
- 日本の昔話をモチーフにしたミステリーを読んでみたい
あらすじ・作品説明
山のねずみ穴におむすびを落としてしまった米八じいさんはねずみたちと仲良くなり、おみやげとして『なんでも望みのものが手に入る袋』をもらったという。
となりの惣七じいさんはその話を聞き、自分もその袋を手に入れようと件のねずみ穴におむすびを転がす。
ねずみたちと遊ぶのが面倒な惣七じいさんは猫の鳴き真似をしてねずみたちを怖がらせ、その隙に袋を奪取しようと目論む。
猫の鳴き真似に驚いたねずみたちは混乱し、穴の広場に設置してあった釣り鐘を落としてしまう。
釣り鐘が落ちる音が響き渡ると、惣七じいさんはおむすびを転がす前の時間に戻っているのであった。
昔話『おむすびころりん』をモチーフにしたSFミステリー
本作「七回目のおむすびころりん」は、昔話『おむすびころりん』をモチーフにしたSFミステリーです。
基本的な設定は昔話の『おむすびころりん』を踏襲しつつ、殺人事件(というより殺鼠事件)とSF的なループ要素を組み合わせているのが特徴。
昔から知っている『おむすびころりん』がSFミステリーとしてリメイクされているのが最高におもしろい一編です。
主人公は悪いじいさん
本作の主人公は『おむすびころりん』に登場する「いいじいさん」と「悪いじいさん」のうち、悪いじいさんのほうです。
いいじいさんはあくまでも脇役
いいじいさんの「米八」は、山に木を伐りに行った際、誤っておむすびをころりんしてしまい、おむすびは坂下の穴に落ちてしまいます。
おむすびに続いて米八じいさんも穴の中に入ると、なんとそのなかにはたくさんのねずみが。
ねずみと一緒に酒を飲んだり踊ったりと遊んでいたら、おみやげとして「なんでも望みのものが手に入る袋」をもらいました。
いいじいさんの出番はここで終わりです。
悪いじいさんが活躍
悪いじいさんの「惣七」は米八じいさんの成功譚をうらやみ、彼の真似をして例のねずみ穴にわざとおむすびを転がします。
惣七じいさんは気が短く面倒くさがりなので、嫌いな踊りをねずみと一緒に踊るなどという悠長なことはしません。
典型的な「昔話の悪いじいさん」です。
手っ取り早く「袋」を手に入れるために猫の鳴き真似をすると、ねずみたちは恐慌をきたします。
その混乱のなか、広場に設置してあった釣り鐘が落ちる音が。
気づくと、惣七じいさんはねずみの穴に入る前の状態に戻っているのでした。
ループもののミステリー
惣七じいさんは、釣り鐘の音によって時間の巻き戻りが起こったことを察します。
惣七じいさんのいいところは、前回の失敗にめげずに再びねずみ穴に突入するチャレンジ精神です。
まさにタイトルの通りですが、惣七じいさんはこの後もループを繰り返し、「袋」を手に入れるために合計七回もねずみ穴に入ることになります。
殺鼠事件
ループした先の世界線では、ねずみ穴のなかの一室で一匹のねずみが殺されている殺人事件ならぬ「殺鼠事件」が起こります。
現場は密室状態だったので、これは「密室殺鼠事件」ということになりますね。
惣七じいさんは「回」によっては、この事件を解決しようと推理をめぐらす探偵となります。
悪いじいさんが探偵役となって活躍するのは意外性があってよかったですね。
この展開によって『おむすびころりん』にミステリー要素が付加されることになります。
記憶の保持
本作のポイントは、このループが単なる時間の巻き戻りではないということ。
時間の巻き戻り現象から除外されるものがあったのです。
それは何を隠そう「惣七じいさんの記憶」。
本作では、惣七じいさんはループ後も「前回」までの記憶を保持したままなのです。
つまり、前回までの失敗した経験を生かし、「袋」が手に入る方法を探すという形になります。
「袋」が手に入る世界線に到達するまで何回もねずみ穴突入チャレンジを繰り返す物語というわけですね。
本末転倒のおもしろさ
本作のおもしろいところは、惣七じいさんの本末転倒な行動です。
惣七じいさんは、ねずみと一緒に踊るのが面倒で、手っ取り早く「袋」を手に入れようとして失敗を繰り返してしまいます。
結局、合計七回もねずみ穴への突入を繰り返す惣七じいさんを見ていると、彼の本末転倒な行動が次第に笑えてきちゃうんですよ。
ちょっとの手間を惜しんだ結果、余計にめんどくさい事態になっているんですよね。
もうさっさと踊っちゃえばいいのに。
めげない惣七じいさん
ネタバレになるので詳細はここには書きませんが、「回」によってはねずみを敵に回し襲われてしまう展開もあり、そのときのねずみの恐ろしさはすさまじいものがあります。
どこか人間らしさを持っていたはずのねずみたちが、一転して獰猛な害獣となって襲い掛かってくるシーンはまさにトラウマもの。
こんな悲惨な経験をしながらも、めげずに「袋」を手に入れるために挑戦を繰り返す惣七じいさんは、「悪いじいさん」ながらも主人公属性をしっかり備えています。
「袋」を手に入れるのに知恵をめぐらす惣七じいさんがなぜかちょっとカッコいいんですよ。
ラストの衝撃
本作は惣七じいさんが七回目のループを終えた先のラストの展開が衝撃的です。
非常に教訓じみた内容とゾッとするような怖さが同居したような、昔話ミステリーとしては最高のラストとなっています。
興味がある人はぜひ『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』を読んでみてくださいね。
終わりに
「七回目のおむすびころりん」は、日本の昔話『おむすびころりん』をモチーフにしたミステリー短編。
オリジナルにはない「殺鼠事件」というミステリー要素と「時間の巻き戻り」というSF要素が加味され、昔話とは違ったおもしろさがあるのが良いですね。
本記事を読んで、青柳碧人さんの「七回目のおむすびころりん」がおもしろそうだと思いましたら、ぜひ『むかしむかしあるところに、やっぱり死体がありました。』を手に取って読んでみてくださいね!
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
つみれ
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